続 七海ショートストーリー4 VS マック栄
続 七海ショートストーリーは本編とはまったく関係ありません。「もしも七海がやらかしたら」のコーナーです。
続 七海ショートストーリーは本編とはまったく関係ありません。「もしも七海がやらかしたら」のコーナーです。
『七海 VS マック栄』
江東区にあるMZ会の施設内の射撃場は全部で6レーンある。私と七海と藤原ミサキは第6レーンが空くのを待っていた。レーンではシューティングゴーグルを掛けた中高年の男性がコルトガバメントを連射している。短パンにTシャツというラフな服装だ。弾は見事にターゲットの真ん中に当たっている。かなりの腕前だ。男は何が嬉しいのか終始ニコニコしながら銃を撃っている。鼻の下に髭を生やした、何処かで見た事があるが顔だった。男は射撃を終了した。七海がレーンに入ってデザートイーグルを構えた。
『バン』 『バン』 『バン』 『バン』 『バン』 『バン』 『バン』 『バン』
七海はランダムに出現する人型のターゲットに50AE弾を連射して確実に命中させる。
「七海凄いなあ、50AE弾は反動が大きいだろ」
私は七海の射撃に驚いた。
「七海さん本当に凄いですね。教官になれますよ」
藤原ミサキも驚いている。
「たいした事ないの。12.7mmNATO弾に比べたらこんなの豆鉄砲なの」
七海は涼しい顔をしている。
「いやぁ凄いですね、女性なのに50AE弾を命中させるなんてスパイ映画のヒロインみたいです。それにお綺麗ですね。MZ会の信者さんですか?」
私達の射撃をレーンの横から見ていたさっきの男がニコニコしながら言った。
「この娘は運動神経がいいのです。でも私とこの娘はMZ会の信者じゃあありません。訳あってこの射撃場を使わせてもらっているんです。貴方は信者の方ですか?」
「いえ、私も信者ではありません。私はこの射撃場の銃の調整を任されているんです。マック栄と申します。普段はYouTubeで銃のレビューをやっています」
「えっ!? あのマック栄さんですか? Youtube観ていますよ! エアガンや実銃のレビュー、参考にしています。ここは非合法な場所ですが、大丈夫なのですか?」
私はびっくりした。何処かで見た事があると思っていたのだ。マック栄は銃のジャンルに特化した有名なYouTuberだった。
「たしかに非合法な場所です。最初は信じられませんでしたが、依頼を受けて来てみて驚きました。実銃を国内で撃てるなんて夢のような場所です。MZ会は凄い組織です。今は月に一回くらいここにある銃の点検や調整に来ています。アルバイトみたいなものです。実銃を撃てるので報酬なんかいらないんですけどね。非合法ですしね、ハッハッハ」
どうやらマック栄はMZ会に銃の点検や調整の依頼を受けてここに来ているようだ。
「私もマックさんは見た事があるの。マックさんのおかげでいろんな銃について知ることができたの。ありがとうございます。それに本物はカッコイイの。イケおじなの」
七海が笑顔で言った。
「うおーー、嬉しいですねーー。いやーいいですねーー。それにしても綺麗な方ですねーーー、いいですねーー!」
マック栄の鼻の下が伸びている。鼻の下が伸びすぎて鼻の下の横長だった髭が縦長になっている。
その後、射撃場の横の休憩室で私と七海はマック栄と雑談をして射撃の指南を受けた。
「それにしても天野さんは射撃が上手ですね。どこで習ったんですか?」
「詳しい事は言えないの。でも、実戦経験もあるの」
「えっ!? 実戦経験ですか? まさか外人部隊とかにいたんですか?」
「マックさん、七海は過去にいろいろあったんです。射撃だけじゃなくて格闘術もバケモノ並みに強いんですよ」
「タケル、バケモノは失礼なの。この後は対ギャンゴハンドガンを撃って帰るの。久しぶりなの」
「格闘術ですか。いいですねーー、是非教えてもらいたいです。対ギャンゴハンドガンって何ですか?」
「マックさんも撃ってみるといいの。私と射撃対決をするの。もし私が勝ったら『鰻重』を奢ってもらうの。もしマックさんが勝ったら格闘術を教えてあげるの」
七海が嬉しそうに言う。おそらく鰻重チャンスを狙っていたのだろう。
「いいですねえ、やりましょう」
マック栄も嬉しそうだ。
ミサキが対ギャンゴハンドガンを持って来た。重機関銃を小さくしたようなゴツいハンドガンだ。
「これがハンドガンですか?」
マック栄が目を丸くしている。
「12.7mmNATO弾をベースにした弾を撃てるの。威力はNATO弾の1.5倍なの。マックさんから撃ってみるといいの」
七海は対ギャンゴハンドガンのボルトを引いて銃をマック栄に渡した。
「うっ、重いですね。12.7mmNATO弾って対物ライフルの弾丸じゃないですか! 1.5倍ですか、凄いですね。では撃ってみますね」
マック栄は対ギャンゴハンドガンを構えてニコニコしている。25m先に同心円のターゲットがある。
『ドン!!!!』
拳銃の銃声とは思えない大きく強い音が響いた。対ギャンゴハンドガンが大きく跳ね上がる。
「うおっ!」
マック栄が後ろに吹っ飛びそうになる。弾は的の端に当たったが、中心を大きく外した。
「キャハハッ、対ギャンゴ用に弾丸は装薬も増やしてあるの。マックさんでも難しいと思うの。弾はマガジンにあと7発あるから全部撃つといいの」
七海が楽しそうに言った。
「あと7発ですか・・・・・・」
さすがのマック栄もげんなりしている。渋い顔をしながらボルトを引いて次弾を装填した。
『ドン!!!!』
「うお!」
銃身が大きく跳ね上がり、マック栄はよろけて転びそうになった。弾は的を大きく外れた。
「的に当てる以前の問題です。こんなの体が持ちません。人間の撃つ銃じゃないですよ」
マック栄が抗議するように言った。マック栄の言うことは正しい。人間の撃つ銃ではない。
「じゃあ私が撃つの」
七海はマック栄から銃を受け取ると、ボルトを引いて撃った。弾は的に中央に命中した。七海は素早くボルト引くと次弾をすぐに撃ち、的の中心に命中させた。七海は2秒に1発のペースで6発を撃った。弾は全て的の中央に命中した。
「凄いですねーー! 天野さん、私のYoutubeチャンネルに出ませんか? もの凄い美人だし、射撃は上手いし、きっとバズりますよ」
「人に見てもらう程じゃないの。それより勝負の結果はどうなの?」
「私の負けです・・・・・・鰻重を奢らせて下さい」
マック栄は悔しそうに言った。
「じゃあ遠慮なく鰻重を奢ってもらうの」
私たちは浅草の老舗の鰻屋にいた。有名店だ。七海が前から行きたがっていた店だ。七海はネット調べた鰻屋の一覧をEXCEL表にして、プリントアウトしてカバンに入れて持ち歩いている。私は絶対見ないようにしている。
「もう幸せなの、鰻重が食べ放題なの! 鰻の身が柔らかくてとろけるの。こんなに美味しいものがあるなんて地球はやっぱり凄いの! 私の一番の大好物なの。まだまだ食べられるの。口の中が何度も喜ぶの!」
七海が叫ぶように言った。すでに特上を5つ食べている。
「あの、まだ食べるんですかね?」
マック栄が涙目になっている。店の中でもシューティングゴーグルを掛けていた。
「うん、もう止まらないの。タケルがなかなか食べさせてくれないの。でもマックさんは違うの。鰻重を食べれば食べるほどマックさんが素敵に見えるの。マガジンが自重で落下するみたいなの。カッコイイの」
七海は満面の笑みを浮かべてマック栄にウインクをした。
「うおっ、いいですねーー、いいですねーー、マガジンが自重で落下! いいですねーー どんどん食べて下さい!」」
マック栄も鼻の下の髭が縦長になった。
七海は射撃対決でマック栄に勝利した。私達すっかり仲良くなり、LINEのアドレスを交換した。銃のエキスパートのマック栄と仲良くなれたのは心強い。その日の夜、七海の『寝言』は凄まじかった。七海は夢の中でもひたすら鰻重を食べていた。寝言は明け方まで続いた。




