続 外伝4 「その個体、最強につき」【MM378】
何人かの知人に本作品の好きなキャラクターを訊いたところ、意外にも『ライトニングウォホーク少佐』の名前が挙がった。カッコイイというのだ。ヒロインの七海を死の淵まで追い詰めたムスファ。興味深い。
無双してチートが当たり前なヒロインがここまでボコボコにされる作品は珍しいとの事だ。
続 外伝4 「その個体、最強につき」【MM378】
MM星人の寿命はおよそ800歳。誕生してから80歳までは育成施設で共同生活を行い、一般的教養やMM星人としての哲学を学ぶ。80歳の時に役割の適性試験と面談を行い、所属する政府における役割が任命される。80歳から100歳の20年間は役割に応じた専門育成機関で訓練を受けるのである。100歳からは役割を担い、700歳までその役割を全うする。怪我などで体に障害を負った場合を除き、基本的に役割が変わる事はない。自ら役割を放棄した場合は政府から追放され、最東地区のコロニーで自給自足に近い生活を送らなければならない。
ライトニングウォホーク、正式名『ローレルスキー・ライトニングウォホークアリソン』は第1政府に役割の適性を軍人と判断されて、軍務の専門育成機関で20年を過ごした。機関では攻撃用脳波、格闘術の訓練を行い、戦術や戦略について学ぶのである。ライトニングウォホークは類まれな大きな個体で体格に恵まれていた為、格闘術で素質を発揮した。攻撃用脳波も強く、兵士としての資質に磨きをかけた。格闘訓練では教官達もライトニングウォホークと戦うのを躊躇した。他を圧倒するほど体が大きくパワーが桁違いで、動きも速く技のキレも良かった。そしてライトニングウォホークとの格闘訓練で2個体の教官が殉職した。格闘訓練で怪我をする個体はいたが殉職者は前例が無かった。また、同期の訓練生多数にも格闘訓練で怪我を負わせ、何個体かは再起不能になった。
1回目の事故は払い腰で教官を投げた直後、右腕のマウントパンチを放ち、それを左頬にまともに受けた教官の首の骨が粉砕したものだった。2回目の事故は右ストレートを打った教官にカウンターの右フックを打った時に発生した。教官の首が大きく右に曲がり折れたのだ。いずれも訓練中の事故という扱いになったが、ライトニングウォホークは以後、樹脂製の大きなグローブを付ける事を必須とされた。感情の薄いMM星人でも2個体を殺害してしまった事に対して驚き、以降は打撃力をセーブする事にした。ライトニングウォホークは戦術についても熱心に学び、模擬戦闘における部隊指揮で常に勝利した。卒業時の判定会では格闘術は『SSS』、脳派戦『SS』、戦術『SS』の高評価を得て『ムスファ』のロールネームを授与された。
この60年後に同じ育成機関を卒業したジョージ(後のナナミ大尉)は格闘術『SSS』、脳波戦『SSS』、戦術『SSS』の評価でムスファのロールネームを授与されている。評価ランクは『30項目』毎にSからEまでのランクあり、『S』はその年の卒業個体で最高位である事を表している。ダブルSの『SS』やトリプルSの『SSS』は何十年もしくは何百年に1個体とういうレベルであり、主要な3項目がトリプルSのジョージは史上最高のムスファと呼ばれた。但しロールネームは育成機関で見出されたポテンシャルであり、実務経験での評価とは連動していない。しかしながらムスファは全体の0.001%の存在で10万個体に1個体であり、そのロールネームは一目も二目も置かれた。
『ムスファ・ローレルスキー・ライトニングウォホークアリソン』は実戦部隊に配属され、二等兵の階級からスタートした。MM378では、どの個体でも二等兵からスタートする。ライトニングウォホークは実績をあげ、驚くべきペースで階級が上がり、2年で少尉になっていた。第5政府との紛争が実戦での初陣であった。小隊を率いたライトニングウォホーク少尉は敵の1個中隊に側面から奇襲攻撃を掛け、4つの小隊を殲滅した。脳波攻撃で80個体、白兵戦では敵の士官や将校を狙って8個体、下士官や兵士を87個体倒してその強さをアピールした。上層部はライトニングウォホーク少尉を前線から引き剝がし、特別な部隊への転属を命じた。その部隊には正式な名称は無く、存在が明らかにされていない政府直轄の政府親衛特務部隊で、中隊規模の部隊だった。部隊の任務は軍内部の不満分子や政府の方針に不満を持ち、反対活動を行う団体などを粛清することだった。ここでもライトニングウォホーク少尉は期待以上の成果を上げた。特に格闘術を使った暗殺が得意で 封印していた打撃を活かし、撲殺による暗殺を得意とした。
【地球歴2020年夏】
ライトニングウォホークは軍歴360年で少佐になっていた。所属は変わらず政府直轄の政府親衛隊特務部隊だった。
「少佐は強いですね。さすがムスファです。第1政府軍で一番強いのではないですか?」
ブリーフィング終了後にシャーク上等兵が言った。
「一番かどうかは分からんな。ムスファは第1政府軍に16個体いる。その個体全部と戦ってみないとなんとも言えないな。しかし俺に話しかけるなんて、お前は変わった個体だな。皆俺を怖がって避けている。まあ、教官殺しだからな」
ライトニングウォホーク少佐は常に冷静だった。
「200万個体中の16個体です。それだけで十分ではないのですか? それに少佐は格闘術トリプルS、脳波戦ダブルSだと聞いています。多分ムスファ16個体の中で1番ですよ。私は強い個体に興味があります」
「卒業時の評価ならそうだろうな」
ライトニングウォホーク少佐が頷いた。
「ライトニングウォホーク少佐、格闘術、脳波戦、戦術眼の3つがトリプルSの士官がいるぞ。もちろんムスファだ。名前はジョージ大尉だ。正式名『ムスファ・イーキニヒル・ジョージフランクホマレ』だ。格闘センスが抜群で脳波戦も強いらしい」
話を聞いていたダグラス大佐が発言した。
「ジョージ大尉!? その個体は何歳ですか? どこの部隊ですか?」
ライトニングウォホーク少佐は珍しく大きな声を出した。
「歩兵部隊にいる。たしか第3師団で中隊長をしているはずだ。特殊任務への参加も多いようだ。我々の部隊は一般の部隊とは交流が無いので知らないだろうが、ジョージ大尉は君より60歳ほど若い。年齢は420歳くらいだ。軍歴は300年ほどだ。そのジョージ大尉が新しい攻撃用脳波の開発実験に参加しているようだ。まだ極秘だが、物凄い威力の脳波攻撃のようだ。もしライトニングウォホーク少佐より強いムスファがいるとしたらジョージ大尉だろうな。まあ、格闘術はライトニングウォホーク少佐方が遥かに強いと思うがな。実戦では君の勝ちだよ」
「そのムスファに会ってみたいです。いや戦ってみたいです!」
「彼は前線の兵士達の人気が高い。率先垂範型の士官だ。戦術眼についても上からの評価が高く、多くの作戦で部隊を勝利に導いてきたらしい」
ライトニングウォホーク少佐はジョージ大尉の事が無性に気になった。なぜかジョージ大尉と自分が一枚のカードの表と裏のように思えた。ジョージ大尉が光を見つめる時、自分は闇を見つめる。前線で華々しく戦い、多くの兵士達の模範となっているジョージ大尉。暗殺が主要任務で影の存在として恐れられている自分。焦りとは違う、何とも言えない気分になった。
【地球歴2021年秋】
部隊内の定例会議が開かれていた。
「ここしばらく話題になっていた強力な脳波攻撃による事件だが、首謀者と目されたジョージ大尉がS級極刑となり、当惑星から逃亡した。知っての通り今回の事件は他の政府や平和連合からの抗議が強く、紛争に発展しかねない状況だ。当事者が逃亡したので先行きが不透明になった」
「ジョージ大尉とはムスファのジョージ大尉ですか!? 逃亡理由は何ですか!? S級極刑になった判決の根拠はなんですか? 逃亡先はわからないのですか?」
ライトニングウォホーク少佐が矢継ぎ早に質問した。
「ムスファだ。判決理由はジョージ大尉が独断でガンビロンを発射した事が理由だ。逃亡先は不明だ。大マゼラン星雲から出て他の銀河に行ったようだ。軍法会議は秘密裏に開催されたようなので詳しい情報は不明だ」
ライトニングウォホーク少佐は不思議に思った。戦術眼に定評のあるムスファがS級極刑になるような過ちを犯すのか? しかも独断でMM378全土の問題となるような事件を起こした。釈然としなかった。そして残念に思った。いつか会ってみたいと、戦ってみたいと思っていたのだ。
【地球歴2022年春】
「少佐、私は連合政府に転軍しようと思ってます」
シャーク軍曹が言った。
「どうしたんだ? バレたら軍規違反で有罪になるぞ。確かに最近の第1政府は強引すぎる。他の政府を侵略し、全ての政府と交戦状態だ。今まで第1政府はこの星の良心だったが、ヘルキャ中将が実権を握ってきてから方針が変わったようだな」
「第1政府に失望したからではありません。私はもっと強くなりたいのです。少佐には徹底的に鍛えていただきました。しかし第1政府にいる限りは少佐を超えることはできません。連合政府なら格闘術ナンバー1になれるかもしれません」
「たしかにお前は強い。『ムスク』だけのことはある。他の場所で力を試したいのか?」
「はい、連合政府軍は寄せ集めです。ナンバー1を目指すにはいい所だと思います。今のままでは少佐を超えるのが何時になるのか見当もつきません」
「転軍すれば俺と戦場で戦う事になるかもしないぞ? それに戦況は第1政府が有利だ」
「少佐と戦うのは恐ろしいですが、連合政府軍なら自分の強さを存分に発揮できます」
【地球歴2024年春】
戦況が変わり、絶対有利だった第1政府の前線が崩れ、連合政府軍が反転攻勢に出ていた。ライトニングウォホーク少佐は特殊部隊を率いて戦線に出るようなっていた。
「ライトニングウォホーク少佐、君に任務として頼みたい事がある。連合政府軍のある大尉を抹殺して欲しいのだ」
政府親衛隊特務部隊顧問のドトル大佐が言った。
「ある大尉とは誰ですか?」
「連合政府軍第8師団のナナミ大尉だ。正式名は『ムスファ・イーキニヒル・ナナミジョージフランクアマノ』だ。レジスタンスだが、連合政府軍とも契約している」
「ムスファなのですか?」
「そうだ。それも元第1政府のムスファだ」
「元第1政府のムスファ? 転軍したのですか?」
「複雑な経緯がある。3年前にこの星から逃亡して8カ月ほど前に戻ってきたようだ。今はレジスタンスになって我々と戦っている。第1政府に所属していた頃は『ムスファ・イーキニヒル・ジョージフランクホマレ』とうい正式名だったようだ」
ライトニングウォホーク少佐は思い出した。自分より強いかもしれないと言われたムスファだ。軍法会議でS級極刑になり、逃亡した個体だ。戦ってみたいと思っていた個体だ。
「そのムスファの事をもっと詳しく教えて下さい!」
「情報部の調査資料があるので目を通してくれ。連合政府軍が反転攻勢をかけるきっかけとなった個体だ。連合政府軍の英雄だ。この英雄を抹殺することによって敵に精神的ダメージを与え、攻勢を鈍らせることが目的だ」
「是非引き受けたいと思います」
ライトニングウォホーク少佐はナナミ大尉に関する資料に目を通した。概要は以下の通り。
・ナナミ大尉は元第1政府軍のムスファである。
・ナナミ大尉はレジスタンスであるが契約軍人として連合政府軍南方方面軍第8師団の所属している。
・ナナミ大尉はガンビロンと呼ばれる強力な攻撃用脳波を独断で使用し、敵だけではなく味方や民間人に多くの被害を与えた為S級極刑となった。この事が今回の戦争のきっかけになった。しかし冤罪の可能性が高い。
・ナナミ大尉は逃亡して地球という惑星に潜伏し、地球の知的生命体と文化的交流を持った。
・ナナミ大尉は地球人の姿に変身している(参考画像あり)。
・ナナミ大尉が地球から持ち込んだ物理攻撃兵器が大量にコピー生産され、連合政府軍の反転攻勢をきっかけとなった。
・ナナミ大尉はギャンゴの倒し方を発見し、何頭かのギャンゴを単独で倒し、連合政府軍の兵士達に対ギ ャンゴ戦闘の訓練を行っている。
・ナナミ大尉は連合政府軍の反転攻勢のシンボルで英雄的存在となっている。
・ナナミ大尉は連合政府に地球の文化を広めている。
・ナナミ大尉は地球での生活で『感情』というものを持ち、合理性を欠く極めてユーニクな判断を行う事がある。
ライトニングウォホーク少佐は非常に興味深く思った。S級極刑となり、他の星に逃亡したがMM378に戻り、かつて所属した政府と戦っている。格闘術、脳波戦、戦術眼がスリーSの卒業評価。戦ってみたいという思いが強くなった。ナナミ大尉を倒して自らの強さを証明したい。しかし一方で殺害することを勿体ないとも思った。自分はその強さゆえに生きづらさを感じていた。育成機関で教官を2個体殺害してしまい、育成機関でも、実戦部隊でも仲間の輪に入っていく事ができなかった。暗殺の仕事に達成感は感じたが、軍人として疑問を感じる事もある。しかしナナミ大尉は自分らしく生きている奔放な個体に思えた。ガンビロンを独断で使用した真意や逃亡するに至った決断について聞いてみたいと思った。また、地球での生活や感情というものについても聞いたみたい。やはり自分とナナミ大尉は一枚のカードの表と裏に思えてならなかった。
ライトニングウォホーク少佐は『ブラックシャドウ』と呼ばれる特殊部隊を率いて連合政府軍の南方方面軍の最前線を荒らしまわって存在をアピールした。連合政府軍の士官を自ら単独で暗殺した。パワーを解放して、殆どの個体を撲殺した。撲殺は最もシンプルで好きな方法だった。そしてナナミ大尉が現れるのを待っていた。
*ここからのナナミ大尉の目線は『Chapter14「対決」【MM378】』です。
ライトニングウォホーク少佐は白兵戦で連合政府軍の兵士に組み付き、馬乗りになっていた。背中に強い衝撃を感じた。銃撃だったが防弾ジャケットの効果でダメージは少なかった。後ろを振り返ると敵の個体が目に入った。妙な姿をしている。画像で観た地球人の姿だった。戦闘指揮官をあらわすピンク色のヘルメットを被っていた。
<ヤツだ! ついに見つけた あれがナナミ大尉か>
ライトニングウォホーク少佐は興奮した。ナナミ大尉は4足走行で走り出した。ライトニングウォホーク少佐は後を追った。増速して追い付こうと思ったがナナミ大尉も増速した。一般の兵士より遥かに速かった。右に左に蛇行して岩と大地の割れ目を飛び越えた。
<なかなかやるな しかし逃がさん!>
ライトニングウォホーク少佐は最大出力のポングを発射した。前を走るナナミ大尉が転倒して勢いよく荒野を転がった。
<うっ!>
ライトニングウォホーク少佐はポングを受けた。致命傷にはならなかったがダメージを受けた。
「痛いな。しかしたいしたもんだ、俺のシールドを撃ち抜いた。お前がナナミ大尉か、一度話したかった」
膝をついているナナミ大尉の傍ら立った。予想より小柄な個体だった。それにしても妙な姿だと思った。
「あなたがライトニングウォホーク少佐なの?」
「そうだ。お前のその恰好は何だ? なんでそんな恰好をしている?」
「地球人の女性の姿なの、気に入ってるの。大切な人がくれた姿なの」
「お前の噂は聞いてる。レジスタンスと連合政府軍の英雄らしいな。なかなかやるな、ギャンゴを12頭も倒しているのか。連合政府軍の兵士はギャンゴを見ると逃げ出すらしいが、俺もギャンゴは苦手だ。あれは戦う相手じゃない、バケモノだ。だがお前は戦っている」
「だからなんなの、最近は兵士達もギャンゴを倒してるの」
ナナミ大尉は立ち上がった。
「それも聞いている。お前が訓練しているらしいな。お前はなんのために戦っている?」
「この星の未来と大切な人のためなの! あなたはどうなの?」
<こいつ何を言っている? この星の未来? 大切な人?>
軍人は所属した政府のため戦うものであり、勝ち続ける事こそが役割だ。ライトニングウォホーク少佐にはナナミ大尉の言うことが理解できなかった。
「勝つためだ。俺は常に勝ち続ける」
「そんなのただの殺戮マシンなの」
軍人なのだから殺戮は当たり前で、殺戮マシンなら有能な軍人という事だ。ライトニングウォホーク少佐の行動原理だった。
「その通りだ。それで十分だ。それが俺の役割だ。お前は地球という惑星にいたらしいな。感情があるんだろ、良くわからんが無駄なものを持ったな」
「かわいそうな人なの。感情を持てば分かるの。殺す事が空しい事だって」
ますます意味が分からなかった。感情と何なのだ? ライトニングウォホーク少佐は珍しく混乱した。
「殺す前に、お前にギャンゴとの戦い方を教わりたかった、残念だ」
ギャンゴとの戦い方だけでなく、聞きたいことは沢山あったが早く倒してしまおうと思った。それはナナミ大尉が言うことの理解に苦しんだからだ。心に迷いが生じる事が怖かった。
ハイキックを放ったがブロックされた。右ストレートも躱された。連続攻撃を試みたが全部捌かれた。見事な動きだった。打撃系は得意なようだ。ライトニングウォホーク少佐はフックを顔面に2発もらい、一瞬視界がぼやけた。たまらず地面に右膝をついた。
<こいつ動きが速い 打撃の当て勘もいい 強い オラワクワクすっぞ!>
「さすがムスファだな。今のフック、見えなかったぞ」
対格差があるのでパワーで吹き飛ばそうと思い右肩でナナミ大尉の顔面にタックルした。気が付くと体が宙に舞い、背中から地面に落ちた。
<なんだこいつ、投げ技も使えるのか?>
「うっ、やるな。こんなに手応えのある相手は久しぶりだ」
ナナミ大尉の踵が、ライトニングウォホーク少佐の左頬に炸裂した。
「グッ」
<攻撃は速いがパワーが無いな 恐れる程の相手ではない>
ライトニングウォホーク少佐は跳ね起きた。
ナナミ大尉がライトングウォホーク少佐の腰にタックルをしたがライトニングウォホーク少佐がそれを受け止め、ナナミ大尉を逆さに高く持ち上げると地面に叩きつけるようにして頭から落とした。強烈なパワーボムだ。地面は平らで硬い岩だった。ナナミ大尉は後頭部に激しい衝撃と痛みを感じ、意識が飛びそうになった。
<体格差を考えたら今のタックルは無謀だ ムスファにしては甘いな とどめを刺すか>
ライトニングウォホーク少佐が素早く馬乗りになるとナナミ大尉の首を両手で絞めた。凄まじい力だった。ナナミ大尉は意識が朦朧とする。
「終わりだな!」
ライトニングウォホーク少佐が左手でナナミ大尉の首を絞めながらハンマーのような右の拳でナナミ大尉の顔面を殴打した。その数8発。多くの個体を『撲殺』してきた得意のパターンだ。ナナミ大尉は鼻と口から青い体液を吹き出した。ライトニングウォホーク少佐は勝利を確信した。
<まだ意識があるのか? 顔はボコボコになっているのに撃たれ強い個体だな 首を潰してやる>
ライトニングウォホーク少佐は再びナナミ大尉の首を両手で絞めた。
『バンッ! バンッ!』
<何だ? 物理攻撃兵器か? くそ、油断した こいつ粘り強いな 予想以上の衝撃だ なんとか防御反応が間に合った>
ナナミ大尉はスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを右腕でホルスターから抜とライトニングウォホーク少佐の脇腹を撃ったのだ。弾丸は44マグナム弾だ。
「くっ、貴様」
ライトニングウォホーク少佐は脇腹を押さえて転がった。左脇腹に衝撃が走り、強烈な痛みを感じ、動けなかった。痛みが治まるとナナミ大尉のM629を奪いナナミ大尉を跨ぐように立ち上がった。M629の銃口をナナミ大尉の頭に向けた。
「お前強かったな、でもこれで本当に終わりだな」
<物理攻撃兵器を使うのは本意ではないが、確実にこいつを仕留めたい しぶといヤツだ だが残念だ もっと話したかった>
ライトニングウォホーク少佐は不思議と残念に思った。一枚のカードの表と裏だった自分とナナミ大尉。その表を消してしまうことに少し躊躇した。また、ナナミ大尉の経歴を知って大いに興味を持っていた。ガンビロンの発射、冤罪と思われる軍法会議と地球という惑星への逃亡。その時ナナミ大尉はどう感じていたのだろうか。地球とういう惑星で感情というものを持った経緯や、MM378に戻って来た理由等、聞いてみたいみたい事が沢山あった。ライトニングウォホーク少佐は自分の生き方を間違えだとは思っていない。しかし、違う生き方もあったのではないかと思い始めていた。戦うだけの生涯。それだけでいいのか? ナナミ大尉は奔放に生き、きっと自分より多くの事を経験し、知っている。自分は強すぎたが故に見えない物が沢山あったような気がした。こんな気持ちになるのは初めて事だった。
<残念だがお前を倒すのが俺の使命だ、戦いは強い者のみが生き残る、それが宇宙の摂理なのだ>
ライトニングウォホーク少佐は引き金に指をかけた。
「最後に言うことはないか」
ナナミ大尉の唇が微かに動いた。
「・・・うの・・・・・・ガンビロン・・・」
<ぐっ!>
ライトニングウォホーク少佐の視界が真っ白になった。
<なんだ? 俺は負けたのか? 俺は最強のはずだ 俺の役割は終わりなのか? 戦うだけの一生だったな 悔いは無い だが次は違う生き方を・・・・・・>
ライトニングウォホーク少佐は脳を破壊され、完全に意識を失った。もう二度と考えることはない。ナナミ大尉とライトニングウォホーク少佐はオレンジブラウンの大地に並ぶようにして仰向けに倒れていた。そこには強い砂風が吹いていた。




