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Chapter49 最終話「アイドルエイリアン」 【地球】

いよいよ最終話です。ここまで読んでくれてありがとう。

Chapter49 最終話「アイドルエイリアン」 【地球】


 季節は春になっていた。土曜日の夕方、私は秋葉原のミリタリーショップでエアガンを買って部屋に帰った。買ったのはスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチ。何故かM629の4インチが無性に欲しくなったのだ。部屋に入るとニセ七海の唐沢が座ってテレビを観ていた。何の用だろうか? ニセ七海の唐沢は相変わらず私の部屋に住んでいたが、昨日から2週間、鬼神島へ現地視察の出張に行っているはずだ。忘れ物か? そういえばM19コンバットマグナムをまだ返していなかった。ニセ七海の唐沢が振り返って微笑んだ。春の日差しのように明るく、春の風のように柔らく優しい笑顔だった。

「タケル、ただいま!」

「えっ?・・・・・・」

「ふふっ・・・・・・この部屋、懐かしいの、変わってないの、嬉しいの」

「えっ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ニセ七海の唐沢は立ち上がった。

アイボリーのブラウス、薄いブルーのジャケと薄いピンクのタイトスカート。袖を捲った左腕にはミリタリーウォッチ、Hamiltonカーキフィールド:ブロンズを付けていた。時計の革ベルトはボロボロでつぎはぎだらけだった。

「その服? その時計?」

七海の服装。思い出した、もう4年も前だ。七海との『ファーストデート』だった。時計は別れた時に私があげた物だった。

「覚えてる? 会ったばっかりの頃、池袋でタケルに買ってもらった服なの。タケルと初めてデートしたの。水族館と展望室に行ったの。楽しかったの。次にタケルに会う時はこの服にしようと思って、持って行って宇宙船に仕舞っておいたの。色違いはハンガーに掛けて置いていったの。この色がいいの。あの時の色なの。それにこの時計、別れる時にタケルに貰った時計なの。戦場でもずっと付けてたの。動いてるの、凄いの。私の一番の宝物なの」

「七海!?・・・・・・ 七海なのか!!????  七海なのか!!!????」

私は頭の中と胸の中がぐちゃぐちゃになって大きな声を出していた。ニセ七海の唐沢が、いやっ、七海が抱き付いてきた。

「タケル、帰ってきたの。約束したの・・・・・・だから帰ってきたの。違うの、会いたかったから帰ってきたの。ずっと会いたかったの!!」

七海は涙を流していた。

「七海、おかえり!! おかえり!!」

私も涙が溢れてとめどなく流れた。この涙、七海と別れた時と同じだ、止まらない涙だ。私は七海をきつく抱きしめた。七海の匂いがした。

「七海、心配したんだぞ! 本当に心配たんだぞ!! 本当だ!! 本当に!!」

私の声はうわずって震えていた。嬉しくてまた涙が溢れてきた。

「タケル、心配かけてごめんね。でも、私は頑張ったの。もの凄く頑張ったの。だから地球は大丈夫なの。タケルに褒めて欲しいの」

七海の活躍はニセ七海の唐沢からの情報で知っていた。その活躍は相当のものだった、絶対的に優位な第1政府を倒し、地球の文化をMM378に広めたのだ。一部のMM星人に感情が芽生え始めているとの事だ。何より地球を救った。

「ああ、よくやったな、3年も戦ったんだ、七海、偉いぞ! 本当に偉いぞ。また一緒に住めるな」

「嬉しいの。凄く嬉しいの! さっきサンシャイン60の展望室に行ってきたの。懐かしかったの」

七海の声も震えていた。私は七海を更に強く抱きしめた。私と七海はいつまでも抱き合っていた。二人の涙は止まりそうになかった。3年間堪えた涙だった。3年分の涙だった。

「タケル、お願いがあるの、ジャンボ肉シュウマイが食べたいの。海にも行きたいの」

「うん、いいぞ、いっぱい食べていいぞ。龍王軒に食べに行こう。海にも行こう、何回も行こう」

「タケル、あと・・・・・・キスがしたいの」

「ああ、いっぱいしよう」

「うん、夢じゃないの、本物のタケルなの」

私と七海はいつまでも抱き合っていた。何度もキスをした。二人の涙は止まりそうになかった。


 私と七海は海を見ながら七里ヶ浜を歩いて江の島の岩場に着いた。海風と波の音が二人を包んだ。私と七海は岩場に座った。

「七海、戦争は終わったみたいだな。でもよく帰ってこられたな。後始末がいろいろ大変だったんじゃないのか?」

「私は戦死したことになってるの。3階級特進で『大佐』なの」

七海はMM378から地球に帰って来た経緯を話した。


【ここから七海の回想】

リキーシトール山脈のBドック管制室。

・・・・・・タケル、ありがとう  さようなら>

『3秒、2秒、1秒、・・・・・・』


< おかしいの 静かなの 爆発するはずなの 私は生きてるの 失敗なの? >



ナナミ大尉は親起爆装置の表示画面を見た。

『Test End Success. Actual Start 5Minutes Later Detonation.』

『テスト終了、成功。本番スタート、5分後に起爆』  

Remaining time(残り時間)『4:59』→『4:58』→『4:57』


< あれ? あと5分あるの! おかしいの>


 ナナミ大尉は「LOG」ボタンを押した。操作ログが表示された。

『5 セット TEST 30 セット 実行』

リンゴ中尉は設定を誤っていた。正しい設定順序はコマンドボタン押下後『TESTボタン → 5 → セットボタン → 30 → セットボタン → 実行ボタン』で5分後にテスト起爆して30分後に本番起爆だ。誤った設定順序はコマンドボタン押下後『5 → セットボタン TESTボタン → 30 → セットボタン → 実行ボタン』で5分後に本番起爆して30分後にテスト起爆だった。親起爆装置の仕様はテスト起爆が優先される仕様だったため、先に入力した5分後に本番起爆する命令に30分後にテスト起爆する命令が割り込んで優先されたのだ。そもそも最初の5分後のテスト起爆の設定が間違っていた。TESTボタンの後に時間を入力するところを、時間を入力してからTESTボタンを押して、続けて時間を入力していた。このため起爆装置は5分を本番起爆、30分をテスト起爆と認識し、順番も変わったのだ。

リンゴ中尉は今回の起爆装置セットの使用は初めてで、突然の敵の空挺部隊の襲撃にも焦っていたのだ。ナナミ大尉はリンゴ中尉との会話を思い出した。


//「受信装置が壊れているようです。この親起爆装置は新型で私も初めて扱うので修理には時間がかかるでしょう。予備の部品もありませんのでタイマー起爆にしましょう。何分にしますか?」

「離陸はすぐにできるの。タイマーは30分でいいと思うの」

「わかりました。30分にセットします。1回、『5分に設定したテスト起爆』を実施します」//


 ナナミ大尉はオレンジブラウンの肩掛けカバンから急いで44マグナム弾のスピードローダーを取り出し、スミス&ウェッソンM629ステンレス4インチの銃口を上に向け、弾倉を左にスイングアウトさせてエジェクター・ロッドを押して薬莢を排莢して、スピードローダーを弾倉にあてて装弾した。弾倉を右にスイングインさせて銃をホルスターに仕舞った。


 ナナミ大尉は管制室を出ると折り返し階段を飛び降りるように降った。途中で倒れた敵の降下兵の『MM-01』ライフルを拾った。階段の最下層に着くとドックを入り口に向かって敵の降下兵をステップで躱しながら時速80Kmで走った。3個体とぶつかったが弾き飛ばした。長さ1000mのドックを1分弱で走って外に出てホバーバイクまで走った。ホバーバイクは敵の降下兵8個体が囲んでいた。ナナミ大尉は『MM-01』の銃床で降下兵を次々に殴打して倒した。敵の降下兵も白兵攻撃で反撃したがナナミ大尉は鬼神のような強さで圧倒した。ホバーバイクに跨り、反重力装置起動用のトグルスイッチをONにした。放熱ファンが『ヒュイーーン』と鳴り始めた。ナナミ大尉の好きな音だった。敵の降下兵3個体、着剣したMM-01ライフルを持って走って来た。ナナミ大尉はホルターからスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを抜くと降下兵に向かって発砲した。

『バン、バン、バン』

敵の降下兵が伏せた。ナナミ大尉はスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチをベルトと体の間に差し込んだ。起爆まで30秒。ハンドルを引いてスロットル捻って全開にした。物凄い加速だった。体が後ろに引っ張られるのを堪えた。3秒後に時速200Km、5秒後に時速600Km、8秒後に最大速度の時速850Kmで上昇した。高度200m、ドックから3Km離れた地点で衝撃波と熱線が左横から襲った。ホバーバイクは空中で100mほど進行方向の右側に飛ばされ、核爆発の電磁パルスの影響で反重力装置が停止した。ホバーバイクは浮力を失い、高度を下げながら山の斜面に墜落した。ナナミ大尉はホバーバイクから放り出され、斜面を横方向に200m転がった。激しいダメージで意識が朦朧とし、暫らくは動けなかった。15分ほどして上半身を起こし、後ろを振り返るとオレンジ色の空に雲のような大きな黒い煙が昇っていた。

「私は運がいいの」

ナナミ大尉は思わず呟いた。

「もう戦いは終わったの、地球に帰るの」


 ナナミ大尉は平均時速20Kmで1日8時間~12時間MM378の荒野を60日間走った。3つの恒星が何度も昇り、何度も沈んだ。北方方面の岩場から南方方面砂漠地帯まで睡眠時間以外はほぼ走っていた。夜は美しい星空の下で野宿した。食事は途中に通過した村や町で軍人証明書カードを見せて『エナーシュ』を配給してもらった。ナナミ大尉はボーナスポイントも含め、10万以上のロールポイントを持っていた。南方方面に来てからは3回ほど食堂に入り、超高級食である地球の食事を食べた。ある食堂では白米5つと味噌汁3杯とレトルトカレー3つを注文して周りを驚かせた。2000ロールポイント以上だ。MM星人が1ヵ月に付与される平均ロールポイントは1200ロールポイントだ。


//*ロールポイントと食べ物の価格については『Chapter48「3階級特進 ナナミ大佐」【MM378】』を参照//


 「ご飯が美味しいの。もぐもぐ。餃子やジャンボ肉シュウマイがあったらもっと美味しいの。はむはむ。いくらでも食べられるの。生卵と海苔があったら最高なの」

「お味噌汁が体に染みるの。ズズッ。長ネギと豆腐が最高なの、ご飯が美味しいの。ジュルル、はむはむ」

「この色と味はビーフカレーなの。旨い、辛いのループなの。スプーンが止まらないの。こげ茶色のルーはスパイシーなのにコクがある欧風カレーなの。はむはむ。白米に絡めるの。もぐもぐ、止まらないの。みんなもカレーライスを食べるといいの!」

また、自分へのご褒美に高価なペットボトルの水も買った。偶然その店には大好きな「アサハ:おいすい水:天然水」が置いてあった。地球直輸入の水はとにかく高価なのだ。

「地球の水は美味しいの。軟水が好きなの、口当たりが滑らかで喉にスルッと流れ込むの。ごきゅ、ごきゅ。タケルの部屋に住み始めたばっかりの頃にこの水を初めて飲んだの。一番美味しい水なの、ごきゅ、ごきゅ」


 ナナミ大尉は街で第1政府が全面降伏したことを知った。そして自分が戦死扱いになり、3階級特進して大佐になっていることも知った。『戦況情報ニュース』にはナナミ大尉の写真が載り、これまでの戦績とドック破壊について報じられていた。『マゼラン星雲で最も勇敢な軍人、軍神ナナミ大佐』とのキャッチフレーズで、ナナミ大尉は『軍神』扱いとなった。

「私は軍神なんかじゃないの。もう戦争はイヤなの。普通の女の子がいいの」


 ナナミ大尉は1万キロ(東京からフランスのマルセイユ、カナダのオタワ、アメリカのシカゴまでの距離)を走って南方方面軍の軍令本部に到達した。宇宙船保管施設に侵入し、自分が地球から操縦してきた宇宙船『スリーR22型改』の操縦席に座った。途中で遭遇した3個体の警備兵はポングで眠らせた。エネルギーは100%だった。時空超越転移装置はチューンナップされ、レベル5だった最高出力がレベル7にアップされていた。レベル7で航行すれば地球まで1ヵ月で移動できる。ナナミ大尉は格納庫のシャッターを宇宙船で突き破り、全速力のマッハ30でMM378の大気圏を脱出した。宇宙船は反重力装置と『重力制御装置』を使用することで重力エネルギー集めて推進力に変換できるため、速度をマッハ30まで出せるのだ。特に『重力制御装置』がユモトン411を大量に必要とする。重力制御装置は生産に多大な工数が掛かるため、大量生産はできない。各種ホバーは反重力装置と推進用超小型ジェットであるため、最高速度は1200Kmが限界で、音速を超えることはできない。ただしユモトン411の消費は少なく、反重力装置も大量生産が可能なのだ。ナナミ大尉は宇宙空間に到達すると時空超越転移装置をレベル7に設定した。指示座標は天の川銀河太陽系第3惑星の地球だ。ナナミ大尉は退避カプセルに入って目覚しタイマーを25日後にセットして睡眠ミストの噴射ボタンを押した。そしてHamilton カーキフィールド:ブロンズのガラス面に軽くキスをした。


< 懐かしいの。5年前に逃亡した時を思い出すの。あの時は不安だったの。行き先も決めてなかったの。3ヵ月眠って偶然地球に着いたの。地球ではいろいろな事があったの。素敵な思い出ばかりなの。あの素晴らしい星に帰るの。タケルがいる星に帰るの >  


宇宙船は三陸沖西部海域の高度3万メートルを時速800Kmで飛行していた。

「こちらはコールサインABO378、アフファ、ブラボー、オスカー、スリー、セブン、エイト 着陸許可求む オーバー」

「こちらはMZ会関東地区管制室です。呼び出し信号をキャッチしましたが識別コードの期限が切れています 着陸許可は出せません 退去されたし オーバー」

「こちらABO378、機体に損傷あり 強行着陸を実施する オーバー」

「こちら管制室、退去されたし 退去しない場合はMZ会への攻撃及び地球への侵略とみなしプラズマパルス砲で貴機を撃墜及び排除します。すでに貴機はロックオンされています オーバー」

管制官の声は冷たく厳しかった。ナナミ大尉の宇宙船はチューンナップの途中であった為、地球の大気圏突入時に機体に不具合が発生したのだ。反重力装置の出力が低下している。機内にはエマージェンシーコールが鳴り響いている。『Power decline and Crashes』 『Power decline and Crashes』 『出力低下 墜落します』 『出力低下 墜落します』


「こちらABO378、私は地球名『天野七海』なの、国籍も戸籍もあるの、本名は『ムスファ・イーキニヒル・ナナミジョージフランクアマノ』、MM378連合政府軍の軍人なの、MZ会とは共闘関係なの、着陸許可を出して欲しいの、渉外課の峰岸さんを知ってるの、主任の唐沢さんも知ってるの。キーワードは『鰻重』なの! オーバー」

しばらく管制室は沈黙していた。


「こちらABO378、応答して欲しいの。着陸が無理なら長野県の山に不時着するの。だからプラズマパルス砲は撃たないで欲しいの オーバー」

ナナミ大尉は焦っていた。これ以上反重力装置の出力が低下すれば墜落してしまう。飛行が不安定なので不時着の難易度も高くなっている。なによりもプラズマパルス砲に撃たれたら宇宙船ごと分子レベルに分解されて消滅してしまう。プラズマパルス砲は理論的に実現可能となっていたが、MM378では核兵器以上にタブー視されているのだ。MZ会は開発に成功した。プラズマパルス砲は弾道ミサイルの迎撃に使用すれば絶大な効果が期待できる。弾道ミサイルを消滅させる事ができるのだ。プラズマパルス砲はアメリカ裏政府も恐れるMZ会の科学力の一端である。

「こちら管制室、身元の確認がとれました 緊急着陸を許可します これより誘導電波を発信します 気を付けて着陸して下さい オーバー」

「こちらABO378、ありがとうなの 『私は鰻の味にはうるさいの!』 オーバー」

「こちら管制室、『ナナミ大尉』 地球への帰還を歓迎します おかえりなさい! アウト」

管制官の声は何故か明るかった。ナナミ大尉は東京湾のMZ会の施設に無事に着陸した。滑走路には整備員数名と峰岸が立っていた。峰岸は偶然この施設に来ていた。MM378から帰還し、大型宇宙船の隠し格納庫がある『ゴビ砂漠』で小型宇宙船に乗り換えてこの施設に着陸したのだ。この施設で報告資料を作成している最中に管制室から問い合わせを受けた。峰岸のことを知っているMM星人が着陸許可を求めているという事だった。キーワードは『鰻重』。峰岸は驚きのあまり声を上げ、右手に持っていたコーヒーカップを落とし、こぼれたコーヒーが書類を汚し、足を火傷した。峰岸は七海がMM378で第1政府を倒し、地球を救った英雄であることと、丁寧に迎えるよう管制室に強く伝え、滑走路に飛び出して来たのだ。管制室も驚きと喜びに包まれた。MM星人の管制官達はナナミ大尉の事を『戦況情報ニュース』で知っていた。ナナミ大尉は彼らにとっても英雄だったのだ。


 「七海さん、無事だったんですね! ドックの崩壊に巻き込まれて戦死したと聞いていました、よくぞご無事で・・・・・・」

「危なかったの。間一髪で脱出したの。私は運がいいの。でも軍には戻らないの、もう私の戦いは終わったの。革命は成功したの」

「よかった! 本当によかった! 戻らなくていい、これからはずっと地球にいればいいのです 水元さんが待っています」

峰岸は『糸』の事を思い出していた。七海が糸のように感じられた。峰岸の目からは涙が流れていた。何十年も流したことがない嬉し涙だった。

【ここで七海の回想終了】


「タケル、前にもこの場所に来たの」

「ああ、出会って少したった頃だったな。七海が海を見たがったんだ。ビデオカメラで七海の事をいっぱい撮影したんだ。懐かしいな、これで2回目だ」

「違うの、私は3回目なの。MM378で戦ってる時に夢の中でこの場所に来たの。タケルもいたの・・・・・・でもタケルはいなくなったの。あの時は危なかったの。もう地球に帰れないと思ったの。目が覚めたら病院のベッドだったの」

「七海、俺も3回目だ! 俺も夢の中でここに来たんだ。七海と一緒だった」

「きっと同じ時間に同じ夢を見たの。私達は離れていたけど夢の中で会ってたの。興味深いの。凄く興味深いの。不思議なの」

確かに私は夢の中で七海とこの場所に来た。そして七海を置いて行こうとした。

「七海、置いて行って悪かった」

「いいの。タケルがいなくなったから目が覚めたの。あのまま、あそこにいたら戻ってこれなかったの。助かったの。本当に不思議なの」

「大マゼラン星雲まで16万光年か。遠いようだけど、心の間に距離なんて無いんだよ。どんなに離れていても時間はまったく同じように流れているんだ。あの時、二人は同じ場所にいたんだ。この宇宙のどこかに時空を超えた場所があるんだ。距離のある物理空間と距離の無い精神的な空間と時間は絡み合ってるんだ。きっと宇宙はそういうふうに出来てるんだ。地球の今と大マゼラン星雲の今は同じ時間なんだ」

「うん、私もそんな気がしたの。あの場所は実在したの。距離が無くて同じ時間だったの」


 私と七海はしばらく海を見つめていた。海風と波の音はいつまでも二人を優しく包んだ。空は青く、太陽は眩しく輝いていた。七海の髪の毛が海風になびいていた。

「七海、写真集がいっぱい売れたんだ。今は活動を停止してるけど活動を再開しよう。アイドルデビューするか? きっと売れるぞ。でも今は26歳か。アイドルは厳しいな。あれから3年たったからなあ。そうだ、峰岸さんに頼んで若い年齢の戸籍を貰うんだ、20歳にしよう」

「売れなくてもいいの。若くならなくてもいいの。今度こそ本当にアイドルになるの。タケルだけのアイドルなの! そうしたいの 不思議なの」

七海の微笑んだ横顔が海面に反射した太陽の光を受けてゆらゆらと輝いた。世界で、いや、この宇宙で一番美しい横顔だった。そして、私だけのアイドルだ。宇宙人だけど・・・・・・



長い間ご愛読ありがとうございました。




3年が過ぎた。

店長は池袋に龍王軒の2号店を出すらしい。なんでも『セクシー町中華』というジャンルに挑戦するようだ。王さんは大学院に通いながらも龍王軒で店長見習いになった。橋爪さんは事務所を拡大して、モデルやアイドルを売り出す事業を始めていた。溝口先輩は会社を辞めて橋爪さんの事務所でマネージャーをやっている。峰岸さんはマゼラニア自由民主主義国の建国直前で東奔西走している。建国後は外務大臣になるということだ。大出世だ。唐沢さんはアイドルのオーディションを受けまくっている。顔は私が作った自信作だ。佐山さやかは大抜擢で人事部の課長となってキャリアアップした。『差別を許さない公平公正な人事』がスローガンだ。また、サバイバルゲームにハマっている。時々七海と温泉に行っているのが気がかりだ。ユモさんは相変わらず謎の人だ。長期休暇中のユモさんから写真ハガキが届いた。消印はブラジルで、アマゾン川をバックに、珍しく笑顔のユモさんが藤原ミサキと写っていた。ユモさんの笑顔を見るのは始めてだった。意外と優しい顔をしていた。

皆それぞれの道を歩んでいた。この星では誰にでも幸せになる権利がある。


そして、私と七海は少し怪しい商売を始めて2年、なんとか軌道に乗ったところだった。会社は辞めたが悔いはない。毎朝、七海が作った朝食を食べ、七海が淹れたコーヒーを飲む生活は幸せだった。



「タケルさん、七海さん、神に永遠の愛を誓ってください」

「タケルさん、誓いますか?」

「誓います!」

「七海さん、誓いますか?」

「うーん、永遠は無理なの。でも400年なら誓えるの、キャハッ」


【ビデオレター】

店「結婚おめでとう、もう、二人とも全メニュー一生タダにしちゃう! もってけ泥棒夫婦!」


王「オメデトウゴザイマス。ナナミサン、モシタケルサントワカレタラ、ワタシトケッコンシテクダサイ」

店「王、めでたい時に何言ってるんだ! 仕事しろ! 給料下げるぞ!」


溝「ガクちゃん、浮気したら許さねんぞ! 七海ちゃん、オムレツ食べに行くね、ガクちゃん、また一緒に寝ような」


橋「おめでたいにょー! みずもっちゃはズルいにょーーまたみんなで別荘に行くにょ。無防備な人妻七海ちゃんの寝顔とナマ足見たいにょーーーー」


唐「結婚おめでとうございます! タケルさん、七海さん、見て見て、私も今日はおめかししたの、カワイイでしょ! うふふ」


佐「水元さん、本当に七海ちゃんを独り占めしちゃいましたね、ズルすぎです! 七海ちゃん今度遊びに行くね~。水元さんは1ヵ月どっかに行ってて下さい!」


峰「水元さん、七海さん、結婚おめでとうございます。マゼラニア自由民主主義国に遊びに来てください。国賓待遇でお迎えします。本当に嬉しくて、ううっ、涙が止まりません。本当に良かった、おめでとう」


みんな勝手な事を言っているが本当にありがたい。最高の仲間だった。七海と出会ってからあっという間の7年だった。私は50歳になっていた。そして隣には笑顔の七海がいた。私だけのアイドルだ。                                    


 fin


ご愛読ありがとうございました。

本作品「続 私とアイドルエイリアン『MM378戦記 革命士官ナナミ大尉』」の本編は終了となります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。お楽しみいただけたでしょうか。ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

本編は終了しましたが、スピンオフショートストーリーや外伝など、書き切れなかった部分を非定期で投稿する予定です。七海シリーズを続けるかどうか迷っています。こんな七海が見たい等のご要望があればお寄せ下さい。


「読者の皆さんとはお別れなの、なんか寂しいの。でも、またどこかで会える気がするの。不思議なの。元気でいればきっとまた会えるの」

「感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってるの!!」

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[一言] いい終わり方でした。次回作も期待します。
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