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Chapter46 「面談」 【地球】

Chapter46 「面談」 【地球】


 私は人事部の横田部長と応接室で面談をしていた。

「水元さん、佐山君がもう一週間も休んでるんだ。体調不良ということだが何か知らないかな」

「知りません。私もインフルエンザに罹りました。佐山さんも風邪とかじゃないんですか」

私は白を切った。本当の事はとても言えない。宗教団体幹部の宇宙人に誘拐され、銃撃戦に巻き込まれたなど、事実を言ったとしても信じてもらえないだろう。

「うーん、困ったねえ。水元さんは佐山さんと付き合ってるという噂があるんだが、そのへんはどうなんだ?」

訊かれると思っていた。私と佐山さやかは社内で噂になっている。横田部長も応接室で私が泣いている佐山さやかの肩を抱いているところを見ているはずだ。

「噂になっていることは知っていますが、そんな事実はありません」

「いや、でも佐山さんが最近変わったっていう話をよく聞くんだ。昼休みにミリタリー関係の雑誌を自席で読んだりしてるんだよ。佐山君は私の部下でもあるから気になっているんだ。確か水元さんはミリタリーマニアだったよね」

「それは偶然じゃないんですかね。ミリタリーは奥が深いんです。一度興味を持つとどんどん引き込まれます。ミリタリーって一言で言ってもジャンルが沢山あるんです。単純に戦車や戦闘機、軍艦が好きな人もいます。陸軍、海軍、空軍などそれぞれのマニアもいます。戦史や軍隊の組織に興味がある人もいます。私は戦闘機が好きです。スペックや実戦での活躍や開発の経緯など、1機種の戦闘機でも調べればキリがないほど情報があるんです。それに対象の時代によっても興味が変わります。私は第二次世界大戦の頃の戦闘機が好きです。やはり日本人なので日本機が好きですね。横田部長はゼロ戦知ってますか?」

「う、うん、知ってるよ。日本軍の強い戦闘機だろ。子供の頃プラモデルを作った覚えがあるよ」

「じゃあゼロ戦の型を全部言ってもらえますか」

「えっ、そこまでは詳しくないけど、そんなにあるの?」

「はい、最初は11型です。次が21型で艦載機仕様になってます。その次が32型ですね。速度を上げる為に翼端を切り落としたタイプですが航続距離が落ちてゼロ戦本来の強みが失われたので元の翼に戻したのが22型です。そのあとは52型です。最も多く作られた型で甲、乙、丙型がありました。その後は水メタノール噴射の53型、64型、62型です。金星エンジンを積んだ幻の54型もありました。型の最初の数字は機体のバージョンです。2番目の番号はエンジンのバージョンです。この二つの組み合わせで型が決まります。21型は2番バージョンの機体に1番目のエンジンのバージョンを搭載してます。32型は3番目の機体バージョンに2番目のバージョンのエンジンです。52型は4番目の機体のバージョンに2番目のバージョンのエンジンです。4は縁起が悪いのでスキップしてます。42型は『死に』になるからです。ゼロ戦の武装をご存じですか? 20ミリ機銃は有名ですが、20ミリ機銃にも1号銃と2号銃があります。2号銃は弾丸初速が速いので命中させやすかったようです。弾丸の携行弾数にも違いがあります。弾丸にも種類があります。ゼロ戦の機体の新規開発は三菱ですが、エンジンの『栄』は中島製なんですよ。ゼロ戦の機体の量産製造も三菱より中島の方が多かったんですよ。これは工場の関係ですね。ゼロ戦の長所は空戦性能と思われてますが、一番の長所は航続距離なんですよ、当時の外国の戦闘機は」

「水元さん、わかった、ゼロ戦の話はもういいよ」


 「ミリタリーは奥が深いんです。戦艦大和の話だけでも3時間は語れます。戦史にも詳しいですよ。佐山さんは『銃』のジャンルが好きみたいですね。何回か質問されましたけど、私は銃の知識はちょっと詳しいくらいです。私と佐山さんは好きなジャンルが違うんですよね」

「そうか。じゃあ水元さんと佐山君は付き合ってないんだね」

微妙だった。男女の関係にはないが、共に銃撃戦を行い、射撃訓練も一緒にしている。非合法な行いを共有しているとういう意味では深い付き合いにあるともいえる。おまけに一緒に宇宙人と交流しているのだ。

「はい、そもそも私みたいな冴えない男と付き合ってるなんて噂されたら佐山さんも迷惑なんじゃないですかね。佐山さんは少し前までは社内のアイドルだったんですよ」

「まあそりゃそうだな、そりゃそうだ」

真面目にムカついた。


 「とにかく佐山さんとは何もありません。休んでる理由も知らないですよ」

「それはそうと、穂坂君をイジメたそうだね。岸田部長からパワハラ窓口にクレームが上がってるぞ」

穂坂がこの前の事を上司の岸田部長に話したようだ。予想した通りの行動だった。

「イジメていません。殴っただけです」

「水元さん、そりゃまずいでしょ。穂坂君のお父さんの事は知ってるよね? 当社の株主で出資者でもあるんだよ。まずいよ」

穂坂は4年前にうちの会社に中途入社で入って来た。前はイベント会社にいたらしいがその会社を懲戒免職になったようだ。懲戒免職の理由はパワハラとセクハラとの噂だが真偽のほどは定かではない。しかし懲戒免職では次の就職先は容易に見つからないようで、結局父親がうちの会社に採用してほしいと泣きついてきたのだ。穂坂の父親は投資家でうちの会社の株を多く持ち、出資もしているのだ。穂坂は社内で腫物を触るような扱いとなり、本人も自由気ままに振舞っていた。

「どうすればいいんですか?」

「まずは謝った方がいいだろうね」

私は穂坂に頭を下げるのだけはイヤだった。穂坂が受注してきた案件のプロジェクトを担当したことが何度かあるがことごとくトラブル件名となった。どの案件も受注条件が曖昧で、見積りも開発部門を通さず、営業担当者が根拠なく見積もったものだった。ほぼ顧客の要求する金額だ。どう考えても1000万円以上掛かるシステム開発を100万円で受注してくる事もあった。受注成績だけを稼いでプロジェクトの収支は開発部門に負わせるような案件ばかりだった。上層部もその事に気が付き、穂坂はシステム開発ではなく保守業務の営業をメインに行うようになっている。私は穂坂の受注した件名でプロジェクト収支責任を問われ、2度ほど減給処分になっている。トラブルプロジェクトは内部の監査を受けたが、PMOのユモさんは受注に問題があることを何度も上層部にレポートをあげてくれていた。

「謝るつもりはありません。彼には殴られるだけの理由があります」

私ははっきりと言った。

「なんだね、その理由は」

「人の人格を貶め、侮蔑した態度です。あんな態度でよく今まで生きて来れましたね。殴りたいと思ってるのは私だけじゃないはずです。穂坂のパワハラやセクハラは横田部長もご存じのはずです」

半分はハッタリだった。穂坂の後輩イジメの噂は聞いていたがそれ以上の事は知らなかった。

「まあいろいろ苦情あるけどね。困ったもんだよ」

「酷いみたいですね。訴えられたりしたらやっかいですよ。SNSなんかに上げられても困りますよね。まあ私が当事者だったらそうしますけど」

私はカマをかけた。

「それは困るんだよ。暴力やセクハラ行為は慎んでもらうように言ってるんだ」

「セクハラと強制わいせつや強制性交は次元が違います」

さらにカマをかけた。

「いや、でも酔った上の事みたいだし、本人も反省しているよ。それに強制性交まではいってないようだし」

「被害者はそうは思ってないですよ」

「社会人になればいろいろあるだろう。まだ新人だから大げさに考えてるんだよ」

どうやら穂坂は新人の女子社員によからぬ事をしたらしい。

「とにかく謝るつもりはありません」

「桑野部長にも話がいくと思うが、話が大きくならないうちに謝っておいた方が

いいんじゃないのか」

桑野部長は私の上司だ。技術畑出身なので組織マネージメントが苦手で興味もないようだ。今回の件もあまり干渉してこないだろう。良くも悪くも放任主義の上司だ。

「佐山さんの事は話した通りです。もうよろしいでしょうか?」

横田部長は何も言わなかったので私は席を立った。

 

 私はニセ七海の唐沢に佐山さやかの事を相談した。

「可哀想ですね。きっと人質になった事と花形さんの事がショックだったんでしょうね」

「ああ、今回の事だけじゃなくて、いろいろ疲れてたんじゃないかな。宇宙人と知り合って、非合法の実銃の射撃訓練をするようになって生活が一変したはずだ。家族との付き合い方なんかも変わったかもしれない。七海への想いも相変わらず強そうだしな」

「私が電話してみますよ。七海さんの姿なんで少しは慰めになるかもしれません」


 私とニセ七海の唐沢と佐山さやかは新宿のカラオケボックスにいた。

「すみません、心配かけてます。もう大丈夫です。来週から出社します」

「大丈夫ってどう大丈夫なんだ。そもそも体調が悪いのか? メンタルか?」

「タケルさん、もっとゆっくり話しましょうよ。男の人はダメですね。すぐ結論を急いだり解決しようとするんです。女はまず聞いてもらったり、寄り添って欲しんですよ。ねえ佐山さん」

「そうなんですよ、唐沢さん分かってますね」

なぜニセ七海の唐沢が女心を分かるんだ? MM星人に性別はないはずだ。

「『さやかお姉ちゃん』、無理しなくていいの。ゆっくりすることも大事なの。美味しい物でも食べてのんびりするといいの」

ニセ七海の唐沢は本物の七海の話し方の真似をした。声が同じだけにそっくりだった。

「ああーー似てるぅーー、唐沢さん、似てますよ、喋り方が七海ちゃんにそっくりです!」

「そうですか、良かったです。結構練習したんですよ」

「じゃあこれはどうですか」

佐山さやかがニセ七海に近づくと脇腹をくすぐった。

「あっはっは、くすぐったいです、あっはっは、佐山さん止めて下さい」

「唐沢さん、違います。『キャハハ、キャハハハッ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいから止めて欲しいの~ キャハハ、キャハハハッもう降参なの~』って言って下さい」

佐山さやかがニセ七海の脇腹をさらにくすぐった。

「キャハハ、キャハハハッ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいから止めて欲しいの~ キャハハ、キャハハハッもう降参なの~」

「もっと『キャハハ』の声を高くして下さい! コチョコチョ」

「キャハハ、キャハハハッ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいから止めて欲しいの~ キャハハ、キャハハハッもう降参なの~」

「そうそう、それなんですよ! もう1回です、いえ、2連発でお願いします それ! コチョコチョコチョ」

私は何を見せられてるのだろうか。佐山さやかはソファーの上でニセ七海の唐沢に馬乗りになってくすぐっている。

「キャハハ、キャハハハッ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいから止めて欲しいの~ キャハハ、キャハハハッもう降参なの~  キャハハ、キャハハハッ、さやかお姉ちゃん、くすぐったいから止めて欲しいの~ キャハハ、キャハハハッもう降参なの~」

「あの、ポテトフライと唐揚げをお持ちしました・・・・・・」

佐山さやかの動きが止まった。カラオケボックスの店員が驚いた顔をして佐山さやかとニセ七海の唐沢を交互に見ていた。

「すみません、レモンサワーください!」

私はその場を誤魔化すためにレモンサワーを注文した。

「じゃあ私はウーロンハイで」

佐山さやかはニセ七海の唐沢に馬乗りになったまま恥ずかしそうに注文した。

「キャハハ、キャハハハッ、私はハイボールをお願いします」

ニセ七海の唐沢、大丈夫か? でもおまえ、結構いいやつだな。


 「唐沢さん、ありがとうございます、おかげで元気が出ました。今度一緒にスーパー銭湯に行きましょうよ! きっと楽しいですよ! 楽しみです」

「そうですねえ、でも楽しいんですかねえ?」

「水元さん、今日は来て良かったです」

「そうか、それは良かったなあ。元気が出たみたいだし」

佐山さやかは少し元気になったようだ。ニセ七海の唐沢はこれからたいへんかもしれない。

「はい、体調は悪くないんです。ただ、いろいろ考えてしまいました。私は少し前まで普通のOLでした。でも、今は銃撃戦をしたり、誘拐されたり、花形さんが目の前で殺されたり、なんていうか自分の進もうと思ってた生活とはかけ離れたところに来てしまって怖くなったんです」

「俺もそうだよ。そこそこ仕事して、ミリタリー情報をネットで調べながら晩酌して、休日は録画した美島七海の出演してるドラマを観て、そんな平和な日々だったんだよ。もちろん七海に出会えたのは良かったけど、宇宙人と交流したり銃撃戦をするなんて思いもよらなかった。でも人生は必ずしも自分の思ったようにいかないんじゃないかな。良くも悪くも思いもよらない方向に行くこともあるんだよ。思い通りの人生じゃなくても楽しんだり笑ったり感動できればいいと思うんだよ」

「そうですね。七海ちゃんと出会ってから楽しい事もいっぱいありました。この前みたいに辛い事もあるけど、それはどんな生き方をしてもありますよね」

「うん、選べない運命っていうのもあるんだよ。無理して抗うより受け入れて生きる方がカッコイイ大人の生き方なんじゃないか」

「水元さん時々凄くいい事言いますよね。それで、実はお願いがあるんです」

「俺にできる事ならなんでもするよ、遠慮しないで言ってくれ」

私は褒められて気分が良かった。

「私の両親に会って欲しいんです」

「えっ?」


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