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Chapter45 「ドック崩壊2/2」 【MM378】

Chapter45 「ドック崩壊2/2」 【MM378】


 新型高高度大型ホバーは再び建造ドックの前に着陸した。ナナミ大尉は念のためにホバーバイクを降ろした。リンゴ中尉とシャーク軍曹がドックBに入って親起爆装置の設置場所に急いだ。リンゴ中尉が親起爆装置を点検している。ナナミ大尉もドックBに入った。

「受信装置が壊れているようです。この親起爆装置は新型で私も初めて扱うので修理には時間がかかるでしょう。予備の部品もありませんのでタイマー起爆にしましょう。何分にしますか?」

「離陸はすぐにできるの。タイマーは30分でいいと思うの」

「わかりました。30分にセットします。1回、『5分に設定したテスト起爆』を実施します」

ナナミ大尉とリンゴ中尉は親起爆装置を見つめている。シャーク軍曹は超大型宇宙船を見上げていた。

《こちらマクド、敵の大型ホバーが接近中です。距離4000m、物凄いスピードです。時速600Km以上です。超高速気流に乗っていると思われます》

トランシーバーからマクド少尉の声が聞こえた。

《こちらナナミ、近いの。離陸準備なの》

「どうしたのですか?」

リンゴ中尉は不安そうに訊いた。

「敵が来るの。急ぐの」

ナナミ大尉はドックの入り口まで走って上空を見上げた。何かが空に舞っている。その数100以上。首から掛けたゴーグルを装着してスイッチを入れて望遠モードにした。

< 落下傘! 空挺攻撃! 予想外なの・・・・・・>

空には白い落下傘が綿雪のように舞っていた。

《敵の空挺部隊が降下中。100以上! マクド少尉、すぐに離陸準備なの》

シャーク軍曹が入り口まで走って来た。

「大尉、情報が漏れたのですか?」

「そうみたいなの。この作戦の事を知っている情報将校がスパイ容疑で拘束されたの。でも第1政府が空挺部隊を投入するなんて予想外なの、空挺部隊は第1政府にとって大事な『数の子』なの。首都攻防戦で連合政府軍の背後に降下すると思ってたの」

数の子ではなくて『虎の子』だ。リンゴ中尉も走って来た。両手に親起爆装置を抱えている。

「ナナミ大尉、親起爆装置はどうしましょう? 破壊されたら起爆できません」

「持って行くことはできないの?」

「爆弾から2000m以上離れると爆弾の起爆ができません」

「大尉、敵兵が着地してこっちに向かってきます。ホバーが攻撃されます!」

外の様子を窺っていたシャーク軍曹が叫んだ。

ナナミ大尉はゴーグルを最大望遠にして敵の兵士達を観察した。敵の兵士達は斜面を登ってきている。

「敵の兵士達の持ってる銃は『MM-01」なの。きっとアサルトライフルの生産が間に合ってないの、銃の性能はこっちが有利なの。でも数が多いの。200個体以上なの」

MM―01は第1政府が開発した単発式のライフルである。1発撃つごとに装薬カプセルと弾丸を別々に装填するため、速射性が極めて悪い。しかし3年程前にMM378で最初に開発された物理攻撃兵器であり、登場時はその一斉射撃に連合政府軍の兵士達を震え上がらせた。ナナミ大尉が地球から持ち込んだアサルトライフルが連合政府でコピー生産され連合政府軍が有利となったが第1政府も鹵獲したアサルトライフを参考に開発を行い、生産を開始している。

《こちらナナミ、シルバーウルフ分隊、機外に出て散開するの。可能な限り弾丸を持って行くの。ホバーからは100m以上離れるの。撃ちまくって敵を引き付けるの。ホバーを守るの。現在敵との距離800m、敵の銃は『MM-01』なの。距離が100mになったら射撃を開始するの》

《こちらポピンズ、了解しました》

《こちらナナミ、マクド少尉、いつでも離陸できる状態にしておくの》

《こちらマクド、了解です》

「リンゴ中尉、タイマーはセットしたの?」

「はい、30分にセットしました」

「起動して床に置いていくの」

「しかし、この状況では敵に起爆装置を破壊されてしまいます」

「大丈夫なの。シャーク軍曹、ポピンズ曹長達と一緒に敵を迎撃するの。リンゴ中尉はホバーに乗るの」

「ナナミ大尉はどうするのですか?」

リンゴ中尉が心配そうに言った。

「親起爆装置を奥に運んで守るの」

「大尉、それは無茶です!」

シャーク軍曹が言う。

「シャーク軍曹、早く行くの、敵をホバーに近づけないの。命令なの! リンゴ中尉、私はすぐにホバーバイクで追いかけるから大丈夫なの。爆破10分前になったら私も脱出するの。起動するの!」

リンゴ中尉はタイマーを起動して起爆装置の床に置いた。数字が動き始める。

「大尉、無謀です!」

シャーク軍曹が叫ぶように言う。

「私はムスファなの! 今までもピンチをくぐり抜けてきたの! 今回も切り抜けるの。早く行くの!」

ナナミ大尉は親起爆装置を持つとドックの奥に向かって走った。


 銃撃戦が始まった。敵の降下兵は斜面を登り切り、平地を進んでくる。散開したシルバーウルフ分隊の兵士達はアサルトライフル『AS―01』のセミオート射撃で敵の降下兵を次々と倒した。『AS―01』は地球のAK-47系統のアサルトライフルを参考に開発されたアサルトライフルだ。口径は10mmで、AK-47の7.62mm弾の2倍の威力のオリジナルの弾丸を発射できる。装弾数はバナナ型マガジンに38発。フルオート射撃時の発射速度は1分間に550発~900発でダイヤルによって調整が可能である。敵の降下兵も『MM-01』で反撃する。ピーター一等兵が狙撃銃『M110 SASS』で敵の降下兵を確実に仕留める。敵の降下兵は足止めをくらったが、第2弾、第3弾が次々に落下傘で降下してくる。

《こちらポピンズ、ナナミ大尉、敵の数が多すぎます! 3個中隊700個体以上です》

《こちらナナミ、シルバーウルフ分隊、ホバーに乗るの! 急ぐの!》

《こちらナナミ、マクド少尉、シルバーウルフ分隊が乗ったら離陸するの》

《こちらポピンズ、これよりホバーに搭乗する》

《こちがマクド、了解》

シルバーウルフ分隊は各自全速力で大型ホバーに走った。

ナナミ大尉はドックの一番奥にいた。親起爆装置の数字は起爆まで21分。

《こちらポピンズ、全員搭乗しました、大尉、早く乗って下さい》

《こちらナナミ、マクド少尉、私はホバーバイクで追いかけるの。早く離陸するの》

《こちらマクド、了解》

シャーク軍曹が操縦席の扉を開けて飛び込んだ。

「まだだ、大尉を待つんだ!!」

シャーク軍曹が叫んだ。

「しかし離陸しろとナナミ大尉からの命令です」

操縦ハンドルを握ったマクド少尉が言った。

《こちらシャーク、大尉、早く来てください! 大尉が来るまで離陸はさせません!》

《こちらナナミ、私は後からホバーバイクで脱出するから大丈夫なの! 早く行くの!!》

《こちらシャーク、大尉、早く来て下さい、大尉は南方方面軍の、いやMM378の宝です!!! 大尉が来るまでは離陸させません!!》

《こちらナナミ、ポピンズ曹長、アーネスト上等兵、フィリオ上等兵、シャーク軍曹を無力化するの。マクド少尉、早く離陸するの! これは命令なの!!》


 大型ホバーは離陸した。第1政府の降下兵達は新型高高度大型ホバーに向けて銃撃したが、新型高高度大型ホバーは高度1000mまで上昇すると最高速度で離脱した。

ナナミ大尉は親起爆装置を床に置くとドックの入り口まで走った。ドックを包囲するように500個体以上の敵の降下兵が迫ってくる。その距離100m。ホバーバイクも敵の降下兵10個体あまりが囲んで操縦パネルを操作してる。ナナミ大尉はドックの奥まで走って戻った。親起爆装置を拾い上げるとドアを開いて折り返し階段を駆け上がった。エレベーターも存在するが、いつ敵の攻撃で止まるかわからないので使用しなかった。折り返し階段はドックの管制室に繋がっている。管制室はドックを見下ろす高さ180m付近に張り出た箱型の部屋である。ビルの40階の高さにあり、広さは10畳くらいで横長の部屋だ。ナナミ大尉は鉄骨の折り返し階段を親起爆装置を抱えてひたすら駆け上がった。階段の最上階まで駆け上がるとドアを開けて管制室に入った。管制室の床に親起爆装置を置いた。管制室の窓からドック内部を見下ろすと敵の降下兵がドック内を進んでくるのが見える。親起爆装置を見ると残り時間の表示は8分。ナナミ大尉は腕時計を確認した。管制室を出ると階段でショットガンを構えた。敵の降下兵が登ってくる音が聞こえた。腕時計を見る。起爆まで5分。敵の降下兵3個体が階段に現れた。ナナミ大尉はショットガンを3発連射した。敵の降下兵が後ろに倒れて階段から折り返し点の踊り場まで落ちた。

「おい、いたぞ、登ってこい! 起爆装置を奪うんだ!」

階段の下から声がした。敵の降下兵が次々に現れて階段を登ってきた。ナナミ大尉はショットガンを撃ちまくった。敵の降下兵も『MM―01』を撃ってきた。ナナミ大尉は右脇腹に被弾したがひたすらショットガンを撃った。やがて弾丸が切れた。階段は倒れた敵の降下兵でいっぱいになった。それでも敵の降下兵3個体が登って来た。腕時計を見る。起爆まで2分。ナナミ大尉は腰のホルスターからスミス&ウェソンM629ステンレス4インチを抜いて全弾を撃った。敵の降下兵が後ろに吹っ飛んだ。静かになった。ナナミ大尉は管制室に戻って親起爆装置の数字を確認した。起爆まで40秒。40秒後にはドックに仕掛けられた9発の小型核爆弾が一斉に爆発する。ナナミ大尉は床に座ると目を瞑った。


<タケル、私は頑張ったの。地球ではタケルに迷惑をかけてばかりだったの。でも今回は凄く頑張ったの。だから地球は大丈夫なの。褒めて欲しいの。タケルに褒めて欲しいの。もう一度会いたかったの   タケルに会えて良かったの   初めて恋をしたの  やっと気が付いたの  幸せなの でも タケルとはお別れなの さようならなの・・・・・・タケル、ありがとう  さようなら>

ナナミ大尉の閉じた目から涙がこぼれた。

『3秒、2秒、1秒』


 『リンゴ中尉です、ドックは破壊されました。今、核爆発の衝撃波を検知しました。皆さん、ご苦労様でした。任務は成功です』

リンゴ中尉の機内放送が響いた。機内の大部屋から歓声が上がった。シャーク軍曹は崩れ落ちるように座り込んだ。その後、新型高高度大型ホバーはドックから2000Km離れた町『マスカラシティ』から2km離れた平地に着陸して気絶した第1政府の見張り兵士と作業員、オペレーター70個体を降ろして地面に横たえた。シャーク軍曹はその作業には参加せず、大部屋に座ったままだった。シャーク軍曹は生まれて初めて涙を流した。シャーク軍曹はナナミ大尉との出会いを思い出していた。格闘訓練だった。シャーク軍曹は格闘術に絶対の自信を持っていた。第1政府の暗殺部隊でライトニングウォホーク少佐に格闘術をたたき込まれた。連合政府軍に転軍してからは訓練で数々の格闘教官に勝利した。ナナミ大尉には負ける気がしなかった。地球人の女性の恰好をしているおかしな教官だと思った。喋り方も変わっていた。正直いって気に入らなかった。訓練で叩きのめそう思っていた。そのチャンスがやってきた。シャーク軍曹はナナミ大尉に戦いを申し出た。『私に勝ってさらに自信をつけるといいの』。ナナミ大尉の教官らしくないその一言に驚いた。チョロいと思った。だが負けた。ナナミ大尉がライトニングウォホーク少佐との戦いに勝った事も知った。悔しかった。ナナミ大尉を追い越そうと思った。しかし一緒に作戦に参加するうちにナナミ大尉の能力と資質に驚かされた。北方資源地帯方面で自ら手を汚し、MM378全体の未来を考えた戦略を実行に移した。ヒロミゴー平原攻防戦では危険を顧みず、常に先頭に立ち、敵の究極攻撃に対してすぐに対抗策を講じた。今回の作戦では首相官邸に潜入して首相と交渉したとの事だ。シャーク軍曹はナナミ大尉に追いつけないことに気が付いた。そして憧れ、尊敬の対象になった。他の個体を尊敬することなど生まれて初めてのことであった。ナナミ大尉は自分と比べて格が違いすぎる。器が違いすぎるのだ。シャーク軍曹は自分の使命はナナミ大尉を守る事だと考えるようになった。最初は馬鹿にしていた地球の食事も最近では美味しいと思うようになった。音楽にもウルーンが動かされるようになった。どっちもナナミ大尉が広めた文化だった。シャーク軍曹はナナミ大尉を守れなかったことと、失ったことに深い悲しみを感じていた。ナナミ大尉の笑顔を思い出すと涙がこぼれた。

 

 数日後、新型高高度大型ホバーがドックの偵察を行った。ドックのあったリキーシトール山脈の山の斜面は大きく崩れていた。ドックのあった斜面から3kmほど奥まで斜面が崩壊して抉れたようになっていた。南方方面軍と軍令部ではナナミ大尉の生存は絶望的と判断され戦死が認定された。


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