Chapter43 「空中戦」 【MM378】
Chaptet43 「空中戦」 【MM378】
『前方に小型ホバー発見! 4機、距離3000m」
マクド少尉の声が機内に響いた。
「えっ」
「ええっ」
「極攻か?」
「おい、護衛のホバーはさっき帰ったぞ!」
「大丈夫なのかよ?」
兵士達に動揺が広がった。ナナミ大尉は部屋を出ると操縦席に走った。操縦席から前方を見つめた。
「横一列に等間隔でホバリング。間違いないの。あの隊形は究極攻撃のホバーなの。前回は時速250Kmで突っ込んできたの」
「本機の最高速度は加重状態で時速380Kmです。振り切れるかもしれません。高度も上限の1万mまであげましょうか? 新型機なので従来の大型ホバーの3倍です。敵は小型ホバーです、2000m以上はあがれません」
マクド少尉が言った。
「最高速度を出すと反重力装置と小型推進ジェットのプラズマエネルギーを消費するの。高度を上げても消費するの。この機の巡航速度と航続距離は?」
「時速260Kmの巡航速度で2万キロです」
「ギリギリなの、帰れなくなるの。速度も高度も上げたらダメなの。最低速度に落としてロケットランチャーで戦うの。速いと狙いがつけにくの」
「了解しました。時速50Kmに落とします」
ナナミ大尉はマイクを借りた。
『シルバーウルフ分隊は対空戦用意なの! ピーター一等兵はブローニングḾ2を撃つの。シャーク軍曹とフィリオ上等兵とミルコ一等兵はロケットランチャーを使うの、アーネスト上等兵はブリーフィングルームに爆破班を集めて逐一状況を報告してあげるの。状況がわからないとみんな不安になるの。今後はトランシーバーで通話をするの。以上なの」
ナナミ大尉は前方の空を電子双眼鏡で確認した。4機の極攻ホバーのうち1機が編隊を離れた。向かって右方向から回り込もうとしてる。
『来るの。距離1500、右舷からの射撃用意!」
ナナミ大尉がマイクに向かって叫んだ。
「マクド少尉、左30度変針。右舷を敵に向けるの。後は任せるの。私は対空戦闘を指揮するの」
ナナミ大尉は右舷の大部屋Cに入った。ピーター一等兵が固定されたブローニングM2重機関銃を極攻ホバーに向けてた。ポピンズ曹長は給弾ベルトを手の平に載せている。給弾の補助を行うのだ。ベルトには2000発の12.7mm弾が収められている。
「ピーター一等兵、距離が200mになったら撃つの。貴方は目がいいの。期待してるの」
「はっ、わかりました。シャーク軍曹とフィリオ上等兵とミルコ一等兵は隣の大部屋Dにいます」
ナナミ大尉は大部屋Dに移動した。そろそろ射程に入る頃だ。
「フィリオ上等兵がまず発射するの。新しい近接信管弾を試すの。その後はシャーク軍曹、ミルコ一等兵の順番なの。前の射手の弾道をみて修正するの」
フィリオ上等兵が大部屋の窓からロケットランチャーを突き出すようにして構えた。フィリオ上等兵はロケットランチャーの名人だ。
「距離1200m、900m、600m、300m」
ナナミ大尉が電子双眼鏡で極攻ボバーを監視する。
<速いの。前回は時速250Kmくらいだったの。今回は時速500Km以上出てるの>
『ドドドドド』『ドドド』『ドドドドド』
ブローニングM2重機関銃が射撃を開始した。曳光弾が飛んでいく。ナナミ大尉は双眼鏡をズームした。敵の極攻ホバーに大きな火花が飛び散った。極攻ホバーが突進してくる。
「撃ちます」
『バシューーー!』
フィリオ上等兵がロケットランチャーを発射した。弾頭は煙を吐いて真っ直ぐ飛んでいく。極攻ホバーが右下に降下した。同時に弾頭が炸裂した。敵極攻ホバーの左斜め後30m。
『ドーーン』
炸裂音が聞こえた。敵極攻ホバーは爆風と破片を受けたはずだが大型ホバーの下を高速で通り抜けて左舷方向に出た。なんとか体当たりを免れた。
「大尉、近接信管の反応が遅いです。真横で炸裂してれば墜とせてます。炸裂地点が後ろにずれてます!」
フィリオ上等兵が言った。
「敵の速度が前回より速いの。きっと研究所は前回の迎撃の映像を見て調整したの。たぶん複数回の音波の反響で起爆のタイミングを計ってるの」
《ピーター一等兵、左舷の大部屋Aに移動してそこのブローニングM2を撃つの。敵極攻ホバーは左から来るの》
ナナミ大尉はトランシーバーで指示を出した。ガンビロン発射の為に脳波エネルギーを使う脳波通信は控えたいのだ。
「みんな、左舷なの」
シャーク軍曹がロケットランチャーを発射したが、またしても弾頭は敵極攻ホバーの30m後方で炸裂した。
『ドドド』 『ドドドドド』
12.7mm弾の曳光弾が敵極攻ホバーに吸い込まれる。弾丸が命中している。敵極攻ホバーが右に傾いて降下した。機体がクルクル回っている。操縦士に命中したようだ。敵極攻ホバーは地面に激突した。
ナナミ大尉はロケットランチャーの弾頭を手に取るとマニュアル通りに弾頭を覆っているカバーを外した。中の小さなダイヤルに触れると表示部分に280と表示された。ダイヤルを回すと数字が変わった。
『次、来ます、右舷から接近中。距離2000m』
マクド少尉の声がスピーカーから響いた。
「右舷に移動なの。ロケットランチャーの弾頭のカバーを外して中のダイヤルを回して表示を500にするの」
ナナミ大尉は叫ぶと大部屋Dに移動した。
《フィリオ了解》
「敵との距離1500m、速度500Km 距離1000m、600m、300m」
ナナミ大尉が極攻ホバーとの距離と速度を見極めている。敵の極攻ホバーがどんどん近づいてくる。
『バシュー!』
フィリオ上等兵がロケットランチャーを発射した。弾頭は真っすぐ飛んで極攻ホバーの真横で炸裂した。
『ドーーン』 『ドガーーーン!』
極攻ホバーが対空弾頭の爆発による爆風と破片をもろに受けて搭載している爆薬に引火して激しく爆発した。
「やりました!」
フィリオ上等兵が声をあげた。
『敵ホバー後方に8機!! 距離4000m』
マクド少尉の声が機内放送で流れた。
「なんだと」
「8機?」
シルバーウルフ分隊の兵士達が動揺する。
『前方の2機、同時に来ます』
マクド少尉が報告した。ナナミ大尉は操縦室に走った。
「マクド少尉、貨物室の搬入口を開けるの」
「どうしたのですか? パラシュートは積んでませんよ」
「違うの、ホバーバイクで戦うの。相手が多すぎなの。ロケットランチャーだけじゃ無理なの」
「わかりました。5分後に搬入口を全開にします気を付けて下さい。空中戦の後はどこに着陸するのですか? 回収に行きます」
「このホバーに戻ってくるの。搬入口を開けてもらうの」
「えっ、それは凄いですね。なるほど、新戦法だ」
ナナミ大尉は操縦席から最後尾の貨物室まで走った。貨物室のドアを開けて中に入る。照明が点いた。貨物室に爆弾の入ったプラスチックの箱が並べられていた。貨物室の真ん中にナナミ大尉のホバーバイクが置かれていた。ナナミ大尉用にチューンナップされた最新のホバーバイクである。全長3m、全幅1.6m、重量600Kg、上昇限度800m、最大速度時速850Km。武装はブローニングM2重機関銃2丁、70mmロケット弾(ハイドラ70改)4発。浮力は半重力装置、推進力は最近開発された超小型プラズマジェット。塗装は保護色のオレンジブラウン。形は地球のスノーモービルに似ている。胴体前方の左側には白い文字で『鰻重』と書かれている。通常のホバーバイクは戦闘指揮用だがナナミ大尉用のホバーバイクは武装している。ナナミ大尉はホボーバイクを床に固定する装置を外すとホバーバイクに跨って飛行用ゴーグルと無線のヘッドセットを装着した。
《こちらV1、V1からU1へ、テスト通信なの》
《こちらU1。感度良好》
《こちらV1、了解》
ナナミ大尉は操縦席とテスト交信を行った。
《こちらナナミ、各位、私はホバーバイクで飛び出すの、しばらく手が使えないからトランシーバーで送信できないの。でも受信にしておくから報告お願いなの》
《こちらポピンズ、このホバーから飛びだすのですか? 大丈夫ですか?》
《こちらシャーク、大尉、無茶しないで下さい、ホバーから出撃なんて聞いたことありません》
《こちらナナミ、大丈夫なの。ホバーからホバーを飛ばすのは画期的なの。成功すれば新しい運用方法が生まれるの。頑張ってみるの》
《こちらフィリオ、敵ホバーをロケットランチャーで1機撃墜! ブローニングで敵ホバー1機撃破》
《こちらナナミ、凄いの! さすがなの! 私は出撃するの》
後部倉庫の搬入口の壁が外側に向かってゆっくり倒れる。ナナミ大尉は反重力装置を起動した。『ヒュイーーーーン』放熱ファンの音が響きだす。ナナミ大尉はハンドルを僅かに上に引いてホバーを50Cm浮かせた。搬入口が完全に開いた。
<行くの!>
ナナミ大尉はスロットルを捻った。オートバイのアクセルと同じ操作だ。ホバーバイクが大型ホバーの後尾から飛び出した。ゴーグルを望遠モードにする。前方に8機の敵極攻ホバーが同高度でホバリングしている。ナナミ大尉はスロットルを全開にして突進した。距離1200m、極攻ホバーが編隊をバラバラに崩した。ナナミ大尉のホバーバイクの出現と突進に焦ってるようだ。ナナミ大尉はゴーグルを照準モードに切り替えた。ゴーグルに緑色の照準が映し出された。十字に同心円の照準だ。敵の極攻ホバーが3機集まっている。ナナミ大尉は3機の真ん中に照準を合わせてロケット弾の発射スイッチを押した。
『バシューーーーーーン!』
ハイドラ70改が3機の極攻ホバーに真っ直ぐ向かう。ハイドラ70改は地球から提供されたロケット弾だ。直径70mm、全長1060mm、炸薬量約1Kg、秒速700m(マッハ2)で飛翔する。威力は弾頭にもよるが、高爆発威力弾頭で半径50mが殺傷範囲だ。複数種類の信管の取り付けが可能でナナミ大尉が発射したハイドラ70改の信管は対空用の近接信管だ。
『ドドーーーン』
ハイドラ70改が炸裂した。爆発に近かった極攻ホバーがひっくり返るようにして墜落した。2機も白煙を吹きなが降下していく。ナナミ大尉は機首を右に向けて1機の極攻ホバーを照準に捕らえた。距離100m。
『ドドドドド、ドドドド』
2丁のブローニングM2が火を吹いた。極攻ホバーの前面に12.7mm弾が多数命中する。
ホバーバイクと極攻ホバーが衝突ギリギリですれ違った。ナナミ大尉は振り返る。
『ドドーーン!』
極攻ホバーが大爆発した。爆風と炎がナナミ大尉のホバーバイクを襲う。
<熱い!>
ナナミ大尉はハンドルを押し込んで急降下した。高度を200mほど落とすとハンドルを引いて次の極攻ホバーに向かって急上昇した。極攻ホバーは逃げようとしてる。ナナミ大尉は極攻ホバーの後ろに付いた。ブローニングM2を撃った。極攻ホバーの後方の大きな扉が吹き飛んだ。極攻ホバーが真っ逆さまに墜ちていく。操縦士を撃ったようだ。ナナミ大尉は大きく左旋回して味方の大型ホバーに向かう。
距離8000m。大型ホバーに極攻撃ホバー3機が襲いかかっている。3機の位置はバラバラだ。スロットルを全開にする。時速700Km。一番高度が高い敵ホバーに突進する。
《V1からU1へ、敵ホバー3機撃墜、未確認2機。被害はどう?》
《こちらU1、敵ホバーより銃撃。射手が搭乗の模様。重機機関銃による射撃と思われる。被害は軽微》
< 敵もホバーに銃を装備したの きっとこっちの迎撃ホバーを真似したの これからは武装したホバーが戦いの主力になるの >
《V1了解、援護に向かう。援護まで40秒》
8000mは時速700Kmで41秒。この後ナナミ大尉はホバーバイクのブローニングM2で極攻ホバーを3機撃墜した。
《V1よりU1、後部倉庫の搬入口を開けて欲しいの。速度0でホバリングして》
《U1了解》
ナナミ大尉は倉庫後方でホバリングしたあと超微速で倉庫に入って着床した。シルバーウルフ分隊と爆破班の兵士達が倉庫に入って来た。ナナミ大尉はホバーバイクから降りた。
「大尉、凄いです! おみごとです」
シャーク軍曹が珍しく笑顔で言った。
「スゲーーーー、うちの隊長凄すぎるぜ!」
アーネスト上等兵が叫ぶ。ナナミ大尉はブリーフィングルームに入った。兵士達も追いかけるようにしてブリーフィングルームに入った。
「敵の極攻撃ホバー12機と戦闘、2機をロケットランチャーで、1機を当機のブローニングM2で、ホバーバイクで6機撃墜。撃破1機、撃墜不確実2機。とにかく敵を追い払ったの。もう大丈夫なの!」
ナナミ大尉が言った。兵士達から歓声が上がった。
「ナナミ大尉、本当に凄いですね。護衛班のおかげで助かりました。現地では爆破班も頑張ります」
リンゴ中尉は手を叩いている。
「敵のホバーが8機出現した時、もうだめかと思いました。ナナミ大尉のおかげで命拾いしました。今度地球で食事を奢らせて下さい!」
カトー曹長が頭を下げながら言った。
「大型ホバーからホバーバイクで飛んで迎撃するのは有効なの。ホバーバイクは戦闘指揮だけじゃなくて、直接戦闘にも使えるの。機動性を活かせるの。帰ったら本部に報告して新しい戦法として提案するの。奇襲にも使えるの」
ナナミ大尉は満足そうだ。
「大尉、ホバーバイクで出撃するなんてよく思い付きましたね。しかも帰還した。新しい戦法がまた生まれました。ムスファは凄いです」
シャーク軍曹が感心している。
「地球の航空母艦を参考にしたの。戦闘機の母艦搭乗員になった気分なの」
ナナミ大尉の笑顔はチャーミングだった。
新型高高度大型ホバーは高度を少しずつ上げている。
『こちらマクド機長。現在高度5000m。これより高度を上げて『リキーシトール山脈』を越える。各部屋に酸素を供給する。到着まで6時間』
機内放送が流れた。兵士達が窓から外を見ている。前方には全長2000Km、最高峰1万5千メートルの大きな山脈が見えている。ナナミ大尉も士官室を出て大部屋で兵士達に混ざっていた。
「大尉、私はリキーシトール山脈を初めて見ました。子供の頃、育成施設で習いましたので名前だけは知ってましたが本物は迫力がありますね。子供頃が懐かしいです。あだ名が『チョロンパ』だったのであまり思い出したくないのですが」
ピーター一等兵がリキーシトール山脈を見て喜んでいる。
「『チョロンパ』? キャハハ、キャハハハッ、面白いあだ名なの! 『ツボ』なの。『チョロンパ』? キャハハ、キャハハハッ! 面白すぎるの。これからはチョロンパ一等兵って呼ぶの、キャハハハッ!」
ナナミ大尉は涙目になって笑った。
「そんなに笑わないで下さい。私もイヤだったんです。あれはイジメです。大尉はあだ名とかあったのですか?」
「あだ名は無かったの。でもいたずらっ子で悪ガキだったから先生によく怒られたの。イジメられた事はないの。不思議と喧嘩は滅茶苦茶強かったの」
「大尉らしいですね。子供の頃から強かったんですね。しかしリキーシトール山脈は凄いですね」
ピーター一等兵は窓から真剣に外を見ていた。
「あの一番高くて尖ってるのが、最高峰の『ビンビンポール山』なの。麓にMM378最大の『ホシイッテーツ氷河』があるの。氷河の氷が溶けて『ミネフジ湖』と『マキヨウ湖』と『ワダアキ湖』に注いで私達の貴重な飲み水になってるの。『ワダアキ湖』の水はちょっと苦いの。大昔はこの星でも雨や雪が降ったみたいなの」
「大尉は詳しいですね」
「山岳レンジャー訓練でリキーシトール山脈を登ったことがあるの。厳しい訓練だったの。酸素が薄くて意識が朦朧としたの。その時にワダアキ湖の水を飲んだの」
「山岳レンジャーですか。大尉は凄いですね。格闘教官徽章、レンジャー徽章、山岳レンジャー徽章、それに攻撃脳波超上級者徽章です。ギャンゴキルマークの大も3つ(30頭)なんて憧れます。私はレンジャー徽章しか持ってません」
「資格は所詮資格なの。日々の訓練の方が大事なの」
新型高高度大型ホバーは最高峰のビンビンポール山を左に見ながらリキーシトール山脈を超えた。
『マクド機長です。本機はあと2時間で目的地に着陸します」』
ブリーフィングルームに兵士達が集まっていた。
「この作戦は第1政府の野望を打ち砕く大事な任務なの。さっき本部から連絡があったの。第1政府の首都で首都攻防戦が始まったの。勝利は目前なの。超大型宇宙船を破壊すれば第1政府も反撃の手段を失うの。皆には頑張って欲しいの。帰ったら豪華な勝利食が待ってるの。以上なの」
ナナミ大尉は兵士達を鼓舞した。新型高高度大型ホバーは機体が光学迷彩になった。機体は比較的平坦な場所に着陸する。新型高高度大型ホバーの昆虫の脚のような着陸アームが左右それぞれ6本ずつ現れ着陸した。タラップから光学迷彩コートを着た兵士達が地面に降りた。後部倉庫の搬入口が開き始めた。
「感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってるの!!」




