Chaptet42 「山嵐作戦発動」 【MM378】
Chaptet42 「山嵐作戦発動」 【MM378】
ナナミ大尉は作戦部隊を乗せた最新型高高度大型ホバーで研究所に移動し、出発の準備をしていた。
「マッド主任研究員、私達は5時間後に出発するの。皆に勝利食を食べさせたいの。26個体なの」
「わかりました。食堂を利用して下さい。後で申請をあげておきますので遠慮なく食べて下さい。いつでも地球の食事を楽しめるのが研究所で働く者の特権です」
「羨ましいの。軍では戦闘で勝利した時とか特別な時にしか食べられないから『勝利食』なの。
みんな勝利食を食べたくて一所懸命戦ってるの。今日は遠慮なく頂くの」
ナナミ大尉は笑顔になった。
「それと、小型のガンビロン用脳波増幅装置マークマックスミニと睡眠ガスの入ったボンベも用意いました。光学迷彩のテントと光学迷彩シートと秘匿通話トランシーバーも用意しましたので今回の作戦で使って下さい」
「マークマックスミニ? ガンビロンが使えるの?」
ナナミ大尉が質問した。
「はい、最大出力はマークマックスより低いですが、小型なので持ち運べます。縦40cm、横80cm、幅20cmで重量は40kgです。また、敵を植物状態にするのではなく、12~24時間ほど脳の活動を止める事ができます。深い睡眠状態のようですが、効果が継続してる間は起こしても起きません。影響範囲は半径をキロ単位で調整できます。マニュアルがありますので移動中に脳波で読んで下さい。このガンビロンに対するシールド発生装置は従来の物で大丈夫です」
「間に合ったのね! よかったの。敵を無力化すれば作業が順調に進むの」
「そうですね。安心して作業ができます」
リンゴ中尉の顔が綻んだ。
「それはそうと勝利食を食べるの。ペユングは久しぶりなの」
研究所の食堂で『山嵐作戦』に参加する兵士達が食事をしている。兵士達には白米と味噌汁が人気のようだ。レトルトのミートボールやハンバーグの注文も多い。ナナミ大尉はペユングソース焼きそばと吉乃屋の牛丼のレトルトと鰻重の冷凍食品とラーメンをいっぺんに食べていた。
「それがペユングですか。カップ麺だったのですね」
リンゴ中尉が興味深そうにしてる。
「アメリカ人の口に合うかはわからないけど、少し食べてみるといいの。鰻重も美味しいの」
ナナミ大尉はペユングソース焼きそばと鰻重を小皿に取り分けた。
「おおっ、ペユングはスパイシーですね。それにアメリカのソースとは違う味でまろやかで甘味がある。アメリカのウスターソースはかなり酸味が強いです」
「タケルの大好物なの」
「うおっ、これは何ですか? 柔らかくて香ばしい。魚ですか? 味付けがライスによく合います。これは美味しい。日本に行ったら食べてみたい」
「鰻重なの。本物はもっと美味しいの。身がホロホロで脂が載ってて、タレの味が絡まるの。『私は鰻の味にはうるさいの』。和食は美味しいものばかりなの。チーズバーガーも美味しいけど、鰻やすき焼きやお寿司は奥が深いの」
「私もペユングはよく食べます。甚兵衛のきつねうどんも美味しいです。スープの味が絶妙です。地球の書籍で調べたのですが凄く手間のかかったダシや調味料が興味深いです。でもやはり白米と味噌汁が最高です。豆腐の味噌汁が最高です、味噌のしょっぱい味と出汁の風味と豆腐の滑らかな食感が素晴らしいです。毎日食べても飽きません。この研究所の職員も白米と味噌汁のファンが多いです。MM星人が何故食事の味を追求しなかったのか不思議でなりません。だって美味しいものを食べると嬉しくなるじゃないですか!」
マッド主任研究員も地球の食事を気に入っている。地球の食事の虜だ。
「地球の日本人は毎日白米と味噌汁を食べてるの。それに日本は世界中の料理が食べられる素晴らしい国なの。もちろん日本料理は最高に美味しいの。日本はメッシュ(水)も美味しいの。日本人は味覚が発達してると思うの。私は日本に住めて良かったの」
ナナミ大尉はなぜか誇らしかった。ナナミ大尉の地球人としての意識は日本人なのだ。
「地球は地域によって食文化や生活様式や言語が違うようですね。興味深いです。一度地球に行ってみたいです。調べれば調べるほど興味が湧きます。私も地球人に変身しようと思ってます。その為にDVDを沢山観てます。実に興味深いです」
マッド主任研究員は地球の文化にかなり興味があるようだ。
「私は地球の甘い物が大好きです。『アンコ』が素晴らしいです。大福とまんじゅうが美味しい。団子もモチモチして凄く美味しい。特に緑色の大福がたまらんのだ。あの独特の風味とつぶつぶのアンコの組み合わせが素晴らしい。ペットボトルのお茶と一緒に食べるのが最高です。しかし和菓子は数が少ないようです。もっと輸入して欲しいです」
ジェーン博士も話に加わった。食文化が未発達なMM378では地球の食品の味は新鮮で味覚を覚醒させる。地球からの輸入物資は食料の種類が豊富だが実験的な側面もある為、お菓子などは種類は多いが1種類毎の数は少ない。今後は人気投票に応じて数を調整するようだ。
「それは『よもぎ大福』なの。よもぎとお茶の味がわかるなんて博士は舌が肥えてるの。大福は日本のお菓子なの。冷凍じゃない本物はもっと美味しいの。ヨモギの香りが鼻をくすぐるの。春を告げる爽やかな香りなの。アンコを包んだ生地の弾力も柔らかくて、噛んで口から離そうとすると気持ち良さそうに伸びるの。生きてるみたいなの。淹れたてのお茶はペットボトルとはまったく別物なの。香ばしくて芳醇な味なの。香りが立つっていう言葉がピッタリなの。お茶の苦味がアンコの甘さを抑えてアズキ本来のホコッとしたコクと渋みが出てさらに味わい深くなるの。職人さんが一つ一つ手作りで作った和菓子は命を宿したようなの。でもその命は儚いの。だから美味しいの」
ナナミ大尉は食べ物の説明をする時に表現力が豊になる。
「おおっ、美味しそうだ、本物を食べてみたいです。地球人が羨ましいです」
ジェーン博士がため息を漏らす。
「こうして、みんなで美味しい食事をしながら喋るのが楽しいの。地球の食事は栄養補給だけが目的のMM378の食事とは違うの。味わう事をみんなで楽しんで一緒に喜ぶの。楽しいって感覚は感情があるから感じる事ができるの」
「そうですね。楽しいと思う気持ちは素晴らしいです。MM378のMM星人は感情が豊かになっていくでしょう。この星は大きく変わりますよ。もっと地球の食事を広めたいです」
マッド主任研究員は笑顔になっていた。ジェーン博士も頷いている。地球の食事はMM378に確実に広がっている。民間人に広がるのも時間の問題だ。
<地球に帰りたいの。また日本に住みたいの。美味しいものばかりなの。フルーツゼリーが食べたいの。ジャンボ肉シュウマイも食べたいの。鰻重もすき焼きも、お寿司も、ラーメンも牛丼も美味しいの。タケルと一緒に食べるの。さやかお姉ちゃんも一緒なの>
最新型高高度大型ホバーが超小型核爆弾『Badboy』を積み込んで離陸した。最新型高高度大型ホバーは全長70m、全幅40m、高さ30mの台形型の直方体の形をしている。上昇限度は1万m、最高速度は時速400Km、航続距離は2万Km、兵員270個体と貨物は15トンまで搭載可能だ。機体の左右に1丁ずつブローニングM2重機関銃を装備している。
『みなさんこんにちは。機長のマクドです。当機は高度500m、巡航速度の時速260kmで飛行します。目的地までの飛行時間は39時間です。途中リキーシトール山脈を越える為高度8000mまで上昇します。操縦士はマクド少尉、副操縦士はミスド伍長、予備操縦士兼機関士はモス伍長、整備はロテリア整備士とドムド整備士です」
機長の声がスピーカーから響いた。大型ホバーの内部は幾つかの区画に別れていた。ナナミ大尉とリンゴ中尉は事務作業用の個室を士官室としてそれぞれ与えられた。兵士達は50個体用の大部屋にいる。この大型ホバーには50個体用の大部屋が5つあった。眠る時は雑魚寝だ。士官部屋は4畳ほどで簡易ベッドと小さな机と椅子が備え付けられていた。窓から下を見るとオレンジブラウンに近い茶色の大地だった。ナナミ大尉は椅子に座って『マークマックスミニ』、『光学迷彩』、『近接信管対空弾頭』『秘匿通信トランシーバー』の取り扱いマニュアルを脳波で読む事にした。マニュアルは100円ライターくらいの大きさの記憶媒体で記憶容量は800エクサ(エクサ>ペタ>テラ>ギガ>メガ)で文字と音声と画像を脳波で読む事ができる。2時間の映画なら1億タイトルが格納できる。
『味方迎撃ホバー10機が合流します。これより8時間、当機の護衛に付きます」
マクド少尉の声が部屋の天井のスピーカーから聞こえた。ナナミ大尉は窓から外を見た。5機の迎撃用ホバーが同高度で50m離れた場所を飛んでいる。ナナミ大尉の部屋の窓は右舷側だった。左舷側にも5機が飛んでいるはずだ。
ナナミ大尉は2時間ほどでマニュアルを理解したのでブリーフィングルームに移動した。ブリーフィングルームは50個体が入室できる。椅子は壁から出っ張った板のような金属だった。部屋の真ん中には長方形のテーブルが置いてあり、椅子は6つあった。ナナミ大尉はテーブルの椅子に座った。ブリーフィングの時間まで15分だ。リンゴ中尉がブリ―フィグルームに入ってきた。
「ナナミ大尉、部下がBadboyに起爆装置を取り付けています」
「それはご苦労様なの」
「ネジ式の起爆信管を取り付けるだけなので大した手間ではありません」
「爆破設計は出来たの?」
「はい。火薬を使った爆破と違って爆発物自体の威力が桁違いなのでそんなに難しくありません。ドックの内部の壁か床に設置すればドックは崩壊します」
「私もまさか核爆弾を使うとは思ってなかったの。私は核爆弾にいいイメージが無いの。大量虐殺兵器なの。日本人にとっては悲しくて辛い記憶なの」
「確かに恐ろしい兵器です。しかしそれだけ巨大なドックなのです。『ギガ・グランドクロスシップ』は全長800mです」
「大きいの。戦艦大和の3倍なの」
「ナナミ大尉は地球のミリタリーに詳しいですね」
「地球にいた時の知り合いがミリタリーマニアだったの」
<暇な時にタケルの部屋の本を読んだの。ミリタリーの本がいっぱいあったの。日本海軍の連合艦隊の艦艇の名前も全部覚えたの。またあの部屋に住みたいの。タケルが会社から帰ってくるのを待ちたいの。楽しかったの。またタケルの事を思い出してしまったの。恋は不思議なの>
ブリーフィングルームに兵士達が集まってきた。ナナミ大尉は作戦の概要を説明した。
「大尉、ドックの兵力はどのくらいなのですか?」
ポピンズ曹長が質問した。
「潜入員の話だと2個分隊(32個体)くらいなの。見張りが主な任務なの。大型宇宙船はほぼ完成してるから作業員はあまりいないみたいなの。ドックから5Km離れたところに守備隊が1個中隊いるの。250個体くらいなの。全部ガンビロンで無力化する予定なの」
ナナミ大尉はドックの敵情報を説明した。
「大尉、敵は対ガンビロン用シールド発生装置を持っているのでしょうか? もし装備していれば作戦の変更が必要になります」
フィリオ上等兵が質問した。
「山奥の施設の守備隊だから持ってないと思うの。戦場から1万キロも離れてるの」
「迎撃ホバーの護衛は8時間だそうですが、残りの31時間は護衛が無い状態で大丈夫なのでしょうか。最近『極攻ホバー』が我が軍の大型ホバーを狙ってるという噂です」
アーネスト上等兵が質問した。
「あと16時間飛べば敵の大きな基地はないの。危険なのは実質8時間なの。もし『極攻ホバー』が現れたらロケットランチャーで応戦するの。ロケットランチャーが3門あるの。近接信管の対空弾頭を研究所から貰ったの。6発あるの」
「おおっ、ついに完成したのですね。試してみたいです」
ロケットランチャーの名手のフィリオ上等兵が喜んでいる。
「大尉、もし敵と戦闘になったら撤収との事ですが、何故ですか?」
シャーク軍曹が質問した。
「今回の目的は戦闘じゃないの。ドックの破壊なの。でも私個人としては戦ってでも作戦を続行したいの。時間がないの。だけど超小型核爆弾を鹵獲されることは絶対に避けたいの。だから撤収するの。他に質問はある?」
質問は無かった。
「現地についたら1週間、敵のドックを監視するの。光学迷彩のテントとコートとシートの使い方を覚えておくの。トランシーバーの使い方も覚えておくの。後でマニュアルのカプセルを配布するの。1時間もあれば覚えられるの。何がなんでも作戦を成功させるの。爆破班も護衛班の『シルバーウルフ分隊』もお互いに協力するの。この作戦が成功したら全員大マゼラン鉄十字勲章なの。着陸の2時間前にここに集合するの。以上なの」
「やっぱうち隊長すげえや。大マゼラン鉄十字勲章か。シルバーウルフ分隊に入ってよかったぜ。英雄になれるんだ」
アーネスト上等兵が言った。
「シルバーウルフ分隊はナナミ大尉だから纏められたんだ。ナナミ大尉だから活躍できたんだ」
シャーク軍曹が言った。
「そうだよな。北方方面軍に行った時は大尉の戦略に痺れたぜ。毒殺を免れて、本当に北方方面軍を動かしたんだ。ヒデキカンゲキ高地要塞の時も要塞内部の電源施設吹っ飛ばして敵のガンビロンを止めたんだ。やっぱりうちの隊長すげえよ」
アーネスト上等兵が興奮ぎみに言った。
「俺はナナミ大尉に少しでも追いつきたいんだ。でも追い越すのはムリだな。最近気が付いたよ。何が違うのかわからないが、MM星人とは絶対的に何かが違うんだ。あのライトニングウォホーク少佐を倒した。でも強いだけじゃないんだ。きっと地球で何かを得たんだ。俺も地球に行ってみたい」
シャーク軍曹が悔しそうに言った。




