Chapter39 「ヘリポート:殉職」 【地球】
Chapter39 「ヘリポート:殉職」 【地球】
「水元さん、敵はどこですか?」
花形も北上もびしょ濡れだ。
「こっちだ」
私は階段を降りて掩体壕の入り口に入った。小走りで制御室のドアの前に向かう。花形と北上もついてくる。ドアの前ではニセ七海の唐沢がドアに銃を向けたまま立っていた。
「タケルさん、一人にしないで下さい、怖かったです。変化はありません」
ニセ七海の唐沢は花形を見ると安心したような顔をした。
「水元さん、北上さん、援護して下さい」
花形はそう言うとドアに向かって歩き出した。花形はドアを蹴飛ばした。大きな音がした。
「八神さん、こっちは12人です。人質を解放して出て来て下さい。施設まで連行します!」
花形が大きな声で叫んだ。12人というのブラフだった。ドアノブが回った。私はSTI2011の照準をドアにつけた。弾はまだ9発残っているはずだ。ドアが開いてスーツ姿の佐山さやかが現れた。肩からハンドバックを掛けている。その首には腕が巻かれ、頭には銃が突き付けられていた。拳銃はグロックだ。佐山さやかの手首には紐が巻かれている。佐山さやかに銃を突き付けているのは作業着を着た男だった。私は男の顔に照準をつけたが八神の存在が気になり、トリガーを引けなかった。下手に発砲すれば佐山さやかが撃たれる。
「下がれ、人質を撃つぞ!」
作業着の男が叫んだ。
「有村さん、人質を放して下さい。仲間だと思ってました。色んなミッションで一緒に戦いましたよね。残念です」
花形の話で作業着の男が有村だとわかった。
「ここに八神はいません!」
峰岸の声が響いたと同時に花形のMEUコルトガバメントが火を吹いた。銃声は2発。有村の頭が破裂したように青い液体を吹いた。ダムダム弾の威力だった。有村は後ろに吹っ飛んで倒れた。佐山さやかも倒れたが、直ぐに上半身を起こした。
「佐山さん、大丈夫ですか?」
花形が駆け寄り、しゃがむと佐山さやかの両肩を正面から掴んだ。
「はい、大丈夫です。私より峰岸さんが」
「ネーチャン、よう頑張ったな。もう安心や」
北上が言った。
峰岸が制御室の入り口から姿を現した。北上がフラッシュライトで峰岸を照らした。峰岸の腹部が真っ青だった。そこに3本のナイフが刺さっていた。手首は紐で縛られていた。
「峰岸さん、大丈夫ですか?」
唐沢が峰岸に駆け寄った。
「私は大丈夫です。八神はこの掩体壕に降りる途中で左の岩場に逃げました。早く追って捕まえて下さい」
峰岸は腹に刺さったナイフを抜きながら言った。
「嵐が収まるまで待ちましょう」
花形が言った。
「花形さん、川田がヘリの操縦席にいます。ヘリの確保が必要です。帰れなくなります」
ニセ七海の唐沢が心配そう言う。
「水元さん、北上さん、着いて来て下さい」
花形は走って掩体壕の入り口に向かった。私は花形の後を追った。
「なんやねん、わしは怪我人や」
北上も文句を言いながらも着いてくる。外に出ると雨は相変わらずだった。風も強い。私達は階段を駆け上がった。20Kgの重りの入ったリュックを背負った負荷ウォーキングや坂道ダッシュ等、日頃の訓練のせいか体が動いている。ユモ式、凄いかも! 花形はヘリポートに上がるとヘリコプターまで走った。川田は気づいていない、操縦席で調整をしているのだろう。私はヘリポートの端で周りを警戒した。花形はヘリコプターの操縦席のドアを開けると川田を片手で操縦席から引っ張り出してコンクリートの床に叩きつけた。花形の手の先でマズルフラッシュが3回光り、銃声が響いた。花形は圧倒的に強かった。
私と花形と北上は掩体壕の中に戻った。花形がポケットから取り出した折りたたみ式ナイフで峰岸と佐山さやかの手首に巻かれたロープを切った。
《こちら花形、人質は確保。佐川、有村、川田を排除。八神の行方は不明》
《こちら藤原、了解です。やったー! 現在位置で待機》
ミサキの喜びの声が聞こえた。
《こちら水元、ミサキさん、さっきはありがとう》
《こちら藤原、水元さん、さっき佐川を殺したのは私です。だから気にしちゃだめ。水元さんは誰も殺してないから》
ミサキは私を気遣ってくれてるようだ。嬉しかった。
「嵐が止むまで待ちましょう。八神も動けないはずです。荒木さん、新藤さん、入り口からの見張りをお願いします、北上さん、峰岸さんの傷口を押さえて止血をお願いします」
「なんや、わしも怪我人やで。まあ、腕撃たれたくらい何でもないけどな。元極道舐めたらあかんで。わしは『極道エイリアン』や!」
極道エイリアン、なんかいい響きだ。次の作品は『私と極道エイリアン』で行くか?
私は佐山さやかに近づいた。
「佐山さん、たいへんだったな」
私は佐山さやかに申し訳ない気持ちで一杯だった。
「水元さん、ありがとうございます。まさか来てくれるなんて思ってませんでした。凄く怖かったですけど、今は嬉しいです。やっぱり、頼りにしてないのに頼りになるのが水元さんです」
「俺は何もしてないよ」
「七海ちゃんが『タケルは私の事をいつも守ってくれてるの。だから安心なの。でもタケルはその事に気がついてないの。お礼が言いたいのに言えないの』って言ってました。水元さんはいろいろと鈍感ですね。なんか七海ちゃんの話をしたら元気が出てきました! 牛丼とラーメンが食べたいです。お腹が空きました」
佐山さやかが僅かに微笑んだように見えた。佐山さやかは八神達の人質になり、拳銃を突き付けられ、怖かったはずだ。峰岸の話だと、八神はMZ会のメインシステムへのログインIDとパスワードを峰岸に訊いていたらしい。峰岸はそれに逆らったために、時間を置いて3回腹を刺されたようだ。八神は刺さったナイフを面白しろそうに何度も捻ったらしい。峰岸はそれに耐えたのだ。
「峰岸さん、大丈夫?」
「こんなの、ニューギニア戦線に比べれば大したことありませんよ」
私は峰岸のやせ我慢する姿に感動した。峰岸には男として見習うべき所が多いと思った。
「八神はこの島から出れません。そのうち出てくるでしょう。確保は柏木さん達に任せましょう。柏木さん達の手柄になります」
花形が言った。
私達は制御室に入った。10畳程の広さだった。部屋の真ん中で大きなLEDランタンが光っていた。制御盤の前に二つの椅子があった。制御盤には大きな無線機とノートパソコンが置かれていた。
《こちら花形、柏木さん、清掃をお願いします。饅頭は3つです》
《こちら柏木、了解。明日掃除します》
饅頭は死体の符牒のようだ。花形と唐沢は椅子に座り、花形はノートパソコンを、唐沢は無線機を触っていた。私と佐山さやかと北上は床に座った。峰岸は制御室の奥に寝かせた。
「デジタル無線機です。暗号化の解除コードがわかりません」
「こっちも、パスワードがわからなくてログインできない」
唐沢と花形が残念そうに言った。
《こちら花形、藤原さん、合流してくれ》
《こちら藤原、了解です》
ミサキが制御室に現れた。フードの付いた黒いポンチョを着ている。フードの中の切れ長の目が美しかった。
「ミサキさん、狙撃、見事でした。ヘリが飛べるようになるまでここで待機します」
花形が言った。
「ミサキちゃん、いつもベッピンやな。ほんま、目の保養になるわ。へへへ」
北上が下品に笑った。
「狙撃は孤独な任務です。時には何日間も石のようにじっとしている事もあります。任務が終わった後の解放感がたまりません」
ミサキがポンチョを脱ぎながら言った。
佐山さやかの話だと、有村は人質が足手まといで邪魔なので人質を1人殺そうとしたらしい。その時峰岸は『俺は怪我をしてるから足手まといになるぞ、俺を先に殺せ』と叫んだようだ。唐沢が聞いた声はその時のものだった。佐山さやかはハンドバックにSIGーP229を入れていたが手を縛られていて撃てなかったと悔しがっている。敵も佐山さやかが銃を携帯しているとは思っていなかったのだろう。バックの中は検査されなかったようだ。
「峰岸さん、ありがとうございました」
佐山さやかが礼を言った。
「佐山さん、私は一度死んだも同然です。80年前、多くの戦友の魂をあの島に置いて帰ってきました。八神は私の腹に刺さったナイフを捻る時、私の事を『死に損ないの二等兵』と言いました『ニューギニアで死ぬべきだった」とも。そうなのかもしれません。しかし生きている以上は、命は有効に使いたいのです。だから気にしないで下さい」
時刻は22:00になっていた。会話はなかった。私は床に座ったまま睡魔に襲われいた。体が少し冷えていた。
《こちら新藤、花形さん、柏木さんが来ましたので通します》
柏木ともう一人の男が大きなリュックを背負った現れた。
「お疲れ様です、バギーで走って来ました。コーヒーを持ってきました。アルミのブランケットもあります。気付けのウィスキーもあります」
ポットから注がれた紙コップのコーヒーが配られた。砂糖とミルクの入った甘く熱いコーヒーが美味しかった。アルミのブランケットも有難かった。北上はウィスキーのボトルをラッパ飲みしていた。荒木と新藤も見張りから戻ってコーヒーを飲んでいる。
「嵐の中心は伊豆諸島に移動しました。明日の朝には駿河湾に移動する予報です。ヘリが飛べるかもしれません」
柏木が気象情報を報告した。
「すみません、明日の操縦の為に私は寝ます。睡眠不足は操縦に大敵です。編隊飛行中に味方の零戦が居眠り操縦で海に墜ちるのを何度か見ました。助けたかったのですがどうしようもありませんでした」
ニセ七海の唐沢はそう言うと横になった。
「タケルさん、隣に来てください。タケルさんの隣だとよく眠れるんです」
ニセ七海の唐沢はホテル暮らしを止めて、最近私の部屋に戻って来た。私はニセ七海の唐沢の隣に移動した。居眠り操縦などされてはたまらない。ゼロ戦パイロットが居眠りで墜落する話は手記で読んだことがある。連日の出撃に敵の空襲による睡眠不足。海と空しかない単調な景色の中を時には8時間も飛ぶのだ。
「天候が回復すれば早朝に出発です。眠りましょう」
花形が言ってランタンの明かりを『弱』にした。制御室が薄暗くなった。花形は佐山さやかの隣に寝そべった。心なしか嬉しそうな顔をしているように見える。背中に弾力を感じた。
「水元さん、体を付けさせて下さい」
ミサキがナイショ話をするような声で言った。
「あかん、今頃腕が痛くなったきたわ、酒飲んだの失敗や!」
北上の声が制御室に響いた。私は今日の出来事が夢のように思えた。6時間の移動、豪雨、稲妻、マズルフラッシュ、銃の反動。いつの間にか眠りに落ちた。
私は掩体壕の入り口から外に出た。濃霧だった。階段も、岩場も白い霧に包まれて見えなかった。イヤな予感がした。『白い霧』。時刻は6:10。制御室に戻ると北上以外は起きていた。峰岸も壁にもたれ掛かって座っている。
「低気圧の嵐は伊豆半島の方に移動したようですが霧が出てます。唐沢さん、飛べますか?」
「風が弱くなったので大丈夫でしょう。しばらくは『計器飛行』で飛びます。時間が経てば霧は消えるはずです」
私達は足元を注意しながら掩体壕の横の階段を登った。霧は風の影響で濃くなったり薄くなったりした。階段を登り切り、ヘリポートの上に立った。海は霧で見えなかった。
「ヘリに乗って下さい」
花形の言葉にみんなヘリコプターに向かって歩き出した。うっすらとヘリコプターらしき影が見える。
『ダダダダダダダダダダ~ン』
銃声が響いたと同時に私は花形に突き飛ばされて右肩から転んだ。風が吹いて霧が薄くなった。10m先に誰か立っている。マズルフラッシュと同時に再び銃声が響いた。『八神』だった。
『ダダダダダダダダダダ』
フルオート射撃だ。八神は腰だめで大きな機関銃を撃っている。銃の横から給弾ベルトが垂れ下がってる。M240汎用機関銃だ。拳銃では勝ち目がないが人数はこちらが有利だ。私は立ち上がろうとして横を見た。花形の体から青い液体が弾けて蒸気のように吹き出した。今まさに被弾している。ボディアーマーは着けていないようだ。私はヘリポートの床に右膝を着いてショルダーホルスターからSTI2011を抜いて構えた。横目に見える花形が後ろに倒れる。
『バン! バン! パン! バン! パン!』
「パン! パン! パン!」 「パン! パン! パン!」
『バン! バン!』 『バン! バン!』
『ドウッ ドウッ ドウッ ドウッ』
周りに銃声が響く。口径の異なる銃声だ。私もトリガーを5回引いた。
『バン! バン! バン! バン! バン!』
八神の体が弾丸を受けて後ろに倒れた。周りを見るとMZ会のメンバーは唐沢以外全員が伏せて銃を構えていた。佐山さやかも左膝を立て、右膝を床につけて腕を伸ばしてSIG-P229を構えていた。おそらく発砲したのだろう、鋭い目をしていた。実に様になった姿でカッコよかった。スカートのスーツ姿がアクションドラマの女性刑事のようだ。
「花形さん!!」
花形は仰向けに倒れていた。私は花形の横にしゃがんだ。花形は胴体に複数発被弾していた。皆も花形に駆け寄る。荒木と新藤も被弾したらしく、腹を押さえている。
「あかん、6発も喰らっとる! アーマー着けとらんやんか!」
北上が叫んだ。
「イヤーーーー!」
佐山さやかが悲鳴を上げる。
「花形! クソッ、八神のヤツ!」
峰岸が言った。ニセ七海の唐沢が今になって南部式十四年式拳銃を構えた。峰岸がそれを奪い取ると倒れている八神に向かって歩いた。峰岸は歩きながら南部十四年式拳銃独特の銃の後部のボルトを引いて薬室に弾丸を装填した。私は無意識に峰岸の後を追った。
「ふっ、死に損ないが。峰岸二等兵、早く私を病院に運ぶのだ。私は参謀本部の大佐だぞ」
倒れている八神が言った。口の端から青い体液が流れている。八神はボディアーマーを着用していたが、20発以上の弾丸を受けたのだ、そのダメージは相当のはずだ。ミサキの撃った50AE弾と私の撃った45ACP弾と北上の撃った357マグナム弾は効いたはずだ。
「大佐殿、ニューギニアの戦場に病院はありませんでした。貴方が行くのは病院ではありません。勝利を信じて死んでいった兵士達の所です。先に行った兵士達が待ってます。作戦参謀として、皇軍の高級将校として潔く散って下さい」
峰岸が低い声で言った。銃身を八神の頭部に向けてる。
「唐沢君、藤原君、私を病院に運ぶんだ。私は副支部長だぞ、運んでくれたら君達を課長に昇進させてやる!」
八神の声がヘリポートに響いたが誰も何も言わなかった。
「峰岸二等兵、命令だ! 早く私を病院に運ぶんだ」
「花形が先です。重体です!」
ニセ七海の唐沢が言った。
「兵隊の命なんか知るか! 私は参謀だ!」
「八神大佐、ずいぶんと遅くなりましたが、あなたは今、戦死するのです。名誉の戦死ではありません。反逆罪による銃殺です」
南部十四年式拳銃の高く乾いた銃声が8回響いた。
ヘリコプターのローターが回り出した。『ヒュー―――ン』と高い音が響いた。シコルスキーS76が浮き上がった。『バタバタバタ』とローター音が大きくなる。
「みなさん、しばらくは雲の中を『計器飛行』で飛びます。私は『計器飛行証明』の資格を持ってますので雲中飛行が可能です。高度は600m、飛行時間は約3時間です」
唐沢の声がスピーカーから響いた。ヘリヘリコプターは雲の中を飛んだ。客室は12人乗りの座席が撤去され、金属の床があるだけだった。そこに花形は横たわっていた。途切れ途切れだがまだ意識はあった。皆が花形を覗き込んでいた。7.62mmライフル弾を6発も胴体に被弾していた。首の付け根の左側と左胸から青い体液が流れていた。荒木と新藤も2発ずつ被弾していたが、ボディアーマーの効果か、軽傷だ。花形の唇が動いたがローターの音がうるさくて聞こえない。私は花形の口元に耳を寄せた。
「佐山さんは無事ですか?」
花形は呟くように言った。
「水元だ、佐山さんは無事だ、頑張るんだ!」
「花形さん頑張って下さい、お願い!」
佐山さやかが大きな声で言って花形の口元に顔を寄せた。
「よかった、無事なんですね。佐山さん、初めての恋愛でした。ありがとうございました」
「花形さん、しっかりしろ、ヘリの中だ、もうすぐ病院だ!」
私は叫んだ。
「水元さん、楽しかったです。また飲みに行きたかったです・・・・・・七海さんに会ったら、『来世でまた戦いましょう、次は絶対負けません』と伝えて下さい。七海さんに会えるといいですね・・・・・・占い、当たりましたね。この島だったんですね・・・・・・ああっ、何も見えない。暗くなりました。私は副長のところに行きます」
花形の体から力が抜け、呼吸が止まった。
「花形さん!!」
「花形さん!!」
「花形!」
「花形さん起きるんや! 戻ってくるんや!」
「花形さん!」
ローターのブレードスラップ音が皆の声をかき消した。
峰岸が花形の足首に足枷のようなものを嵌めた。足枷には大きな塊がついていた。
「峰岸さん、何やってるんだ?」
「重りを着けています。花形の遺体を投棄します」
峰岸が重苦しい声で言った。
「何言ってるんだ!? やめろ! 葬式はどうするんだ!」
私は叫んだ。
「葬式はありません。『工作員の掟』なのです。銃撃された遺体を持ち帰れば司法解剖されます。地球人でない事がバレます。工作員の遺体は処分するのが掟なのです!」
峰岸は険しい顔をして涙を流していた。花形が言っていた重りを着けて海に投棄するという話は本当だったのだ。峰岸が客室のスライド式ドアを開けた。強い風と一緒に霧のような雲が機内に吹き込んだ。峰岸は花形の遺体を客室の縁に向かって押している。北上と新藤が手伝う。外は白く、機体は雲の中だった。花形の両足には重りが着けられていた。私が花形の顔を見ようと花形の遺体に近寄った瞬間に花形の体が客室の縁から外に落ちて、フッと雲の中に消えた。
「花・・・・・・」
それは一瞬の出来事で、あまりにも呆気なかった。私は叫ぶこともできなかった。
ヘリコプターの中では誰も口を開かなかった。佐山さやかは声をあげて泣いていた。私はただ茫然と窓の外を見ていた。窓の外は白一色の世界だった。花形と飲んだのが昨日のようだった。あんな陽気な花形を見たのは後にも先にも初めてだ。もう花形と飲むことはできない。『イイッスね~、イイッスね~、なんつってーー』。もうあの声を聞く事もできない。
「雲が晴れて来ました。もうすぐ東京湾です。観音崎の施設に着陸します」
唐沢の声がスピーカーから響いた。外は明るく晴れていた。窓からは青い海と空が見えた。東京湾を囲む陸地が遠くに見えている。人質奪還は成功したが、八神の確保は出来なかった。そして花形を失った。観音崎の灯台が見えて来た。青い海に白い灯台が映えてた。
「感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってるの!!」




