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Chapter33 「男はつらいよ」 【地球】

Chapter33 「男はつらいよ」 【地球】


 私と佐山さやかと峰岸とニセ七海の唐沢と花形は渋谷のカラオケボックスにいた。情報を集めたくて私が招集したのだ。峰岸と花形は来ないと思ったが意外にも参加してくれた。

「いよいよ第1政府が攻めてきたけどMZ会はどうするんですか? 第2次攻撃はあるのかな?」

私は峰岸に質問した。

「MZ会は宗教法人なので表立って戦う訳にはいきません。米軍に宇宙観測レーダーで得た情報とMM378の潜入員の情報は流します。潜入員からの報告では地球に対する大掛かりの侵攻の予兆はまだないとの事ですが第1政府は超大型宇宙船を何隻か建造中らしいです」

峰岸は落ち着いていた。

「いずれ大規模に攻めてくるという事ですよね? いつ頃になりそうですか? 『地球は勝てるんですか?』 もう『地球人同士で戦争』してる場合じゃないですよ!」

佐山さやかは不安そうに言った。しかし佐山さやかの言う事は尤もだ。宇宙人が攻めて来れば地球上の戦争も紛争も無くなるかもしれない。世界は地球軍として一丸となって宇宙人と戦うしかないだろう。ウクライナ問題や中東の紛争も無くなるかもしれない。まあ、一時的かもしれないが。それだけ中東の問題は根が深いのだ。イスラエルをめぐる問題は宇宙人が来襲しても収まらないかもしれない。むしろ混乱に乗じて大きな紛争が起きる可能性もある。

「なんとも言えませんが、第1政府はMM378で連合政府に苦戦しているので地球への侵攻計画は当初より遅れているようです。しかし第1政府が持ちこたえれば1年以内には攻めてくるでしょう。連合政府軍との戦いとは別の軍勢が準備をしているのです。アメリカの裏政府は和平案も考えてるようです」

「和平案? どうするつもりだ?」

「第1政府から要請があれば飲むということです」

「そんな事したら地球は征服されるんじゃないのか? MZ会にも地球征服派のMM星人がいるんだろ? この前みたいにアサルトライフルの攻撃なら米軍でもなんとかなるんじゃないのか?」

「このまえの攻撃で銃撃によって死亡したとされる人数のうち、70%以上が『攻撃用脳波のポング』によるものでした。脳だけが破壊された無傷の死体が沢山あったようです。しかしアメリカ政府も日本政府も中国政府までもがその事を隠しています。マスコミにも圧力をかけています。第1政府の目的はそこにあったのかもしれません。攻撃用脳波を見せつけたのです。地球人にとって攻撃用脳波は脅威なのです。今のところ防ぐ手立てがないのです」

どうやらアメリカ裏政府はMM星人の攻撃用脳波に脅威を感じているようだ。私もあの攻撃がデモンストレーションにしては弱いと感じていた。攻撃用脳波を使っていたとは驚きだ。そして恐ろしい。もしまたMM星人が攻めて来て、攻撃用脳波の存在が公になればパニックになるかもしれない。ガンビロンなどを使われたら勝ち目はない。

「私は来月からヨーロッパに行きます。アメリカの工作員と協力して地球征服派のMM星人の本拠地を潰します。情報収集が目的でしたが、そんな悠長な事は言ってられません」

花形が強い口調で言った。早く地球征服派の本拠地を潰して欲しかった。

「私はMZ会の国家建設の為の事務作業をサポートします。モデル活動も続けますけどね。写真集第2弾は増版して40万部の発行です。それにテレビCMのオファーも来ています。大手アパレルメーカーと損保会社です。もう絶好調です。早く16歳アイドルでデビューしたいです」

ニセ七海の唐沢はマイペースだ。とういうより浮かれている。この状況でもモデル活動が優先のようだ。ニセ七海の唐沢にオファーが殺到している。テレビCMが決まれば日本中の誰もが知るモデルになるだろう。私がAIで作った天野七海の顔が世間にも受け入れられたのだ。ニセ七海の唐沢もモデルとしての表情や仕草、ポーズなど鍛えている。努力は認めざるを得ない。もしかしたら本物の七海よりモデルの適性があるのかもしれない。


『しかし七海のモデル活動はストップしている。ブログの更新も春から止めている。またしても幻のモデルになりつつある』


 「峰岸さん、七海はどうでしたか? 会えたんですか」

峰岸は第2回目のMM378への輸送任務から帰還したばかりだった。私は七海の事が気になった。

「私は2ヵ月ほど滞在したのですが、残念ながら今回も七海さんには会えませんでした。七海さんは大変忙しいようで、いろいろ飛び回ってるようでした。連合政府は依然有利に戦ってます。ちょうど今頃、戦いの趨勢を決定づける一大決戦が行われているはずです。日本の歴史に例えれば関ヶ原の合戦の様な位置づけになるでしょう」

「関ヶ原って、そんなに大きな戦いなのか? 七海も参加しているのか?」

「双方合わせて100万個体が参加する規模の一大作戦です。七海さんも間違いなく参加しているはずです。重要な任務を与えられているのではないでしょうか」

「七海ちゃんは大丈夫なんですか? 重要な任務って危なくないんですか?」

佐山さやかは心配そうに言った。私も心配だった。いかにムスファとはいえ、大きな戦いなら個の力だけではどうにもならない事もあるだろう。戦争とは可能な限りの資源と知恵を優先的に投入する究極の団体戦だ。ラグビーで言えば、七海が世界トップクラスのウィングだとしても、他の14人が弱ければチームは絶対に勝てない。フォワードが弱ければウィングはボールに触ることもできないのである。


 MZ会の江東区にある施設の射撃場は混んでいた。MM星人の襲撃の影響でMZ会の工作員達が射撃練習を始めたらしい。私は順番待ちの間、格闘訓練をすることにした。相手は花形だ。花形は私を体落としでいきなり投げると寝技で首を固めにきた。

「水元さん、例の件はどうなりましたか?」

花形が私の首をロックしながら耳元で呟いた。こんな状況聞くなよ。

「例の件って何だよ」

私は敢えてとぼけた。

「佐山さんの件ですよ、私の気持ちを伝えてくれたんですよね? もう3ヵ月もたってます」

花形は締めがきつくなった。

「うぐっ、花形さんの気持ちを伝えたけど・・・・・・」

「けど、何ですか?」

「いやっ」

私は躊躇した。本当の事を言うのは気が進まない。

「けど、何なんですか? 何なんすか?」

花形の締めが更にきつくなった。なんか怖い。頸動脈が完全に塞がれてる。やばい落ちそうだ。

「ゲホッ、痛てて、あとで報告するよ、離してくれ、落ちる」

「今言って下さいよ、どうだったんですか? 私の気持ち、受け取ってくれたんですか?」

花形はギリギリと締めてくる。もうだめだ。頚動脈洞反射で意識が遠のきそうだ。佐山さやかの言葉を必死で思い出した。

「いいって、もういいって言ってたよ、ウググ」

「マジっすか! 『いい』って言ったんスか! マジっすか! うおーーーー、良かった。水元さん最高ッスよ!」

違う! 『いい』と言うのは否定の意味の『もういいです』とか『いらない』とかの意味だ。佐山さやかは確かにそう言った。日本語は難しい>>>>>>>>暗いーーーーーーー。

 

 私は話したことの無い教官に喝を入れられて意識が戻った。花形は格闘技場の真ん中に正座をして嬉しそうに微笑んで、潤んだ瞳で宙を見つめていた。やばい! だめだこりゃ。


 午後になると佐山さやかが射撃練習にやって来た。なんかまずい! タイミングが悪すぎる。射撃レーンは午前より空いていた。「佐山さん! ちょうど良かった、SIGのP228とP229が入ったんです。管理部と購買部に頼んで仕入れてもらったんです。佐山さんはP226を使ってますが、P228はP226をコンパクトにしたタイプです。佐山さんの手の大きさに合うと思います。P229はP228と同じ大きさですが、フレームの強度を上げて『357SIG弾』を撃てるようにしたモデルです、是非撃ってみて下さい」

花形は両手に1丁ずつSIGを持っていた。花形の言う通りP228はP226をコンパクトにしたモデルだ。装弾数は2発ほど少なくなるが、佐山さやかの手にはゴツイP226よりもしっくりくるであろう。P229はP228のプレス加工のフレームを、強度のある削り出しのフレーム変えて357SIG弾を撃てるようにしたものだ。357SIG弾はボトルネック型の薬莢で装薬量が多く、9mm弾の1.5倍の威力がある。P229は後に9mm弾を撃てるバージョンも発売されたが、花形は佐山さやかが混乱しないように敢えてP228とP229の二つを用意したのかもしれない。私も自分のオートマチックを決めようと思っていた。『M19コンバットマグナム』はいい銃だがリボルバーなので連射が効かない。357マグナム弾を撃てるのは心強いが、装弾数は6発だ。オートマチックの自分用の拳銃を決めたかった。ベレッタ92が撃ちやすくて気に入っているが、9mmパラベラム弾では威力不足のような気がした。特にMM星人を相手にするのなら威力のある弾丸を撃ちたかった。マンストッピング能力に定評のある45ACP弾を撃てるオートマチックの銃となるとコルトガバメント系である。


 撃ちやすく貫通力が高い9mmパラベラム弾か、反動は大きいがマンストッピング能力の高い45ACPにするか迷うところである。コルトガバメントは1911年にアメリカで開発されたオートマチックの拳銃で長い事アメリカ軍の正式拳銃であった。100年たった今でも使用されている。100年以上前の銃だがすでにオートマチック拳銃の機構の完成形と言ってもいい銃だ。派生型も多く、アメリカ人に好まれている。ヨーロッパでは9mmパラベラム弾が主流で、拳銃も9mmパラベラム弾を撃つものが多い。ベレッタ、SIG、グロック、ワルサー等である。アメリカの軍隊や公的機関の正式拳銃もベレッタやSIG等の9mm弾にシフトしつつあるが、相変わらず45ACP弾の人気も高い。一発で相手を止める能力は魅力的だ。特殊部隊などではコルトガバメント系が使用されている。


 最終的に私のチョイスはコルトガバメントハイキャパ系(装弾数が多いタイプ)の『STI2011』となったがこの射撃場には無いようだ。花形に頼んで取り寄せてもらおう。なんなら自費で購入してこの施設で保管してもらう方法もある。コルトガバメントのアメリカでの実売価格が2万~5万円なので、レアなSTI2011でも20万円も払えば買えるはずだ。取りあえず一般的なコルトガバメントで45ACP弾の反動に慣れる事にした。

「花形さん、ありがとうございます。撃ってみます」

佐山さやかはレーンに入るとSIG-P228とSIG-P229を両方撃った。弾はランダムに出現する人型の標的に確実に当たった。佐山さやかの射撃レベルは警視庁SATの隊員より上かもしれない。初めて銃を撃った時は反動に驚いて、悲鳴を上げてしゃがみ込んでいたのだが、今では立派なシューターだ。

「これ凄くいいです。手に馴染みます。P229の357SIG弾は反動がありますけど威力がありそうです」

「うんうん、似合ってますよ。『さやか』、カッコイイぞ!」

花形は上機嫌だ。

「水元さん、P228もP229もエアガン買いたいです」

「メーカーは異なるけど、たしかどっちもガスブローバックが出てるはずだ。でも形はほとんど同じだから1丁でいいと思うよ」

「両方欲しいです。ワクワクします。この際だからショルダーホルスターも買って、スーツの下に着用したいです。これからはP228とP229で訓練します」

「『さやか』、指導は任せてくれ。『さやか』の為ならトマホークミサイルでも仕入れてやるよ。P228とP229は二人の愛の証だ」

花形は勘違いしてる。見ていて痛々しい。

「でも花形さんは1年近くヨーロッパに行くんですよね? 他の教官を紹介して下さい」

佐山さやかは冷静に言った。

「えっ? いいけど、『さやか』、その言い方なんか寂しいぜ」

「私、強くなりたいんです。七海ちゃんを守りたいんです」

「七海さんと仲がいいんだな、姉妹みたいだ」

「私、七海ちゃんに恋をしてるんです。レズビアンなんです」

佐山さやかは花形の想いを遠回し断ったようだ。カミングアウトもした。

「えっ、恋って? ええっ、ええーーーー。うそ、うそーーーーん ヤダーーーー!」

花形が狼狽している。見ていられない。

「花形さん、飲みに行こう、いろいろ行き違いがあったようだ」

私は覚悟を決めた。花形に本当の事を伝えよう。


 私と花形は上野の大衆居酒屋にいた。

「水元さん、話が違うじゃないですか! 佐山さんは私の思いを受け入れたんじゃないんですか?」

「いや、だから、花形さんの事は嫌いじゃないみたいなんだ。親切でいい人だって言ってたよ。でも佐山さんは七海が好きなんだ。レズビアンなのも本当だ。他言はしないでくれ。まあ考えてもみろよ、最初に佐山さんがMZ会の施設に来たのも七海に会う手段を模索してたからだろ。七海を護衛するために銃の訓練を始めたんだ。憶えてるだろ? 普通、ただのOLが銃の訓練なんかするか? 犯罪だぞ。それだけ七海の事が好きなんだよ」

「レズビアンですか。でも七海さんならしょうがないですよね。あの人、強いし、綺麗だし。勝てないっすよ・・・・・・でも諦められないっすよ! 好きなんすよ。 胸が痛いんです。 クソーーーー佐山さやかのバカ野郎! お前の事なんか嫌いになってやる! 七海なんかギャンゴに喰われて死んじまえ! 俺は長州藩士と切り合ったんだぞ! 舐めるなよ!」

花形は荒れていた。ホッピーを10杯以上飲んでいる。マシンのように焼き鳥を食べている。焼き鳥の盛り合わせは6皿目だ。今日は私が奢ろう。

「片想いでもいいんじゃないかな。いつか振り向いてくれるかもしれないぞ。それに七海は佐山さんと仲はいいけど佐山さんに惚れてるわけじゃないよ。佐山さんの片想いだ」

「そうなんですか? 七海さんは誰の事が好きなんすか?」

「さあな。俺も七海に片想いなんだ。でもいつか思いが届くと思ってる。本当に好きだから七海の事も自分の気持ちも大事にしたいんだ。自分の歴史の1ページだ。自分の気持ちに嘘はつきたくない。たとえ片想いでも、心をときめかせてくれた七海を大事に思いたい。ときめきなんて人生にそう何回もあるもんじゃないぞ。金で買えるものでもない。感謝するんだ」

「うおーーーーーー! 水元さん、男前っす! イイッス、イイッスねその考え! 目が覚めましたよ! 俺も佐山さんへの気持ちを大事にします でやんでい!」

花形は焼酎のボトルをラッパ飲みした。

「プハーー、片想いはつらイッスね! 男はつらイッスね! どうしたらイイんスかね? ヒック」

「まあ、『男はつらいよ』のDVDでも観るんだな。男の美学だよ。男の価値は強さだけじゃない。『顔で笑って心で泣いて』、大切なのはカッコよくて優しいダンディズムだよ」

「イイッスね、イイッスね、ダンディズム! それ頂きですよ!」


 7日後、私は新しい銃を撃つために射撃訓練に来た。花形は茶色の中折れ帽を被り、水色のダボシャツの上にベージュのジャケッを腕を通さずに肩から掛けて寅さんそっくりの恰好になってた。革製のトランクも持っていた。

「水元さん、見て下さい。ダンディズムっすよ」

花形は形から入るタイプのようだ。花形、そういう事じゃない・・・・・・花形はヒューゴボスのスーツの方が似合っていた。

「私、生まれも育ちも播州赤穂です。験行寺で産湯をつかい、姓は花形、名は政美、人呼んでアサシンの政と発します」

どうやら寅さんの口上を真似たようだ。

「何それ?」

「寅さんッスよ。DVD全巻観ましたよ。寅さんカッコイイッスね! 佐山さんは俺の永遠のマドンナッスよ!」

花形はすっかり寅さんにハマったようだ。ある意味ポジティブになっている。

「播州赤穂って、兵庫県生まれだったの? 名前は政美なんだ。でもアサシン(暗殺者)ってちょっとエグくないか?」

「生まれたのは320年前で兵庫県南部です。『験行寺』は赤穂の由緒あるお寺です。『政美』は新選組の隊士をしてる時に土方さんに付けてもらった名前です。それまでは『彦助』でした」

花形は過去に新選組にいたのだ。射撃、格闘術は日本支部で一番とのことだ。フランス外人部隊に所属していたこともあり、戦闘力は高い。私は取り寄せてもらった『STI2011』の射撃訓練を行った。購入費用は自分で払ったので私の銃だ。STI2011の見た目はかなりいかつくて凶悪なイメージである。グリップも太く、45ACP弾を12発も装填できる。私はSTI2011の装弾数12発を一気に連射した。さすが反動の影響で的への集弾にバラつきがある。発射時の火薬のカスが頬に当たって痛かった。


 花形はヨーロッパに旅立って行った。私に一言「私のかわりに佐山さんの事を守って下さい。いつか佐山さんに想いが届くと信じてます」と言って旅立っていった。寅さんの恰好だった。 後ろ姿が意外とカッコよかった。


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