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Chapter31「決戦:ヒロミゴー攻防戦 ガンビロン戦」【MM378】

Chapter31 「決戦:ヒロミゴー平原攻防戦 ガンビロン戦」 【MM378】


翌日の早朝、ガンビロン兵とマークマックスを乗せた大型ホバーが野戦本部に到着した。大型ホバーは270個体が搭乗可能で、上昇限度3000m、最高速度は時速400Kmである。マークマックスの設置要員が野戦本部から300m離れた場所にマークマックスを設置し始めた。各部隊は2km前進して塹壕に身を潜めた。敵兵の姿は無く、体当たり攻撃用のホバーの襲来もなかった。ナナミ大尉達による迎撃によって敵も体当たり攻撃を控えているようだ。迎撃用ホバーの分隊は第1大隊第2中隊に引き継がれることになり、ナナミ大尉は戦術の引継ぎを行っていた。夜のガンビロン戦に備えて兵士達に最新型の対ガンビロン用シールド発生装置が配布された。装置は縦20Cm,横40Cm、奥行き10Cm位の直方体で肩から掛けられるようになっている。重さは15Kg程だ。本日は積極的な戦闘行動は行わず、ガンビロン戦に備えるよう命令が出された。

ナナミ大尉は迎撃ホバー分隊の引継ぎを終え、塹壕で部下達と待機していた。

「今日は敵に動きがありませんね」

ミルコ一等兵が言った。

「作戦初日にこちらが4kmも攻め込んで、体当たりホバーの迎撃方法も示したので作戦を立て直してると思うの。この区域の敵の損害は4200個体、味方は1700個体。榴弾砲と迫撃砲による戦果が大きいの。敵は大砲を持ってないから脅威を感じてると思うの。第1政府にとって北方方面軍の攻撃も予想外だったからかなり混乱してるはずなの」

ナナミ大尉は戦況を分析した。

「それでは我々は勝っているのですか? 第1政府もたいした事ないですね」

フィリオ上等兵が尋ねた。

「まだ戦いは始まったばかりなの。敵の兵力は80万個体なの。敵の野戦本部のあるヒデキカンゲキ高地は要塞化されてるから厳しい戦いになるの。気を抜いたら負けるの」

ナナミ大尉は窘めるように言った。

「敵ホバーです!」

「6機、高度100m、距離1500m、推定速度時速120Kmで接近中」

ピーター一等兵が叫んだ。

「対空戦闘用意なの!」

兵士達は敵ホバーの方向にアサルトライフルを構えた。ピーター一等兵は『M110 SASS』狙撃ライフルを、フィリオ上等兵はロケットランチャーを構えた。ピーター一等兵は狙撃の名手で、フィリオ上等兵はロケットランチャーの名人であった。

「4時の方角より味方迎撃ホバー5機、逆V字隊形で敵ホバーに接近中。敵ホバーとの距離500m」

ピータ一一等兵が報告する。ピーター一等兵は視力が他の兵士に比べて抜群に良かった。

『ボンッ  バシューー』

フィリオ上等兵がロケットランチャーを発射した。ロケットランチャーの弾頭は敵ホバーに真っすぐ向かって行くが、敵ホバーが左方向に降下して躱した。

「くそっ、大尉、飛んでるホバーに当てるのは難しいです」

「昨日、研究所にレポートを送って対空用の弾頭を開発するよう要請したの。直接命中させなくても近接信管で飛行物体に損傷を与える弾頭が必要なの」

「大尉、それはありがたいです。3次元で動くホバーに直接当たるのは至難の業です」

「敵がホバーによる体当たりの究極攻撃を行うなら対空用弾頭は最優先課題なの」

「空中戦、始まりました!」

ピーター一等兵が叫ぶ。皆固唾をのんで上空を見つめる。この時間の空はオレンジ色だ。

逆V字編隊の迎撃ホバーが敵の極攻ホバーの後ろから射撃している。ブローニングM2重機関銃の銃声が響く。12.7mm弾の曳光弾の白い光が点線のようにはっきり見えた。敵の極攻ホバーが爆発して空中に四散した。第2中隊の迎撃部隊はナナミ大尉の引継ぎ通りの攻撃を行っていた。約10分間の空中戦で極攻ホバーは全機撃墜された。ナナミ大尉は引継ぎが確実に行われた事を確かめて胸を撫でおろした。


 3つの恒星が全て地平線に沈み、夜空は輝く星でいっぱいになった。ガンビロンの使用時間になった。第1政府軍は連合政府軍がガンビロンを開発したことを知らない。対ガンビロン用シールド発生装置もOFFになってるはずだ。

《各位、対ガンビロン用シールド発生装置を着用してスイッチを入れろ。ガンビロン発射60分前。装置に不具合がある者は上官に申し出よ》

野戦本部から無線の指示が飛ぶ。

《ガンビロン発射1分前》

《ガンビロン発射10秒前・・・・・・・・・・・・3秒前、2秒前、1秒前、発射》

兵士達は目を瞑って身を固くした。

《各位、対ガンビロン用シールド発生装置外してよし。但し2時間後に再びガンビロンを発射する》

「ナナミ大尉、これで終わりですか? なんか呆気ないですね」

ミルコ一等兵が言った。空には満天の星だ。静かな戦争がそこにあった。

「ガンビロンは形も色も音も臭いも無いの。シールド発生装置だけが頼みの綱なの、だから怖いの」


 翌朝、ナナミ大尉の中隊は中型ホバー5機に分乗して前線から12Km入った敵の陣地『オスカー3(スリー)』に向けて移動した。時速60Km、高度50mでの移動中、敵からの攻撃は無かった。中型ホバーの窓から見る敵の陣地は静かで動きが無かった。昨夜、連合政府軍がガンビロン攻撃を3回実施した影響が出ているようだ。やがて中型ホバー5機は『オスカー3スリー』に到着し、中隊の兵士達が着陸したホバーから降りて分隊ごとに探索を行った。塹壕の所々に植物状態となった敵の兵が倒れていた。おそらく見張りをしていた兵士であろう。

ナナミ大尉も『シルバーウルフ分隊』を率いて敵の陣地を探索した。

「大尉! この陣地だけで200個体以上が植物状態です。死亡は8個体です。中隊が全滅したようです」

ポピンズ曹長が報告した。

「塹壕内の居住区も植物状態の兵士ばかりです。殆どがベットの中で植物状態になっています。寝ている時にガンビロン攻撃を受けたのでしょう、酷いもんです。健常個体は発見できません」

塹壕内を探索していたアーネスト上等兵が報告した。

「救護班に連絡して収容してもらうの」

ナナミ大尉が指示を出した。

「数が多すぎて搬送できないようです。本部からの指示では放置しろとの事です。敵が回収しやすいように植物状態の個体が多い所に赤い旗を立てろとの命令です」

ポピンズ曹長が言った。ナナミ大尉は暗澹たる気持ちになった。たった一回の攻撃で、敵とはいえ多くの個体を植物状態にしてしまう。許される事なのだろうか。自らがガンビロン使用の第一号となり、今回はガンビロン兵を育てるプログラムの監修に参加した。戦闘行為と殺戮の境界線はどこにあるのだろうか。

「放置すれば72時間で死亡するの・・・・・・敵が早く回収することを祈るしかないの。でも回収したとしても延命措置しか方法がないから一生植物状態なの」

「大尉、そろそろ戻りましょう、他の陣地では敵の究極攻撃を受けているそうです」


【野戦本部】

ナナミ大尉とキリシマ大尉はファントム中将のテントにいた。野戦会議は明日だったがファントム中将の耳に入れたい事があったのだ。

「今回のガンビロン攻撃による敵の被害は約6個師団、8万2千個体程度と推測されます。被害の内訳は97%以上が植物状態です。実際に探索で確認された植物状態の敵兵は7万8千個体、死亡個体714個体です。尚、敵のガンビロンによる報復が予想されますのでシールド発生装置は絶えず身に着け、スイッチをONにする必要があります。充電も身に着けたまま行うよう全軍に通達します。電源及び発電装置の増設については軍令本部より許可を得ました。敵のガンビロンを検知した場合は警報サイレンが鳴るようにしました」

キリシマ大尉が報告した。

「植物状態の敵兵は放置されたままですがよろしいのでしょうか? あと60時間で呼吸機能が停止します」

ナナミ大尉が発言した。

「植物状態の個体の延命には装置や人員など多くの手間がかかる。敵の兵士の延命まで行う余裕は無い。まったくなんて戦争だ。敵とはいえ何万という個体が見殺しだ」

ファントム中将が言った。

「敵は植物状態になった兵士を回収して延命するつもりは無いようです。その為の動きはまったく見られません」

キリシマ大尉が報告した。

「このままだと植物状態の8万2千個体は死亡するいうことか。体当たりの究極攻撃に兵士の放置。第1政府軍は非情な作戦をとっているな。兵士達の士気は下がるのではないか?」

「昨日撃墜した敵の究極攻撃ホバーの兵士を捕虜にしました。尋問したところ、狂信的に第1政府に忠誠を誓っています。尋問後に監獄でバグルンしました」

「狂信的になる理由は何なのだ」

「撃墜されて不時着した極攻ボバーの搭乗員の損傷の少ない遺体を2個体回収して解剖しています。まだ詳細は不明ですが、2個体とも頭部に手術した痕があるようです。噂ですが、もしかしたら敵の兵士は脳になんらかの細工をされているのかもしれません。脳内物質の分泌を変える手術です。恐怖を感じず、使命だけを意識するようになるそうです。もしそのことが本当なら今回の事も納得がいきます。多くの兵士が手術を受けてるとの話もあります。怖ろしい限りです。引き続き情報を収集します」

キリシマ大尉が言った。

「研究所の研究員から、第1政府のガンビロンの訓練には特殊な薬が使われていると聞きました。ガンビロンの習得は早くなりますが、ガンビロンの発射に脳が耐えられなくなり、その為に1回の使用で命を落とすようです。ヘルキャ中将は知った上でその薬を使わせているようです」

ナナミ大尉が発言した。

「手術に薬か。やっかいだな。教えてくれてありがとう。ヘルキャ中将はよく知ってる。戦いもしたが、昔は良識のある優秀な将軍だった。第1政府軍をよく統率していた。しかし4年ほど前からいい噂を聞かない。理性を失ったとの噂もある。丁度第1政府の最初のガンビロン使用に対する各政府からの抗議が起きた頃だ」

ファントム中将が思い出すようにして話す。

「そのガンビロンは私が発射しました。私はその件でS級極刑となり、地球に逃亡したのです。私は命令に従っただけでしたが、独断でガンビロンを使用したとの濡れ衣を着せられました。その後第1政府の暴走が始まり、対抗するために連合政府が出来たことを地球で知りました。私はその話を聞いて驚きました。第1政府は常に正しいと思ってました。だから第1政府の軍人として300年も戦ってきたのです」

ナナミ大尉が悔しそうに話した。

「よく連合政府軍、いや、レジスタンスに入ってくれたな。もしかしたらナナミ大尉とは敵として戦っていたかもしれん」

「第1政府の横暴と、地球への侵攻計画の話を聞いて第1政府と戦う為にMM378に戻ってきました」

「第1政府も最初こそガンビロンと物理攻撃兵器の使用で有利に戦闘を進めていたが、ナナミ大尉が地球から持ってきた武器のおかげで形勢が逆転した。皮肉なものだな。このまま我が軍が進んでヒデキカンゲキ高地要塞が落ちれば首都マコイシーノの陥落も間違いないだろう。ナナミ大尉、いろいろ複雑な心境だろうが力を貸してくれ」

「確かに私は元第1政府の軍人ですが、今はこの星の未来と地球の為に第1政府と戦っています。迷いはありません。地球の文化も広めます。それが私の革命なのです」

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