Chapter30 「決戦:ヒロミゴー平原攻防戦 迎撃」 【MM378】
Chapter30 「決戦:ヒロミゴー平原攻防戦 迎撃」 【MM378】
戦闘用ホバーが高度300mを時速80kmで飛行する。上昇限度だ。戦闘用ホバーは中型ホバーに戦車砲塔を搭載したホバーで、重装甲を施しているため、上昇限度、速度共に低くなっている。戦車砲塔は地球のM1エイブラムスの砲塔をコピー生産したものだ。ナナミ大尉の乗ったホバーバイクが20mの距離を空けて右側に同行する。高速ホバーバイクは戦闘指揮用で1個体が跨って搭乗し、操縦士はむき出しである。上昇限度は500m、最高速度は時速700Km、動力は反重力装置と超小型プラズマジェットである。超小型プラズマジェットは他のホバーの超小型推進ジェットより小型でパワーも同等だが生産コストが高い。その後方800mを逆V字編隊の迎撃ホバーが飛んでいる。撮影用の小型ホバーも同行していた。周回コースは5周目だ。ナナミ大尉は無線機のスイッチをONにした。対ガンビロン用の強力なジャミングの影響で脳波による通信ができない状態なのだ。
《V1からK1へ。2時の方向に敵のトーチカが3つあるの。接近して砲撃するの。そうすれば体当たり用の敵のホバーが出て来るかもしれないの。今回の目的は敵のホバーを撃破することじゃないの。体当たり攻撃に対して対策をしてる事を見せつける事なの。敵に体当たり攻撃が割に合わないことを教えるの。トーチカは手前よりA,B、Cと命名するの》
《K1了解 これより周回軌道を離脱して敵トーチカへの砲撃を実施する》
攻撃用ホバーは軟降下して高度を100mに下げた。ナナミ大尉のホバーバイクも同行した。
《K1よりV1 これより砲撃を開始する。砲弾は榴弾を使用》
トーチカと塹壕からアサルトライフと『MM―01』の弾丸が飛んで来る。戦闘用ホバーは装甲が厚く、弾丸を全て弾き返す。ナナミ大尉はホバーバイクを戦闘用ホバーの左側に移動させて戦闘用ホバーを盾にした。
《V1了解なの》
『ドーーン』 『ドーーン』 『ドーーン』
120mm戦車砲が火を噴いた。ナナミ大尉は強烈な衝撃波を感じた。戦闘用ホバーとの距離は5mだ。地球の戦車砲塔を参考に作られた戦車砲は自動装装填装置を搭載しているので5秒に1発発射できる。砲弾はオリジナルの榴弾である。地球では対戦車砲弾がメインだが、まだ戦車が登場していないMM378では榴弾のニーズが高いのである。発射された榴弾は目標のトーチカAに3発命中し、トーチカを吹き飛ばした。オーバーキルの攻撃だ。
《K1よりV1 敵トーチカAを破壊》
《V1了解 敵トーチカBを砲撃せよ》
《K1了解》
『ドーーン』 『ドーーン』
《K1よりV1 敵トーチカBを破壊》
ナナミ大尉はホバーバイクをホバリングさせてゴーグルを望遠モードに切り替え周囲を見渡した。
<敵!>
《V1よりK1 敵ホバー4機、11時の方向。距離3000m。K1は停止してホバリング。
Ⅴ2~Ⅴ6はK1に合流せよ》
ナナミ大尉は信号銃を空に向けて緑色の信号弾を発射した。迎撃ホバーが全速で飛行して戦闘用ホバーに合流した。逆V字隊形のまま戦闘用ホバーの上空30mでホバリング行う。敵のホバーは様子を見ているようだ。
《敵のホバーは4機、横並び、間隔20m。左よりD、E、F、Gと命名》
《隊形修正。V2とV3の左右間隔100m、V4とV5の左右間隔60m。各自前後の間隔40mに整えよ》
ナナミ大尉の指示で迎撃用ホバーは逆V字隊形の間隔を修正した。
《K1は現在地で待機。迎撃隊前進、私に続くの!》
ナナミ大尉はホバーバイクのスロットレバーを押し込んだ。敵との距離が縮まる。距離2000m。敵のホバーが前進した。真っすぐ向かって来る。距離1500m。敵ホバーが速度上げた。ナナミ大尉はスロットルを絞って減速した。敵のホバーが迫ってくる。距離800m。突然敵のホバーEが爆発した。大きな爆発だった。おそらく搭載した多量の爆薬に引火したのだ。
《地上ポイントH9(ナイン)より各位、ロケットランチャー5発を発射、1発命中、敵ホバー1機撃破》
地上兵士が発射したロケットランチャーで敵ホバーEを撃破したようだ。距離300m。
《敵ホバーE、地上対空兵器で撃墜、V2~V6射撃始め》
ナナミ大尉は迎撃ホバーに攻撃命令を出した。
『ドドドドドドドドドドドドドド』『ドドドドドドドドドドド』『ドドドドドドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドドドドドド』
ブローニングM2重機関銃の銃声が響いた。ホバーに据え付けられたM2ブーニング重機関銃は水平方向に360度、仰角80度、俯角60度が射撃範囲だ。射手は1個体。弾丸はベルト式給弾で600発である。予備に200発のベルトも搭載している。曳光弾がナナミ大尉のホバーバイクの横を通って行く。ナナミ大尉は味方の逆V字編隊の前方50mを飛んでいる。敵のホバーGの機体に火花がバチバチと散った。12.7mm弾が命中しているのだ。敵ホバーGが火を噴いて錐もみ状態になって墜落していく。
『ドドーーン』
敵ホバーGが地面で爆発した。敵ホバーD、Fとすれ違う。
《180度左旋回、隊形維持!》
迎撃ホバーは逆V字隊形を維持したまま半径120mの円周運動で180度ターンをした。敵ホバーDとFは戦闘用ホバーに向かっているが爆装のため速度が遅い。
《V1よりK1 高度50mに降下して最大全速で逃げるの》
低空を飛ぶ飛行物体を上空から攻撃するのは難しい。攻撃時に進入角度を誤ると地上に激突してしまう。第二次世界大戦の空中戦においても不利な状態になった時に地上すれすれ、もしくは海面すれすれを飛んで敵の追撃から逃れた例が多数ある。戦闘用ホバーは重量があるため時速200Kmが限界だ。迎撃ホバーの逆V字編隊は敵ホバーDとFの後方200mの位置に付けた。
《V1より V2~V6射撃開始、目標は敵ホバーD
なの》
ナナミ大尉はホバーバイクを左方向に滑らせた。味方の弾丸を避けるためだ。
『ドドドドドドド』 『ドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドド』
ナナミ大尉の右横を曳光弾が『ヒュンヒュン』という音と一緒にかすめていく。敵のホバーDに曳光弾が吸い込まれていく。
『ボンッ ドドーン!』
敵のホバーDが爆発して四方八方に砕け散った。
『ドドドド』 『ドドドド』 『ドドドド』 『ドドド』 『ドドドド』 『ドドド』
銃撃は執拗に続く。射手もだいぶ慣れてきたたようで点射している。5丁のM2ブローニングの射撃は凄まじい。12.7mm弾は低進性(真っすぐ飛ぶ)がいいので修正がしやすい。敵ホバーFに5丁の弾丸が集中する。敵ホバーFの後方の窓からアサルトライフルを撃ってくる。操縦士の他に射手が乗ってるようだ。無数のホバーの破片が後ろに飛んでナナミ大尉のホバーバイクに当たる。敵のホバーは装甲が薄く、弾丸は全て貫通している。内部は凄い事になっているだろう。敵ホーバーFがガクンと落ちるようにして地上に吸い込まれていった。操縦士が戦死したのだ。墜ちた地点に炎と黒煙が勢いよく上がった。
ナナミ大尉と迎撃ホバーは西に20Km移動して同様の方法で敵の体当たりホバーを8機撃墜。その後野戦本部戻って弾丸を補給して新たに現れた体当たりホバーを6機撃墜した。迎撃用ホバーとナナミ大尉のホバーバイクが野戦本部の近くに着陸した。
味方の兵士達が集まってきた。
「下から見てましたよ! 凄かったです」
「ナナミ大尉、戦法は大当たりでしたね! 迎撃用ホバーの効果絶大です!」
「やっぱうちの隊長すげえよ。痺れるぜ!」
ナナミ大尉は歓声の中、本部テントへと向かった。大きなテントは40m四方の広さがあった。
内部は通信設備と会議用の長机と椅子が置かれていた。
「ナナミ大尉、凄いじゃないか。敵の体当たり攻撃には度肝を抜かれたが、すぐに対応策がとれたようだな。素晴らしい。本日の前線会議で報告してくれ」
第8師団師団長ホーネット少将が嬉しそうに言った。
【前線会議】
「昨日、本作戦が開始されました。昨日は8個中隊が敵陣内に4kmほど侵攻しましたが敵ホバーの体当たり攻撃により後退を余儀なくされました。体当たり攻撃については後ほど報告します。前線全体での敵の被害は44000個体、我が方は21000個体、この区域の敵の被害は戦死4200個体です。我が方は1700個体が戦死、戦闘用ホバー12機、榴弾砲27門、迫撃砲120門を失いました。戦死者の差は榴弾砲と迫撃砲によるものと思われます。また、近接戦闘では我が方の練度が高いと思われます。尚、『北方方面軍15個師団』は北東方面より侵攻、10Kmほど進軍し、ヒデキカンゲキ高地まで12Kmの地点に到達しました。第1政府にとっては予想外の攻撃で混乱しているようです。12個師団を急遽北東方面に移動させています。南方方面軍第4軍、第5軍は明日、西方より侵攻を開始します。正面からは引き続き我が第1軍と第2軍、第3軍が攻撃を継続します」
情報士官のキリシマ大尉が報告した。前線会議には第1軍軍団長のファントム中将をはじめは配下の各師団の師団長が出席していた。今回の会議は参謀本部からロレックス大佐が出席している。ナナミ大尉はオブザーバーとしての参加だ。
「北方方面軍が動いてくれたか。ありがたいな。それにしても体当たり攻撃はやっかいだな」
ファントム中将が感想を述べた。
「体当たり攻撃について説明します。第1政府は16個体が搭乗可能な小型ホバーに爆薬約500kgを搭載して我が方の前線陣地や戦闘用ホバー、砲兵陣地に突っ込んで自爆する戦法を生み出しました。小型ホバーは操縦士のみ搭乗しています。操縦士は脱出手段が無いため体当たりと同時に死亡します。この体当たり攻撃を『究極攻撃』、通称を『極攻』と命名しました。この区域の究極攻撃による被害は戦死800個体、戦闘用ホバー9機。榴弾砲と迫撃砲の被害はすべて極攻によるものです」
「恐ろしい攻撃だな。搭乗員は死を覚悟しているのか。対策はあるのかね?」
「はっ、その件に関してナナミ大尉より報告があります」
キリシマ大尉に促されてナナミ大尉は立ち上がった。
「昨日私の指揮する中隊も究極攻撃を受けました。そこで対抗策として小型ホバーにブローニングM2重機関銃を搭載した迎撃ホバーを急遽投入しました。搭乗員は操縦士、射手、偵察員の3個体です。本日は迎撃ホバー5機で実験戦闘を行いました。敵の極攻ホバーのべ18機と遭遇。全てを空中戦闘で撃墜しました。1機は地上からロケットランチャーによるものです。詳しくは戦闘詳報と撮影した動画を参照して下さい。しかし今回迎撃できたのはこの区域だけで、私の中隊だけです。他の区域や師団はまた対策がとれていません」
「おおーー対策があるのか」
「早速対応したのか、さすがナナミ大尉だな」
「凄い、もう対応策考えて実証したのか。まだ1日だぞ! 他の部隊にも対応策を周知しないといけないな。それにしても早い」
「全部撃墜したのか」
各師団長から声が上がった。
スクリーンには撮影された最初の空中戦の動画が映し出された。敵のホバーが墜落する度に歓声が上がった。
「ナナミ大尉、ポイントを話してくれ。それと早急にマニュアルを作成してくれ。今回も素晴らしい活躍だな」
「はいっ、極攻ホバーは爆薬を搭載しているので速度は遅いです。最高速度500Kmの小型ホバーが250Kmしか出せないようです。ブローニングM2重機関銃は有効でした。12.7mm弾は極攻ホバーの装甲を撃ち抜くことが可能です。一部の敵ホバーには射手が搭乗しており、アサルトライフルを撃ってきました。今回は迎撃ホバー5機で対応しました。今後も5機を1個分隊、3個分隊を1個小隊として運用すると良いと思います。味方の戦闘用ホバーに1個分隊を護衛に付けるのも有効と思われます。ブローニングM2重機関銃の増産と小型ホバーへの搭載を急ぎ、常設部隊を編成することを提案いたします。他の部隊にも提案する必要があります」
「なるほど。しかしブローニングM2重機関銃の増産は生産ラインの調整が必要になるな」
「迎撃ホバーは襲撃用ホバーにも転用できます。12.7mm弾であれば敵の地上部隊に対しても有効です。高速小型ホバーの分隊で敵の陣地に急襲をかけるのです」
ナナミ大尉は提案した。
「そうだ。地球から輸入されたロケット弾を搭載すればさらに強力な襲撃用兵器になります。倉庫に70mmロケット弾が多数保管されたままになっています」
ヒューイ技術士官が発言した。物理攻撃兵器が未発達なMM378では戦闘現場の要望やアイデアが新しい兵器を生み出していく。
「意見を述べてのよろしいでしょうか」
ナナミ大尉が手を挙げた。
「何だねナナミ大尉。遠慮しないで発言してしてくれ。君の意見は貴重だ」
「はい。今回の究極攻撃は常識を覆した方法です。究極攻撃の操縦員を捕らえて尋問を行うことが急務です。第1政府はガンビロン用脳波を発射できる個体も命と引き換えに任務を実行しています。何故命と引き換えにしてまで第1政府の為に戦うのか知る必要があります。今後の戦い方に関わる戦略的な問題です。それと第1政府の兵士が今回のような自爆攻撃を行うのであればバグルンにも注意すべきです。敵の兵士に塹壕戦でバグルンを使われると非常にやっかいです。捕虜の扱いにも注意が必要です」
ナナミ大尉は敵のバグルンの使用について警告した。
「おおっ、そうだ」
「そうかバグルンか」
「昨日56個体を捕虜にしましたがそのうち7個体が移送中にバグルンを使用しました。味方の兵士3個体が死亡、7個体が重症です」
キリシマ大尉が報告した。
「なに、すでに敵はバグルンを使っているのか?」
ファントム中将が苦渋の表情を浮かべる。バグルンは脳波を使った自爆で威力は個体に大きく依存するが、平均でダイナマイト2~3本分の威力がある。もちろん使った個体は死亡する。バグルンを防ぐ手段は今のところ無いのだ。
「バグルンの威力は個体差がありますが、平均して半径30メートル以内に殺傷能力があります」
キリシマ大尉が説明した。
「ガンビロン戦を実施する時がきたようですな」
ロレックス大佐が発言した。ロレックス大佐は軍令部直轄の参謀本部の大佐である。今回の作戦の作戦担当だ。
「ガンビロン戦ですか? 興味深いです。ご説明を頂けますか?」
ファントム中将も参謀本部には遠慮がちだ。力関係では軍令部直轄の参謀本部の方が方面軍より上である。
「究極攻撃やバグルンなどの対処で面倒な事態となっている。ここはガンビロンで半径40Km以内の敵を一気に殲滅してはどうでしょうか? 予備の予算を投入して3000名ものガンビロン兵を育成したのです。マークマックスの改良型も生産しました。なによりも敵は我々連合政府軍がガンビロンを使用可能な状態である事を知りません。第1政府のみが使用できると思い込んでいる」
「しかし敵も対ガンビロン用のシールド発生装置を装備しています」
「ですから先手を撃つのです。まさか我が方がガンビロンを使用するとは思っていないでしょう。装置は持っているが装着はしてないと思います。それに連続して使用するのです。敵も24時間シールド発生装置を装着してるとは思えません。特に夜は多くの兵士がシールド発生装置を外しているでしょう。そのタイミングでガンビロンを使用するのです。毎晩5~6回使用すれば敵は寝る事もままならず、戦うことに嫌気がさすでしょう」
「そのような事をすれば敵もガンビロンを頻繁に使うようになるでしょう。本作戦ではまだ双方ガンビロンを使用しておりません」
第8師団師団長のホーネット少将が意見を述べた。
「私もそう思います。ガンビロンの使用は最終手段かと思います」
第7師団師団長のアカーギ少将もガンビロンの使用には反対だった。
「では何の為にガンビロン兵を育成したのですか? すでにガンビロン兵1000名とマークマックス改50台が後方20Kmに待機しています。参謀本部としては早速前線に投入して欲しいのです。明日の夜から攻撃を開始していただきたい。私の意見は軍令部並びに参謀本部の意見だと思っていただきたい!」
結局ロレックス大佐の意見が採用され、ガンビロン戦が発動された。
「感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってるの!!」




