Chapter25 「北方資源地帯」 【MM378】
Chapter25 「北方資源地帯」 【MM378】
ホバーは北方方面軍の駐屯地に着陸した。駐屯地は広く、コンクリート製の建物も複数ある立派な施設だった。ナナミ大尉達は5階建ての建物にある会議室に案内された。広い会議室には机はあったが椅子がなかった。北方方面軍の士官3個体と兵士5個体が起立していた。ナナミ大尉と部下達はきっちり向かい合うようにして立った。
「どうも、遠い所をご苦労様です。私はガキデカント軍団長の補佐官ジョイフル大佐です。こっちがカインズ中佐で、こっちがジョーシン中尉です。他の者は警備兵です」
ジョイフル大佐は他の士官2個体を紹介した。警備兵は物理攻撃兵器を持っていない。攻撃手段は脳波攻撃か格闘術だ。
「私は南方方面軍第1軍第8師団のナナミ大尉です。軍団長にお渡ししたいものがあって参りました」
「聞いております。ガキデカント軍団長はもうじき来ますのしばらくお待ち下さい」
「すみませんが皆さん、バグルン防止の薬を飲んでいただけないでしょうか? 外部の者を招く時の規則となっています」
ジョーシン中尉が錠剤のシートをカバンから取り出した。
「その薬でバグルンを防げるのですか?」
ナナミ大尉は言ってジョーシン中尉を凝視した。
< おかしいの。バグルンを防止する薬なんか無いはずなの。椅子が無いのも変なの。床には椅子を置いた跡があるの。きっと持ち出したの。この後は私達と会議のはずなの。会議を開催する気が無いの? 怪しいの >
「この薬は北方方面軍で開発しました。以前、第1政府の軍使を招いた時にバグルンをされて高級将校3個体が命を失ったのです。申し訳ありませんが形だけですので服用して下さい。副作用の無い安全な薬です」
「本当に安全なの?」
ナナミ大尉の口調が変わった。感情が動いてるのだ。
「はい、安全です。バグルンは48時間ほど出来なくなりますが」
「だったら中尉が飲むの。安全であること証明するの!」
ジョーシン中尉は黙った。
「安全なんでしょ? あなたが飲めない物を私の部下に飲ませるわけにはいかないの! 飲むの!」
「いや、それは信用していただくしかないかと・・・・・・」
「中尉、貴方が飲めば信用するの」
ジョーシン中尉はシートから薬を1錠取り出すと掌に載せた。
「ジョイフル大佐、止めなくていいの?」
ナナミ大尉はジョイフル大佐の方を見た。
「安全なのですから止める必要はありません」
「なら大佐が飲むといいの」
「いや、それは・・・・・・中尉、早く飲みたまえ!」
ジョイフル大佐は強い口調で言った。
「はっ」
ジョーシン中尉は錠剤を口に含むと飲み込んだ。誰も口を開かずジョーシン中尉を見ていた。北方方面軍の警備兵達の目玉が左右に小刻みに動いている。緊張状態だ。1分が経った。ナナミ大尉は腕時計を見ている。Hamiltonのカーキフィールド:ブロンズ。3分が経った。
「3分が経ちました。この通り大丈夫です。皆さんも早く飲んで・・・・・・・ウゲッ、ゴホホ、ゴゴッ、大佐、睡眠薬では、まさか、ゲホッ」
ジョーシン中尉は喉を搔きむしってその場に倒れた。
「コード発令『C、3(スリー)』」
ナナミ大尉が呟いたと同時に警備兵が崩れ落ちた。ナナミ大尉の部下全員が一斉にポングを発射したのだ。致死ダメージ以下のポングだった。各自の正面の警備兵を倒した。ナナミ大尉の部下達は全員腰のホスルターからスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを抜くとジョイフル大佐とカインズ中佐に銃口を向けた。
「ジョイフル大佐、ガキデカント中将のところに案内するの」
「グハッ、グハッ、グゴゴ、大佐、タスケテ、マサカ? ゲホホッ」
ジョーシン中尉が苦しんでいる。
「ジョイフル大佐、この毒の種類は何? 答えるの! 解毒剤は!?」
ナナミ大尉の厳しい声が響いた。
「シアナビンです」
「最悪の毒なの。この中尉は何時間も苦しむの。内臓が徐々に溶けるの。苦しめて殺す毒なの。解毒剤は無いの。99%の確率で助からないの。だれか中尉を楽にしてあげるの!!」
「グホッ、らく ゴボッ らくに ゲッ して ゲゲッ らくに ゲボハッ」
ジョーシン中尉は口から大量の青い体液を吐き出した。シャーク軍曹がスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチの狙いをジョーシン中尉の頭につけた。
「いいの、私がやるの。こんな事をしたら心が傷付くの。部下にやらせる訳にはいかないの」
ナナミ大尉はスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチをホルスターから抜くとジョーシン中尉の後頭部に向けて発砲した。部屋の中に轟音が響いた。ジョーシン中尉の後頭部には穴が空いていた。周りには脳漿と青い体液が飛び散っていた。
シャーク軍曹はナナミ大尉を見つめていた。
「ジョイフル大佐、案内するの。貴方は自分の部下を殺したの。変な真似をしたら私は躊躇なく貴方の頭を撃つの。見たでしょ? どうなるか」
ナナミ大尉は部下の2個体を伴って長官室に入った。部下4個体はカインズ中佐と一緒に廊下に待機させた。ガキデカント中将は机に向かっていた。ナナミ大尉はジョイフル大佐の頭にスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを押し付けながらガキデカント中将の正面に立った。
「なんの騒ぎだね、もう少ししたら行こうと思ってたんだ」
「私は南方方面軍第1軍第8師団のナナミ大尉なの。毒殺される所だったの」
「どういうことだ? ジョイフル大佐、説明したまえ」
「はっ、今回の件は私の独断で行いました。南方方面軍は我々を戦いに巻き込もうとしています。我々にはこの資源地帯を守る責務があります。各種金属、ユモトン、エナーシュ、メッシュ(水)の産出を守っているのです。もしこの資源地帯が第1政府に占領されれば連合政府は干上がります。重要な役割なのです。ですから今回の話を潰すために毒殺を目論見ました」
「第1政府を倒せば占領される事もないの。南方方面軍も北方方面軍も同じ連合政府なの。協力すべきなの。ガキデカント中将、ファントム中将からのメッセージを渡します」
ナナミ大尉はガキデカント中将の席まで歩き、メッセージカプセルを渡した。ガキデカント中将は脳波を使ってメッセージカプセル読み始めた。
「なるほど、10個師団の支援要請か。アサルトライフル20万丁は魅力的だな。我が北方方面軍は物理攻撃兵器を持っていない。アサルトライフルは第1政府の『MM-01』より遥かに強力だと聞いている」
「アサルトライフルのサンプルを3丁持ってきたの。迫撃砲と榴弾砲は映像を持ってきたの」
ガキデカント中将は受話器を取るとしゃべり始めた。
「ガキデカントだ。至急長官室に来るようコーナン大尉に伝えてくれ。至急だ。それと警備兵を5個体よこしてくれ。ジョイフル大佐を営倉に入れて欲しい」
ガキデカント中将は電話を切った。
「ジョイフル大佐、処分は追って伝える。営倉で謹慎したまえ」
「はっ、しかし私の考えも理解していただきたいです。北方方面軍は戦いに巻き込まれてはいけません」
「ジョイフル大佐、あなたに質問があるの」
ナナミ大尉がジョイフル大佐を見つめた。
「なんだね」
「ジョーシン中尉は毒の事を知ってたの?」
「いや、彼には睡眠薬だと伝えていた。貴方達を眠らせるのだと」
「ジョイフル大佐、あなたは士官には向かないの。役割を変えた方がいいの」
ジョイフル大佐は警備兵達に連行されて行った。
「ナナミ大尉、申し訳なかった。座ってくれたまえ」
ナナミ大尉は机の前の椅子に座った。
「まさか毒殺されるとは予想してなかったの。バグルンを止める方法は無いの。だからバグルンは恐ろしいの。それにしても南方方面軍と北方方面軍がここまで仲が悪いとは思わなかったの」
「連合政府は幾つもの戦争中の政府を無理やり取り込んだから仕方ないのだ。しかし南方方面軍は物理攻撃兵器を沢山保有しているな。開発力が凄い」
「もとは地球の兵器なの。それをコピー生産してるの」
「地球か。噂には聞いている。南方方面軍では地球のものが流行ってるらしいな。それにナナミ大尉は地球人の姿なのかね? だとしたら地球人の姿を初めて見た事になる」
「南方方面軍では師団長も地球人に変身しているの。ファントム閣下も地球人の姿なの」
「うむ。北方と南方では。かなり文化も違って来ているようだな」
ドアがノックされ、士官が部屋に入って来た。士官はナナミ大尉の横に来ると挨拶をした。
「コーナン大尉です」
「コーナン大尉、今日から君が私の副官をやってくれ。君は優秀な個体だ。残念だがジョイフル大佐は軍を去ることになるだろう。詳しい事は後ほど話す。今日はナナミ大尉の話を聞いて欲しいのだ」
ガキデカント中将はファントム中将のメッセージの内容をコーナン大尉に説明した。
「アサルトライフルには興味があります! 北方方面軍には銃がありません」
コーナン大尉が興奮して話した。
「シャーク軍曹、ホバーにあるアサルトライフを持ってくるの」
ナナミ大尉はシャーク軍曹に命令した。シャーク軍曹が戻って来るまでの間ナナミ大尉は南方方面軍の戦況について説明した。
「ギャンゴは北方方面には現れません。岩場が行動しにくいからでしょう。前の政府にいた時は南方方面に住んだこともあるので話はよく聞きましたが実物を見たことはありません。しかしナナミ大尉の左胸の徽章は凄いですね。通常のレンジャー、山岳レンジャー、格闘教官徽章、、攻撃脳波超上級者徽章にギャンゴキルマーク。ゴールドの格闘教官徽章は初めて見ました。さすがムスファです。南方方面では連合政府が攻勢に出てるようですがその要因はなんですか? 1年前までは第1政府は凄い勢いで12の政府を倒して支配してました」
「直接の原因は物理兵器の性能の差なの。それに南方方面軍もやっと纏まってきたの。士気も高くなってるの。背景には地球の文化の導入があるの。食事や音楽なの。皆少しづつ感情を持ち始めたの」
シャーク軍曹がアサルトライフル3丁を持って戻って来た。
「射撃場はありませんが演習場があります。是非試してみたいでです」
演習場は駐屯地に併設した広い場所だった。平らな地面は岩をどける苦労を想像させた。北方方面軍の兵士達がターゲット用のプラスチックの箱をいくつかを持って来ていた。MM378には樹木が殆ど存在しないため、木製品や紙は存在しない。大抵のものは合成樹脂で出来ていた。ナナミ大尉が50m先に設置された箱に狙いをつけてセミオートで5発撃った。銃声が演習場に響いた。プラスチックの箱は弾丸を受ける毎に破片を飛ばした。
「コーナン大尉も撃ってみるの」
ナナミ大尉がコーナン大尉に促した。
「はい」
「ダーン、ダーン・・・・・・」
コーナン大尉がセミオートで5発撃った。
「おお、これが物理攻撃兵器ですか。興味深いです」
「フルオートで撃ってみるといいの。セレクターレバーを『FULL』にするの」
コーナン大尉はセレクターレバーを切り替えてトリガーを引いた。
『ダダダダダダダダダダダダダダ—―――――ン』
銃声が演習場に響き、プラスチックの箱が砕け散った。コーナン大尉が驚いた顔をしている。
「これはいい! 脳波と併用すれば戦い方が変わります」
「南方方面軍はこの銃を50万個体が装備してるの」
「それは凄い! 第1政府に対して優位に戦ってると聞いていますが、この銃の性能なら納得です。第1政府の銃は一発撃つごとに弾を込めると聞きましたがこの銃は連発して撃てます」
「第1政府もこの銃を鹵獲してコピーを作り始めたの。シャーク軍曹、コーナン大尉に銃の操作を指導するの。私は散策してくるの」
「はい、わかりました」
ナナミ大尉は駐屯地内を散策した。腕にゲスト用の腕章を付けているが地球人の姿なのですれ違う兵士達が驚いている。スカート姿も目立っている。北方方面軍の兵士達が着ている戦闘服の色は灰色だった。大地の色に合わせているのだろう。南方方面軍の戦闘服はオレンジブラウンだ。途中に通ったグラウンドでは兵士達が格闘訓練を行っていた。ナナミ大尉は立ち止まって訓練の様子を見た。基本動作の訓練は動きが揃っていた。やがて組手が始まった。寸止めルールのようだ。突きやパンチが主体で蹴り技は少ない。ナナミ大尉は30分程見学してその場を後にした。カマボコ型の兵舎が沢山並んでいた。下士官と兵士達がここで寝起きしているのだ。
「おい、お前どこの部隊だ」
大きな声がした。ナナミ大尉が振り返ると8個体の兵士達がいた。
「南方方面軍なの」
「なんだと、その姿は何だ!」
「地球人に変身してるの」
8個体の兵士達がナナミ大尉を囲んだ。兵士達は下士官と兵だった。
「南方方面軍に地球人だと? ふざけてるのか!」
「真面目なの。用事があって来てるの」
「おいっ、大尉の階級章だ」
他の兵士がナナミ大尉の階級章に気が付いた。
「大尉? 本当かよ、でも南方方面軍だ、関係ねえよ。変な格好だし」
「同じ連合政府軍だ。ゲストの腕章も着けてる。まずいぞ」
「北方方面軍の兵士は礼儀を知らないんだね。でも、田舎者だからしょうがないのか。田舎の臭いがプンプンするの。臭いの」
ナナミ大尉は相手を挑発するように言った。
「なんだと! 舐めてるのか! 本当に大尉なのか?」
「バカの相手は疲れるの。おまけに田舎者なの。そろいも揃ってケツの穴みたいな顔なの」
ナナミ大尉は前線で生活する中、飛び交う汚い『兵隊言葉』の影響で言葉が汚くなっていた。そもそもMM星人にケツの穴は無い。
「田舎者だと、許せん! 叩きのめしてやる」
兵士はナナミ大尉に殴りかかった。ナナミ大尉は兵士のパンチを躱すと膝蹴りを腹に打ち込んだ。
「ゲホッ!」
兵士は体を『く』の字にして前に倒れた。
「バカみたいなの。弱いの。屁のツッパリにもならないの。ビチクソなの」
「カルビ軍曹殿、大丈夫ですか? くそーやっちまえ!」
兵士達がナナミ大尉に襲い掛かった。ナナミ大尉は一人目の兵士をカウンターの左ストレートで、二人目は右前蹴りで倒した。他の兵士達の動きが止まった。ナナミ大尉は頭に5回衝撃を感じた。ポングだ。しかし大きなダメージは無かった。ナナミ大尉は連続でポングを発射して反撃した。致死ダメージ以下の出力だ。5個体の兵士がその場に崩れ落ちた。
「おっ、お前は何者だ!」
カルビ軍曹が叫んだ。その顔は怯えている。
「南方方面軍第1軍第8師団のナナミ大尉なの。正式名は『ムスファ・イーキニヒル・ナナミジョージフランクアマノ』なの」
「ムスファ!?」
カルビ軍曹は驚いていた。ムスファは聞いたことはあるが見たことがない。北方方面軍全体で2個体しか存在しない。
「人を待たせてるから帰るの。貴方達の強さが分かったの。今のままじゃ第1政府には勝てないの。規律も乱れてるの。ケツの穴なの」
「これでも俺達は精鋭部隊なんだ、あんたが強すぎるんだ! むちゃくちゃだ。ケツの穴ってなんなんだ?」
カルビ軍曹は吐き捨てるように言った。
「格闘術も脳波攻撃も弱すぎるの。南方方面軍に来て訓練したほうがいいの。私は格闘教官をやってるの。レジスタンスのキャンプに来れば指導してあげるの。それと今後は知らない相手には絡まない方がいいの。『君子ウキウキに近寄らず、飛んで火に入るケツの虫なの』」
「感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってるの!!」




