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Chapter24 「決戦準備 南方方面軍作戦会議」 【MM378】

Chapter24 「決戦準備 南方方面軍作戦会議」 【MM378】


 第1政府の特殊部隊『ブラックシャドウ』を殲滅してから6ヵ月がたったが前線は30Kmしか前進していない。マコイシーノまで90Kmの距離だった。第1政府もアサルトライフルを大量配備したので戦線が膠着していた。また、第1政府はガンビロンを頻繁に使うようになったので連合政府軍もうかつに進軍できないのである。 

情報士官のキリシマ大尉がスクリーンに映された地図を使って説明している。  

「第1政府はマコイシーノの南50Km~80Kmの間のヒロミゴー平原に大規模陣地を構築しているようです。おそらく決戦を覚悟しているのでしょう。50個師団、80万個体を投入するものと思われます」

情報士官のキリシマ大尉が第1政府の状況を報告した。偵察や潜入員、第1政府から転軍した士官の情報を基に推測した内容だった。

「50個師団か。第1政府の全兵力の3分の1だな。軍令本部や参謀本部はどうするつもりなのかね」

南方方面軍軍団長のファントム中将が質問する。

「はい、参謀本部の作戦では我が方は30個師団の50万個体を投入する予定です。決戦の時期は4カ月後を想定しています。それまでは準備期間です」

「数の上では不利だな。敵は1.5倍だ。しかも敵は守備で我が方は攻める側だ、厳しい数字だな」


 第1政府に所属するMM星人は4億個体、正規軍の兵員数は200万個体である。連合政府に所属するMM星人は10億個体だが兵員数は120万個体となっている。連合政府は人口こそ多いが、軍隊を持たない弱小政府も取り込んだ為、兵員数は第1政府より少なくなっている。

「はい、しかし我が方は榴弾砲300門、迫撃砲1000門、戦車砲塔を搭載した戦闘用ホバーを400機投入します。4ヵ月間砲撃訓練を行った砲兵4個大隊です。第1政府は大砲は持っていないと思われます」

「砲兵部隊に期待するか。第1政府のアサルトライフルの配備状況は?」

ファントム中将が質問する。

「はい、80万個体の内、30万個体が装備していると思われます。残りの50万個体は単発『MM-01』です。一方我が方は全個体の50万個体がアサルトライフルを装備しています。しかし今年度の割り当て資源を全て使ってしまっていますので増産は望めません」

「うむ。38個の政府を合わせた資源ももう無いのか。今ある兵器で戦うしかないだろう」

「やっかいなのが第1政府のガンビロンです。第1政府はガンビロン用脳波を発射できる兵士を育成し、その数は5000個体と予想されます。増幅装置のマークマックスは100台装備しているようです。ただしガンビロン脳波を発射できる兵士は、発射時命を失うようです」

キリシマ大尉の報告は誰も想像していない内容だった。

「ガンビロンか。シールド装置で防ぐしかないだろうな」

「ガンビロン脳波を発射できる兵士を残り4カ月で育成してはどうでしょうか? 研究所でガンビロン習得プログラムが完成したと聞いています。マークマックスと同等脳波増幅装置も試作機が完成したそうです」

ナナミ大尉が発言した。ナナミ大尉は研究所のマッド主任研究員と連絡を取っており、ガンビロン開発の最新状況を掴んでいるのだ。

「それは本当か?」

「ナナミ大尉の言う事は本当です。私も研究所から連絡を受けました」

キリシマ大尉が補足した。

「我が方で開発しているガンビロンは発射した兵士が死亡することはありません。私の脳を解析して作られた物です。ガンビロン用脳波発射の取得は3ヵ月とのことです。ガンビロン用脳波を発射できる兵士を3000名育成することが可能かと思います。私も育成プロジェクトに協力します」

ナナミ大尉はプランを提示した。

「ナナミ大尉は我が軍で唯一ガンビロン用脳波を発射できる個体だ。すぐにでも育成プロジェクトに参加してくれ! ガンビロンが決戦の勝敗の鍵なるかもしれん。ナナミ大尉、頼んだぞ!」

ファントム中将はナナミ大尉に軽く頭を下げた。

「はい、では脳波戦に強い兵士を3000個体、各師団より選抜して研究所に送って下さい。私はすぐに研究所に行って準備をします。それと私から意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」

「意見があるなら言ってくれ」


 「この戦いですが北方方面軍の協力は得られないのでしょうか? 北方方面軍はマコイシーノの北、1000kmに30個師団が駐屯しています。北方の資源地帯を守る事が主な任務で戦闘は行っていません。北方方面軍を東に迂回させて、北東からヒロミゴー平原に攻め込ませることができれば敵は2正面の防衛になるので我が方が有利になります。数的不利にも対応できます。10個師団でもかまいせん」

「うむ、それも考えたのだが我が南方方面軍と北方方面軍は仲が悪い。元になる政府が違うのだ。特に我が方の主体となる第2政府と北方方面軍の主体の第23政府は連合政府が確立する直前まで戦争状態だった。他にも戦争状態だった政府が我が方と北方方面軍に分かれているのだ。連合政府も一枚岩ではない。私は北方方面軍のガキデカント中将は苦手だ」

「閣下、ガキデカント中将に協力を要請するメッセージを作って下さい。私がそれを届けます。ガキデカント中将の説得も試みてみます。研究所にはその後に行きます」

「私にガキデカント軍団長にお願いしろと言うのかね?」

「ガキデカント中将は感情を持っていないはずです。北方方面には地球の食事も音楽もありません。ガキデカント中将は合理性を重要視しているはずです。ですから合理的な取引を持ちかけるのです」

「合理的な取引?」

「はい。アサルトライフル、榴弾砲、迫撃砲、戦闘用ホバーを半分提供するのです。北方方面軍は銃や大砲を持っていません。喉から手が出るほど欲しいはずです」

北方方面軍は北の資源地帯を守るのが主任務となっている。北方第1軍~第8軍からなる32個師団で構成されている。北方方面軍は物理攻撃兵器を持たず、脳波戦と白兵戦のみが戦闘手段だ。南方方面軍は第1軍~第12軍で48個師団で構成されている。現在戦線に出動しているのは第1軍~第3軍だ。

「だが北方方面軍が物理攻撃兵器を持てば我々の優位性が低下する。もし第1政府が倒れたら、南方方面軍と北方方面軍が主導権争いで戦うことになるかもしれないのだ。優位性は保ちたい」

「しかしその前に第1政府に負けては意味がありません。第1政府は数に勝ります。本作戦における第1政府の兵員数は我々の1.5倍。アサルトライフルも凄い勢いで生産してます。装備率が上がれば我々はどんどん不利になります。北方方面軍の協力が必要です。北方方面軍にはガンビロンのノウハウを渡さなければ優位性は保てると思います」

ナナミ大尉は危機感を訴えた。

「うーん、ガンビロンが切り札か」

「閣下、戦後のパワーバランスを考えるのは分かりますが、今は協力する時です。地球の歴史を参考にして下さい。第二次世界大戦のアメリカとソ連の関係が今の南方方面軍と北方方面軍の関係に似ています。まずは協力して第1政府を倒すのです。その過程で南方方面軍の強さを見せつけるのです。ガンビロンです。また、武器供与という貸しも作っておくのです。そうすれば戦後の主導権も握れます」

「まるでガンビロンが地球の第二次世界大戦の原爆みたいだな。地球の歴史は興味深い」

トージョー大佐が口を挟んだが、まさにその通りだった。

 

 地球から2回目の輸送が行われた。今回は食料が中心の輸送だった。これ以上の兵器調達は一宗教法人では難しいのだ。今回はアメリカのMZ会本部の渉外部長が同行していた。交易の話を進めるためだ。ナナミ大尉は久しぶりに峰岸と会った。

「七海さん、ご無事で何よりです。いよいよ決戦みたいですね」

「多分4カ月後なの。今回は何を運んできたの?」

「米、味噌汁、水、カップ麺、冷凍食品です。宇宙船に大型冷蔵庫を搭載して運んできました」

「連合政府でも冷凍倉庫や大型冷蔵庫が作られたみたいなの」

「前回来た時に冷蔵庫のサンプルと冷凍倉庫の設計図を渡したのです。冷凍食品は種類が豊富

です。冷凍ですが七海さんの好きなラーメンや鰻重もありますよ」

「素敵なの、峰岸さんはイケメンなの!」

ナナミ大尉は峰岸に敬礼した。

「ははは、七海さんもすっかり軍人ですね。ファントム閣下が七海さんの事を自慢してましたよ。最高の軍人だって」

「軍人は好きじゃないの。地球に戻りたいの」

「七海さん、そうして下さい。地球に戻るべきです。七海さんのモデル活動も続いてるようです」

「そうなの? 私がいないのにそんな事できるの?」

「水元さんと唐沢がうまいことやってます」

「タケルが? ねえタケルは元気なの?」

「元気です。七海さんを待ってます。ですから早く帰った方がいいです」

「決戦に勝ったら帰るつもりなの。でも決戦はかなり激しい戦いになるの。少し前に死にそうになったの。峰岸さんがくれた銃のおかげで助かったの。でも、生死の境をさ迷ったの。あの時、夢を見たの。海の夢だったの。日本でいう三途の川みたいな感じだったの。そこにはタケルがいたの。私はタケルを追いかけたの、そうしたら帰って来れたの」

「そうですか、無事でよかったです。きっと水元さんが守ってくれたのです」

「あの銃を10丁ほど欲しいの。私の部下達にも配りたいの」

「わかりました。今回はあまり武器を持って来ていないのですが、拳銃は沢山持って来てます。M629も30丁はあるはずです。明日にでもキャンプにお届けします」

「助かるの。5日後に北方の資源地帯に行くの。その後は研究所でガンビロンの訓練をするの」

「忙しいのですね。本当に大活躍だ」


 「峰岸さん、あの・・・・・・私、タケルに恋をしているかもしれないの。きっとしてるの」

「えっ、七海さん自分の気持ちに気が付いたのですね。いい事です。早く地球に帰りましょう」

峰岸は嬉しかった。なんとしても二人には幸せになって欲しいと思っている。

「でも、タケルには言わないで欲しいの。今度の決戦が終わるまでは命の保証がないの」

「七海さん、生きる事だけを考えて下さい。とにかく生きるのです! 何をしてもいいから生きるのです!」

峰岸はニューギニア戦線での溝口伍長の言葉を思い出していた。そして『糸』の事も。

「峰岸さん、前にMM星人と地球人が愛し合って結婚する例もあるって言ってたけど、本当なの?」

「本当です。殆どの場合がMM星人であることを隠したままですが、七海さんと水元さんは違います」

「でもタケルのお父さんやお母さんには本当の事は言えないの。それにタケルが私のことを愛しているのか気になるの」

「七海さん、私は地球人と結婚したことがあるのです」

「えっ? ほんとなの?」


『峰岸は『糸』との馴れ初めから結婚生活について七海に話した。ニューギニア戦線の事も、糸が空襲で死んだ事も』


「峰岸さんが可哀想なの。糸さんも可哀想なの・・・・・・」

ナナミ大尉はポロポロと涙をこぼした。峰岸は七海の優しさに心を打たれた。

「七海さんは本当に優しい。戦争なんかで死んではいけない!」

「戦争がなければ峰岸さんと糸さんは幸せになれたはずなの・・・・・・戦争は悲しみしか生まないの」ナナミ大尉は涙が止まらず、シクシクと泣いていた。

「MM星人と地球人は愛し合えるのです。私は幸せでした。本当に幸せでした」

「うんっ、私もタケルと幸せになりたいの」

「お二人なら大丈夫です。水元さんは待っています。七海さん、帰りましょう」

「私も早く地球に帰りたいの」


 ナナミ大尉は中型ホバーで6人の部下と北方方面軍の駐屯地があるサブチャンエンカ州を目指した。中型ホバーは1個小隊の64個体の搭乗が可能で、上昇限度は高度700m、最高速度は時速500Km、動力は反重力装置である。6人の部下は今回の北方方面軍訪問の為に特別に選ばれた優秀な兵士達であった。コードネームは『シルバーウルフ分隊』。通常、分隊は16個体で構成されるが、『シルバーウルフ分隊』は6個体で通常の1個分隊以上の戦闘力があった。シャーク軍曹もその中にいた。6個体はポピンズ曹長、シャーク軍曹、アーネスト上等兵、フィリオ上等兵、ピーター一等兵、ミルコ一等兵。全員がレンジャー徽章を胸に着けている。第1政府の防衛線を避ける為、東に大きく迂回したので2000Kmの距離を飛行することになる。中型ホバーは時速300Kmで高度400mを飛行した。ホバーの窓から見える景色は灰色の大地だった。

「大尉、シルバーウルフ分隊ってどういう意味がですか? ウルフって何ですか?」

アーネスト上等兵が訊いた。

「ウルフは『狼』という地球の生き物なの。集団で戦うの戦闘的な生き物なの。地球にいる時、タケルに買ってもらった『動物図鑑』で見てカッコ良かったからこの部隊の名前にしたの」

「ほう、銀色の戦闘的な生物ですか。カッコイイですね」

アーネスト上等兵が納得するように言った。

「ナナミ大尉、北方方面は地面の色が南方とは違って灰色ですね」

ミルコ一等兵がナナミ大尉に話しかけた。

「そうなの。昔、山岳訓練で来た事があるの。南方方面の茶色の大地と違って灰色の岩だらけなの」

「大尉、あと3時間でワイルドスギチャン高原の北方方面軍駐屯地に到着します。着陸時には注意が必要です。同じ連合政府軍といっても命令系統が違い、我々南方方面軍を敵視している者も多いようです」

操縦士が報告した。

「分かってるの。でもヒロミゴー平原の決戦では北方方面軍の協力が不可欠なの。だからファントム軍団長のメッセ―ジを届けるの。不測の事態に備えて暗号コードを考えたから覚えて欲しいの。なるべく平和的に進めたいの。でも腰に着けたM629はいつでも抜けるようにしておくの」

暗号コードはアルファ1~3、ブラボー1~3、チャーリー1~3、デルタ1~3。Aは銃撃、Bは格闘、Cは脳波攻撃 Dは何でもあり。1は殲滅、2は半数を殺戮して半数を無力化、3は無力化(殺すのはNG)。例えばA1は銃撃による殲滅。C3は脳波攻撃による無力化となる。ナナミ大尉は峰岸にお願いして手に入れたスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを部下達に配っていた。

「ナナミ大尉、この拳銃は素晴らしいです。物理攻撃兵器がこんなにコンパクトになるんですね。アサルトライフルもいいのですが、このM629はカッコイイです。銀色でピカピカに光ってます。ナナミ大尉の部下になった個体しか持てないと聞きました。これを腰に装着していればナナミ大尉と一緒に戦った証になります」

ポピンズ曹長はM629ステンレス4インチが気に入ったようだ。

「お守りみたいなものなの。でも私はこのM629のおかげで命を拾ったの」

「ナナミ大尉のM629は側面に地球の文字を彫ってあるようですが何の文字ですか?」

「『鰻重』なの。地球の食べ物なの。手の込んだ美味しい食べ物なの。味噌汁の何百倍もおいしいの」

「えっ、味噌汁より遥かに美味しいのですか、私は白米と味噌汁が大好きです。我々MM星人は味わうという事を知りませんでした。食事は栄養補給のための行為でした。でも地球の食事は違うのです。一度知ってしまうともうエナーシュだけの生活には戻れません」

アーネスト上等兵が驚いている。

「ナナミ大尉、美味しいものを食べればナナミ大尉のように強くなれるのですか? 私は強くなりたいです。感情を持てば強くなれるのですか?」

シャーク軍曹が質問した。

「逆なの。感情を持つと兵士としては弱くなるの。戦う事に疑問を感じるようになるの。でもそれでいいの。代わりにもっと大事なものを見つけるの。シャーク軍曹はなんのために強くなりたいの?」

「はっ、役割のために強くなりたいのです」

「誰が決めた役割なの?」

「政府です」

「役割は自分で見つけた方がいいの。感情を持つと自分を見つめるようになるの。そして本当にやりたい事を探すの」



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