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Chapter23 「銃撃戦」 【地球】

Chapter23 「銃撃戦」 【地球】


 ユモ式トレーニングと裏メニューのユモコンバットを初めて3ヵ月がたっていた。腕立て伏せもスクワットも80回の3セットを超えていた。懸垂も10回以上できるようになった。ユモさんの言うように人間の体は不思議だ。鍛えれば鍛えるほど回数が増えていった。体つきも少し変わった。胸と肩に筋肉が付き、お腹は凹んできた。佐山さやかとは週に1~2回MZ会の施設に通って射撃と格闘訓練を行った。佐山さやかは飲み込みが早く、射撃の腕をメキメキと上げていった。私は射撃場の横の休憩室で佐山さやかと話していた。

「水元さん、部屋中がBB弾だらけになって掃除が大変です。それにエアガン撃ってるのを両親にバレちゃって心配されてるんです。ガスガンってバスン、バスンって結構音がするんですよね」

「まあ娘がいきなり部屋でエアガンをガンガン撃つようになったら心配するだろうな」

「私の趣味はお菓子作りでした。休日は母とクッキーを焼いて、紅茶を飲みながら家族で食べてました」

「うーん、お嬢様っぽい趣味だったんだな。それが今では部屋でエアガン撃ってるのか。そりゃ両親も心配するだろ」

「でも銃の扱いはだいぶ慣れました。寝る前にベッドの中でもエアガンを触ってます。朝起きたら枕の下のエアガンを素早く構える練習をしてます。分解した銃を目をつぶって組み立てられるように練習しています」

佐山さやかは本当に努力家だ。怖いくらいだ。

「実銃の腕も上がってるみたいだな」

「はい、銃声や反動が怖く無くなりました。連射すると気持ちいいです」

私と佐山さやかは射撃場で射撃をした。セミオートショットガンを連射する佐山さやかの姿はカッコよかった。オリーブドラブのカーゴパンツに同じ色のミリタリーシャツ。服装がミリタリーチックになっている。アラフォーだが顔も可愛く、体もミニグラマーの佐山さやかは魅力的だ。レズビアンでなければイイ男をゲットしているであろう。


 「水元さん、どっからでも掛かって来て下さい」

私と佐山さやかは格闘技場に移動して実戦的なスパーリングを開始した。私は左ジャブをフェイントにして右カーフキックを佐山さやかの『ふくらはぎ』に打ち込んだ。今日から『ユモコンバット』の技を試すことにした。

「痛ッ! 」

佐山さやかはしゃがみ込んだ。

「水元さん、痛いです、痛くて立てません。空手ですか? 痛い」

「いや、ユモコンバットだ」

「なんですかそれ?」

前回のスパーリングでは佐山さやかに完敗したが今回はユモ式トレーニングとユモコンバットの効果が出たようだ。ユモコンバットはユモさんが考えた実戦的な、攻撃を主体にした護身術だ。

「ユモさんが考えた護身術だ」

「ユモさんってPMOのユモさんですか? 社内報の肉体改造企画で話題になりましたけど、格闘技もやってたんですか? 不思議な人ですよね」

「そうだ、筋トレを習ってたら護身術も教えてくれたんだ。何処を目指してるのか分からない不思議な人だけど凄い人だよ」

ユモさんは不思議な人だった。朝は始業前ギリギリに出社して帰りは業務終了の17:30分と同時に立ち上がって退社していった。昼休みは姿が見えない。忘年会などの行事に参加することも無い。会議でも殆ど発言しないが、たまにする質問は出席者に水を浴びせかけるような鋭い質問だった。設計書などの雛形やサンプルを作成して社内に配布していた。前職は外資系のシンクタンクにいたという噂だ。

「なんか面白そうですね。水元さん、私とスパーリングしませんか?」

花形が私と佐山さやかの会話に興味を持ったようだ。

「花形さんには勝てないよ。まだ始めて3ヵ月だし」

「じゃあこの前みたいに私は攻撃しませんからどんどん攻撃して下さい」


 私と花形は向かい合った。私は右ローキックを花形の太ももに打ち込んだ。

「ウホッ、結構強烈ですね。脛を鍛えてますね、マジで痛いですよ」

「ああ、袋に砂利を入れて毎日蹴ってるんだ。バットも蹴ってる。不思議なもんで、最初は袋にコツンとあたるだけでも飛び上がるほど痛かったけど、今は袋を思いっきり蹴っても痛くないんだよ」

私はユモ式ジャンピング・スピンキックを放った。右膝を腰に位置まで上げ踵の尻につけるように固定して、左に半回転して体ごとぶつけるようにしてジャンプした。花形の脇腹に私の右踵が食い込んだ。

「うぐっ、効きますね、回転の遠心力と体重のエネルギーが固定した踵に集まって打撃のエネルギーになってます。予想しにくい動きなので不意打ちにはいいかもしれません。私も練習してみますよ。ほかにどんな技があるんですか?」

「喉突きと貫き手目潰しだな。指も鍛えてるんだ」

「それって護身術じゃありませんよ。特殊部隊の殺人技です。誰に教わったんですか?」

「会社の先輩だよ。本当に危ない時以外は使うなって言われたよ」

ユモコンバットは意外と使えそうだ。しかし危険すぎてローキックとカーフキック以外は普段使えない。とにかくこの3ヵ月間は自重トレーニングと並行して脛、拳、指を徹底的に鍛えた。

体のパーツを武器に変えるのもユモコンバットのメニューだった。そのための方法や、道具の作り方も教わった。主に砂利を詰めた袋や拳を鍛えるハンマーを使用した。


 私と佐山さやかは射撃場に戻って締めくくりの射撃訓練をしていた。30発ほど撃って帰ろうと思っていた。私はM19コンバットマグナムを撃った。家に唐沢が持ってきたM19コンバットマグナムを隠してあるので、この銃に慣れたかった。佐山さやかはSIG-P226を撃っている。射撃場のターゲットは左右に移動するだけではなく、ランダムに人型のターゲットが現れて実戦的だった。インターバルの時間に佐山さやかに話しかけた」

「佐山さんは最近SIG-P226ばっかり撃ってるね」

「はい。エアガンもSIG-P226を一番撃ってます。常に体から離さずに持ってるのもSIG-P226です。なんかしっくり馴染むんですよ。ベレッタ92もいいですけどSIG-P226の方が手に馴染むんです。グロックは握りが合いませんし、トリガーセーフティーとハンマーの無いストライカー方式が苦手です。やっぱりハンマーはあった方がいいです」

佐山さやかはすっかり銃マニアになっていた。


『館内放送です。レベル5(ファイブ)の来客です。各位持ち場について待機して下さい。レベル5(ファイブ)の来客です。接客担当者はお出迎えの準備をして下さい。レベル5(ファイブ)の来客です。各位持ち場について待機して下さい。レベル5(ファイブ)の来客です。接客担当者はお出迎えの準備をして下さい』


女性の合成音の声が響いた。

「水元さん、佐山さん、ついて来て下さい。銃はそのまま持って来て下さい。できれば弾の予備も」

「花形さん、どうしたんだよ? なんだこの放送?」

「敵襲です。レベル5(ファイブ)ですから武装してます。おそらく地球征服派の攻撃です」

「えっ、敵襲? 武装?」

私は357マグナム弾をCWU36Pフライトジャケットのポケットに入れた。私と佐山さやかは花形の後に続いた。

「エレベーターは止まってます。階段で上がります」

私達は階段を早足で昇った。4フロア分は昇っただろう。射撃場は地下1階だから今は地上4階だ。私はM19コンバットマグナムを持っていた。予備の357マグナム弾を6発ポケットに入れてきた。佐山さやかはSIGP-226を持っている。さっき弾倉を交換したばかりだから15発装弾されているはずだ。

「こっちです」

花形が4階の廊下を歩きだし、突き当りのドアを開けた。広い会議室だった。白い机がセミナー会場のように沢山並んでいた。

「ここに隠れていて下さい。私が来るまで絶対に出ないで下さい」

花形は脇に吊るしたショルダーホルスターからコルトガバメントを素早く抜くと廊下を階段の方へ戻って行った。慣れた動作は花形の実戦経験を伺わせる。


 『パーン』 『パン、パン』

銃声が遠くから聞こえた。

「水元さん、どうなってるんですか?」

佐山さやかは不安そうに言った。私も不安だった。なんだこの状況? 冷静になれ。

私は会議室のドアを閉めて錠を内側からロックした。

「佐山さん、部屋の隅に行って机の陰に伏せるんだ。俺はここで様子を伺う」

「水元さん、怖いです!」

佐山さやかは泣き出しそうな声だ。私も怖かった。地球征服派の襲撃ということはMM星人か? 考えると膝が震えた。

「水元さんも一緒に来て下さい!」

佐山さやかが私の腕を引っ張った。

「いいから隠れるんだ!」

銃声が2発聞こえた。さっきより近い。廊下を走る靴音も聞こえる。やばい、こんな所で死にたくない。神様~~~。膝がガクガ震え出した。心臓が激しく鼓動する。怖えええええ。怖ええよーーーー。恐怖で腰が抜けそうだ。

「怖いです! 怖いんです! こんな所来なければよかった」

佐山さやかが床にへたり込んだ。

「撃ち合いになったら迷わず撃つんだ。死にたくなかったら撃つんだ! 佐山さん、そのために訓練したんだろ!」

私は佐山さやかを怒鳴りつけていた。不思議と恐怖心が消えた。誰のエッセイだったか、『怖い時は、自分より怖がってるやつを探せ。そしてそいつに喝を入れろ。そうすれば恐怖が消える』。

読んで感心した話だった。怖い時は自分より怖がってるやつを見ると元気付けたくなる・・・・・・思い出した、学生運動の話だった。著者は新宿で、大勢の機動隊員と対峙したとき恐ろしくて足が竦んだが、隣で自分より怖がってビビってるヤツをみたら元気付けたくなってそいつに喝を入れたら恐怖心が消えて機動隊に突撃できたという話だった。

「無理です、怖くて体が動きません」

「七海に会いたくないのか! コチョコチョするんだろ!!!」

「はっ、はい! そうです、七海ちゃんにコチョコチョです!」

「そうだ。七海にコチョコチョして首筋の匂いをクンカクンカだろ、早く部屋の隅に行って伏せろ! 部屋に誰か入って来たら迷わずぶっ放せ!」

佐山さやかは部屋の奥へ走って行って伏せた。

突然ドアノブのレバーがガチャガチャ音を立てた。ヒイイイイイイーーーー。私は飛ぶようにしてドアの前から横に移動してドアに銃身を向けて構えた。心臓がバクバクしている。大げさではなく本当に腰が抜けそうだ。

『パン、パン、パン』『バン、バン』

ドアのすぐ外で銃声がした。

『ガチーーン』

ドアノブが大きな音をたててレバーが下に動いた。ドアがスーと開いた。えっ、えっ、鍵は?

一人の男が部屋に入って来ようとしていた。スローモーションのように映像が遅くなった。男は前を向いてドアを開けながら入ってくる。男の顔は昔のイケメン俳優にそっくりだった。誰だか思い出せない。右手に拳銃を持っている、オートマチックだ。自分の心臓の音以外聞こえない。映像はまだスローモーションだ。私はトリガーに掛けた指を引こうとした。手がカクガク震えて正確な狙いをつけられない。私はただのサラリーマンだ。銃撃戦とは無縁の世界に生きて来た。なぜか一瞬、小さい頃の事を思い出した。5歳くらいか? あの頃に戻りたい。

「パン! パン! パン! パン! パン! パン! 」

会議室の奥から銃声が響いた。私は反射的に後ろを振り返った。佐山さやかが立ち上がってSIG-P226を構えて発砲していた。連射だ。マズルフラッシュが眩しい。映像が等倍速に戻った。ドアの方を見ると半分開いたドアにいくつもの火花が散り、ドアの白い塗料が弾け飛んでいる。銃声はまだ鳴っている。男も佐山さやかのいる方向に銃を連続して発砲した。佐山さやかの後ろの窓ガラスが激しく音をたてて割れる。私もトリガーを夢中で引いた。轟音と共にM19コンバットマグナムが跳ね上がる。2発、3発、4発撃った。

男の鎖骨のあたりから青い液体が吹き出して男は後ろにひっくり返った。静かになった。カチカチという音が聞こえる。佐山さやかが引き金を引き続けていた。全弾15発を撃ち切ったのに気付づいていないようだ。

「佐山さん、もう大丈夫だ!」

佐山さやかは引き金を引くのを止めた。私はドアに駆け寄った。仰向けに倒れた男が鎖骨のあたりを押さえて呻き声をあげている。動けないようだ。佐山さやかが銃を捨てると走って来て私に抱き付いた。泣いている。怖かったのだろう。私は佐山さやかを抱きしめた。

「もう大丈夫だ」

「うん、うん」

佐山さやかは震えている。

「水元さん! 佐山さん!」

花形は部屋に飛び込んできて、倒れている男の頭を思い切り蹴った。

「すみません! 下にいた奴らに手こずりました。怪我はないですか?」

「大丈夫だ。佐山さんが撃ったんだ。おかげで助かった」

「凄いですね、全弾撃ったんですか」

花形が感心してる。

「はいっ、怖かったですけど、訓練の成果かもしれません」

「大したもんだよ、俺なんて佐山さんが撃つまでトリガーを引けなかったよ」

私はまだ足が震えていた。


 私と佐山さやかは射撃場の横の休憩ルームで解放されるのを待った。私は久しぶりにタバコを吸った。禁煙しているが、どうしても我慢できない時に吸えるようにリュックの中に封を切ってないタバコを一箱入れてあるのだ。銘柄は『セブンスター』だ。100円ライターも入れてある。休憩ルームは喫煙OKだった。タバコが妙に美味しく感じた。生きている実感がした。

「佐山さんは勇気があるな。凄い連射だったよ」

「いえ、全部撃ってスライドストップが掛かっても引き金を引き続けてました、恥ずかしいです」

「SIG-P226は総弾数15発だ。銃撃戦には持ってこいの銃だな」

私は佐山さやかの連射を思い出していた。

「やっぱり連射性がオートマチックの強味ですね」

「ああ、でもリボルバーもいいぞ、きっとオートマチックだったら俺はあの状態で安全装置を外してスライド引いて装弾なんて動作は出来なかったよ。リボルバーだから反撃できたんだ。しかし良くあの状況で冷静にスライドを引けたな?」

「家でエアガンをずっと触ってたからです。テレビ見ながら安全装置外したりスライド引いたりマガジンチェンジの練習してました。だから自然と手が動きました」

「あの時に買ったエアガンが役に立ったんだな」

「それに、水元さんが怒鳴りつけてくれなければ怖くて動けなかったと思います。あれでシャキっとしました。七海ちゃんをコチョコチョも。とにかくありがとうございました」

「俺も怖かったんだよ」

「水元さん、七海ちゃんが水元さんを好きな理由が分かりました。うまく言えないですけど、水元さんと一緒にいると何か安心なんです」

「かいかぶりすぎだ。俺なんて頼りにならないよ」

「頼りにしてないのに頼りになるから安心なんです」

なんか微妙だった。

「佐山さん、七海が帰って来たらまた1ヵ月間一緒に住んでいいぞ、俺はまたウィークリーマンションにでも住むよ」

「40万円でしたよね」

「今日は佐山さんのおかげで命拾いしたんだ。タダでいいよ。俺の命は高いんだ、40万円だ」

「また七海ちゃんと住めるなんて嬉しいです」

佐山さやかが笑顔になった。

「すみません、お待たせしました、もう帰ってもらって結構です。車で送ります」


 花形から状況の説明を受けた。今日襲撃してきたのはやはりMZ会の地球征服派の工作員でMM星人だった。狙いはサーバールームだったらしい。観音崎の施設のサーバーのバックアップがこの施設にあり、今は日本支部の基幹システムがこの施設で稼働いているというのだ。襲撃してきたのは観音崎の施設を襲った連中の残党で8人。サーバールームに突入して強力な酸性の液体をボンベから噴射したが、事前にダミーのサーバールームを準備していたので本当のサーバールームには被害はなかったらしい。施設の警備担当10名と銃撃戦になり、8名は全員無力化されたとの事だ。私と佐山さやかのいた会議室に来たのは逃げようとした敵の工作員で、ドアノブはMM星人の力で捻り壊したようだ。工作員は全員無力化して捕らえ、重傷者はいたが死者はいないようだ。拳銃の弾丸ではMM星人に致命傷を与えるのは難しいのだ。会議室に来た工作員は私の撃った357マグナム弾を首の付近に受けたため重傷で、佐山さやかの撃った9mm弾も3発が腹部に命中していたらしい。マグナム弾は有効なようだ。今回の事件は警察には通報しないということだ。幸いにも私と佐山さやかの他には外部の人間はいなかった。施設の職員には地球人もいるが、口が堅いらしい。それだけ良い待遇なのだろう。



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