Chapter20 「恋愛と砲撃」 【MM378】
Chapter 20 「恋愛と砲撃」【MM378】
【キャンプ所長室】
「ナナミ大尉は強いな、先日の競技大会も見事だった、第8師団もこのキャンプの兵士達も盛り上がっていたよ」
「はっ、全力で戦いました」
「それに他の師団からの非公式な試合の申し込みも多いらしいな。まあ本来は軍規違反だが、キャンプの知名度が上がるので私は何も言わないよ。とにかく負けないでくれ」
「はい、試合なら相手を殺すこともないので気が楽です。戦場での格闘の目的は相手を殺すことなので試合とは使う技が変わってきます」
「なるほど。ところでナナミ大尉は地球人の女性の姿をしているが、何か拘りがあるかな、そもそもその姿は誰なんだ。地球の女優か歴史上の人物かな?」
「いえ、この姿はオリジナルです。地球人の知り合の男性が作った画像を基にしています」
「なるほど、興味深いな。私は最近地球の映画を観ている。そのせいで地球人の顔も見慣れて
きたよ。美男と美人の分類の基準も分かってきたよ。ナナミ大尉は美人だな。女優になってもいいくらいの容姿だ」
「ありがとうございます。大佐の『ロンメル将軍』の姿も似合ってます」
「嬉しいねえ、『砂漠の狐』という異名を持つ有能な将軍みたいだな。元帥にまでなった。最後は悲劇的な末路だったが、またそこがいいんだ。しかし容姿で周りの評価が変わるというのは地球の価値観は不思議だな。我々MM星人は、容姿は個体の識別に使うがそれ以上は何も感じない」
「地球人は生まれ持った容姿で周りの評価が変わります。特に基準があるわけではありませんが不思議と人気のある容姿は自然と決まるのです。地球人が容姿に拘るのは性別があるからだと思います。容姿がいい方がパートナーを得やすいようです。しかし努力でどうにかなるものではないのである意味残酷です。我々のように変身もできません」
「性別か。それもまた興味深いな。ナナミ大尉は女性の姿だな。その姿を作った知り合いは男性だったな」
「はい、男性です」
「ほう、それではパートナーになったのかな? 地球人は恋愛をするんだろ? 映画で見たよ。必ずと言っていいほど恋愛が出て来るな。私には分からない感情だ」
「いえ、パートナーではありません。私はMM星人なので性別はありませんし恋愛はしません」
「なるほど。でも知り合いの男性はナナミ大尉に恋愛をしてるのじゃないのかね?」
「いえっ、それは・・・・・・」
「まあいい、とにかく負けないでくれたまえ。このキャンプに南方方面軍で一番強い軍人がいるというだけでいい宣伝になる。私の方面軍会議での発言権が増えたよ。このキャンプで格闘訓練を受けたいという他の軍団からの問い合わせが増えてきている。会議でもよく聞かれるんだよ。このキャンプは一目置かれているのだ」
「はっ、負けぬよう頑張ります」
ナナミ大尉は一礼して所長室を出た。ナナミ大尉はドキドキしていた。自分とタケルはパートナーではない。しかし、いつまでたってもタケルの事が気になる自分の気持ちに自分でも驚いている。トージョー大佐が言うようにタケルは自分に恋愛をしてるのだろうかと考えた。もしそうだとしたら嬉しいと思った。そうであって欲しいと思った。思えば思うほどドキドキした。もしかしたら自分はタケルに恋愛をしているのかと考えて怖くなった。MM星人の自分が恋愛をするはずがない。しかもタケルは地球人だ。タケルへの想いは感謝だと思っていた。時間が経てば薄れるとも考えていた。何かの間違いだと自分に言い聞かせたが自分に嘘をついてるような気分になった。ナナミ大尉はタケルと別れた時の悲しさを思い出した。あの時、ポングで気絶しているタケルを峰岸の運転する車で部屋まで運んだのだ。ナナミ大尉は部屋を出る時、涙が止まらなかった。そして絶対にこの部屋に戻ってくると決意したのだった。
「ナナミ大尉、どうしたのですか?」
ジーク少尉がナナミ大尉に話しかけた。ナナミ大尉は営庭の隅のベンチに腰を下ろして考え込んでいた。
「考え事をしてたの」
「真剣な顔をしてました。それに悲しそうな顔でした。私も悲しいという感情が少し分かるようになってきました。地球の映画を観ていてウルーンが締め付けられるような感覚になるときがあります。あまりいい気分ではありません」
「悲しい感情も大事なの。悲しみがわかると優しくなれるの」
「感情は不思議ですね。大尉は何を考えていたのですか?」
「タケルの事なの」
「タケル? なんですかそれは?」
「地球人なの。優しいの。会いたくなるの。会いたくて仕方がないの。不思議なの」
「その地球人に何か大事な用事でもあるのですか?」
「違うの。用事はないの。でも会いたいの。恋愛かもしれないの」
「恋愛? ああ、地球の映画でよく出てきますね。私にはまったく理解できませんが」
「きっと理解するものじゃないの。理屈や理論じゃないの。気が付いたらそうなってしまっていたの」
「すみません、お力になれなくて。想像が出来ないのです」
「想像できるものでもないの。突然の怪我みたいな感じなの」
「怪我なら軍医に見てもらった方がいいのではないですか?」
「きっと薬や手術じゃ治せないの。嬉しかったり悲しかったり気分がコロコロ変わるの。胸が痛くなるの。でも大丈夫なの。気持ちを切り替えるの。今日は大砲のデモンストレーションなの。キャンプの外で地球から運んできた迫撃砲と榴弾砲を学ぶの」
「はい、興味深いです。銃とは違う兵器ですよね?」
「そうなの、脳波戦のポングストみたいな物理攻撃なの」
「私は地球から来ました。地球で生まれ、地球で育ったMM星人です。名前はジョンソンです。今日は迫撃砲と榴弾砲のデモンストレーションを実施します。よろしくお願いします」
ジョンソン指導官が挨拶をした。キャンプの兵士達が地球から来たMM星人に迫撃砲と榴弾砲の扱いのレクチャーを受けている。地球から来たMM星人60個体が迫撃砲と榴弾砲をセッティングした。迫撃砲は10門、榴弾砲は3門だ。
「今から射撃します。ここから西方向へ射撃します。迫撃砲は1Km、榴弾砲は5Km先に射撃します。ターゲットには塹壕陣地と簡単な建物とダミー人形をセットしてあります」
特別講習としてキャンプから3km離れた荒野で射撃のデモンストレーションを実施するのだ。キャンプの兵士300個体以上が見学している。東方向と南方向には街と味方の施設があるので何もない西方向に射撃を行う。
「今から撃つ迫撃砲は口径81mm、重量は43Kg、全長は84Cm、最大射程は5600m、発射速度は1分間に20発です。砲弾は炸裂弾、煙幕弾、照明弾などがあります。1門を5個体で運用し、砲は分解して持ち運ぶことが可能です」
「迫撃砲、第一射目、ヨーイ、撃て!」
ジョンソン指導官が叫んだ。兵士が上に向いた砲身の先からに砲弾を落とすように入れた。
『ボン』という迫撃砲独特の発射音が複数回響いた。撃砲は10門の一斉射撃である。キャンプの兵士達が西の方角を見ている。教官はストップウォッチを見ている。
「だんちゃーーーーく(弾着)、今!」
指導教官の大きな声が響いた。
1km先の荒野に土煙勢いよく上がった。
「おおっ」
「おおーーーー」
兵士達が声を上げた。
『ドドン、ドドドン、ドドン、ドン、ドン』
遅れて迫撃砲の炸裂音が聞こえた。砲撃は連続で第5射まで行った。
「つぎは5Km先に155mm榴弾砲を撃ちます。この砲の重量は4200Kg、長さは10.7m、最大射程は30Kmです。大きな音がします」
「榴弾砲、発射ヨーイ、撃て」
『ドーーン!!』 『ドーーン!!』 『ドーーン!!』
「うわっ!」
「おわっ!」
「凄い音だな」
「衝撃波が凄い」
キャンプの兵士達は発射音と衝撃波に驚いている。
「だんちゃーーーーーーく(弾着)、今!」
5km先の荒野に光と共に黒煙が勢いよく広がった。
『ドドーーン、ドーン、ドドーン』
低い爆発音が5Km先から伝わってきた。榴弾砲も5斉射で15発を発射した。
「今からターゲットに移動します」
兵達は時速40Kmの駆け足でターゲットに移動した。低速なので2足走行である。
迫撃砲のターゲットとなった塹壕陣地はダミー人形があちこちに転がっていた。砲弾の破片が刺さってるダミー人形が幾つもあった。
「迫撃砲は敵の個体に被害を及ぼします。砲弾は高く上がって真上から降るように着弾します。発射間隔が短いので、短期間に集中的に攻撃できます。お配りした資料に弾道の図がありますので参考にして下さい」
「うーん、これを撃たれたら歩兵はたまらんなあ」
「敵の突撃を止められますねえ」
「次の戦いで使いたいなあ」
キャンプの士官達が効果に感心している。
「次は榴弾砲のターゲットに移動します」
155mm榴弾砲のターゲットは塹壕と兵舎に見立てた建物だった。塹壕に大きなクレータのような穴が広がっていた。建物もほぼ全壊状態で、バラバラになったダミー人形の手足や胴体が何個体分も転がっている。
「榴弾砲は建物と塹壕を破壊し、歩兵を吹き飛ばします。最大射程距離は30Kmです。敵の陣地や建物に撃ち込みます。味方の突撃前に敵の陣地に撃つと効果的です」
「おおーーそれは凄い」
「これを大量に配備すれば凄い事になるぞ。敵にコピーされる前に大量に配備して使いたいな」
「頼もしい兵器ですね、大型ホバーに載せて移動させれば機動力もあがります」
軍団長のファントム中将と第8師団師団長のホーネット少将が感動している。
砲塔を積んだ中型ホバーが接近してきた。
「あのホバーには地球の戦車の砲塔が装備されてます。射撃を開始します。標的は大型ホバーとトーチカです」
『ドン!』 『ドン!』 『ドン!』 『ドン!』 『ドン!』
中型ホバーに装備された砲塔の120mm戦車砲が火を吹いた。ホバーは時速120Kmで移動しながら5発の戦車砲を撃った。標的の大型ホバーとトーチカが吹き飛んだ。
「おおーーあれはいいなあ! 敵の陣地まで乗り込んで砲撃できる。早く量産して第1軍に配備して欲しい」
ファントム中将は顔がほころんでいる。
「ナナミ大尉、地球の武器は興味深いですね、うちの部隊にも欲しいです」
ジャック少尉が目を輝かせている・
「原理は簡単なの、きっとすぐ量産できるの、そうなったら戦いが変わるの。早くこの戦争を終らせたいの。でも遠距離から一方的に物理攻撃するのはなんかズルい気がするの」
砲撃の後はブローニングM2 12.7mm重機関銃とミニミ機関銃のデモンストレーションも行われた。ダミー人形がバタバタと倒れた。迫撃砲と榴弾砲の操作方法についても簡単なレクチャーが行われ、迫撃砲はキャンプの兵士達も実際に撃ってみた。
「以上が迫撃砲、榴弾砲のデモンストレーションでした。この兵器で皆さんの戦いが有利になることを祈ります」
ジョンソン指導官が締めくくった。




