表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/61

Chapter18 「種籾」 【MM378】

Chapter18 「種籾」【MM378】


 ナナミ大尉は戦線に復帰した。厳し脳波戦と格闘戦と対ギャンゴ訓練を再開した。

ナナミ大尉はレジスタンスキャンプの所長室にいた。キャンプの責任者トージョー大佐に復帰の挨拶をしていた。トージョー大佐は地球人の『ロンメル将軍』の姿をしていた。

「回復して良かった。敵の特殊部隊『ブラックシャドウ』も倒したし、私もキャンプの責任者として鼻が高い」

「ありがとうございます。今回は危なかったです。ライトニングウォホーク少佐は強かったです」

「私も少佐の検死報告書を読んだよ。かなり大きな個体だった。戦歴も凄かったなあ。殆どが表に出ない戦歴だった。しかし80年前の第5政府との戦いでは単独で二つの中隊を壊滅させてるし、将校を35個体もポングによる狙撃で葬っている。まさに戦うために生まれて来た個体だ。ムスファなのも頷ける。まあ、ナナミ大尉も戦うために生まれて来た個体だがな」

「格闘戦では組み合ってしまい、力で抑え込まれました。もし、ガンビロンを使わなかったら私はここにいません。それに私は戦う為に生まれて来た訳ではありません。戦闘の適性は高いのでしょうが、これからは自分の生き方は自分で決めたいと思っています」

「なるほど。感情と自我を持つと自分の生き方を模索するのだな。このキャンプの個体も感情を持ち始めている。私もだ。少し不安でもあるが自然の流れなのだろうな」

「大佐も地球の食事や音楽を?」

「うん、それだけじゃない。映画も観てるよ。たしかにウルーンが頻繁に動くと感情が生まれる。しかし悪くない感じだ。美味しい食事をして、好きな音楽を聴いて、映画を観ると明日も頑張ろうっていう気分になる。生きる事が楽しくなる」

「はい、私もそうです。地球でそれを知りました。生きることは楽しいと。大佐は地球人に変身していますね」

「ああ、ファントム軍団長に勧められてね。あの方もすっかり地球のファンだ、地球人の俳優に変身していた。南方方面第一軍の将官達に地球人の画像を見せて変身を勧めているようだ」

「『ロンメル』将軍は地球でも優秀な将校として知られています。実在した人物です」

「うん、一番気に入った顔だったので変身したんだ。他の者に取られる前にな。おかげで興味が湧いて地球の歴史書を読んでるよ。地球は興味深い歴史と文化を持ってる」

「はい、MM378とはまったく逆ですね。何よりも地球人の食べ物にかける情熱が凄いです」

「白米や味噌汁も美味しいが、この前カップ麺を食べて驚いたよ。レトルト食品も美味かったなあ。次の勝利食が楽しみだ。それと連合政府の研究所からナナミ大尉に依頼が来ている。脳波の研究をしたいから協力して欲しいとの事だ。面倒だろうが出向いてくれ」


 ナナミ大尉は営庭の隅で兵士達の訓練を眺めていた。

「ナナミ大尉、復帰おめでとうございます。対ギャンゴ訓練は順調です。12.7mm徹甲炸裂弾も実戦で使われ始めました。『ドスギャンゴ』も一発で倒せます」

ジーク少尉が挨拶してきた。

「それはよかったの。明日から連合政府の研究所に行くの。引き続き留守を頼むの」

「はい。ナナミ大尉の復帰で兵士達の士気も上がっています。以前大尉が話していた、対ギャンゴ戦闘訓練競技大会をキャンプ内で開催します。タイムトライアルで競います。優勝者にはカップ麺5食が与えられます。皆訓練に熱が入っています。訓練を競技にするとはいい考えですね」

「地球ではスポーツとか競技が盛んなの。楽しんで取り組めるの。カップ麺5食は凄いの! ペユングがいいの!」

「あっ、いいことを思いついたの! 私も出場するの」

「大尉、それはダメです。大尉が出場したら優勝は間違いありません」

「残念なの・・・・・・あっ、いいことを思いついたの! ジーク少尉も競技に出るの。私が特別にレクチャーしてあげるの。ジーク少尉が優勝したらカップ麺を山分けするの」

「大尉、それもダメです。教官が参加したら意味がありません。そもそも大尉の発案で、兵士達のモチベーションを上げるのが目的ですよね。そんなにカップ麺が食べたいのですか?」

「食べたいの・・・・・・・あっ、いいことを思いついたの! 賞品のカップ麺は3個にするの。余った2個は私とジーク少尉で分けるの。競技の企画料なの」

「大尉、絶対ダメです! それじゃ泥棒です。次の勝利食まで待ちましょう」

「待てないの・・・・・・あっ、いいことを思いついたの! ギャンゴを倒したらカップ麺を貰えるようにするの。10頭倒したら10個貰えるの。皆の士気もあがるの。トージョー大佐に提案してみるの」

「そんな事をしたら大尉は訓練をすっぽかして朝から晩までギャンゴ狩りをするでしょうからきっとトージョー大佐は却下します」

「ギャンゴ狩りは命懸けなの・・・・・・ジーク少尉はイジワルなの」


 連合政府の研究所はキャンプから南へ1200Kmの街、『コリキチョー州のアンドレスタンハンセン』にあった。ナナミ大尉はホバーバイクに跨って街道を走った。都市や街を結ぶ街道は荒野を貫く直線だった。地上2mの高さを制限速度の時速400kmで移動した。ホバーの前面には透明な強化樹脂の風よけが取り付けられている。ホバーバイクは1個体が跨って乗るバイクスタイルのホバーである。上昇限度は500m、最高速度は時速700Km、動力は小型反重力装置である。街道を通行するホバーは少なく、地平線しか見えない単調な景色が続いた。空は青く、大きさの違う3つの恒星が輝いていた。気温は摂氏90度である。今日のナナミ大尉は連合政府軍の制服を着ていた。白い襟付きシャツに襟が濃紺のライトグレーのジャケットにネイビーブルーの短めのキュロットスカート、黒いロングブーツだった。腰にはスミス&ウェッソンM29ステンレス4インチを装着していた。ライトニングウォホーク少佐との対決以来、お守り代わりに身に着けている。あの時、スミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを持っていなかったらナナミ大尉は今頃この世にはいなかっただろう。銃撃によって僅かに稼いだ時間が生死を分けたのだ。


 研究所は広い敷地にあった。敷地の中には大きな建物が幾つもあるようだ。この研究所では最新技術の研究が行われている。兵器の研究開発も行っているのだ。ナナミ大尉はゲートで厳しいチェックを受けた後、第3研究棟に入り、受付ロビーのソファーに座った。ロビーは広く20個体くらいのMM星人がソファーに座わっていた。地球人の姿をしたナナミ大尉は目立っていた。

「初めまして、主任研究員のマッドです。遠い所を来ていただき、恐縮です」

白い繋ぎの服を着たMM星人が七海の前に現れた。

「レジスタンスキャンプで戦闘教官をしているナナミ大尉なの」

「噂は伺ってます。地球人の姿なのですぐにわかりました。地球に居たんですよね?」

「2年ほど地球にいたの」

「興味深いですね。研究所でも地球の食事は人気です。ぜひ地球の話を聞かせて下さい」

「わかったの。それでどんな協力をすればいいの?」

「ナナミ大尉の脳を、特に脳波に関する部分を分析させて下さい。攻撃用脳波の早期習得の研究です。ポングを民間人から入隊した兵士に手術すること無く取得させたいのです。その為の検査と分析です。それにガンビロン用の脳派も調べたいのです。時間は1週間程度になります」

「手術無しで? それは凄いの。でも、簡単に習得できるようになったら危険なの」

「もちろん軍人だけが対象です。取得期間の短縮と手術の簡易化が目的です」

攻撃用脳波はMM星人のテレパシー能力を軍事用に発展させたものだ。MM378の多くの政府の軍隊で、入隊すると攻撃用脳波を出力するため手術と訓練を実施する。『ポング』が使えるようになるまで3ヵ月を要する。今回の研究は手術をすることなく、薬物の投与と放射線の照射により短期間で攻撃用脳波を出力できるようにするためのものだ。


 ナナミ大尉は射撃場のような施設で用意された椅子に座っていた。マッド主任研究員と大勢のスタッフがいた。スタッフは皆白い繋ぎの服を着ていた。ナナミ大尉は頭には電極の付いたヘルメットを装着させられた。

「ナナミ大尉、あのターゲット測定器に向かって弱めのポングを発射して下さい」

ナナミ大尉は言われるままに20メートル先の人型のターゲット測定器に向かって弱めのポングを発射した。

「次は連続して弱めのポングを発射してもらえますか、なるべく速くお願いします」

ナナミ大尉は連続して弱いポングを発射した。

「おっ凄い、0.2秒間隔だ。信じられないな。一般の兵士は5秒です」

マッド研究員がモニターを見て驚いている。一般的な兵士は、弱いポングなら5秒間隔で発射できるがナナミ大尉は20倍以上のスピードだった。

「次はご自身の最大出力のポングをお願いします」

ナナミ大尉は深呼吸すると最大の出力でポングを発射した。

「凄い、165キロベクテレ! 一派の兵士は50キロベクテレです、その3倍ですよ」

「あまり自分では意識したことないの」

ポングの場合、20キロベクテレ以上がMM星人の致死ダメージだ。地球人なら10キロベクテレ以上が致死ダメージになる。

「次は強いポングを複数目標に向かって、なるべく速く連射して下さい。その前にこれを飲んで下さい」

ナナミ大尉はマッド研究員から2錠の錠剤を受け取って飲んだ。腕に着けた脳波測定計の数値が上昇する。錠剤は『シャブレーゼ』だ。脳波エネルギーを回復させる薬である。ナナミ大尉も戦場で何度も服用したことがある。脳波戦には欠かせない薬物であるが乱用は副作用の懸念もある。

20メートル先から50メートル先の空間に、人型のターゲットが床から植物が生えるように現れた。その数は40以上。

「脳波残量が200%を超えたの。撃つの」

ナナミ大尉は高出力のポングを複数目標に対して連続で発射した。

「さすがムスファですね! 発射数43発、平均発射間隔0.8秒、平均威力132キロベクテレです! 凄いです、ありえない数値です! 高出力のポングは一般の兵士なら発射間隔は30秒以上、10発が限界です」

「驚いたな、まるでマシンだ」

「ムスファってやっぱり凄いんですね、前に検査した第9政府のエースより遥かに凄いです」

「レジスタンスにも強い兵士がいるんだな」

研究所のスタッフからも驚きの声があがった。

「ナナミ大尉、お疲れ様でした。さっそく脳波を分析します。今日はこれで終わりです。宿泊施設でお休み下さい。明日以降は『ガンビロン』用脳波の検査になります、よろしくお願いします。「食事は摂られますか?」

「何があるの?」

「通常エナーシュと強壮エナーシュです。あと、地球から仕入れた食品もあります。白米、味噌汁、カップ麺、レトルトです。地球の水もあります」

「ペユングとレトルトの牛丼がいいの。水も欲しいの」

「はい、後ほど食堂に用意します。ペユングは美味しいですよね。前線ではめったに食べることができないようですが、ここでは毎日食べることができます」

「ここは恵まれた環境なんだね、羨ましいの。でも、貴方達の作った催涙弾やギャンゴ誘引装置には助けられてるの。いい物を沢山開発して欲しいの」

「はい、ギャンゴの更なる大型化を想定して対ギャンゴ20mmハンドガンを開発中です」

「農業プラントも開発して欲しいの」

ナナミ大尉は意外なお願いをした。

「農業プラント?」

「白米を自分たちで作るの。白米の元になる植物『イネ』の『種籾』を地球から運んできたの。今日はそれを持ってきたの。MM378でもお米を収穫できないか検討して欲しいの。お米は貯蔵もできる素晴らし食物なの。武器の研究なんかよりずっと価値があるの。できる?」

「地球の本を読みました。地球の生態系には興味があります。種があればMM378でも栽培が可能かもしれません。プラントでのイネの栽培、研究してみます。軍人が食料の研究を依頼するなんて意外でした。ナナミ大尉は感情があるのですよね?」

「あるの。美味しい物を食べて、音楽を聴くと感情が芽生えるの。何よりも地球人と過ごすと感情を持つようになるの。地球は楽しくて素晴らしいところなの」

「なるほど。この施設にも今度、音楽ボックスを作ります。私も地球の食事を食べて音楽を聴いてみます。映画というものも観て見ます」

「いいと思うの。感情を持つと価値観や生き方が変わるの。大切なものが見えてくるの」

「興味深いです。ところでその腰に着けてる物は何ですか?」

マッド主任研究員は好奇心が旺盛のようだ。

「これは拳銃という物理攻撃兵器なの。火薬の力で石を飛ばすの」

「銃ですか。この研究所でもアサルトライフルや対ギャンゴハンドガンを開発してます」

ナナミ大尉はホルスターからスミス&ウェッソンM629ステンレス4インチを抜いてマッド主任研究員に見せた。

「これが武器ですか? どうやって使うのですか?」

「今見せてあげるの」

ナナミ大尉は立ち上がるとスミス&ウェッソンM629ステンレスモデル4インチを構え30m先の人型ターゲットセンサーに狙いを付けた。轟音と共に銃が跳ね上がり、人型ターゲットセンサーが吹き飛んだ。

「興味深いですね! 私は脳波専門ですが、物理兵器の開発にも興味があります」

「レジスタンスキャンプに来るといいの。ペユングを持ってきてくれればロケットランチャーも撃たせてあげるの。皆には秘密なの」


 翌日はナナミ大尉のガンビロン用脳波の計測が行われた。危険防止の為、脳波を吸収するカプセルに入って実験した。しかしナナミ大尉はガンビロン用の脳波を発射すると意識を失った。


 「ナナミ大尉、気が付きましたか?」

「大丈夫なの。ガンビロン用の脳波を発射すると気を失うみたいなの。ガンビロン用の脳波を発射するには適性検査と1年間の訓練が必要なの。私はその第一号だったの」

「第1政府のガンビロンは、ガンビロン用の脳波を発射した兵士が命を落としてるようです」

「ガンビロンを使用する度に兵士が命を失うなんて酷い話なの。きっと訓練期間が足りないの」

「はい。適性検査も訓練も不十分なのでしょう。それと、ガンビロン用の脳波を発射できる個体は限られてるのかもしれません」


 ナナミ大尉の脳の分析は6日間にわたって行われた。脳を徹底的にスキャンされたのだ。マッド主任研究員は駐機場でナナミ大尉を見送った。

「ナナミ大尉、ご協力ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」

ナナミ大尉は濃紺の『革のつなぎ』を着ていた。研究所の試作品でギャンゴの革を使ったつなぎだ。ギャンゴの革をなめし、着色したものである。軟らかく、それでいて引っ張りや擦れに強かった。ナナミ大尉の体にフィットし、美しいボディラインを強調していた。

「成果はあったの?」

「はい、『ポング』の無手術での習得が可能になるかもしれません。ガンビロンの習得プログラムも作れるかもしれません。それにナナミ大尉の脳の分析結果も興味深いです。脳波エネルギーの増殖速度が異常に速いのです。ガンビロンを使っても生きていられるのはそのあたりが関係してるのかもしれません。貴重なサンプルになります」

「そう、よかったの。でも、攻撃用脳波を使わなくもいい日が来るといいの。平和が一番なの」

「ムスファなのにそう思われるのですか? ナナミ大尉の脳波戦能力は桁違いです」

マッド研究員は不思議そうな顔をした。

「戦いは何も生まないの。ガンビロンより『お米』の方が皆を幸せにするの。感情を持つとそう思うようようになるの。不思議なの。平和になればポングもガンビロンも必要のないゴミになるの。それが望ましいの。農業プラントの研究、お願いなの。それとこの『つなぎ』、着心地がいいの。気に入ったの。ありがとう」

ナナミ大尉は笑顔を見せるとボバーバイクに跨り、発進した。一気に加速して街道を走った。マッド主任研究員はナナミ大尉の姿が地平線に消えるまで見送った。ナナミ大尉に不思議な魅力を感じていた。また会いたいと思った。




「感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってるの!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ