Chapter17 「写真集第2弾発動」 【地球】
Chapter17 「写真集第2弾発動」 【地球】
夏が終わろうとしている。そして七海の写真集の話が本決まりとなった。来年の2月を発売目標に話が進んでいる。第1弾の写真集から2年ぶりの出版である。出版社は前回と同じ【秀優堂】である。撮影は10月にサイパンとスペインでロケが行われる。サイパンは出版社の費用であるが、スペインは橋爪さんの自費ということだ。超セレブの橋爪さんなら海外ロケの自腹くらい何でもない事だろう。橋爪さんは今回の写真集で勝負に出たいようだ。表向きは天野七海の写真集であるが、実質はニセ七海の唐沢である。橋爪さんにはニセ七海の唐沢は七海の双子の姉の天野美波だと思い込ませてある。橋爪さんはそっくりな双子の姉妹で一人のモデルを表現することに興味を持っている。写真家として思うところがあるのだろう。もちろん出版社とは天野七海を撮影することで契約をするのである。スペインロケの費用を橋爪さんが負担する為、今回の印税は15%になるようだ。写真の販売価格は前回より500円アップの3500円で出版社も強気な姿勢だ。前回はほぼ無名の新人だった七海が20万部を売り上げたので強気なのだろう。前回は初版本は5000部だったが、今回は5万部である。ニセ七海の唐沢は10月はMZ会を2週間休暇が取れるよう調整している。溝口先輩もロケに同行するつもりらしい。
「タケルさん、私、ホントに写真集を撮るんですね、夢みたいです。タケルさんや七海さんと出会って良かったです」
「七海、しっかり頼んだぞ、本当の七海が帰ってきたらバトンタッチだ」
「不思議ですね。七海ちゃんが二人いるみたいです」
今日は私の部屋に佐山さやかが遊びに来ている。
「それと写真集が売れた時の収入の件だけど、本物の七海の分は売上の2.5%でいいのか?」
「もちろんです、七海さんの第1弾が成功したから今回の話があったんです。それに私はお金いりませんよ。この顔だって変身ですし、元々はタケルさんが作った姿です」
「いや、半分ずつ分けよう。後で揉めるのはイヤなんだ」
金の話はしっかりしておきたかった。写真集第1弾の収入は先月私の口座に振り込みがあった。1500万円だった。20年以上働いた私の貯金を超えていた。10万部分の収入の10%が印税で、カメラマンの橋爪さんと5%ずつ折半となった。残りの10万部分の入金は半年後だ。七海が帰って来たら全て渡すつもりだ。
「七海、MZ会の方はどうなんだ?」
「はい、建国は5年後ですが、発表は来年の春です。アメリカ政府の庇護の元に進めます。もちろん国連の合意も必要ですし、何より日本の領海内ですから日本政府との交渉と調整も必要です」
「いくらアメリカのお墨付きでも日本の世論はどうなんだろうな」
私にもさっぱり見当がつかない。
「日本の年金問題を我々の新しい国が補助する案が出てます。日本の国民も少しは納得するのではないですか」
「それは凄いな。年金が破綻しなくて済むのは大きいよ。個人的に俺も助かる。老後が不安なんだ。税金や保険料も安くなるかもしれないな」
「はい、MZ会をはじめ、地球のMM星人は莫大な富を持っています。科学力の恩恵です。私も日本で生まれた日本人です。この国が大好きです。日本の事は任せて下さい」
ニセ七海の唐沢は胸を張る。形が素晴らしい。
「ついでにミサイル防衛もお願いしたいよ。MM星人の科学力があればICBMも余裕で迎撃できるだろ。そうすれば安心して暮らせるよ」
私は希望が広がった、日本の未来は明るい。
「はい、その辺も含めての調整になるんじゃないですかね」
「私は頭がついていきません。政治とか経済とか苦手です。でも宇宙の事はだいぶ詳しくなりましたよ。それに日本の現代史も。峰岸さんの行ってたニューギニア戦線についても勉強しました。怖ろしくなりました。あんな時代の上に今の日本があるなんて。100年もたってないんですよ」
佐山さやかは努力家の秀才タイプなのだろう。自分が学ぼうと思ったことはとことん勉強するようだ。
「七海さんは出会った人に影響を与え、その人の人生や運命を変えてますよね、もちろんいい意味でです」
「七海自身はどうなんだろうな、地球に来て良かったのかな?」
「七海さんは地球に来て良かった思いますよ、地球に来て感情を持ったのは七海さんの大きな転機になりました。MM378にいたままでは感情や自我もなく、ただただ政府の為に生きるだけです。戦うだけの一生です。感情を持ったからあんなに素晴らしい人になれたんですよ。
元々の素性が性格となって表れてるんだと思います」
「七海は優しいし、欲も無いし、嘘もつかないよな」
「七海ちゃん、素晴らしい性格です。純粋で、心が綺麗なんです。顔が綺麗とか、カワイイだけじゃないんです。全部が綺麗でカワイイんですよ」
「MM星人から見て七海はどうなんだ?」
私はニセ七海の唐沢に質問した。気になっていたのだ。
「地球で育ったMM星人は地球人とそんなに変わらないですよ。違うのは身体能力が高いのと寿命が長いくらいですよ。でも七海さんは魅力がありますね。MM378での活躍を聞くと心が躍ります。もし地球に帰ってきたら、心からお疲れ様って言いたいです」
ニセ七海の唐沢はMM378での七海の戦闘詳報から七海の活躍をいくつか紹介した。予想以上の活躍だった。七海の戦闘能力と士官としての指揮能力には驚かされた。地球の文化も確実に広めていた。無邪気で天真爛漫な七海しか知らない私には驚きだった。
「地球に帰って来たら『鰻重』をいっぱい食べさせてあげたいなぁ」
私は七海が初めて鰻重を食べた時の事を思い出していた。今でもあの時の七海の反応と喜ぶ姿は昨日のことのように鮮明に覚えている。早く七海の無邪気な笑顔が見たい。
「私は頭をナデナデしてあげたいです。七海ちゃん、本当によく頑張ってます」
「あの負けず嫌いな花形が『七海流格闘術』をMZ会の工作員に教えてます。七海さんを尊敬してるようです」
「七海ちゃんはモデルとしても人気があります! あの写真集は反則級の可愛さです。綺麗だし。一ヵ月間一緒に住めたのが夢のようです。布団を並べて寝たんです」
佐山さやかがうっとりとした表情で言った。私は七海との出会いを思い出していた。もう2年以上前の事だ。ホームレスの小汚いおっさんでダミ声だった。そんなおっさんが国民的アイドル女優の『美島七海』に変身した。いや、私が変身させたのだ。私は変身した七海を自分の部屋に迎え入れた。極めて感情が希薄だった七海が少しずつ感情を持ち、自我と個性を持っていった。世間知らずで天真爛漫で無邪気な七海は皆に愛された。モデルとして写真集も出した。今ではMM378と地球の為に戦っている。地球に来る前の七海は軍人で、逃亡してきたのだ。あの時、私はたまたまあの公園にいた。あの出会いが私と七海の人生を大きく変えた。出会いというものの可能性は計り知れない。振り返れば人生は出会いと別れの繰り返しだ。その中で自分の人生が道のように出来上がっていく。決して一人で歩んでいる訳ではない。
「水元さん、もし七海ちゃんの写真集第2弾が滅茶苦茶売れたらどうするんですか? 芸能人デビューですか? 女優とかバラエティ番組とかに出たりするんですか?」
佐山さやかの疑問は当然だった。
「実はそこまで考えてなかったんだよ。七海はもっと考えてないよ。勢いっていうか、たまたまって言うか」
私は七海をモデルデビューさせた経緯を話した。
「たしかデビュー直後に一緒に橋爪さんの別荘に行きましたけど、七海ちゃんぜんぜんモデルって感じじゃなかったですよね。綺麗でカワイかったけど、素人でした。でもギャップに惚れてしまったんです。写真集の美しさと無邪気さのギャップは反則なんですよ。それに物凄く強い軍人だなんて。反則の塊ですよ。レズビンアンキラーです。もう私は七海ちゃんの虜です」
佐山さやかはレズビアンであることを隠そうとしなくなった。
「勿体ないですよ、私ならドラマや映画に出たり、歌も出してコンサートとかやります。世界中の男達をメロメロにするんです! そうそう、今日はいい物を持ってきました」
ニセ七海の唐沢はカバンからタブレット端末を取り出すと画像を表示した。学校の校庭の様な場所に立つ一人の女性が写っていた。オレンジブラウンのシャツに同じ色のスカートとブーツ。頭に小さな緑色のギャリソンキャップを載せたモカブラウンのショートカットの女性は凛々しい顔をしていた。手にはショットガンを持っている。
「これっ、七海か?!!」
私は大きな声を出した。
「うそっ、綺麗、カッコイイ! ショートカット似合う!! キャーー!!」
佐山さやかの声は悲鳴に近い。
「峰岸さんがこの前輸送に行った時に七海さんの上官や仲間の兵士達からもらったようです」
ニセ七海の唐沢は画像を切り替えて何枚か表示した。服装は同じだったが室内や仲間達と撮った画像もあった。笑顔の画像や戦場と思われる塹壕が背景に写った画像もあった。仲間のMM星人は肌が青く、大きな四角い一つ目で髪の毛も無く、鼻は小さな穴のようで、口は線のように細く『へ』の字を逆さにしたようで頬の上の方まであって怖かった。
「これがMM星人の姿なのか」
私は画像に見入った。
「軍人の七海ちゃん、カッコイイですね。アニメのキャラクターみたいです! スカートとブーツがいいです。もう史上最高のヒロインです!! 綺麗で可愛くて、無邪気で優しくて、それでいて滅茶苦茶強いんですよ、ありえないです。知り合って本当に良かったです」
たしかに画像の中の七海はアニメキャラの美人兵士のようだった。ポスターにしてもいいくらいの美しさとカッコよさだ。七海はMM378で軍人として元気に生きているようだ。私は感動で涙がこぼれそうになった。写真というのは凄い発明だ。
「七海、この画像もらえないかな?」
「私も欲しいです、パソコンとスマーフォンの壁紙にします! 素敵すぎます! 綺麗でカッコよくてカワイくて、昔通っていたレズビアンバーに持っていって自慢したいです」
私達は龍王軒で食事をすることにした。
「あれっ、七海ちゃん!! 久しぶり、体はもう大丈夫なの?」
店長がビックリしている。七海が母の介護と病気で静岡県にいることを店長には伝えていた。
「アアッ、ナナミサン!! ヒサシブリデス、ウレシイ、ヤッパリキレイ」
私達はテーブル席に座った。
「おおーー、七海ちゃんだ、元気だった?」
「おっ、久しぶりだね、会えて嬉しいよ。相変わらずカワイイね! 今日は来てよかったよ」
常連客からも声が上がった。七海はMM378に旅立つ前に龍王軒でパートをしていたので知り
合いも多いのだ。もちろんニセ七海の唐沢にとっては店長も王さん常連客も初対面だ。
「まだ静岡の病院で治療中ですが、最近調子が良くなりましたので時々東京にも来ております」
私は事前に七海に龍王軒の情報をレクチャーしておいた。
「そうなの? よかったね。今日は餃子食べてってよ、ジャンボ肉シュウマイもあるよ、さやかちゃんも来てくれたんだ、美女がお揃いなんて嬉しいよ」
佐山さやかは七海と1ヵ月間私の部屋に住んでる時に何度かこの店に来たのだ。大学の部活のOGということにしていたようだ。部活はラクロスにしたらしい。
「七海もここに来るの楽しみしてました、難しい病気だけどだいぶ回復したんですよ。今回は東京の病院に検査を受けに来ました。撮影やブログの記事の為に時々こっちに来てます」
私はもっともらしい嘘をついた。店長は今も七海の写真集を客に紹介して応援してくれている。レジの横には七海の写真集と『販売受付』のステッカーが貼ってあった。店内には七海の写真がいっぱい飾ってあった。大きな写真の下には『小石川5丁目のアイドル:龍王軒のイメージガール:天野七海』と書かれていた。
「ブログ見てるよ、元気になったんだなって喜んでたんだよ、まさか来てくれるなんて。ううっ」
店長はおしぼりで目を拭っている。
「ワタシモ、ウレシイ、ナナミサン、ゲンキソウ、ヨカッタ」
王さんは目を赤くして涙をこぼしている。心根のいい人達だ。餃子、ジャンボ肉シュウマイ、エビチリ、チャーハン、から揚げ、と注文してないのに次から次へと料理が出て来た。王さんはスーパー横川「アサハ おいすい水:天然水」買いに行ってくれた。何もかもが懐かしかった。
「もうさ、七海ちゃんが急にいなくなっちゃって寂しかったよ。七海ちゃん目当ての客もがっかりしてたよ。また『七海独り占めセット』とかやりたいよ。お客さん喜ぶよ」
七海はこの店でパートをしていた時、メイドカフェのようなサービスもしていた。時給よりチップで稼いでいた。
「あれは楽しかったです。店長さんもよくお考えになりましたよね。私も勤労意欲が湧きました。その節はお世話になりました」
「うんうん、おかげで売り上げも凄く増えたんだよ。行列が出来てたよね、元気になったらまた働いてよ」
「七海は写真集の第2弾を出すことになったんですよ。来年の2月が発売予定です」
「えっ、そうなの? 凄いね! サンプルできたら頂戴、また、レジの横に置いて申し込み受付やるよ」
写真集第1弾の時、店長は会計する客に強引に写真集を買わせていた。
「ありがとうございます。お気遣い、痛み入ります。いい写真集ができるよう鋭意努力する所存です」
「なんか七海ちゃん喋り方変わった?」
店長が言った。私はテーブルの下でニセ七海の唐沢の足を蹴った。
「あはは、七海は入院中、敬語の本を読んで敬語を勉強してたんです。敬語が苦手だったから勉強するように言ったんです。覚えた敬語を使いたくてしょうがないみたいなんです」
私は咄嗟にフォローした。
佐山さやかとは龍王軒で別れた。今回も食事代はタダだった。七海と出会ってから龍王軒で金を払ったことがない。おまけにザーサイとジャンボ肉シュウマイをお土産にもらった。
「タケルさん、いいお店でしたね、餃子とジャンボ肉シュウマイ美味しかったです。それに店をあげて七海さんを応援してるんですね」
「あそこの店長は七海のファンなんだ。ジャンボ肉シュウマイは七海の大好物なんだよ」
「七海さんは皆に愛されてるんですね。まるでアイドルです。街に愛されるアイドルっていいですね」」
私はその夜ブログの記事を書いた。帰り際に佐山さやかに依頼した文章がもうメールで届いていた。
【ブログ記事】
//秋の気配色濃くなってきましたね。
今日はデビュー前に撮った写真をアップしますね。初めて一眼レフで撮った記念すべき写真なの。お台場と芝公園で友達と友達の先輩に撮ってもらったの。まだ初々しいの。キャハッ。
今回のお食事は『龍王軒』っていう中華屋さん。実はここで働いてたことがあるんだよ。店長さんも懐かしい。一番のおススメは『ジャンボ肉シュウマイ』! 私の大好物なの。粗挽きのお肉がプリプリでジャンボなの(そのままかい、語彙力足りない)。凄く美味しいの。からし醤油や、お酢とお醤油でも美味しいの。ニンニク醤油もおススメなの。でも私はそのままが好きなの。かぶりつくと、肉汁が口の中にピュっと出て、中華のおダシと生姜の香りが口の中に広がるの。ズルいの。
あとね、大事なお知らせがあるの。なんと写真集第2弾だよーーーん。発売は来年の2月予定。今回はセクシーなの。キャハ。//
【コメント欄】
@しんのすけ 2時間前
第2弾キタ――(゜∀゜)――!!。
楽しみ。待ち遠しいよーーー。セクシーって、待てないよ。
【返信】ありがとうございます。写真集買ってくださいね。セクシーなの。 ←七海
@パオパオ応援隊 3時間前
第2弾楽しみです。デビュー前の写真凄くいい! 是非写真集に載せて下さい。私も七海ちゃんを撮りたいです。撮影会とかやって欲しいです。ジャンボ肉シュウマイも美味しそう。食べに行きます。
【返信】ありがとうございます。撮影会、考え中です。キレイに撮ってね ←七海
【返信】うおーー お願いします。撮りたい! ←パオパオ応援隊
@ 怒られ侍 1週間前
デビュー前の七海ちゃんの写真、癒される。写真集も楽しみだよ! 七海ちゃんが働いてた『龍王軒』行ってきました、ジャンボ肉シュウマイ美味しかった。いろいろ頼んだけど全部美味しかったよ。お店の中は七海ちゃんの写真がいっぱい。店長さんに聞いたんだけど、前は『七海独り占めコース』があったんだって? 七海ちゃんと二人で食事してアーンとかもしてくれるんだって? 注文したい、復活希望!
【返信】ありがとうございます。龍王軒、また働きたいなあ ←七海
【返信】まじですか? 絶対行きます。働いて下さい。 ←怒られ侍




