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Chapter10 「鬼神島」 【地球】

Chapter10 「鬼神島」【地球】


 私と佐山さやかとニセ七海の唐沢と花形は渋谷のカラオケボックスにいた。唐沢が重要な話があるというので私と佐山さやかは顔を出したのだ。

「水元さん、ブログ、大成功ですね。七海ちゃんのファンが増えてますよ、今日のコメント数は80個です」

佐山さやかがスマートフォンを見ながら嬉しそうに言った。

「タケルさん、私も嬉しいです。私のカワイイ写真に対するファンの反応が楽しみなんです。次の写真集、七海さんの変わりに私がモデルになってもいいですよ! 水着も頑張っちゃいます!」

唐沢はやたらとポジティブだ。しかしなんか違う。他にやる事があるだろ!

「七海、MZ会の方はどうなんだ? 地球征服派の動きはどうなってるんだ?」

「はい、観音崎を襲撃した地球征服派のMM星人を捕えました。15人でした。敵のアジトは大田区の埋め立て地にありました。日本支部の工作員が突入して銃撃戦と格闘戦になりました。花形が敵を5名倒しています。やはり今回は威力偵察だったようです。観音崎の施設以外に西日本の支部が襲われ、3名の死者が出ています。日本支部のMM星人が結束し、敵の襲撃に備えています」

「今回の観音崎の施設襲撃は威力偵察だったのか?」

「おそらく日本支部の対応力を確認するためです。施設は爆発と火災で破壊されましたが 再建に着手します。今は日本支部の機能を江東区の施設に移してます」

「やつらはそんなに強くないですよ。訓練を怠っている。日本支部の工作員は日々厳しい訓練を実施しています。負けません」

花形は自信満々だ。

「それと、アメリカの裏政府が我々の建国を支持するようです」

唐沢の話は興味深かった。本当にMZ会の国家が誕生するのか? しかし疑問もあった。

「何でアメリアの裏政府と良好な関係を保ってるんだ?」

「我々の科学力や資金力、世界的なコネクションをアメリカの裏政府は手に入れたいのです。アメリカがもう一度世界の覇権を取り戻すには必要なのでしょう。もちろん我々は全てを渡すつもりはありません」

「建国って言うけど、どこに国を作るんだ? ウクライナ問題もあるし、中東でも紛争が起きている。世界規模の戦争が起きるかもしれない状況だ。そんな時に建国なんて大丈夫なのか、場所によっては揉めるだろ」

「大丈夫です。アメリカの後ろ盾があります。地球征服派に対抗する手段にもなります」

「具体的な場所はどこなんだ?」

「日本です」

「えっ!」

私はあまりにも以外だったのでびっくりした。

「うそっ、日本ですか?」

佐山さやかも驚きを隠せないようだ。

「本当です。アメリカ政府が日本政府に捻じ込んでいます。建国は5年後になるでしょう」

「まて、日本って。日本はそんなに広くない。どこの県に作るんだ?」

「海上です」

「海上って、島か?」

「はい、『鬼神島おにがみじま』です。飛び地として東京湾に作る人工島も我々の国家となる予定です」

鬼神島は東京都の島である。伊豆七島と小笠原諸島の中間、北緯29度56分 東経141度35分にある火山島だ。東京からは700Kmの距離にある。面積は伊豆大島の5倍で450平方Km、東京23区の70%にあたる面積だ。かつては旧日本軍の施設があり、潜水艦や人間魚雷、特攻用ボートなどの海上特攻兵器の訓練基地でもあった。毒ガス実験設備や砲弾の射撃演習場もあった。戦後は小笠原諸島と同様1968年までアメリカの統治下に置かれた。今は無人島となっている。島には沢山の毒ガス砲弾が埋まっているため上陸禁止になっている。島の大きさの割にはあまり知られていないのが不思議だ。私はミリタリーマニアだからその存在を知っているのだ。

「日本にとっては良い事だと思います。我々の科学力を優先的に享受できます。最重要同盟国です」

唐沢は喜んでいるようだ。

「よくアメリカが許したな。実質的に日本はアメリカの属国だ」

「アメリカはもはや強国ではありません。国内に経済格差が広がり、分断が進んでいます。内戦が起きてもおかしくないのです。世界の警察でいる事に疲れています。今回の件は日本に委任する形となるでしょう。むしろ我々がアメリカの力を利用するのです」

「でも日本も落ち目の国だ。国力はどんどん下がっているぞ」

「MZ会の作る新しい国家と連携すれば再び最先端技術で世界を席巻できます。我々はすでに量子コンピューターを実用レベルで開発しています」

量子コンピューターについては次世代のコンピューターとして世界で研究が進められているがまだ実用化には達していない状況だ。計算能力については現在のコンピュータの1億倍とも言われている。

「本当なのか?」

「まだかなり大型ですが、ダウンサイジング化を行っている所です。最終的にはデスクトップPCサイズを目指しています」

「ええっ、デスクトップPC? もしその技術を享受できれば日本の産業も復活するかもしれないな」

「我々MM星人の科学力は地球より遥かい進んでいます。2000年前には光速を超える装置を開発しました。現在の地球のコンピューターのレベルはもっと前に開発しています。しかしMM378はバランが良くありません。MM378には自由がありません。全てのMM星人は自我を持たずに政府の為に生きています。その為地球のような文化がありません。感情も希薄です。科学は発達していますが幸せなのかわかりません。今回建国する国家はバランスのとれた幸せな世界を目指します」

「MZ会が日本に国家を作るメリットはなんだ?」

「日本は地理的にもいい場所にあります。ユーラシア大陸に近く、ヨーロッパからは遠い島国です。地球征服派はヨーロッパを拠点にしています。島国というのも独立性を保つ為に魅力的な地理条件です。在日米軍の軍事力も魅力です。海軍兵力はアメリカが絶対優位です。それに失礼ですが今の日本政府には未来へのビジョンもポリシーもありません。少子高齢化や経済の沈降に手が打てず、問題を先延ばしにしているだけの国家です。アメリカにも逆らえない弱い国家です。我々に口出しできないでしょう。だから我々も安心なのです」

私は日本国民として悔しかったが唐沢がいう事は事実である。

「国家を作ったとして、産業とかはどうするんだ? 鬼神島は旧日本軍の施設があった場所で、毒ガス弾があちこちに埋まってるらしいじゃないか。そもそも住めるのか?」

「毒ガス弾の除去には手間が掛かりますが可能と考えています。5年後の建国を目指して早急に調査と開発を開始します。毒ガス弾を除去し、主要道路を整備し、政治や行政の施設、住居区の整備、学校の建設、電気、ガス、水道のインフラ等やる事は沢山あります。産業の整備はその後でしょうね。量子コンピューターなどの生産を行います。住人は最初、30万人程度を受け入れ、最終的に70万人位になるようコントロールします。交通は不便ですがマッハ2の超音速小型ジェット旅客機を開発すれば羽田空港まで15分です。いずれは反重力装置を使った航空機を開発する予定です」

MZ会は本気で鬼神島に国家を作るようだ。

「七海と花形さんはこれからどうするんだ」

私は直近の事が気になった。ニセ七海の唐沢はいつまで私の部屋にいるつもりなのだろうか。「私は建国に必要な事務手続きの支援を行います。手続きはアメリカにある本部が主体となって行いますが、現地スタッフが必要です。もちろんモデル活動も継続します、ファンをもっと増やしたいです。タケルさん、水着の写真撮りましょうよ、ブログのアクセスが増えますよ」

「水着ってまだ3月だぞ、季節感が無さすぎるだろ」

「私は平気です。もう待てないんですよぉ~、タケルさんのイジワル」

「もう七海の姿じゃなくてもいいじゃないのか? 元に戻ってのいいだろ。俺の部屋に住む必要もないだろ」

「だめです! 天野七海のブレイクはもうすぐです。今更元に戻れませんよ。ファンはどうするんですか? 無責任じゃないですか! 私のファンですよ!! それにタケルさんの部屋はなんか居心地がいいんです。タケルさん、なんだかんだいって優しいですし。家賃は払います。食事も作ります。あんまりイジワルしないで下さい」

なーにがイジワルだ! M19コンバットマグナムで357マグナム弾ぶち込むぞ! 唐沢はモデル活動が楽しくて仕方がないようだ。

「私は秘密部隊を作ります。詳しい事は言えませんが、しばらくはヨーロッパに潜入する予定です」

花形は常に戦いの中に身を置きたいのだろう。


突然部屋のドアが開き一人の男が入って来た。唐沢と花形が立ち上がり、男に頭を下げた。年齢は40代くらいだろうか。背が高く、端正な顔立ちで大手企業や外資系企業の管理職のような雰囲気だ。肌つやもいい。男は私の正面の席に腰を下ろした。

「水元さん、今日の大事な話というのはこの方に会って欲しかったんです」

唐沢が落ち着かない様子で言うと席に座った。花形はSPのように立ったままだ。

「初めまして、MZ会日本支部副支部長の八神です」

「水元です」

「佐山です」

「まずは自己紹介をさせて下さい」

八神は自己紹介を始めた。

「私の年齢は610歳です。応仁の乱の少し前に中部地方、今の岐阜県で生まれました。その後はコミュニティで農民として暮らしてきました。戦国時代は土地の大名の下で家臣となり、なんとか戦乱の世を生き抜きました。江戸時代は藩の家臣や商人などをして過ごしました。明治・大正時代は政府の役人をしていました。昭和前期は軍人として陸軍の参謀本部にいました。戦後はMZ会に入信し、今は日本支部の副支部長をしております」

八神の話し方や表情はからエリート感が漂っていた。私と佐山さやかも簡単な自己紹介をしたが八神に興味を示す様子は無かった。

「今日は水元さんにお願いあって参りました」

私は緊張した。MZ会の日本支部の副支部長がわざわざ会いに来たのだ。今日の集まりもこれが目的だったに違いない。

「お願いですか?」

少し不安だった。

「端的に申し上げます。天野七海さんが地球に戻ってきた際は、MZ会に入信するように説得して戴きたいのです」

八神の申し出は意外だった。七海の入信。

「どういうことですか、副支部長がわざわざ勧誘ですか?」

「七海さんのMM378での活躍は伺っております。第1政府が倒れれば七海さんは功労者です。是非とも入信していただきたいのです。今MZ会は分裂しています。地球征服派と反征服派に分かれつつあります。第1政府が倒れれば征服派は勢いを失うでしょう。七海さんにはMZ会の分裂を押さえ、建国の求心力になって頂きたいのです」

「七海はいつ帰ってくるか分からないし、本人がそれを望むか分かりませんよ」

「ですから説得して欲しいのです。水元さんと佐山さんにもMZ会に入信していただきたいのです。そうすれば七海さんも入信すると思います。七海さんはモデル活動もしてるようですね。写真集も売れていると聞きました。その活動も支援します。MZ会の広告塔にはもってこいなのです」

「ちょっと待って下さい、何で俺達が入信しなきゃいけないんですか?」

「できればMZ会の職員になっていただきたい」

「勝手な事言わないで下さい。俺はMZ会とは関係ないです」

「私も七海ちゃんの力になりたいだけです」

私と佐山さやかは八神に反発した。あまりにも勝手な言い分だ。

「MM星人の存在を知っている地球人は殆どいません。ですからお二人にMM星人と地球人の信者の懸け橋になって欲しいのです。宇宙の真理を広めて欲しいのです」  

「俺達になんのメリットがあるんですか? 宇宙の真理ってMM星人の科学力ですよね?」

「もちろんそれなりの待遇は考えます。報酬は今お勤めの会社の給料の3倍ほどで考えています」

「3倍!」

私は思わず声を上げた。

「はい、お住まいもMZ会の所有する物件に格安で住んで頂くことが可能です。都心のマンションになります。港区です。2LDKで家賃は3万円です」

「港区! 2LDK! 3万円!」

今度は佐山さやかが声を上げあた。

八神の出す条件は魅力的であったが、足元を見られているような気がして不愉快だった。

「今すぐにお返事を頂こうとは思っていません。七海さんが帰ってくるまでにご返事いただければ結構です」

「MZ会が建国するって話は本当ですか? アメリカの裏政府が協力するって話ですが、なんか話が出来過ぎてるような気がします」

私は唐沢から聞いた話に対する疑問を口にした。

「本当です。アメリカ裏政府は我々の力を恐れているのです。なんとか取り込みたいと思っているでしょう。その一つは科学力です。我々は『時空超越転移装置』、『反重力装置』、『量子コンピューター』の技術を持っていることを仄めかしています」

「それでアメリカの裏政府と均衡を保てるというのですか?」

「それだけじゃありません。経済界、産業界では『通信事業者』、『グローバルIT企業』をMM星人が牛耳っています。政治献金やロビー活動の資金についても我々は豊富に持っています。MM星人が世界の主要な公的機関に入り込んでいることも我々の強みです」

「アメリカと対等ってことですか」

「はい、ですから水元さんも佐山さんもMZ会に入った方がいい。寄らば大樹の陰です。なんならもう少し報酬を増やしましょうか?」

私は相手がMZ会日本福支部長とういう大物なので敬語を使っていたが、腹立たしく思えてきた。

「報酬の問題じゃありません。自分の生き方の問題です」

「佐山さん、水割りを一つ頼んで下さい」

佐山さやかはインターフォンを使うために立ち上がろうとした。八神はパワープレーの手法を使っている。ユーザーにもパワープレーで無理難題を捻じ込んでくる相手がいた。カットしないとどんどん捻じ込んでくる。

「自分で頼めばいいじゃないですか。佐山さんはあなたの部下じゃない。我々は話があるからと呼び出されました。ゲストだと思ってましたが違うようですね」

「唐沢君、水割りを一杯頼んでくれ」

唐沢は飛ぶようにしてインターフィンの掛かった壁まで行って注文をした。

「水元さんはなかなか骨がありそうだ。しかし、長い物には巻かれた方がいいですよ。身の程を知るとも言います」

八神はおそらく粘着質なタイプだ。私の事を嫌いになったであろう。このタイプは一度嫌いになった相手を許すことはない。

「私はMZ会に入信するつもりも七海を説得する気もありません。今日は帰ります」

私は1万円札をテーブルの上に置くと席を立って部屋を出た。八神を敵に回したかもしれない。


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