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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
72/75

72話

「冬子、ママは?」


病室のドアが勢いよく開き、息を切らしながら仁志が入ってきた。



「パパ、、大丈夫だよ、ママは生きてるよ。そのまま、眠っちゃったの。」


息苦しそうに寝息を立てる智子の姿を見て、仁志はほっと胸を撫で下ろした。


冬子は智子をトントンと揺さぶり、耳元で声をかけた。

「ママ、パパ、来たよ。殴るシーン撮るなら、今だよ!ママ!」



智子は迷惑そうにゆっくり瞳を開いた。


「パパ…、来てくれたの?ありがとう。」


「パパを殴るんでしょ…?」


「うん、パパ、こっちきて。」



智子は、仁志をベッドサイドへ呼び寄せると



細くなった腕で仁志の首元に絡みつき、か弱い力の限り、仁志を抱きしめた。



「仁志さん、これからは、浮気しちゃダメだよ?」


耳元で囁くと、仁志の頰をパシッと叩いた。



「智子…、ずっと裏切って、ごめん。俺、ずっと起業してみたくて、それを認めて貰えなくて、それで、子どもみたいに意地になってた。


お前に何も話さないで、何もお前の事わかろうとしないで、何で俺は…、馬鹿だったよ…。

そんな俺だけど、お前はいつも迎え入れてくれて、、。今までありがとう。」


仁志は智子の手を握りながら、涙を流し訴えた。


「仁志さん…、いいの。私もね、あなたのやりたい事…分かってあげられなくてごめんね。


そう、、私の写真集、見てくれた?

結構…綺麗に撮れてるの。あなたにも、もっと自由にやれるように言えば良かったね…。


今まで、家族のために支えてくれて、いつでも飛んできてくれて、やっぱりあなたは優しいよ。ありがとう。」


智子は仁志の瞳を見つめ、頰を優しく撫でると再び目を閉じ、すやすやと寝息を立てた。





その翌日の日曜日、家族3人で病院へ向かう途中、美月はミモザの花束を見つけ駆け寄った。


「うーん、いい香り!これママにぴったり。買っていこう?」

確かに、春の訪れを感じさせる明るいイエローと爽やかな香りが、おっとりとして可憐な智子のイメージと調和していた。


仁志は智子の喜ぶ顔を想像しながら会計を済ませると、足早に病院へ向かった。


「おはよーママ!」


智子は静かに眠っている様子だ。

「ママ見て、これ、ミモザだよ!病院に来る途中見つけてね、ママにぴったりだと思って買ってきたの。いい匂いだよ、かいでみて!」


ミモザの花束をそっと智子の鼻元に近付けると、智子の広角が少しだけ上がったのが分かり、美月は安堵した。


「お姉ちゃん、花瓶変えよ!」


美月は古くなった花を指さし、姉に指示を出した。

美月もだいぶしっかりしてきたな、と仁志は感心する。



「お姉ちゃん、ママ、ミモザの香り嗅いで笑ってたね!」


美月は給湯室で花瓶に新しい水を入れながら、鼻声で姉に笑顔を向けた。

「うん、美月の選んだお花、ママ嬉しそうだったね!美月、ナイスチョイスだよ!」


冬子は美月の頭をわしゃわしゃと撫でると、肩を抱き寄せ、美月の頭に頰をこすりつけた。



「パパ、ママ、ジャーン!美月が活けたの!綺麗でしょ?」


病室のドアを開けると、涙を流しこちらを見つめる仁志と目が合った。



「ママ、呼吸が止まったみたいだ…。」



夫婦水入らずのその時、美月の成長までしっかりと見届けた智子は、静かに息を引き取った。





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