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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
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7話

冬子は友人宅に居ると嘘を言い家を飛び出してから、母親しか居ない時を見計らい自宅へ戻り、荷物の整理や資金の調達等をしていた。


資金の調達源は、母親からだった。


「ただいま、ママ。久しぶり。お金足りなくなっちゃった。ちょうだい。」


「…冬子、ママ反省してるから、、お願い、もう帰ってきてよ。こんな馬鹿な事はしないで。」


「無理だよ!こんな時ばっかり下出に出れば、言う事聞くと思ったら大間違いだからね!早くお金ちょうだい!」


「冬子…、今どこにいるのかだけでも教えて?お友達の連絡先だけでも。こんなにお世話になってるんだから、、親御さんにご挨拶に伺わないと。」


「は?大丈夫って言ってるじゃん!!」

こんな時にすら外面や体裁を保とうとする智子に虫酸が走る。


「ねぇ冬子、、本当にちゃんとしたお友達なの?最近のあなた、言葉遣いが乱暴になったし、、たまに学校へは通ってるみたいだけど、お勉強もついてけてるの?ママ、どうしたらいいのよ…」


智子は大きな瞳をハンカチで抑えながら、冬子に訴える。


「もう、、しばらくほっといてって言ってるじゃん。早くお金、ちょうだい。

そうしないとこの動画、パパの親戚中に、学校の先生にも、世の中全員にバラ撒くからね。」


智子はナイフで我が子を脅しながら勉強を強要する姿を、しっかりと動画に収められており、今度は冬子に脅される側となっていたのだ。

智子が冬子のスマホを力ずくで奪おうとするが、冬子はその手をさっとかわした。


「あ、これ取っても無駄だよ。しっかりバックアップとってるんで。スマホなんて取り上げたら、、分かってるよね??…早くお金。早く!!」


冬子は智子から10万円ほどの現金を奪い取ると、ピンクのキャリーケースと共にさっさと家を後にした。


罪悪感がないわけではないが、娘がこんな状態になり途方に暮れながらも、体裁と保身だけは頑なに守ろうとする母親の姿に、冬子は落胆し、軽蔑した。


ここに帰ったら、私はまたママの体裁を守り、虚栄心を満たすためだけの道具にされるんだ。


そう自分自身に言い聞かせると、携帯を取り出しTwitterを開いた。


「今から広場いくよ。誰かいますか??」


さっそくリンネと、その他2人から反応された。


冬子は颯爽と顔を上げ、仲間の居るトー横広場へ向かう。


トー横広場に到着すると、いつもの顔ぶれが笑顔で冬子を迎え入れてくれる。馬鹿な事、下ネタ、お酒、大笑い、誰も否定しないし、むしろ一緒になってやってくれる。


心に穴の空いたキッズ達はここで、少しばかりの休息を取るのだ。少ししたら、ちゃんと戻ろうって分かっている。

だから今だけは、辛い現実から目を背けて優しい仲間達に囲まれて、笑っていたい。


何でこれが駄目な事で、ウザったい大人達や社会に馴染むことが、いい事なんだろう?


大人は「将来の為」だと言いながら、よく分からない御託を並べてくる。

そんなの、納得出来るわけがない。


何か納得できる、明確な理由がないと。

でも、誰もその答えはくれない。


だからトー横キッズ達は、居場所を離れないのだ。

納得出来ないと動かないというのは、人間の本質のはずななのに、そこを無視して「やめろ」としか言わない大人達のほうが、逆に狂っている。


簡単にナイフなんてものを使って娘を脅すママのやり方で、私は全てを理解した。


ママは、私を愛してなかった。私はママに利用される為の道具に過ぎなかった。

私があの家に居る意味はないんだ。


私なんて、産まれてこなければよかった…。


冬子はネカフェの小さな一室で、親の気持ちや自分自身の存在意義について考えた。


辛くなるような事を考えているのに、不思議と涙が出てこない理由は、明日、梓馬とディズニーシーへ行く予定があるからなのだろうか…?


梓馬のカラッとした笑顔が頭をよぎる。

梓馬さん…いい奴なのかもな。


冬子は小さな頃からずっと大切にしているダッフィーのぬいぐるみを抱きしめながら、眠りについた。



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