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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
69/75

69話 イケメンを模索

智子はベッドに寝転がりながら、スマホの画面を一生懸命覗き込み、様々なタイプのイケメンを模索していた。


イケメンとデート企画の相手は「厨二企画のメンバー」という意見もあったが、彼らとの付き合いが長くなるにつれ、智子はもはや彼らを息子のような目でしか見られなかった。


「トキメキかぁ…」


まさか、家族水入らずの温泉旅行で、夫に対してあんな大胆な行動に出られるなんて、智子自身とても驚いていた。


まぁ、あれはあれで悪くなかったかな…?


智子はクスッと思い出し笑いをすると、

(でもそれはそれ、これはこれ!)

なんて思いながら、再びスマホの画面に目を落とした。


あ、、この子、格好いい…!


出張ホストのウェブサイトを流し見していた智子の指が止まった。


「出張ホスト みやび

指名NO.3 青葉 (34)


一緒にご飯食べたり、カラオケ行ったりして楽しみましょう!」


30代には見えない、少年のように爽やかな眩しい笑顔と目が合った。

インスタの画像を見ると、どれも作り込まれていない自然な感じの写真で、そこにも好感が持てた。


30代、大人の余裕のためなのか、インスタの文書には厨二企画のメンバーには無い落着きがあり、また、夫のような自己満足に浸った自慢話も皆無だ。

話も合いそうだなと、智子の想像を掻き立てる。



智子は厨二企画の指定通り、青葉のページURLをコピーし、ラインに貼り付け送信した。


(撮影OKって言ってくれますように…)




デート当日。


事前にモザイク有りの条件付きで、青葉本人より取材許可を得ていたため、智子はカメラを片手に待ち合わせ場所へ向かった。


待ち合わせ場所は、智子の自宅最寄り駅のロータリーだ。


漆黒に艶めくハマーが颯爽と智子の目の前に停車すると、左側の窓が開いた。


「智子さんですか?初めまして、青葉です!今日はよろしくお願いします!!」



窓から覗く青葉は、写真の爽やかな印象とは若干異なり、凛々しく逞しい印象だ。



しかし顔立ちは整っており、イケメンである事は間違いない。

「初めまして、今日は撮影許可をいただきありがとうございます。よろしくお願いします」


お互い簡単に挨拶を済ませると、青葉は車から降り、慣れた様子で右側のドアを開け、智子を迎え入れた。

まるで外国人のようなエスコートに、智子の気分は早くも高揚する。



青葉は早速、デート場所である六本木へ車を走らせる。

クリスマスシーズンということで、智子はイルミネーションの中、ベタな恋人気分を満喫する事を望んでいた。


「YouTube、たまに見ますよ!でもyoutuberとかあんま見ないかな。音楽聞いたり、お笑い系とかしか見ないんで…。え、結構有名なんですか?」


「どうなんでしょうね?ちょっと恥ずかしいですが、こんな感じです…」


丁度車が停車したので、智子は照れながらも自らの出演する動画を開き、青葉に差し出した。


「え、すご!!

厨二病?厨二企画か…、わ!チャンネル登場100万人超えてるんすか?すごいっすね!!サイン貰っちゃおうかな~!」

青葉は興奮気味に、スマホ画面に食い入るように凝視した。


「プップー!!」


後方からクラクションが音を立てた。

青葉は「もー、分かったよ!」と小声で漏らしながら慌ててスマホを智子の方へ突っ返すと、車を急発進させた。



「わぁ、凄い…!」


六本木ヒルズへ到着した2人は、青葉のエスコートにより自然と手を繋ぐと、ホワイトブルーの光が散りばめられたけやき坂イルミネーションの道を散策した。


「青葉さんみたいなイケメンさんと、こんなロマンチックなデートが出来るなんて、夢みたいです…。」

智子は幻想的なイルミネーションと、青葉の端正な横顔に心酔し、目に涙を浮かべた。


「綺麗ですね…、俺も、智子さんみたいな素敵な女性とこんな場所に来れて幸せですよ!」


青葉も智子を見つめ、ニコリと笑顔を見せた。

その時智子は、微かに違和感を覚えた。


…あ、海苔?虫歯…?

笑顔を見せてくれた青葉の前歯に数ミリの黒い点を発見したのだ。


(いやいや、そんなのはどうでもいいじゃないか。今はこのロマンチックなデートを堪能するのよ、智子!)


智子はそう自分に言い聞かせると、青葉が予約してくれているというイタリアンレストランへ向かった。


「わぁ、美味しそう!ありがとう、青葉さん!」


智子は精一杯作り笑いをするも正直な所、病気のため食欲はなく、どの料理も数口程度しか口をつけられなかった。


「智子さん、あまりお口に合わなかったかな…?全然食べてないじゃないですか!それ勿体ないんで、貰ってもいいですか?」


青葉は智子の殆ど手をつけてない、メインである和牛ステーキを愛しそうに見つめ、哀願した。


「もちろんです、ど、どうぞ」


「わー、嬉しいな!ありがとうございます!」


青葉は智子の残した和牛ステーキを幸せそうに頬張り、とても満足そうだ。


それを見て智子も、幸せ…と思うように自分自身に言い聞かせようとしたが、この、ただならぬ違和感は何なんだろうか…?


(いやいや智子、今はこの素敵なイケメン青葉さんとのデートを楽しむのよ!)


智子は自分の腹の底から込み上げる不快な感情を抑えつけ、その後も笑顔に徹した。


最後のデザートまで、智子の分も全て平らげた青葉は、幸せそうな笑顔で智子に小さな紙袋を差し出した。


「あ、コレ。今日初めて会ったけど、、クリスマスプレゼント!良かったらまたデートしてほしいです!」


「え、サプライズじゃないですか!わー嬉しい!ありがとうございます…!」


またデートなんて無理だけど…


病気のためなのか、単純にリピート無しと判断したのかは分からないが、智子は心の中でそう唱えながら、一生懸命嬉しそうな表情を作りながら紙袋の中身を取り出した。


そこには、優しそうに微笑むサンタクロースの姿が一体あった。


「あけてみて!」


青葉がいたずらな笑顔で智子にお願いする。


「え?何かな〜。」


透明のビニールからサンタクロースを取り出すと、サンタクロースの中心には切れ目があり、どうやら分割するようだ。そしてその中にもひと回り小さなサンタクロースが…。


「マトリョーシカ」だ…。






「智子さん、このあと、どうします?延長して泊まりでも俺、全然OKですよ!」


「あ、夫にバレちゃうと大変だから、今日はやめとくね。また機会があれば…!」



「そっかぁ、残念だな。智子さんみたいなお上品でおしとやかな女性、俺、マジでタイプなので、、良かったらまた呼んでくださいね!」


青葉は智子の肩を抱き寄せると、おでこにそっとキスをした。


智子の背筋にぞわっと悪寒が走る。

全く悪気の無い青葉にそんな気持ちがバレたら、申し訳ない事この上ない為、智子は必死に嬉しそうに振る舞い、青葉にお礼と別れを告げた。



「ただいま」


智子は玄関を開けると、娘達が出迎えてくれた。

「お帰りー!ママ、どうだった?イケメンだった?」

「どこ行ったの?ママ騙されなかった?」


娘達には今日の企画の内容を話していたため、興味津々で智子を質問責めにする。



「うん、イケメンだったよ!…でもやっぱり、ママ、おうちが1番落ち着くな。娘達は可愛いし、浮気者だけど、、もうパパでいいや!」


智子は舌を出すと、そのままシャワーへ向かった。


改めて自分の身体を見ると、腹水が溜まりお腹だけがぽっこりと膨らみ、その他は贅肉など見る影もなく、骨と皮だ。


夫はこんな私の身体を嫌がりもせず、大切に、愛情を持って触れてくれたんだと思うと、なぜか涙がこぼれ落ちてきた。







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