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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
67/75

67話 (厨二企画に動画データを持っていく冬子)

「お、お久しぶりでーす…母のデータを持ってきました。」


冬子は学校帰りに、智子の一人語り動画を含め約3時間にもなってしまった動画データを届けに厨二企画の事務所に立ち寄った。


「あ、冬子、ちょっと待ってね」


インターフォン越しに梓馬の声が聞こえ、冬子は胸の奥の方がぎゅっと締め付けられた。


梓馬が扉を開き、迎えてくれた。

事務所には梓馬1人だけのようだ。


「冬子、わざわざありがとう。」


「送っても良かったんだけどね…、学校から通り道だったからさ」


久々に会う梓馬は半袖が長袖になった事以外、何も変わってなくて、何も変わってないせいで、冬子は過去に戻れるのではないかと錯覚してしまう。



冬子は動画データを梓馬に渡した。


「智子さん、具合悪いん?何か前の撮影では救急車で運ばれたって聞いたけん、、」



「うん、やっぱり少しずつ元気はなくなってるかな。


でも温泉旅行は、家族皆で楽しめたよ!動画、3時間にもなっちゃったから(笑)上手く編集してね。」


「…お前ら、相変わらず編集者泣かせやな。任せとき。オレがうまい事やっちゃるけん。」


「お願いね、じゃ、梓馬さんの元気そうな顔見れて良かった!バイバイ。」


「冬子、ちょっと待って。」


冬子がくるりと玄関の方を向いた時、梓馬は思わず冬子の手を掴んだ。


「梓馬さん、そういう事、しないで…。」

冬子は玄関の方を向いたまま小さな声で訴える。


「冬子、ゴメン、、」

梓馬はぱっと手を放し、謝った。


「梓馬さん……、ごめんなさい、ちょっとだけ、時間をください…。」


「…え?」


冬子はくるりと梓馬の方を振り向くと、梓馬の胸に飛び込んだ。


梓馬も冬子をぎゅっと強く抱きしめ、髪を撫でる。


「ごめんなさい、、依存しないって決めたのに。こんな事を期待して、ここまで来ちゃったんだよね。私。」


「冬子…オレも、冬子に会ったらどうしても抑えきれんかった。。」



「冬子の髪の毛、相変わらずいい匂いやね」

「梓馬さんも、いい匂いがする。これは、、焼肉?」

「え?分かった?今日の昼間は友達と焼肉ランチ行っとったけん。」


2人は見つめ合うと、ぷっと吹き出した。



「冬子、思ったより元気そうで良かった。もっと落ちとぅのかなって、心配しとった。でも、大丈夫そうやな。」

「うん、もうね、落ちてらんないというか。大学受験もね、ママすごく喜んじゃって。梓馬さんのお陰で、踏ん切りついたよ。ありがとう!」


「冬子の人生、応援しとるしな。頑張りぃよ!」

「ありがとう。梓馬さんの事も、私、応援してる。動画もずっと見るから。頑張ってね。」


2人はもう一度抱きしめ合い、冬子は事務所を後にした。



冷たくなった風が、制服のスカートを揺らす。


すっと息を吸い込み、梓馬と出逢えて本当に幸せだったなと、冬子は改めて思う。

枯れ葉を踏みつける音がサクサクと耳元を刻み、長くなった自分の影と目が合った。


冬子は、この先どんな事があっても、絶対に前を向いて進もう…、そう心に誓った。



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