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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
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61話(智子と仁志の争い)1

「なぁ智子、、抗がん剤が終わってしんどい所ごめんな。もし話ができそうなら、ちょっとだけいいかな?」


仁志が和室の襖ごしに智子へ声をかける。

智子は何も言わず起き上がり、襖を開けた。


「あっちで、座って話しましょうか」


仁志はコーヒーを淹れて智子に差し出した。


「何から話していいのやら分からないけど、、この前母さんと一悶着あったことは聞いてる。あれから母さん、数日間寝込んでしまったらしいんだけど。


まず第一に、レストランに一人ぼっちで置いてけぼりはちょっとマズいんじゃないかと思ってね。」


「……それで?」


「いや、、あとは何やらキミも若い男と不倫していると聞いたぞ。その間男からも母さん、何やら酷い事を言われたらしいじゃないか。

そんなに動画に出ている事を自慢したいなら、ラインでURLでも送れば済む話だろ?


何でそんな寄ってたかって酷い仕打ちをするんだ?最近めちゃくちゃな行動ばかりで、、今までの楽しかった思い出が一気に塗り替えられそうだ。残りの時間位、家族との思い出を作ったり、穏やかに過ごせないのか?」


「そうね、、まぁあなたの言ってる事って正しいよね。

あ、動画に出ている事は別に自慢したい訳ではなく、お義母さんに現実を知ってほしかっただけ。私はあの人のしもべではないって事」

「何それ?意味が分からないな。別に母さんは智子をこき使ったりしてないだろ?」

「…そういう意味ではなくね、この家に嫁いだルールに従うという意味で。私は嫁だけど、しもべじゃない。」




「…それでその仕打ち?まぁキミの考えは何となく分かった。この風間家にずっと馴染めなくて、この期に及んで仕返しって所か。はぁ…。」


「あのね、、もう、馴染みたくもないです。仕返しは、その通りかもね。うん。私はこの最後の時間を使って復讐しようと思う。あなたにも、お義母さんにも。。


でもやっぱり、あなたが1番憎い。私を言いくるめないと気がすまないのね?自分の正しさに相手が屈するまでとことん戦う姿勢、すごいよね。」



「私もね、あなたには口では勝てない。もう全部あなたが正しいよ。だから、正面からぶつかるのは辞めた。呪いの力だ。死んだあともあの世で呪ってやる。末期癌患者、舐めんなよ。」



智子は仁志の胸ぐらを掴んで睨みつけた。


「死んだあともあの世で呪う」なんて言われ、流石の仁志もたじろいだ。



「私の最近の行動、確かに全てがめちゃくちゃよね。でも別にね、あなたに批判された所で辞めるという次元ではないので。

批判すれば行動を改めると思った?馬鹿だね。

私はもうすでに、あなたの物ではありませんから。」


「お前、、今までこうやって何不自由無い生活を送れてきているのは俺ありきだと思うんだけど。俺の意見を汲んでくれないのなら、そういう恩恵も拒否するってこと?」


「……ぷっ。ずっと前にあなたが『誰のお陰で飯が食えてるんだ』って言う人を『モラハラだ』と言って馬鹿にしてたのを思い出した。

やっぱり今まで隠してただけで、本音はそれだったのね!あはっ。

やっぱりあなたは、「家族の幸せ」なんて考えてないじゃない。自分のシナリオ通り家族を、私を駒として動かすような独裁者!」

「恩恵のストップ、やるなら勝手にどうぞ。癌患者の私を家から追い出す事も、病院に治療のストップを申し出ることも出来ないでしょうけど。ははっ!」


智子は高らかに笑い声をあげると、立ち上がり、和室へ引き戻ってしまった。


仁志の淹れたコーヒーは、全く口をつけられていなかった。


あいつ、コーヒー嫌いだったっけ…?


仁志はコーヒーを流し、スポンジに泡を付けて2つのカップを洗う。


10回目の結婚記念日に娘達からプレゼントされた物だった。



仁志は、20年近く寄り添った妻の事を何一つ分かっていない事に気付いた。



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