59(ディズニー1
ディズニーに向かうのは、一年近く前に梓馬と行ったきりだった。
JR京葉線、舞浜駅方面の電車に乗ると、一気にディズニーの空気感に変わり、胸が高揚する。
プリンセスのドレスを着てご機嫌な子どもと目が合った。
冬子が微笑むと、その子も笑顔で手をふってくれた。
いつかは私も、こんな風に子連れでディズニーなんか行くのかな…。
冬子の妄想が始まりそうな辺りで、電車は舞浜駅に到着した。
「梓馬さーん」
前回同様イクスピアリ前で、アメコミのTシャツを着た梓馬が冬子に気付いた。
「冬子!冬子って今日も可愛いなー!」
梓馬は冬子気付くなり冬子に突進すると、なんと冬子を持ち上げて振り回した。
「キャーーー!ちょっと梓馬さん!!」
「元気出た?今日はとことん楽しむぞー。夢の国やけんね!」
梓馬の少し粗雑な励ましが、冬子の沈んだ心を溶かしてくれる。
2人は自然と手を繋ぎ、前回同様ディズニーシーへインパークした。
空はどんより曇っていて、今にも雨が降りそうだった。
「冬子、オレあれ乗ってみたいけん、良い?」
梓馬はタワー・オブ・テラーを指さして冬子にお願いした。絶叫かぁ、、ちょっと怖いけど、子どもも並んでるし大丈夫だよね?
「もちろん!」
いざ並んでみると、ホラー調の雰囲気が冬子達を恐怖の世界へ誘った。冬子の梓馬の腕にに絡みつく力が強くなる。
梓馬は「…冬子、怖いんやな…。まだまだ子どもやねー」と、勝ち誇ったように冬子の髪に頬を乗せた。
「子どもでいいですよ!」
冬子もさらに強く梓馬にしがみついた。
梓馬が余裕だったのも束の間、いざアトラクションに乗ると、梓馬は恐怖で悲鳴をあげた。
「ぅわーーーー!何なんコレ?この浮く感覚のやつ、オレめっっちゃ苦手、、、え、、またやぁぁーーー!助けてーーーー!ふゆこーーーーー!」
梓馬の余りの怯えぶりに、冬子は隣で苦笑した。むしろ、笑いを堪えるのに必死で、アトラクションに集中出来なかった。
「梓馬さん、、大丈夫?」
冬子は冷たいお茶を買ってきて、梓馬に差し出した。
「ありがとう、、舐めとったわ。これもシリキ・ウトゥンドゥの呪いかもな…」
梓馬は冗談混じりでお茶を受け取ると、げっそりした様子でお茶を一気に飲み干した。
「あ、雨…」
ポツポツと降ってきた雨はやがて一気に本降りになった。
「どーしよー!」
「とりあえず、アリエルんとこに避難しよ!」
アトラクションで酔った梓馬の手を引き、冬子は屋内エリアまで走った。
「はぁ、、ここまで来ればひとまず安心かなぁ。せっかくのディズニーデートなのに、雨、、残念!」
「まぁ、冬子が笑顔になってくれてオレは安心やけどね。何か、今のオレにぴったりな、優しそうなやつのろかー。」
雨のせいか人が密集してはいるものの、ここは家族連れの多いエリアだ。冬子はつい、梓馬との未来を意識してしまう。
アトラクションに並んでいると、1人の子どもが梓馬に話しかけてきた。
「そのTシャツ、オレのイトコの兄ちゃんも同じやつ持ってる。」
「マジで?その兄ちゃんセンスあるね!オレとオソロイなんて!」
梓馬が変顔でおどけると、子どもも笑顔で母親の元へ駆けていった。
「梓馬さんって、人を笑顔にする不思議な力があるよね
…。私も、ママも、美月だって、、日本中の人達みんな、梓馬さんから笑顔を貰ってるよ。」
「…どうした冬子、急にしおらしく…」
「梓馬さん、、私が高校を卒業したら、
わ、私と結婚してくれませんか??」
冬子は梓馬の瞳をまっすぐ見つめて、大胆にも今この場で、プロポーズをした。
「もう、この先一緒に人生を歩む人は、梓馬さん以外に考えられないの!!お願い、私をお嫁さんにしてください!」