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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
57/75

57話(義母とランチ)

木曜日の昼間、智子は「仁志さんから伺った事について」という理由で、義母をランチへ誘った。


義母が好きそうなお洒落なフレンチを予約し、義母も上機嫌だった。


「智子さん、こんな所来るの久々よ。嬉しいわぁ〜。前、仁志とお姉ちゃんから誕生日の時に…」


「失礼いたします、こちら前菜のコクテイユ・アボカ・クルベットでございます。」


料理が出てくると、すかさず義母はスマホを構えた。


「…智子さんお元気そうに見えるけど、、ご体調の方は大丈夫なのかしら?」


「ええ、仁志さんから伝わっている通り、胃癌の告知を受けてしまって…。毎日辛かったのですが、残りの人生悔いなく過ごそうと思いまして。…仰るとおり今はこの通り元気です!手術も、、出来なかったんですよね!」


智子はニコリと微笑んだ。


(今日の智子さん、何か不気味だわ。ご病気のせいね、可哀想に)


前菜を味わう中、しばしの沈黙を破ったのは義母だった。


「そういえば智子さん、夏帆(姪)ちゃんから聞いたんだけど、何やら不良みたいな、You Tubeに出演されてるんですって?仁志は人違いって言ってたけど、勿論その通りよね…?」



「You Tube見てないですか?」


「ちらっと見せては貰ったけど、老眼でスマホ画面がよく見えなくて、、」


智子はすかさず特大タブレットをカバンから取り出し、動画のサムネイルを表示させ、満面の笑みで

義母に差し出した。



「ハイ、私で間違いありませんよ?夏帆ちゃんも気付いていると思うんですけどね。」



義母は一瞬「ヒィ、、」と声をあげた。


「と、智子さん、あなたはこの期に及んでどうしてそんなおかしな真似を…、しっかり仁志や冬子ちゃん、美月ちゃんと向き合って、家族との思い出を余生に残すのが大切なんではないですか?


元々少し抜けてるとは思っていたけど、、」


義母は、はっと口をつぐんだ。


智子は、「ふーん。」と義母を舐めるように見つめた。

「お義母さん、、実は仁志さん、ずっと不倫していたんです。さすがに最近辞めたみたいですけど。」


「…智子さん、仁志の会社でのポジションご存知なの?そ、そのくらいの地位がある男性はね、男の甲斐性っていって、浮気の1つや2つ…」


「お義母さんもされたことあるんですか?」


「そりゃあ、1度だけではなくお姉ちゃんが産まれた時から何人も…、いや、そんなの今は関係ないわよね?」


「お義母さんも、何回も浮気されたんですね。可哀想に。。実は私、あの動画に出たキッカケは、彼氏なんです。今呼びますね」


智子はすかさずスマホを手に取り、龍之介を呼び出した。

店外で構えていた龍之介は、すぐさま現れた。


「智子!大丈夫?酷い事言われてない?」

龍之介が登場し、智子の肩を抱き寄せ、心配そうに顔を見つめた。


「龍之介、ありがとう。、、ねぇお義母さん、どうして、私が嫌いなんですか?」


「はぁ…?あな、あなたなんてね、学も常識も無い無能で、、最終的にやっぱりアバズレ嫁だったのね!初めからうちの嫁とは認めてませんから!うちの仁志には、つり合いません!」



義母はヒートアップして声を荒げる。


「そっか。死ぬ前にそれを知れて良かった。こんな事、先が短い人間に言うような人の息子だから、仁志さんもあんななのね。」


「これがわかって私、すっきりした。仁志さんの違和感の正体が分かった。お義母さん、さようなら。」


智子の狙い通り、若く美しい龍之介が智子の彼氏としてあらわれた事で、義母の嫉妬心に火がついたのか、義母の本音を知ることが出来た。

「アバズレ」なんて言葉を義母の口から聞くことが出来、智子は満足だった。


その場を立ち去ろうとする智子の肩を叩き、「ちょっと待って」と目で合図すると、龍之介はクルッと振り返り、義母の隣に腰掛けた。


「あんた、オレの知り合いの婆さんにそっくり。人の肩書きとか金ばっかり見て生きてる人。大切なのは、ハートだぜ?」


「…何言ってるの?貧乏な人が孤独死すること程惨めなことはないわ。安定した生活の元、家族に囲まれ穏やかな余生を過ごす事こそ、最大の幸せよ。」


「ぷっ、、智子の事あんなふうに言っといて穏やかとか、笑わせんなよ?オマエの人生、いくら取り繕ってても内面はドロ沼じゃん?そしてそれに気付いてないのがすげえ。

オレはあんたとは違う!ハートとソウルを震撼させたうえで成り立つ富の実現が、オレの夢!じゃあね、婆さん!!」



龍之介は智子の手を取ると、「智子、行こう!」と言ってレストランを後にした。

勿論、お代は支払済だ。



「智子さん、最後のオレ、かっこ良かったっすか?昨日めっちゃ考えたんだよね!」


「うん、あんな風に言ってくれるなんて思ってなかった。。ありがとう。」



智子は緊張の糸が途切れたのか、涙が溢れてきた。



「智子さん、よく頑張りましたよ。今までも。あんな婆さんのおもりも疲れたでしょ?もうオレのせいで?今日で終わっちゃったし、ははっ!これからは気楽に生きて良いんじゃね?」


智子はふっとはにかみ、涙を拭った。

「龍之介さん、次は夫にも言わなきゃいけないの!それは1人で頑張るから!」


明日からは抗がん剤2クール目の為入院が始まる。



私の闘病生活を公開することが、日本中の誰かのハートとソウルを震撼させているのかもしれない。


智子はこんなに心が震える経験は、生まれて初めてだった。癌も捨てたもんじゃないのかもとさえ、思っていた。




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