54話 厨二企画に義母の件先倒しにする話打ち明ける
「すみません、あの、来週末からは抗がん剤治療の2クール目がスタートしますので、『義母に呪いの手紙を書く』を叶えたいと思いますが、、よろしいでしょうか?」
厨二企画事務所での企画会議にて、智子は手を挙げて控えめに発言した。
「もちろん、それは智子さんにお任せしますけど、、呪いの手紙、もう渡しちゃうんですか?」
圭介が驚いた様子で聞き返した。
他のメンバーも同様に思ったようで、『呪いの手紙』は企画後半での実現と勝手に想像していたからだ。
(今出しちゃって、義母と気まずくなるんじゃね…?)
皆が思っていた。
「はい、今このタイミングでお願いします。というか、手紙を渡すだけではなく、直接話せる事は話そうと思いまして。
その様子を動画に治めていただいて結構ですので、撮影がてら誰か一緒に同行していただけると有難いのですが…。あ、冬子は同席させないつもりです。」
そんな役回りは基本的に梓馬が請負っていたが、今回は熱血担当の龍之介が挙手をした。
「智子さん、その同行、俺に行かせていただけますか?いや、何かそのばあさん、俺嫌いっす。他人だけじゃなく身内にまでステータスを強要するような奴がまさしく、日本の老害っすよ。必ず智子さんの力になるんで、俺に行かせてもらえないっすか?」
龍之介が過去に、「身内にステータスを強要する奴」と苦い思い出があるとは分かったが、誰もそこには触れなかった。
ただ、龍之介を同行させる事によって、面白い動画が撮れるかもしれないという期待に胸が踊った。
「龍之介さん、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。…、ちなみに、私の『本気の不倫相手』としいうテイで同行していただきたいのですが、お願いできますか…?」
一同目を丸くしたが、そのくらいお安い御用といった感じで、龍之介は答えた。
「そんくらい、余裕っすよ!任せて下さい!」
「頭の堅いばぁさん」からどのようなバッシングを受けるか、内心恐怖も感じたが、メンバーからの「絶対に面白い動画撮ってきて!」の熱視線に抗えず、龍之介は快諾した。
その晩智子は、いざ義母へ「呪いの手紙」なんてものを書こうとしたのに、なかなか恨み辛み節が出てこなかった事に驚いた。
今まで思ってきた義母への嫌な感情、悔しかった事、辛かった事…思い出しても、全てが些細なことのように感じたのだ。
むしろ、なぜ義母はあんなふうに、仁志や冬子含めお受験に執着し、プライドを保っているのか、理由が気になった。
智子はペンを置くと、「嫁と義母の本音対談企画」の構想を1人で練った。
最近はYou Tubeのアイディアがよく浮かぶ。
義母に聞いてみたい事を羅列し、寝床についた。