52話
「ごめん、史恵。俺たちもう終わりにしよう。」
智子が胃癌告知を受けた後日、仁志は不倫相手である史恵に別れを告げた。
本当は史恵と別れたくはなかったが、家族の前で関係を明らかにしてしまった今、関係を続ける事は難しいと判断し、苦渋の決断だった。
「そっか、、残念だけど、仕方ないね。これからは奥さんと子ども達を大切にしてあげて。」
仁志からの熱心なアプローチに少なからず心を奪われていた史恵ではあったが、事情が事情なだけに、仁志にすがる事は出来ない。
史恵は慎ましく身を引く事を選んだ。
「…俺、今回妻の癌告知を受けて改めて考えると、今まで妻のことを今まで蔑ろにし続けてきたって気付いたんだ。何で俺、妻の気持ちを考えられなかったんだろう…。」
仁志は頭を抱えながら、自責の念を史恵に打ち明けた。
「…そういうのは、ご本人に言ってあげて?私達は今日でおしまいだよ。また逢いたくなったらお店に来てよね。いつでも歓迎するから!」
今まで妻を軽視していた罰なのだろうか。
癌告知を受けてから、智子の態度はそっけなく、もちろん娘達も母親の味方だ。
そして今回、史恵との関係も終了してしまった。
仁志は一気に「自分の居場所」を失い、困惑していた。
ある日、久々に母親からの着信があった。
智子の事はまだ話してないから、、まぁ他愛もない用事かな。
「もしもし母さん、久しぶり、どうしたの?」
「仁志、久しぶり。…智子さん、癌にかかったんですってね。それも、結構重いらしいじゃないの。大丈夫なの?」
「…まぁ、今の所は元気そうだけど、抗がん剤治療でやっていくしかない位進んでるんだ。智子も気丈に振る舞ってるけど、辛いだろうから夫婦で支え合っていこうと思ってるよ。というか母さん、何で知ってるの?冬子か美月から連絡でもあった?」
「……、仁志、智子さん、ご病気で少し頭が狂ってしまったのかしらね。
夏帆ちゃんが智子さんをYou Tube?なんかで発見したみたいでね、、何やらヤクザのような人達とご病気の内容を元に出演されているじゃないの。お母さん、びっくりして心臓が止まるかと思ったわよ。」
仁志はすぐに「ヤクザのような人達」が誰なのかを理解した。
「え、そんなことある?智子はいつも家に居るし、人違いじゃないかな??あ、ごめんちょっと仕事の着信が入ったから一旦切るよ。母さん、身体気をつけてね」