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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
50/75

50話(梓馬と冬子ギクシャク)

「夏樹、私は……」


夏樹からは以前も駆落ちの道連れにされ損なったが、「好きだ」という気持ちを聞いたのは今回初めてだった。


また、「付き合って欲しい」という言葉は、依然梓馬とは交際の約束が取り交わされていないのが現状だったため、冬子の心を大きく揺さぶった。


「ごめん、、ちょっと考えさせて。ご飯、美味しかった。ありがとね。ご、ご馳走さま!」


冬子は逃げるように店を出ると、そのまま流れるようにカスタマへ走り受付を済ませ、個室にぺたんと座り込んだ。



なぜか涙が止まらない。


梓馬とは1年近くの付き合いになり、身体の関係もある。しかし、「好き」とは言われるものの、関係性を明らかにする言葉は全く無いまま、今に至っていた。


さらに母の動画出演をきっかけに、最近はビジネスライクな関係に変わったとも思う。特に今日の撮影で冬子は、「彼女」どころか「智子のマネージャー」と見られている感じがして、梓馬に対し冷淡な印象を受けた。


やはり、あれだけ気が合って仲のいいプリンと頻繁に会っていれば、そっちに心が奪われてしまうのだろうか…?


冬子は、辛かった。

母の命がそう長くないという恐怖と戦う中、母を、家族を支えなければいけないという使命感に苛まれ、この思いをどう消化したらいいのか分からなかった。


本当は、目一杯梓馬に甘えたい…。


夏樹の優しく包み込むような声を思い出す。

夏樹なら、私の事を支えてくれるのだろうか…。

せきを切ったように声を押し殺し泣いてると、ラインが鳴った。


夏樹からだ。



「トーコ、突然あんな事言ってびっくりしたよね?ごめん。でも俺、本気だから。いつでも連絡待ってるから。」


こんな優しい言葉かけられたら、、私、どうしたらいいの…?

夏樹は、一年前トー横のホテル屋上で飛び降りをほのめかしたあの時とは、まるで別人のように成長していた。


私は…、何か変われたのだろうか…?


スマホのバイブ音で冬子は目が覚めた。


スマホを見ると、現在23時を回っていた。

ワインを飲んだ為か、そのまま泣き寝入りしてしまったらしい。


梓馬から数件ラインが来ていたようだ。

冬子は発信ボタンを押した。

「梓馬さん、、ライン返せなくてごめんね。ちょっとカスタマで寝ちゃってた」


「冬子、無事で良かった…。やっぱ歌舞伎町物騒やし、心配しとったんよ?今カスタマ?オレもすぐ近くやけん、降りてこれる?」

「うん、今降りる」


涙でぐちゃぐちゃになった顔をさっと直し、カスタマのエスカレーターを降りた。

一年前のように、梓馬は目が合うとおどけて冬子を笑わせてくれた。


梓馬は、冬子に近付き顔を見るなりすぐさま異変に気付いた。

「冬子、目が腫れとんぞ…?何かあった?」


梓馬さんは、察しがいいから困る。

化粧、直したのにな。

「梓馬さん。私、もう辛いよ…。」

「…ママのこと?」

「それもあるけど…。今、梓馬さんに甘えられないのが、辛い…。」

冬子は梓馬の肩にもたれかかり、静かにこぼした。


「…そんな事?別に甘えてこればええやん。」

梓馬は冬子の気持ちを一掃した。


「そんなの無理だよ。だって最近…、特に今日の梓馬さんは冷たいんだもん。とても甘えられる空気じゃない。」

「…まじ?」

「まじ。何か『厨二企画の梓馬さん』って感じ。」


梓馬は頭を抱えた後、静かに口を開いた。

「そっか、、うんまぁ、冷たくしてしまってごめんな…。いや、カッコ悪いけど、かーちゃんの手前緊張してるっちゅーのはあるかなぁ…」


「え?」


「そりゃあ、冬子の母ちゃんやもん。普通にピリッとするわ。

オレ、今日馬鹿な発言ゆーたよな?マジで自己嫌悪やけん…。あれ智子さん怒っとらんかった?」


「…全然気にしてないと思うよ?」

「そっか〜。良かった…!しかもさ、メンバーの手前冬子にデレデレするわけにいかんやろ。確かに今日のオレ、冷たかったかもな。マジでごめん。」


ほっとしたように胸を撫で下ろす梓馬を見て、冬子はまるで自分の気持ちしか見えていなかったと反省した。



「そうだったんだ。確かにそうだよね。普通に、親と絡んだりするの緊張するよね。しかも動画の企画だもんね。。私も、梓馬さんの気持ちに気付けないでごめんなさい。」


冬子は梓馬を抱きしめた。

「ママのこと、助けてくれてありがとね。」

「オレも、色々一人で抱え込ませてごめん。辛かったよな?」


梓馬は冬子の頬を撫で、おでこにそっとキスをすると、優しく抱きしめた。


生ぬるい夏風が2人を包む中、冬子の今までの不安な気持ちも、空気に溶け消えていった感じがした。

なので冬子は、梓馬の体温の心地よさだけにしばらく身を委ねた。



「…てっきりさ、梓馬さん、プリンちゃんが好きで、そっちに行っちゃうんじゃないかと思ったの…。」

冬子は思い出したように口を開いた。


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