49話(夏樹と歌舞伎町で再会)
夕方、歌舞伎町へ繰り出すのは久しぶりだった。
夕方だというのに相変わらず気温は下がらず、コンクリートから熱気が込み上げる。
「今からトー横」
と、よくTwitterで呟いたのが懐かしい。
冬子はもう半年以上、トー横界隈からは足が遠のいていた。冬子は馴染みのカスタマカフェで時間を潰す事にした。
カスタマへ向かう途中、すれ違った人がこちらを見て「あー!トーコ!」と叫んだ。
冬子が顔を上げると、そこには一年前とは大きく雰囲気が変わった夏樹の姿があった。
「夏樹じゃん!久しぶりーー!え、何か雰囲気変わったね!」
「だよね?だいぶイメチェンしたんだ。トーコのお陰。トーコのアドバイス通り、あれからホスト始めてさ、結構うまくいっちゃってるんだよね」
ニコッとはにかみVサインする夏樹は、昔とは異なるオーラというか、余裕が感じられた。
髪色は黒と紫のツートーンカラーに変わり、長身で細身のスタイルに、黒のスーツが良く似合っていた。
「これからトー横?」
「ううん、ちょっと夜待ち合わせで、カスタマ辺りで時間潰そうと思って。」
「そっか。…時間あるなら、夜飯どう?おごるぜ。いつかのお礼に。」
夏樹は高そうな財布を見せて決めポーズしてみせた。
「そうだね…、えー、じゃあ、おごられちゃおうかな!?」
「やった!同伴にはしないから安心してね(笑)」
「夏樹、私まだ17だからお店には引っ張れないからね!」
「知ってるよ」
夏樹は優しく微笑んだ。
夏樹が「オススメ」と言って連れてこられたのは、お洒落なイタリアンだった。
少し暗めな雰囲気が大人っぽく、友人同士でこんな店に入るのは初めてだ。
「うわー、なんか凄いね。夏樹、こういう店お客さんとかと来てたりするの?」
「うん、もう10回位は来たかも(笑)。定番メニューは大体食べたことあるかな。トーコ好きなの頼んで。」
2つしか違わない夏期の成長ぶりに、冬子は圧倒された。
夏樹は堂々とワインを注文した。
冬子のグラスにも、遠慮なくワインを注ぐ。
「2人の再会に、かんぱーい!」
冬子はイケメンと大人の店でワイングラスをカチンと鳴らすこの状況に、そして久々に飲む酒に、気分が舞い上がった。
「梓馬さん、最近凄いよね。厨二病企画の動画たまに見てるけど、Barやったと思ったら、トー横民助けたり、今はなんか病気の人助けようとしてる…?最近真面目路線なのかな。まだ親交あるの?」
「…厨二企画ね。うん、今日も今から会う約束してるの!もう梓馬さんと知り合ってから1年位にはなるかな…。」
冬子は頬杖をつき、うっとりと窓の外を見ながら呟いた。敢えて動画の内容には触れなかった。
「ずっと好きなんだね。一途な恋で羨ましいよ。俺は彼女なんて全然作れないからさ、今はお客さんが彼女かな。」
「夏樹なら絶対にホストで成功できるって思ってたよ!頑張って!」
その後は、当時のキッズ達の近況や、ホストに来る凄いお客さんのこと、冬子は現在家に帰って普通に生活してること等…他愛もない話で盛り上がった。
会話が途切れた時、ふと、冬子はこぼした。
「そういえば、最近厨二企画の事務所に寄る用事があったんだけどさ、フリーそざいちゃんっていうyoutuberが居てさ、梓馬さんと楽しそうにしてて、ちょっとヤキモチやいてるの。
プリンちゃん、性格いい上にやっぱりyoutuberのノリというか、私あんなふうに弾けられないし、悔しいというか、切ないというか…」
酒が回ってきたためか、冬子は途端に涙が溢れてきた。
「トーコ、、何か俺が泣かせてるみたいじゃん(笑)プリンちゃんね、知ってるよ。元フリー素材だった人でしょ。名前に似合わず可愛いよね。度胸あって面白いし。あんな子が彼女だったら楽しいだろうね。」
夏樹は冬子を慰めるどころか、追い打ちをかけた。
「な、なつきぃ……」
驚いた様子で涙をいっぱいにして、冬子は夏樹を見つめた。
(夏樹も、梓馬さんと同じく慰めてくれない派…?)
「ま、俺は、、トーコの方が好きだけど。見てて飽きないし、いつも一生懸命で、目の前の人にちゃんと向き合ってくれるよね。たまにサイコパスっぽい所も。他にこんな面白いコは見たことないかな。梓馬さんダメなら俺と付き合ってよ?ホストなんかすぐ辞めて幸せにするけど。」
どうやら夏樹も酒が回っているらしい。
本気だか冗談かは分からないが、目は本気だった。