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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
43/75

43話

退院後の母は、まるで別人になったかのようだった。

自他共に認める料理好きだったはずなのに、夕食の時間になってもソファーに突っ伏したまま「出前でも取ってよ」と言い、自分はスマホでゲームに没頭した。


父が何かを言ってても、以前はまるでご機嫌取りのようにニコニコ対応していたが、今では「ふーん」「そんなのしらないよ」等と塩対応。


ある日、冬子が台所で洗い物をしていると、母が突然立ち上がった。


「ねぇ冬子、、私のこと、厨二企画の動画で取り上げて貰えないかな?」


腹膜播種が見つかり、がんセンターへの紹介状を貰い、その病院にて、既に手術が困難な状況にあるため、今後は抗がん剤で対処していく方針を告げられた翌日のことだった。


「冬子、私もう、先が長くないんだ。分かってるよね?

私、今まで我慢ばかりで生きてきたけど、これで人生終わらせたくない。

厨二企画の動画見てると、たまに密着ドキュメンタリーみたいなのやってるでしょ?

あれに私、出たいの!」



智子は、冬子の目を真っ直ぐ見て伝えた。


こんな母の目を見るのは初めてだった。

いつも、優しそうに目を細めて話すか、怯えたように諭す母親の目しか知らなかった。


その瞳は、今までで一番輝いているように見えた。






「梓馬さん、久しぶり!元気?」



母の病状を冬子から知らされていた梓馬は、今までと同じ調子で話す冬子の声に驚いた。


「元気しとるよ。変わらず!冬子の方こそ調子が普通すぎて驚いたわ、、その後お母さん大丈夫なん?」


「うん、、まぁ、、その母の事でご相談がありまして…」


冬子は母の思いを梓馬に伝えた。

母がそんなふうに考えた経緯を想像してしまい、途中涙が止まらなくなったが、梓馬は優しく付き合ってくれた。


「ちょっと皆に相談してみるけん、また連絡する。

冬子、大好きだよ。」


「梓馬さん、私も大好き!!」



ここしばらく梓馬に会っていない。

梓馬さんに、キスしたい。髪を撫でたい。抱きしめて、またキスしたい。



ここ最近、悲しい事ばかり考えて眠れなかった冬子は、

久々に落ち着いて、優しい気持ちで眠りについた。



数日後、梓馬から連絡があった。

具体的に企画化されて返ってきたので、智子の密着取材の希望は受け入れられたらしい。



企画の内容は、このようなものだった。


「厨二企画が送る、『最高の人生の楽しみ方』。

まず、お母さんにやりたい事リストを作ってもらう。

(10個くらい?)

それを達成するために、クラファンで資金を集める。

夢を叶える !!! 」


名作映画のパロディ風に仕上げる意向との事だ。



冬子は、心が踊った。


ママのやりたい事って、何なんだろう?

母親が、今まで家族の為に自己犠牲のもと生きてきたのは痛いくらいよく分かっていた。


そんなママの、やりたい事を達成させてあげられたら、どんなに幸せか!



「梓馬さん、みんなも、凄く素敵な企画考えてくれてありがとう!さっそくママに話してみるね。

梓馬さん、大好き。会いたい。いつ会える?」


「冬子、ここは東京やけん、、今すぐ会えるぞ!オレも冬子に会いとぅて、死にそう。助けて…」


冬子は久々に夜外出して、梓馬と落ち合った。


既に2人共半袖の季節。腕と腕がぶつかって、嬉しい気持ちになった。


ホテルなんかに入るのが待ちきれなくて、途中、街頭が薄暗く照らす下で、梓馬は冬子の両頬を持ち上げて強くキスをした。


梓馬の冬子を想う気持ちが伝わり、胸が苦しくなって、冬子は涙が止まらなくなった。


「冬子、泣いてるの?」

「うん、、凄く嬉しくて。梓馬さん、大好き」


冬子は梓馬の首に絡みつき、キスを返した。

生ぬるい風が2人を包んで、そのまま溶けてしまいそうだった。


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