42話
智子の口に出来る食事が粥食から通常食に近付き、退院も間近になった。
「ママ、残りの入院分、新しい着替えはこれで足りるよね?」
床頭台の扉を開き、冬子は手際よく新しい着替えを仕舞い込む。
最近は学校帰りに病院へ行くのが日課になっていた。
「冬子、、毎日ありがとう。ママだいぶ回復してきたよ。」
「ママ、色々心配かけたり、お金のこととかも、本当にごめん。ママ、辛かったよね…。」
「気にしないで、冬子。
ママの方こそ今まで、冬子の事沢山辛い気持ちにさせてたのに、自覚がなかった。辛い気持ちにさせてごめんね。
入院中、一人で色々考えたよ。
ママは結局、自分の事しか考えてなかった。ナイフなんか持ち出して、どうかしてた。気が狂ってた……。」
「…冬子、あの彼、好きなんだったら、応援するから。確かにちょっと、不良っぽいけど、優しそうだなって思ったよ。良いな、青春だね、冬子!」
突然母からそんな事を言われ、狐につままれたような顔をしていたら、智子はふふっと声を出し
「ちょっと羨ましいな」
と、力なく笑った。
翌日、検査結果の説明のため、医師から呼び出された。
智子と仁志が医師の前に並んで座り、冬子と美月は後ろ側で小難しい話に耳を傾けた。
途中から、父が肩を震わせているのが見えた。泣いているようだ。
智子はただ白い顔で、無表情だったと思う。小さな声で頷くだけだ。
先生の声は優しく、辛い患者に寄り添う姿勢が垣間見え、それが余計と悲しい気持ちを助長させた。
あぁ、、やっぱりママは重い病気なんだと、娘2人は理解した。
その日智子は、胃癌の告知を受けた。
腹膜播種の疑いがあり、それについての検査結果は退院後に改めて説明されるとの事だった。