41話
翌日冬子達が病院に到着すると、智子は丁度内視鏡手術を終えた所で、HCU(高度治療室)で眠っていた。
沢山の管に繋がれた母の様子を見て、冬子は涙が止まらなかった。
受験勉強に集中できず、ナイフで脅されながら机に向かった事
母の淹れたハーブティーが不味かった事
母親を脅して、お金を巻き上げてた事
トー横界隈に入り浸り家に帰らなかった事
嫌な記憶と後悔ばかりが冬子を襲い、冬子は泣きじゃくった。
「パパ…、ママって、酷いの…?」
「…分からない。ひとまず出血は止まったって。でも、数日間は食事も出来ないみたいだね。
これから精密検査とか色々あるらしくて、もう少し入院はするらしい。」
仁志はつい最近冬子に見せつけた威勢の良さは失われ、やつれ果てていた。
智子が目を覚まし、意識がはっきりしてきたのはその翌日だった。
「冬子、ママ、血を吐いちゃって、、ゴメンね…迷惑かけて…。」
「ママ……、そんな事ないよ、昨日内視鏡手術して、無事出血もおさまったから、もう大丈夫だよ?」
「そっか、、先生は何て?」
「胃潰瘍で胃に穴が空いて出血してたらしい。智子…、今まで心配ばかりかけてたよな、ごめん…。」
仁志は肩を震わせながら、智子の手を握りしめた。
智子はそっぽを向いたまま、何も言わなかった。
「梓馬さん、この前は急にごめんね。ママは胃潰瘍で緊急手術したけど、とりあえず落ち着きました。
もう少し入院することになりそうだから、しばらく会えないと思う。」
梓馬には、途中でデートを切り上げてしまったことをラインで謝罪した。
今梓馬さんの声を聞いたら、ずっと泣いてしまって話なんて出来なそうだから。
梓馬からはすぐに返信が来た。
「落ち着いて良かった。お母さん冬子がいてくれたら安心やね。また落ち着いたら連絡してな。」
本当は、梓馬さんの胸の中に包まれて泣きじゃくりたい。
本当は、泣きじゃくる冬子を胸の中に抱きしめて包んであげたい。
ふたりとも、同じ時、同じ事を考えていたけれど、実現することなんて出来なかった。
今はただ、母の無事をひたすら願う。
冬子は台所へ降り、棚を開けた。母がぎゅうぎゅうに詰め込んだハーブティーを1つ取出し、適当に淹れてみた。
いい香りがして、心がリラックス出来た。
「なんだ……、美味しいんじゃん…。」
冬子は溢れる涙をタオルで拭いながら、ハーブティーを味わった。
明日は美月にも淹れてあげようって、思った。