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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
4/75

4話

トー横界隈。


新宿区歌舞伎町のTOHOシネマズ脇道や、シネマシティ広場周辺のエリア、ないし、そこにたむろする若者の総称だ。


主に家庭や学校で問題を抱え、本来、くつろげるはずの家等に居場所を失ってしまった未成年が集まる無法地帯。

心に闇を抱えた若者達にとって、心の闇を共有できる相手と、楽しく時間を過ごすことができる憩いの場所でもある。


近年、規制が強化され多少は落ち着いたものの、麻薬の売買に利用される未成年者が居たり、売春、暴力沙汰の事件が勃発するなど、犯罪の温床となっているのも事実だ。





うだるような暑い日が少なくなり、夕方には肩を冷やす風が吹き抜ける頃、地雷系ファッションに身を包んだ冬子は、仲間と一緒にTikTokの撮影に勤しんでいた。

歌舞伎町のネオン街をバッグに「量産型ちゃんの味方」の曲で、顔が映らないようにうつむきながら、自らを表現する。


何を伝えたいかは分からないけれど、胸に秘めた爆発しそうな思いをみんなに届けるのだ。


みんな、私はここで生きてるよ?毎日辛いことがいっぱいだけど、トー横広場に来ると笑顔になれるんだよ。

同じような思いを抱えた人に届きますように。。


少し離れたところでは、他のキッズ達が警察と乱闘を繰り広げている。


ゴミは散乱し無法地帯だが、そんなの誰もお構いないだし、警察も全然怖くない。数でも力でも勝てるしね。



家や学校で散々虐げられてきたキッズ達がトー横広場に来れば、その反動がエネルギーとなり、気力と活力がみなぎってくるのだ。



撮影を終え、動画を仲間のリンネと共にTikTokにアップすると、沢山の♡やコメントが付き、2人の自尊心は最高潮に膨れ上がる。


冬子はリンネからアイスボックスを差し出され、その中にストロングゼロ缶とレッドブル缶を無造作にどばどばと流し込む。


炭酸が溢れてこぼれてきたが、ここはトー横広場。そんな事はどうでもいい。


2人で顔を見合わせキャッキャッと笑いながらアイスボックスを重ねると、競うように一気に飲み干した。


嫌なことは記憶とともに少しずつ薄れていって、冬子とリンネは幸せな気持ちに浸りながら、馬鹿な話に花を咲かせた。



リンネとはTwitterで出会った。

2歳年上の18歳。冬子と同様、家庭での不満を抱えトー横界隈にたどり着いた。トー横歴は既に1年ほどで、高校は単位が足りなく退学はほぼ確定している。


既に仕事の目星はつけているようで、ホストの彼氏もおり、トー横界隈、ないし歌舞伎町で生きていく地盤は安定している方だといえる。


厳格な家庭で育ったが、兄がいじめの加害者となり主犯格として暴行事件を起こし、被害者が自殺したあたりから、家に居ることが辛くなったと、リンネは話す。

「ま、もともと兄の事は嫌いだったんだけどね。母親も、父親も、みんな兄の味方。私はただ単に下の兄弟がほしいから作られただけの、兄のおもちゃなんだ!」


再び注いだストロング缶とレッドブルを一気に飲み干すと、リンネはニヤリと微笑んだ。




冬子がトー横にたどり着いたのはつい一ヶ月ほど前のことだった。


試験がうまく行ってからというものの、頻繁にナイフ片手に部屋にやってくる智子。絵面は狂気でしかないが、肝心の智子は、その自覚がまるでない。


お馴染みのハーブティーは毎回マイナーチェンジしてたりしていたが、味は大体似たようなものなので、意味が分からなかった。


冬子は勉強の合間にニュースを眺めていたある日、「トー横キッズ」の話題が目に入った。


ママは「可哀想な子ども達。親は何をしてるのかしらね?」等と呆れていたが、冬子の胸は高鳴った。


その後、Twitterで「トー横」を検索した所、冬子の推しグループ「陽炎」と同系統の地雷系ファッションに身を包んだ同年代の人達が、毎日のように集まっている事に衝撃を受けた。


TikTokの他にも、面白そうな事が繰り広げられている非日常なトー横の世界に、冬子はどうしても足を踏み入れてみたくなったのだ。


トー横キッズに対し「可哀想な子ども達」とばっさり切り捨てた母の言葉が頭に鳴り響く。


自分の意志を持ってしまった可哀想な娘は、この家に必要ないよね?


ママの買った小綺麗なワンピースを脱ぎ捨てて、初めて地雷系ファッションに身を包んだ時、初めて「自分の意思」を取り戻した感じがした。

絶対に反対されていた短いスカートからすらりと伸びた脚に「おんな」を感じた。

耳の飾りが付いた黒いパーカーは、どんな時も私を応援してくれる「心友」になった。



Twitterに上げた自撮りにはそこそこ「いいね」が付き、ますます気分は高揚した。


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