37話
父親の本心であろう発言に、一瞬戸惑ったが、冬子はすぐに平常心を保った。
そう、仁志という人は、基本的に本音でなんて話してくれない人だから。
自分自身を「タテマエ」でガードする術に長けたスペシャリストなのだから。本音を言っている今がチャンスだと、直感で分かった。
「何言ってるの?梓馬さんはね、私の事をパパなんかよりずっと大切にしてくれる、素敵な人だよ!
パパこそなによ?
史恵って人、本当は彼女なんでしょ?
パパは嘘ついてる。私は分かる。」
「こんな男が、冬子の事大切にするわけないだろ?冬子、頭がおかしくなっちゃったんじゃないの?
それに史恵とはお店だけの関係だって話したじゃないか?
こんなに毎日頑張ってるパパを疑うなんて、やっぱり冬子はおかしくなったんだ」
一瞬怯みそうになるが、、ここで負けたらおしまいだ。
「お店だけの関係ではない。
このシティホテルでの一件は、どう説明するの?
何故ここで会う必要があったの?」
「それは、仕事の打合せで場所を借りただけだとママに言ったはずなんだけど?他のメンバーもいた。」
智子を睨みつけた。
「じゃあなぜその後2人で食事に行ったの?」
「それはその他のメンバーが都合悪かったからだよ!」
「じゃあ何でその後パパは家に帰って来なかったの?」
「別の友達と…」
「もう辞めて!!!」
突然、智子が叫んだ。
「パパ、、もう、無理だ。私。別れよう…。」
今まで見たことのないような親子ゲンカと
リビングの静まり返った不気味さに、美月は泣き出してしまった。
「わ、、私のせいで、、パパとママがぁ…」
「美月のせいじゃない、私のせいだよ。」
冬子は美月をなだめる。
「パパ、、、もう、嘘はやめて?
証拠、他にも沢山あるの。
盗聴器も付けたし、史恵さんのマンションも知ってる。
だからパパの言う事、全部嘘だってわかってた。
それでも、家族の前では優しいパパでいてくれたから我慢していられた。
それでも……、私だけじゃなくて、娘達にも嘘ついて、娘の事馬鹿にするような姿見てたら、私、もう耐えられないよ…。」
「ふーん。そっか。。…慰謝料って、請求するの?ま、当然の権利だよな。不倫の慰謝料ね、こっちも調べとくよ。」
仁志は慰謝料の事だけ話すと、さっさと2階の自室へ籠もってしまった。
冬子は、この件を父親に問い詰め、白黒つけた事が、果たして本当に正しかったのか、よく分からなくなってしまった。