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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
35/75

35話


「オレさぁ、トー横界隈救おうと思うんやけど、冬子どう思う?」

湯船につかり、無造作に泡を混ぜながら梓馬は口を開いた。


「トー横?」



「そう。大阪にも『グリ下界隈』ってのがあってな、トー横みたいに子どもがたむろってんの。

ちょっと絡んでみたんやけど、家で色々ある奴が多いんよな。

日本全国にこういう奴らが居るって思うと、オレに何か出来ないかなと思って。

一生面倒見るのは無理だけど、企画でトー横民数名に密着して救ってみよーかと思うんやけど、どう思う?」



あの子達をか…。梓馬さん、やってくれるの??


「梓馬さん、トー横に集まるみんな、メンタル弱い子多くて、更生となると、なかなか扱い大変かもだよ。あと、薬とか、お酒にどっぷり浸かってて、暴力とか流血事件で、警察沙汰もしょっちゅうあるの。彼らを救うって、、どうやって?」


「炊き出しとかやってもキリが無いしどっか場所借りて、居場所作ったりかな。

あとはあいつらの話ちゃんと聞いてやってさ、特技とかを見出す手伝いができたらと思う。」


梓馬さん…本気なのかな。本気なんだろうな。

トー横民…、確かに、救いの手を求めてる子は沢山居るし、私も、梓馬さんに救われたうちの一人だと思う。


「梓馬さん、確かにそんな救いを求めてる子、沢山居ると思う!私も応援するから!」





数日後、梓馬が今後、トー横キッズ歌舞伎町を救いたいという決意表明の動画がアップされた


コメント欄にはアンチが湧き始め、賛否両論が白熱した。


「思いつきで出来るのか?」

「責任という言葉を知ってるか?」

「中途半端に手を出してむしろ子ども達を傷つけている」

「子ども達の事を考えるなら何もするべきではない」

 ︙

 ︙



それと同時に、厨二企画はチャンネル登録者数も増やしていった。





梓馬はすぐに話を進めてきた。



深夜営業のBar『フラミンゴ』を昼から夕食時辺りまで間借りし、トー横民へ食事の提供をする中で、悩みを聞いたり、勉強や趣味など興味への模索の手助けし、子ども達が未来に希望を持てるよう働きかけた。ついでに店の清掃なんかもさせたりした。


食事の提供や、話を聞いていたのは初めは厨二企画のメンバーや友人のホスト達だったが、Twitterで呼びかけたらボランティアでやってくれる人も集まり、フラミンゴの店内は昼間も賑わうようになった。



トー横民を救いたい企画の動画は、作成するごとに色々なドラマがあり、視聴者の心を掴みやすかったためか、再生数にも勢いがあった。



そんな中、事件は起こった。



その日、トイレの外で皆がざわついていた。

どうやら15歳のサユナが、リストカットをしてトイレに籠もっているらしい。


期間限定で手伝いに来ていたホストを好きになったが、全く相手にされない事への腹いせに強行に及んでいる様子だ。


「ちょっとサユナちゃん、あけて!そんな事やめて!」


ボランティアの香織がトイレの扉を叩いてサユナを止めるが、サユナは動かない。


「いくら香織さんでも聞かないよ!リクトさんがサユナを見てくれるまで、、何回でも続けるから…」


しかし、残念ながら現在ここにリクトは居ない。

ではなぜここでリスカを強行するのか、、トー横民には何となく分かる。


だからとりあえず見守っていたが、香織はそうは思わないようだ。


「ねぇ、、サユナちゃん、私も昔、そういう事したの。今も、傷跡が消えないよ。


お願いだから、辞めて。。」



香織が泣き崩れると、サユナは血だらけになった手首を見せつけるように、トイレから出てきた。


ニコリと笑って、「血が止まんないから、おしぼり貸してくれる?」と言い、ストンとソファーに腰掛け、脚を組んだ。



翌日から、香織はフラミンゴには来なくなった。




そんなトラブルが時折勃発する中で、梓馬は頭を悩ませていた。


厨二企画やに対する誹謗中傷が、ネットに書き込まれる上、その誹謗中傷が、密着して更生したトー横キッズへも向けられるようになっていたのだ。



誹謗中傷に耐えられず、以前にも増して精神のバランスを崩してしまった子どもへの対処法等は、正直な所何も考えていなかった上、誹謗中傷の意見は正しい事ばかりだ。


「救いたい」という単純な親切心と好奇心だけで、子ども達の人生に関わり、手を差し伸べる事は罪な事なのかもしれない。

梓馬自身、今行っているこの企画を続けるべきか否か、自信を失いかけていた。



「梓馬さん、最近疲れてる?」


冬子は梓馬の髪を撫でながら、梓馬の顔を覗き込んだ。


「冬子、うーん、トー横の企画、あんま上手くいっとらんくて、オレ、あいつらの事舐めとったかもしれん。。」


梓馬は冬子にもたれかかると、大きくため息をついた。


「いざやってみると誹謗中傷が思った以上に多い上、それが肝心のトー横キッズ達へも向けられとるんや…。」



「梓馬さん、、でも実際みんな、喜んでるけど?

フラミンゴに行って気持ち整理できて、やりたい事見つけて、ちゃんと家に帰ってる子も出てきてるよ?」


「そうか…?冬子はなんかやりたい事見つかった?」


突然自分に話題を振られ、一瞬冬子は戸惑ったが


「梓馬さんのお嫁さんかなぁ〜。だって梓馬さんが大好きなんだもん。」

などと言いながら、梓馬を抱きしめた。


「冬子最近、結婚願望が暴走気味やけんね、まだ早いって。高校生なのに。」


梓馬は冬子を真面目に諭すと、冬子のブラウスのリボンをするりと外す。

冬子も、流れるように梓馬のシャツのボタンに手をかける。


梓馬は、冬子の左頬に触れ瞳をみつめながら

「冬子、ありがとう」


と言うと、唇をそっと重ねた。


梓馬の唇の温度に触れて目を開くと

2人は手と手が自然と絡み合いお互いを引き寄せ合った。


梓馬さんが辛くて苦しくて悲しいことがあっても

私はいつも影に潜みながら、梓馬さんの笑顔を思い出す

よ。

そうすると、梓馬さんも笑顔を見せてくれる。

そんな笑顔を見るたびに、私の心は幸せに包まれる。


梓馬さんの影にずっと居たい。

ずっとずっとずっと。


影で見えなくてもいいから。

梓馬さんの裏も表も全部わかってるってだけで、私は幸せだから。



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