34話
刺すような冷たい空気に、少しだけ太陽の熱が籠もりだした頃、冬子はリンネのアパートで味噌ラーメンをすすりながら、恋愛映画に心奪われ涙を浮かべていた。
「リンネ、私、この2人が別れたのは仕方ないと思うけど、悲しすぎるよぉ…。」
「…だよね、でもさ、何も別れなくても他に道はあったと思わない??」
「オレも、、別れないで欲しかったなぁ…」
リンネは鼻をかむためティッシュを数枚取り出すと、すかさずティッシュBOXを冬子へ回した。
冬子がうんうんと首を縦に振りながら勢いよく鼻をかむと、せつながすかさずゴミ箱を冬子の隣に置いてくれた。
「2人とも優しい…。ありがとう。グスン」
冬子は「これぞ阿吽の呼吸」だなと感心していると
スマホの振動音が微かに聞こえた。
ラインアイコンである梓馬の似顔絵と目が合う。
「久しぶり!冬子、元気でやっとる?こっちもそろそろ撤収や!来週辺り東京戻るよー!」
……梓馬さんが帰ってくる!
冬子は歓声をあげ、思わず2人に抱きついた。
リンネとせつなもまた、そんな冬子を見て愛しそうに目尻を下げた。
翌週の土曜日、冬子は待ち合わせ場所である新宿駅東口へ向かった。
「梓馬さーん!」
冬子が先に梓馬を見つけ声をかけると、梓馬は何も言わずに冬子を抱きしめた。
2ヶ月ぶりに梓馬の温もりを感じた冬子は、目一杯梓馬の存在を実感するとそのまま上を向き、2人は引き寄せ合うかのように唇を重ねた。
「ようやく冬子に会えた…!!」
梓馬は冬子を見つめ横髪に触れると、もう一度頬にキスをした。
「……梓馬さん、ちょっと痩せた?」
冬子はホテルのベッドで布団にくるまり、枕に頬杖を付きながら、梓馬の横顔に問いかけた。
「そう…?まぁ、毎日ロクなもん食っとらんかったけん」
梓馬のだらしない私生活が垣間見える発言に、冬子の結婚願望が先走り、慈悲深く梓馬に訴えた。
「わたしが梓馬さんの奥さんだったらなぁー、一緒に付いてって、美味しい手料理を作ったのにな。」
梓馬は冬子の暴走を嗅ぎ取ったが、そこには敢えて触れず、聞き返した。
「へぇ〜、冬子って料理何かできるん?」
「…パスタかな」
「マジで?そんなん初めて聞いたぞ。」
「うん、まだ茹でる位しか出来ないけどね、前ママと一緒にやって、上手に出来たんだ♡8分くらいで完成したかな、今度梓馬さんにも作ってあげるね!」
パスタを茹でる手伝いをしただけで、自信たっぷり「料理が出来る」と言い張る冬子の得意気な笑顔を見て、なぜか梓馬の恋心に火が着いた。
「…オマエ、それ料理とはいわんくね?」
梓馬は突然冬子の腕を掴むと、冬子の首筋めがけて唇を這わせた。
「キャー!ちょっと、梓馬さん、くすぐったいよ!!」
梓馬は照れくさそうに笑う冬子の胸に子どものように顔を埋めると、冬子は愛おしそうに少し伸びた梓馬の髪を撫でる。
このまま梓馬の熱が冬子の肌に重なる。
冬子は、2人の間に隙間があることが許せないので、
力いっぱいに梓馬の肌を手繰り寄せた。
時計の針がカチッと鼓動すると共に、梓馬は冬子に囁いた。
「もっといい?」
だめなはずないので、冬子はもっと梓馬の肌を手繰り寄せる。
体温、息、重なり合う頬
全て暖かい。
冬子はまるで、自分が自分じゃないみたいになっていった。