30話
「ただいま」
薄暗い玄関を開くと、珍しくママが笑顔で出迎えてくれなかった。
出掛けてるのかな…?
リビングに入ると、薄暗い部屋でソファーに座り頭を抱える智子と目が合った。
「なんだ、、いたの。電気、つけなよね。」
冬子がリビングの電気のスイッチを押す前に、智子は口を開いた。
「冬子、、最近、色んな所に行って帰ってこないからママ、ずっと、お友達の所に居るって聞いてたし、ずっとそれを信じていたんだけどさぁ、、
本当は、彼氏とお泊りしたりしてるんでしょ…?」
「?そーいう日もあるけど…、悪い?」
呆れたように答えると、智子は冬子を睨みつけた。
「ふゆこ!あなたね、この年で妊娠なんかしたらどうするの!?人生がメチャクチャになっちゃうよ??それだけは、ぜっっったいに、許さない!」
温厚な智子がここまで怒るのは珍しい。
でも、何でバレたのだろう?
「それにこんな派手な格好して!おばあちゃんが見たら倒れちゃうよ?何この短いスカートは。下着みたいなのが見えてて、恥ずかしい!!」
智子は、電気のスイッチを付けると、地雷系ファッションで梓馬と寄り添う冬子の写真と、東京駅付近でホテルに入る写真をテーブルの上に叩きつけた。
……、私、探偵に尾行されてたの…?!
最悪だ…。
てか、私につけるならパパにつけるべき…。
「この金髪のヤクザみたいな子も、、何でよりによって何でこんな人と。。もっとクラスメイトとか、ちゃんとした子と付き合いなさい。一緒に居て薬でもやったんじゃないの?本当にママが何も言わないと思ってるんでしょ。いい加減にしなさいよ?」
ああもう、この人には何を言っても通じないんだろうな。。
冬子はため息をつきながら、母親を睨みつけた。
次の瞬間、冬子の左頬を花瓶が横切った。
冬子の背後で花瓶がガシャンと割れ、床が水浸しになった。
「その顔、、パパにそっくり!!もう嫌、みんな私のこと馬鹿にして!もう嫌だよ…」
智子はその場で子どものように泣き崩れた。
冬子は、こんなに取り乱す母親を見るのは初めてだった。
それにしても、勉強中居眠りをした時とは比べ物にならない位の激しい怒りだ。
そんな母の姿を目の当たりにした冬子は、かえって動じる事はなく、落ち着き払っていた。
勉強をサボるよりも、派手な服装とか、彼氏との外泊の方がママは許せないってこと…?
冬子は、とりあえず母へ飲み物でも差し出そうと考え、台所へ行き湯を沸かし棚を開けると、棚の中には大量のハーブティーがぎゅうぎゅうに詰まっているのに驚いた。
淹れ方などが良くわからないので、とりあえず水を差し出した。
「ママ、心配かけてごめん。これ飲んで落ち着いて?」
差し出された水を一口飲むと、智子は下を向きながら呟いた。
「冬子……、知ってた?パパ、他に彼女がいるんだよ…?」