27話
「ダメだよ、返して、返してよ!」
梓馬の辛辣な言葉に混乱した冬子は、泣きながら梓馬の手元からクロミちゃんを奪い取ろうとした。
梓馬は、そんな冬子の両手を掴むと、冬子の顔を覗き込んだ。
「大丈夫、大丈夫やから、オレがいるけん、オレは冬子の味方やけん。
落ちこぼれとってもさ、意味も分からず無理して頑張っとるよりええやん。オレは今の冬子が好きやぞ。
あとは、目標見つけて這い上がるだけや。
だから…胸張って生きよう?」
梓馬はそのまま冬子を抱きしめた。
冬子の身体が壊れてしまう位。
冬子は、さらにせきを切ったかのように、涙が止まらなくなる程こぼれ落ちた。
梓馬は何も言わず、冬子を抱きしめて離さなかった。
「梓馬さん、、さっきは、私子どもみたいに、あんな態度とって、ごめんなさい。せっかく東京まで来てくれたのにね。」
「?全然気にしとらんよ。俺の方こそ言い過ぎた感があるわ。ゴメン。オレいつもあんなんやけん、知らぬ間に敵ができとる事がよくあってな、気をつけてはいるんやけどね」
「…(笑)そうかもね。でも私、あんだけ泣いたらふっきれたかも。前むいて生きる。ありがとう。
……梓馬さんも、そういうの気をつけなくてもいいよ。どんどん言って世界を救ってよ!私はいつも救われてるから。
あ、『救いたい』系の動画出したら?絶対面白いよ!」
冬子は梓馬に向かって微笑んだ。
「冬子、、元気になって良かった。」
梓馬は冬子を後ろからぎゅーっと抱きしめると冬子の髪に何度もキスをした。
冬子はキャハハと笑いながら梓馬の方を振り向き、お返しにと、首元にキスをする。
梓馬さん、私のために東京まで来てくれて、怒ってくれて、抱きしめてくれて、ありがとう。
こんな私、、世界一幸せ者だよ。
もう、「行かないで」なんて言わない。
学校でも、家族にも、負けない。
頑張って、胸張って生きるよ!
冬子はそのまま梓馬の胸に顔を埋めながら、ベッドになだれ込んだ。
梓馬は冬子を見下ろすと、冬子のまっすぐな瞳を捉え、吸い込まれるように唇に触れた。
何度も何度も唇を重ねては、体温と汗がぶつかり、2人は星屑の中へ溶けていった。
翌朝、起床し時計を見たら9時を過ぎていた。
10時発の新幹線に乗るため、2人は慌ただしくホテルを後にした。
「はぁ〜、間に合った〜。ほんまにあっという間やったね、当たり前か。。じゃ、冬子、元気でな!」
朝2人でゆっくりコーヒーなどを飲む余裕もなく、もちろんゆっくりお別れを惜しむ時間もないまま、梓馬は滑り込むように改札へ滑り込んでいった。
「梓馬さん、元気でね!!あと1ヶ月半頑張って!応援してる!!」
冬子がお別れの挨拶を言うと、梓馬は笑顔で手を振り、そのまま人混みに紛れ見えなくなっていった。
梓馬さん、、ありがとう。
たくさんの勇気を貰った。
明日から、ちゃんと学校行こう。
もう、保健室登校でもいいや。
あの子達も、うざすぎる、嫌いだ。
冬子は一人で頷くと、クラスの女子ライングループの「退会」のボタンをタップした。
現状はあっけなく2秒で変わった。
…そして、親に私の気持ちを話してみよう。
そう決意した冬子は、颯爽と東京駅を後にした。