25話
「東京駅、大体20時位に到着予定。会えるの楽しみにしてる!」
1時間後、梓馬からラインが鳴った。
もう少しで梓馬さんに会える……!
その事実があるだけで、
学校であった嫌なことも
ママが受験で私をコントロールしようとしてきても
全然気にならなくなって、ワクワクした気持ちと、苦しくなるほどの胸の高揚感で、頭もお腹もいっぱいになった。
「おい梓馬、お前、何しよっとん?
今日だってお前目当てに来るお客もいるはずやぞ。『2ヶ月毎日オープン』も動画で約束しとったよな?そんなんじゃ、視聴者の信頼も失うことになるぞ…?」
天然の櫻井が珍しくマトモな事を言って梓馬を諭した。
「迷惑かけてゴメン…!この通りだから!!明日また帰ってくるけん、、1日だけ、ほんまに時間下さい、、ゴメン!」
梓馬が一度決めたら引かないと、櫻井も他の仲間も分かってはいた。
また、こんなふうに振り回されるのは毎度のことなので、もう慣れてもいた。
櫻井や仲間達に謝り倒し、梓馬は新大阪駅へ急いだ。
冬子のいつもと異なる様子に違和感を感じ、突発的に帰ると言ってしまった梓馬だが、純粋に2週間ぶりの冬子との再開に胸が踊る。
21時を回った辺り、冬子の携帯が鳴った。
梓馬からだ!
「東京駅到着した!冬子何処にいる?」
「ドトールで待ってたよ、八重洲中央口!」
「そこから動くなよ!」
冬子は冷めたコーヒーを飲み干すと、入口と携帯の交互に目をやりながら、梓馬の到着を心待ちにした。
先に鳴ったのは、ラインだった。
「ドトールついた!出てきて」
冬子は素早くカップを返却すると、風のように店を後にした。
自動ドアを飛び出るとそこには、梓馬の優しい笑顔があって、冬子は居ても立っても居られず、梓馬の胸に飛び込んだ。
冬子の柔らかい髪の毛が梓馬の頬を優しく撫でる。
「おかえり、梓馬さん。すっごく会いたかったの…。ありがとう。」
「冬子、寂しい思いさせてごめん。」
梓馬も冬子を抱きしめながら温もりを感じ、しばし安堵感に浸った。
突然、冬子は思い出したようにニカッと笑いながら梓馬を見上げた。
「これ、地下のガチャガチャストリートで取ってきたの♡お揃いのクロミちゃんが出るまで頑張ったんだー!私だと思って大切にしてね♡」
冬子はマイメロディに登場するクロミちゃんの人形を、満面の笑みで梓馬に差し出した。
これは知ってるぞ、、地雷系の女がよく持ってるキャラや。
冬子め、同じやつが取れるまで何回もやったのか…。
「…サンキュー、さすが冬子って根性あるね!毎晩冬子を思い出すのに使わせてもらおー!」
微妙に下ネタを取り入れた梓馬の返答に、冬子は何の事なのか全く理解出来なかったが、梓馬は喜んでくれたようだ。
どうやら梓馬はクロミちゃんが好きなようなので、これからも色々プレゼントしようと考えながら、冬子は梓馬の腕に絡みついた。