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溶けた恋  作者: ピンクムーン
二章
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2話

「ふゆ、準備できた?そろそろ行くよ」


今日は、父方の法事で親戚が皆集まる日だ。

いつもより念入りに化粧をした智子が冬子を急かした。


冬子は中学時代の成績不振からかろうじて内部進学に滑り込んだ、進学高校の制服に腕を通す。


ブラウスは洗濯のりを使用かつ丁寧にアイロンされており、いつもの感覚との違いに違和感を覚える。


仁志の実家である風間家は学歴・キャリア志向で気位の高い、厳格な家柄だった。

そのため智子は親戚の集まり時、常に神経を尖らせていたのだ。


智子も良家の出身ではあるものの、学歴は高卒でキャリアも特段誇れる事は無く、風間家に対し常に後ろめたさを感じていた。


義母からは「冬子ちゃん、お勉強あまり得意じゃないのねぇ…。

うちの仁志君は昔からお勉強は得意でね、ぽーんといい点取っちゃうのよ!!

冬子ちゃんは、ママ似かしらね?クスッ」


などと嫌味を言われ、今まで散々悔しい思いをしてきた智子は、冬子の制服を親戚皆に見せつけるのが待ちきれない。


「あら、冬子ちゃんも美月ちゃんも大きくなったわねぇ!」

甲高い義母の声が響く。


義母が舐めるような視線で2人の姉妹を見定めると、冬子の制服にロックオンした。

「冬子ちゃん、内部進学できたのね!おめでとう!」


口元と声色だけは笑っているが、目元は「智子さんの教育なんかで、良く進学できたわね。」と嘲笑っているかのようだ。


「お母さま、お久しぶりです。ええ、冬子も沢山頑張りまして、無事進学することが出来ました。仁志さんのサポートと冬子の努力の成果です。」


「仁志は賢いから頼りになったでしょ。智子さんは塾の送迎とかで、サポートしてくれたのかしらね?ふふっ。夫婦二人三脚で、素敵ね。」


「ええ、お義母さま、ありがとうございます。」


義母は毎度の如く、会話の中に小さな皮肉を込めてくるが、智子はいつも穏やかな笑顔を崩さなかった。

ここでぐっと堪え、いつか絶対に冬子の大学受験を成功させ、義母の鼻を明かしてやると、復讐心を胸に秘めていた。


今はその感情を隠すため、ひたすら優しい笑顔と穏やかな口調を崩さないよう、努めていただけだったのだ。




外では太陽が容赦なく照りつけるこの時期、智子はエアコンの効いたリビングで暖かい紅茶を飲みながら、冬子の期末試験の結果報告を心待ちにしていた。


「お帰り、冬子!今日は期末試験の結果が出たんでしょ?ママに見せてくれる?」


「ただいまママ…、家は涼しいな。ハイ、これです。。」


間一髪で内部進学に滑り込んだ冬子は、恐る恐る成績表を母へ差し出した。


成績表を開いた智子は、その結果に愕然とした。


「A」判定なんて1つも無く、むしろ殆どの教科に「再試験」の烙印を押されていたのだ。


「冬子、このテストの点数、一体どうしちゃったのかな…?」


「ママ、ごめんなさい。勉強もっと頑張って、再テストでは絶対に落とさないようにします。」


「お勉強、全然頑張ってなかったでしょ?ママ知ってるよ。いつも隠れてスマホ見たり、漫画読んだりしてたこと」


智子は呆れたように、冬子の日頃の勉強態度について叱責した。


「パパやおばあちゃんになんて言おうか?パパは高校生の頃、再試験なんてしたことなかったみたいだよ?従兄弟の夏帆ちゃんなんて、学年トップなんだよ?

はぁ…。」



冬子は出来の良い従兄弟と比較され、惨めな気持ちでいっぱいになった。


「……、パパには風邪をひいて出来なかった事にしておいてね?

そして、再試験は絶対に落とさないでね。」


「分かりました。」


冬子は小さく頷くと、何故か瞳からは涙がポロポロと溢れてきた。

「え?どうして、泣くの?ママ何も酷いこと言ってないよ。初試験、疲れちゃったかな…。そうだ、暖かいハーブティーを淹れてあげる。心がリラックスするよ!」


そう言うと智子は、お気に入りのオーガニック専門店で購入したハーブティーを手際よく淹れると、得意気に冬子にさしだした。


ハーブティーは、苦くて、まずい。

熱くなった喉を冷ます炭酸のジュースが飲みたい。


正直な気持ちを母親へ伝える術も知らず、ただただ冬子は薬の味しかしないハーブティーを「美味しい」と言って飲む事しか出来なかった。


いつの間にか涙は乾いていて、智子はそれをハーブティーのお陰だと本気で思ったらしく、ハーブティーの写真を一枚撮ると、インスタグラムにアップした。


「ナイーブな気持ちも癒やしてくれるお気に入りのハーブティー」だそうだ。


「冬子、明日からは一緒に頑張ろうね!」



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