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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
12/75

12話(家に帰る)

翌日の学校帰り冬子は久々に自宅へ戻り玄関を開くと、想定外な事に、そこには父の靴があった。


平日の夕方父親が家に居る事なんて、まず無い。

冬子はとうとう捜索願いでも出されたのかもと考え、身構えながらリビングの扉を開いた。


「あ、ふゆ、お帰り〜。何か最近友達の家にばっかり行ってるって、ママが心配してたぞ。」


先日の誤爆ラインは知らんぷりだった。

また、冬子の捜索願いが出されたわけでもないようだ。

白々しい父の対応には適当に合わせとく。


「…ママ心配し過ぎなんだよ。てか、ママどこ?」


「体調悪いみたいで、病院行ってるよ…」



!?



(何それ、聞いてない。ていうかまぁ…、話を拒否してたのは私か…)

冬子は自分自身の日頃の言動を思い起こし、途端に後ろめたさが募った。


「…どこが悪いの?」

「まだ分からないけど、胃が痛くて、吐き気が止まらないって。」


心なしか、父も後ろめたさを感じてるように見える。

心当たりはありそうだ。


「…学校ではうまくやれてるのか?」


「うん、たまに休んじゃうけど、日数は足りてる」


「……秋人君(従兄弟)が冬子の学校に入りたいって羨ましがってたぞ。今度電話でもしてあげたら?」


「え、秋人君、もうそんな年になるの?」

久々の父と娘の再会だったが、お互いに負い目があるためか、表面的な会話だけが繰り返され、双方共に踏み込んだ話はしないよう細心の注意を払う。


重たい空気が流れる中、玄関から話し声が聞こえ、ガチャリと扉が開いた。

母と妹が帰ってきたようだ。


「お、おねぇちゃん!?」



妹の美月が驚いた様子で声をあげた。


「ただいま〜」


冬子は軽く応えた。


美月は久々の姉との再会を喜ぶ気持ちと、母親に心配ばかりかけている事に対する怒りが交わり、プイッと目をそらした。


「あ、冬子…。帰ってたのね。お帰り。」


智子は怯えたような目で冬子を見つめた。

母には一昨日会ったばかりなので「久々」とは言われなかった。


「ママ、体調悪いの?」


「うんちょっと、、胃痛が続いてて、吐いてばかりでね。

検査したら異常なしだって。ストレスかも?お薬だけ貰ってきたよ。パパがアメリカから帰ってきたタイミングで良かった〜」


冬子は、智子の検査結果が「異常なし」だったことにほっと胸を撫で下ろした。


それと同時に、「ストレス」に心当たりのある2人の息が一瞬止まったが、敢えて誰もそこに触れようとはしなかった。

この重苦しい空気の中、時間だけが過ぎていった。


風呂上がりに仁志の書斎を覗くと、ネットゲームに夢中になっており、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。

美月は相変わらず素っ気無いし、智子も動画を流される事を警戒してか、または体調が悪いのかは分からないが、冬子の日頃の言動について触れてくる事はなかった。


両親から厳しく叱責される事を覚悟していた冬子は、彼らは私に対して、全く興味が無いのだと痛感した。

そして、困惑し、落胆した。


私って本当に、この家に居ても居なくても変わらないのかもな…。



トー横に帰りたい。

梓馬さんと手を繋いでお喋りしたい。

リンネの優しさに包まれたい。

梓馬さんの軽快なトークが恋しい。。


明日はトー横いこう…。と心に決めた。



「てな感じで、結局何も話せなかったの。。」

冬子は肩を落としながら、リンネにこぼした。


「お父さん知らんぷりなのヤバいね。誤爆スクショ撮ればよかったのに!

うちの父親は殴ってばっかりで血の気多いからさぁ。。殴られないのは羨ましいかも。」

「でも、全然こっちなんて見てくれないよ。一生ネトゲしてるし…」

「そっか…」


2人で大きなため息をつきながら、チューハイを飲み干す。

結局は、居心地が良い場所に戻っちゃうんだよな。

リンネは「仕事」と言って、最近始めたメイド系のコンカフェへ向かった。


私も何か仕事しようかなぁ…。コンカフェ、、私も雇ってもらえるかな。。


梓馬も最近は撮影や他の仕事が忙しいようで、あまり会えていなかった。

何やってるのか良くわからない、掴めない人だなぁといつも思う。


「会いたい」


ふと、梓馬にラインしてしまった。


あ、急にこんな事言ったら重たいよね?父と同様に「送信取消」をしようとしたら、すかさず

「今どこ?」

と返事が届いた。



「私はいつもトー横。梓馬さん、今何してるの?」


「一週間ホスト企画。本日ラストイベント!来るなよ!」


ぶっと吹き出すと、スーツを着てキメ顔の自撮りが送られてきた。


いつものカジュアルな格好とは違い、スーツ姿の梓馬に、不覚にも格好いいと思ってしまう。


スタイルはいいよなぁ。


久々の梓馬の顔を画面ごしに眺める。

このまま、登録者数も増えて、有名人になって、女の子にもモテて、、梓馬さんは遠くに行っちゃうのかなぁ。。


冬子は涙の溜まってきた瞳を上に向けて乾かすと、鬱々した気持ちを吹っ切るため他の仲間の元へ向かい、酒を飲んで騒ぎ立てる事に精力を注いだ。



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