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溶けた恋  作者: ピンクムーン
三章
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11話(誤爆ライン)

「JK 誘い方」

「女子高生 ラブホ行くのか」

「JK 制服デート」



「オマエ、とうとうJKにまで進出しとぅのか…」


厨二企画メンバーの大地が、梓馬の携帯の検索履歴を眺めながらつぶやいた。


「ちょっと!なにすんのよ!」


梓馬はオネェ言葉でスマホを奪い取りキッと大地を睨みつけるが、

「いやいや、梓馬がUber頼んでって携帯寄越したんでしょ。」

大地から簡単に論破された。


「うーん、何かな、大地ぃ、どーしよ…。シラフでどーやったら女の子誘えるのか分からん…。」


「いや、そこ問題じゃぁなかよ。そもそもJKとか辞めとけよ?どこで出会ったん?もしやこの前のトー横キッズか?


いかんぞ。あいつらメンヘラやし、どっぷり依存された上リスカで脅されとぅ友達とか知っとるし。。やめろ。」


「そんな事…、分かっとるけん。忠告どうも。」


大地からキツく忠告を受けるものの、梓馬の心にはあまり響かなかった。


気がつけば冬子の笑顔から怒った顔、泣き顔が頭をよぎり、一日中冬子の事ばかり考えていたのだ。


梓馬はため息を付き、「これが恋というものか…」と独り言を呟いたあと、2人で行ったディズニーの写真などを見て一人でニヤけており、もはや誰も梓馬の世界に入ることができない。


大地はやれやれとため息をつき、編集作業に取り掛かった。



冷やかな秋風が舞い、道行くほとんどの人がジャケットなどを羽織るようになった頃。


定期的に通学だけはしていた冬子の成績は、上がり調子になっていた。


その理由は、梓馬だった。

数学だけは得意だった梓馬は、時折時間をみつけてはネカフェで冬子に勉強を教えてくれていたのだ。


「家庭教師気分を堪能出来るけん、いくらでも教えたげるよ。」等と茶化してはいたが、さすがオンラインで学習塾を運営しているだけあって、梓馬の教え方は理路整然として非常に分かりやすかった。


お陰で冬子は、苦手だった数学をしっかり飲み込む事ができ、成績にもそれが反映されたのだ。


「梓馬さん、なんで大学やめちゃったの?もったいな。」

「辞めとらんわ。休学中なだけ。チャンネル登録増えてきちょるけん、色々計画中や。」

「何?計画って。」

「ひみつ。君は無駄話ばかりせんと集中しなさい。」



冬子は、たまに受ける子ども扱いが気に入らず不貞腐れた。

もし身体を許したら…ちょっとは見方変わるのかな?

等と思う事もあったが、自分から誘う度胸なんていうものを、冬子は持ち合わせていない。


梓馬の方も、新大久保で全否定されて以来、それが尾を引きなかなか誘えずにいた。

意外にも打たれ弱い梓馬は今もなお、健全なお付き合いを続けていたのだ。



冬子と梓馬は付き合ってるのか?


リンネの言った通り、梓馬はその辺を明確にする人ではなかったらしく「オレの彼女」という言葉も聞いたことがなかったので、冬子も敢えて気にしないように努めていた。

梓馬と過ごす時間が楽しくて仕方ない冬子はむしろ、現在の関係のままでも十分幸せだと感じていた。



さらに最近は、梓馬と一緒にいる時間が増えたため、トー横広場へ足を運ぶ頻度が減ってきていた。

もう家に帰ろうかと思っていた矢先、父からのラインが鳴った。


冬子は身構えた。

あ、、ママからお金恐喝してるの、バレたかな。




「既読」がつかないように通知画面を覗くと、いつもの父が作る文面とは異なる、いわゆる「おじさん構文」が、そこにはあった。



「アメリカ出張のお土産買ってきました(^O^)アメリカはパッションで溢れていて(ToT)まるで史恵みたいに眩しかった!…」



それ以降は開かないと読むことは出来ないものだったが、内容はすぐに察する事ができた。


次の瞬間、すぐにメッセージは消え、続きは読めなくなってしまったが、いわゆる誤爆ラインだ。


冬子は頭が混乱した。


パパって、浮気してたの…?

え、今のって私宛じゃないよねぇ?今となっては続きを読むことが出来ないので、「史恵」という名前の人物と父親がどんな関係なのか知る術もない。


そもそも冬子宛ならば送信取消なんてされるはずがないのだ。




「お父さんの誤爆ラインか…。リンネなら父親のそんなライン読んだら、しばらく寝込むわ。。

でもまあ、それだけじゃあクロかなんて分からないよ。銀座とかのお姉さんかもしれないし。


お母さんとか、妹とか、大丈夫なん?」


リンネは優しい。こんな賢くて、優しくて、頼りになる友達なかなか居ない。

家族のことなんて忘れて恋愛に突っ走る自分が少し恥ずかしくなった。


「わかんない。妹とは全然会ってないし、ママとはお金の関係でしかないから。」


「…冬子って凄いよね。案件(パパ活)とかにも手を出さないで、母親恐喝してトー横で生きてる子は、なかなか居ない。尊敬する…。」


「そんなことない。リンネみたいに身近で人が死んで家族に振り回されてるのに、こんなに友達思いで優しい子はいないよ。尊敬する。」



2人は見つめ合って、抱き合った。


久々にTikTokでもアップしようか?


2人はスマホのカメラを高台にセットすると、手で顔を隠しダンスを踊った。

首を振るたびに揺れるツインテールが、冬子とリンネの頬を軽快に打ち付ける。


リンネとは何でも話せるし、否定しないで、お互いを尊重しあえる最高の友達だ。こんな相性の合う友達とは、今まで出逢った事が無い。


トー横界隈に通ってから、冬子はようやく「自分」というものを見つけた気がしていた。友情、恋愛、思いやり、冬子の今までの人生で枯渇していたものが満たされていく感じがした。


…でも、ずっとここで楽しい事ばっかやってられないな。


トー横界隈で自分の居場所にありつき、しばしその心地よさを堪能した冬子は、少しだけ心のゆとりを取り戻していた。


(ママも、パパが浮気?とかして辛いのかもしれない…)

また、梓馬と恋を育む中で、女心少しだけ理解出来るようになっていた冬子は、人生の元凶として憎んでいた母親に対し、同情心すら芽生えたのだ。



冬子は一度家に帰ろうと、覚悟を決めた。

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