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溶けた恋  作者: ピンクムーン
一章
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序章

暑さが蒸し返す気だるい昼食後、ママはデパートへ行くから支度してと、1階から大きな声で冬子を呼んだ。


何やら、パパの会社の方々へお中元を買いに行くとか。


「めんどくさいなぁ」

心の中で湧き出た気持ちに蓋をすると、冬子は「はーい!ちょっと待っててね」と答えた。


冬子は長く綺麗な髪を1つにまとめると、高めの位置でポニーテールを作り、白いリボンを取り付けた。

デパートで買ったばかりのブランド物のワンピースにカーディガンを羽織り、軽く色付きリップを塗って完成。


我ながら、ママのお気に入りのコーデだと思う。


智子は一階へ降りてきた冬子を見つけると「ふゆ、今日も可愛いね」と満面の笑みだが、一瞬怪訝な表情になった。


「あ、こっちのお花のゴムのほうが可愛いよ?」と、勝手に冬子の頭頂部へ手をやり、白いリボンを取り外すと、代わりに向日葵の髪飾りを取付けた。


向日葵か…私もう中学生なのに。


「可愛い!ママ、ありがとう!」


正直、向日葵の髪飾りを気に入らないとは思ったが、拒否権の無い冬子は満面の笑みを返す事しか出来なかった。


冬子の家族は、外資系ITコンサルティング会社に務める仁志と、世間体に流されがちな専業主婦の智子。2歳下の妹美月の4人家族だ。


世間一般において「裕福」と呼ばれるような家庭に産まれ、冬子は何不自由無い生活を送っていた。



「やっぱり、マネージャーさんのお好みに合わせて、今年もうなぎがいいかしらねぇ…?でもうなぎは確か、奥様が苦手って聞いたなぁ。メロンなら、ご家族で召し上がれるかしら…。ふゆ、何かあるかなぁ?」


お中元の内容が、仁志の社内評価に直結すると信じて疑わない智子は、首をかしげながら一生懸命考えを巡らせる。


しかし、冬子にとってそんな事知った事ではない。

ただ、親身にならないとママが不機嫌になるから困るのだ。

息が詰まり、喉が熱く焼かれ、心臓の波打つスピードが早くなってしまい、しんどいのだ。


「メロン、嬉しいと思うよ!メロン嫌いな人なんて居ないよ〜!」と答えた。


「そうだよね…、でもやっぱ、夏はうなぎで精力かな!お値段もそこそこ良いし、恥ずかしくないよね!!」


智子は冬子へ求めた意見を一掃すると、さっさと店員の方へ向かい、慣れた様子で注文を始めた。



智子はその日、デパートで購入した姉妹お揃いのワンピースの写真、カフェで撮影した紅茶の写真、2人のツーショット写真を、満足そうにインスタにアップした。


冬子の顔にスタンプがしっかり押されていることをチラッと確認して胸を撫で下ろし、指示されていた塾の宿題に取りかかった。


冬子は眠い目を擦りながら残りのページ数をパラパラとめくり、ため息をついた。


一日はまだまだ長い。








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