キョウエン 4
ライトは舞台上を滑って、女の姿を消し、少し上手に居る男を映し出した。
語り:
ニヤニヤと心の中に何かを含んだ笑みを口の端に浮かべて、男は笑い声を上げる。
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ククク……アハハハ!
やっとだ、やっと俺にも運が向いてきやがった。
俺ほどの力を持ったヤツがこんな所でくすぶっているはずは無いと思っていたが、まさか、あの舞台のあと、こんな事になるとは思いもよらなかった。
小さな頃から俺は役者になるんだと心に決めて、そしてこの世界に母親を捨て、家族を捨てて飛び込んだ。
しかし、俺の才能を認めようとしない連中。
日々の生活に追われ、演劇などほんの少しの時間しかできない日々。
こんなはずじゃなかった……
そんな事を思わない日がなくなってきていたあの日。
俺は生活の為のアルバイトに出かけるため、小さな劇場のつまらない舞台を終えて裏口を出た。
ドアを開けると、そこには体を小さく揺らして、俯いている女が一人。
俺はその横を通り抜け、少し急ぎ足でその場を離れようとしたが、蚊の鳴く様な声で呼び止められる。
振り向けば、女は頬を桃色に染め、唇をフルフルと細かに揺らして俺に語りかけてくる。
……
その瞬間、俺は心の中でガッツポーズを決めていた。
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語り:
男は大きな声を上げて笑いながらスポットライトを見つめ返し、瞳をキラリと光らせる。
肉食獣が獲物を見つけ逃がさないというような眼差しは、そのまま前方へと向かった。
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住む所も、食事も、着る物でさえ心配する必要がなくなり、俺はただ、演劇に没頭すれば良かった。
女は、俺に惚れている。それも初心に。
少しのキスに、少しの言葉。それだけで女は俺の手足となって働く。
自身で働かなくても、俺の所には金が入ってくる。
俺は【愛】という演技を女に返してやればよかった。
それだけで……
ただ、それだけで、俺の運は向いてきていた。
女は役に立ってこそ、その存在価値がある。
そうだ、今まで気づかなかったが女はそういう存在であるべきなのだ。
俺は演技を磨いた。
俺は自身の体を磨いた。
俺は……変わった。
町を歩けば誰もが俺に注目する。
振り返って見つめなおす者まで出てきた。
鏡の前に立てば自身でも惚れ惚れする。そして我が身を抱きしめる。
俺が愛するのは俺だけだ。
俺の道は正しい。
それは今現在の状況が答えだ。
俺は確実に階段を登りつつある。
高みへ、女は俺の下で、俺を支えて持ち上げていけば良い。
さぁ、次はどの女が俺を更なる高みへと登らせてくれるのか……
そうして俺はあの小さな劇場を去り、街中の舞台へと上がる。
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語り:
男は其々が其々に持っていた女の栄光を狙う。
優しく輝く瞳は女を捕らえる為の罠。捕らえられれば逃げる事はできない。骨の髄まで男はむしゃぶりつく。
そう、まるで骨一つ残さず最後の最後まで喰い尽すハイエナのように。