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渾沌



 リィリィの質問という攻撃に、反撃出来ず、返事に詰まっている皇子サマ。

 答えにくそうなのは、まぁね、解らなくも無い。

 おぉ、そうだ。

「リィリィ。」呼び掛けに此方を向く。

「俺の事、好きか?」

 照れてはいけ無い。負けである。これで皇子が答え易くなると良いが。

「ダンは?」跳弾しました。

 ここで気恥ずかしさに負けて濁したり、他の言葉を選んで誤魔化すのは、惨敗への道を鋪装するのと同義である。

 なので、

「好きである!」

 しまった。意識し過ぎて変になってしまった。

 リィリィの満面の笑み。

 誰とも目を合わせず、どことなく寂しげな皇子サマから、

「羨ましいな。」の言葉を頂戴する。

 自身が発する言葉がどれだけ重いのかを知っているからなんだろう。皇族教育なのか自身の経験から来るものなのか。

 身分制度か、厄介だ。

 しかし、まぁ、言質は取れなかったけど、言外から推察するに、

「好きなんでしょ?」直撃弾。

 リィリィは痺れを切らした様だ。

 本当、何で積極的なのさ。

「『好き』で『一緒に居たい』って、伝えてあげたら喜ぶと思うけどなぁ。私、嬉しかったし。」

 はい、有難う御座います。何の申し開きも御座いません。


 皇子は苦しくて堪らないと云った表情だった。

「言えれば、どんなに!楽か!」吐き出す様に返す。

 確定です皇子様。

「何で?、好きな人に言われたら、嬉しく無いの?」

 ちょっと待て。話が噛み合っている様で、いないぞ。それより、何処から情報だ。それは。

「リィリィ。その根拠は何だ?」

「何の?」

「その『好きな人』だ。」

「どっちの?」

「一寸、待ってくれ、整理する。」


 沈黙。夜空の星々が目に入る。


 改めて。

「『好きな人』は両方か?」

「そう。」リィリィ、即答。皇子、固まる。

「『言われたら嬉しい』のは?」

 リィリィ、考える。

「両方とも言われたら、両方とも嬉しい。と、想う。」リィリィ、回答する。

「あー、彼女、ミィイシア、嬢は皇子様に想いを寄せている?」

「多分、そう。」リィリィ、断言する。

「何で、そう想う?」

 リィリィの瞳が上辺に移る。

「んー、あの人、必死で追い掛けて来たから。ホント、撒くの大変だったわ。」

「それが理由?」

「泣きそうな顔、してたもの。」

 拐われた帝国の皇子様を帝国の戦神姫が追い掛けるのは解る。と、言うか、追い掛けて当たり前だろう。

 ん。皇子に目を遣れば、皇子も堪えている様だ、

 本当、身分てのは厄介だ。


 ああっ、もう。

 俺は髪を激しく掻き乱す。


「皇子様。この先、恐らくそう遠く無い内に、皇子様とミィイシア嬢は引き離されることになるでしょう。」

 皇子は俺を見る。辛そうな顔をしている。

「色んな政治的思惑から、二人が一緒に居る事を良しとし無い連中が画策しているんです。」

 自分達の利益の為に。

「皇子様にはどこぞの貴族令嬢を宛がい、ミィイシア嬢には新しいパートナーを用意する。

 何で、好き合っているのに、余所の都合で別れさせられなきゃならないんです?」

 何故、それが平気で行われる。他人の手で。

「皇族には立場と務めと云うものが、」直視させないで欲しいというからなのか、目を背ける。

「皇子様。よーく考えて下さい。」

 皇子の脳に俺の言葉が染み込む様に、ゆっくり話し掛ける。

「その連中は、自分達の利益の為に二人を別れさせ様としているんです。」

 俺はいつの間にか皇子の両肩を掴んでいた。皇子は身体を強張らせている。

「国の為、皇族の為なら、そもそも皇子様とミィイシア嬢を引き離す必要は無いのでは?」

 見開かれた蒼い瞳を覗き込む。

「今まで戦場を支えて来たのは、ミィイシア嬢とパートナーのマレナウヴス皇子じゃないですか。

 それは俺達が一番良く知っています。」

 皇子の目に、耳に俺の言葉を流し込む。皇子が息を呑む音が聞こえる。まるで俺の言葉を呑み込む様に。

「想像して下さい。

 皇子様の隣には、皇子様の地位と権力を狙う政略結婚で嫁いで来た貴族令嬢。

 ミィイシア嬢の隣には、皇子様で無い何処かの、恐らく貴族でしょうね、男。

 今までミィイシア嬢はどんな扱いを受けて来ました?」これはリィリィにも云えること。

 リィリィは散々、便利使いの兵器。人の姿をした道具。そんな事を言われて来た。そんな目で見られて来た。

 皇子にも思い出して貰おう。

「そんな奴が、傍に、ミィイシア嬢のパートナーとして傍に居るんですよ。」

 もし、リィリィが同じ状況になったら。と想うと我慢なら無い。イライラ。ムカムカ。口から怨み言が溢れそうになる。

 が、冷静な部分がそれを止める。それは後だ。と、

「そんな奴等の為に、想いを通じ合わせている相手を手放すんですか?ミィイシア嬢の手を離すんですか?

 彼女がその時、そんな奴等からどんな扱いを受けるか。」

 皇子の鼻に皺が寄る。目が据わる。

「どうすれば良い?」低い声。俺の腕を掴み返してくる。俺の目を覗き返してくる。

「どうすればミィイシアを護れる?」

 物語に出てくる王子様だ。

「先ずは....」


「ダン!」

 リィリィの強い声に引き戻される。

 確かに聞こえる。


 少し離れた所に、何かが堕ちて来た。

 軽い地揺れと共に土砂や石が巻き上がる。確かに聞こえた。直前に、

「で、ん、か」と叫ぶ声が。


 出来た窪みからよろよろと立ち上がる影。

 あまりの事に動けない俺。視線が釘付けになる。


「見つけた。」

 影が一歩踏み出して来る。視線を動かせない。皇子はどうしてる?リィリィは?


「やっと、見つけた。」

 また一歩踏み出す。

 戦場で敵兵と鉢合わせした時もこんな感じだった様な。否、あの時の方が未だマシか?あの時は逃げられたものな。


 それまで書類という紙の上でしか知らなかった。銀鬼の姿。

 帝国の戦神姫。銀鬼の姿を、初めてあの森で見た。

 今、目の前に立って居るのはあの時見た銀鬼で在るハズだ。頭では解っている。

 だが、どうしても視覚がそれを拒否する。あれとは同じ銀鬼では無い、と。

 今、目の前に立つのは、まるで、


 亡霊だ。

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