事情
リィリィの傍に別の男が居る。それを考えただけでも胸がざわつく、落ち着かなくなる。いつまで一緒に居られるのだろう?そんな事を考え始めたら止まらなくて。
何で戦争を続けなきゃなら無い?リィリィのこの先の処遇は?俺が退役しても一緒にいられるのか?戦争が続く間は一緒に居られる?
そんな事が頭の中でずっとぐるぐる回っているんですよ。そればっかり。
これじゃあイケナイと想って、頭を冷やして考えを整理してみる事にしたんですね。
その流れで、戦争が終ってもリィリィと居られるのか?って疑問が湧いて、で、考えを進めて行く内に、気付いたんですよ。
「あれ、この先、結構マズイかもしれない」って。
他人事じゃ無いですよ、皇子様。
諜報処の報告書を読ませて貰ったけど。
この皇子様、帝国本国の公式行事に出席する時には、必ず傍に銀鬼を同行させていると云う。皇子様の意向らしい。パートナーだとしても、なるべく戦場に置いておく、てのが優先されそうなもんだ、が、俺もそうなったら一人にさせとけるかなぁ。
情報分析ではこの皇子サマは『我儘』、『見栄張り』って、評価。それで銀鬼を見せびらかしたいから連れ歩いていると結論付けているが....。
俺の直感だとなぁ。
「戦争が続いても、終っても、俺とリィリィ。皇子様と、ぎ、あ、え~っと、そちらの『戦神姫』」
「ミィイシア」初めて皇子から言葉が返って来た。
一瞬、言う事が解らず、返す事が出来ずにいると、
「彼女は『ミィイシア』だ。」おや?、それは報告書には無かったな。
「へぇ、どういう由来です?『リィリィ』は俺の故郷に咲く、ちっちゃい白い花の名前なんですけどね。」似合うと想ったんだ。
「伝説に在る『湖の乙女』の名前だ。」
ほぉほぉ。俺の直感が補強される。
「皇子様の名付けですか?」目が逸らされる、おやおや、『しまった』、とか『失敗』したとか思ったかな。
「その『乙女』って人も、さぞかし美人なんでしょうね。本人も美人さんですし。」歳は俺に近い20代前半か?『お姉さん』って感じだったものな。
皇子サマ、ちらっと視線を寄越したけど、何か雰囲気が。機嫌が悪くなった?何故?
ともかく軌道修正。
「戦争がこのまま続くにしろ、世界が正気になるとか何かの奇跡でも起きて、戦争が終わるにしろ、俺とリィリィ、皇子様と、あー、ミィイシア」皇子様の視線が、何だろう?「さん」ん?「嬢」戻った。『女史』も在ったんだが言わ無いで正解か?
うーん。ムヅカシイオトシゴロ。
「とにかく、このまま一緒に居られる事は出来なくなる。のは確かでしょうね。」
俺達が望みもしないのにお節介を焼く連中の思惑で。
戦神姫は世界で一、二を争う最強戦力という事を理由に、連中は俺達が隣に居る事に我慢が出来ないらしい。
「特に皇子様の方は難しいでしょ?」皇子様は答えない。でも、その表情からは何か堪えている様に見える。リィリィには鍛えられたからな。
向こうは特権階級が身分を盾に好き放題と聴く。戦神姫はどう云う扱いなんだろう。
皇子もそこの所は考えたのだろう。頭、良さそうだし。
でも敢えて言葉にする。
問題を共有して貰う。俺達の為に。上手く行けば皇子様達にも都合が良いと想う。
「俺達の方は未だそう云う動きは、表立っては無いですけど。」『在る』と思っていた方が良いだろう。
「けれど皇子様の方では、そう云った動きがちらほら出ているんじゃないですか?」
皇子に一瞥される。
「しかも、かなり切迫した状況では?」
皇子は俺を凝視している。
諜報処の報告書や資料を見たが、何だかな、あから様なんだよ。
ミィイシアの活躍でマレナウヴス派閥は発言力が高まった。のは良いが、それが面白く無い他の派閥はミィイシアとパートナーの皇子の切り離し工作を進めていると。あわ良くば自派閥に取り込もうと狙っている。
ミィイシアとマレナウヴス皇子在っての発言力だからな。
急成長著しい皇子様の地位と権力を狙って、自派閥始め、他派閥も離間工作のついでに、貴族連中はこぞって釣書を送っていると云う。
あ、待てよ。
「皇子様。もしかして、どっかの貴族令嬢と婚約が決まったんですか?」マズイぞ。
「否、未だだ。未だ未成年だからと断っているのだが....。」顔を顰める。時間の問題か、皇帝の命令があれば直ぐにでも、状態か。
「何故、その事を....。」
「連合の情報組織も仕事をしているって事です。」俺の推論が大半だけどな。
「何で、婚約を渋っているんです?未だ未成年だからって、立場からすれば遅くは無いでしょう?」意地悪く聞こえてるかな、でも、もう一寸確信となるものが欲しい所。
「そうだな、立場からすれば、未成年だろうと婚約が決まっていてもおかしくないな。」薄く嗤う皇子。その視線は何に向かっている?
まぁ、婚約が決まれば成人後は結婚まっしぐら、ですからね。
「婚約を決めたく無い理由が在るんですか?」何気無く、さりげ無く。
皇子様、器を口に持って行く。
器、空ですよね?
「あの人が居るから?」
俺もそうだが皇子様の身体が跳ね上がった。リィリィ乱入。びっくりした。話し込んでいたから、すっかり抜けていた。
「お代わり頂戴。」はいはい....
「聴いてたのか?」確認する。
「うん。暇だったから。」
「そうか、戦神姫だったな。」
と言うことは、ミィイシアも聴力は『優』と。
やっぱりミィイシアが本命と考えて良いかな。身辺報告でも他の令嬢と接触している様子は無いと云うし。予想通りと見て良いだろう。
「あの人のこと、好き?」リィリィ、斬り込む。
何でそんな積極的なの。
「貴方達はどうなのだ?」おお、皇子サマ反撃。
「ダンのこと?」リィリィ、答える。あれ?
「そうだ。聴いて居れば、私とミィイシアの関係を問う様な事ばかり。」
そうです。皇子と彼女の仲を聴きたいんです。結構重要なもんで。
「何がしたいのだ?」
うーん、信じて貰えるか。
「取引」で、良いのかな「がしたいんですよ。」俺の答えに皇子サマの眉間が寄る。何、訳、解らん事を言っているんだ。って顔ですね。
「忘れちゃいました?俺はリィリィの傍に居たいんです。」
俺は真剣で在ることを解って欲しくて皇子の瞳を見据える。
「その為に、皇子様とミィイシア嬢を捲き込んじまおう、って考えたんです。
皇子様がミィイシア嬢のこと、真剣に望んでいる様で、安心しました。
じゃ無かったら、一から考え直さなきゃならなかった。」視線を外さない。
顔に赤みを帯びる皇子サマ。
「何を」途中で想いに至ったのか、
「祖国を裏切れ、と?」皇子の顔が険しくなる。
まぁ、そうなるわな。本当、頭良いな。
「間違いでは在りません。」断言する。どう繕うとも結果的にはね。だが、それだけじゃあ無い。
「先に言っときますが、帝国だけじゃあ在りません。」
「世界を敵に回すんです。」
巫山戯てません。大真面目です。
「ねぇねぇ、皇子サマ。あの人の事、好きなの?」
だから、何でそんな積極的なの?リィリィは。