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回想

『情が湧く』っていうのかね。


 初めて顔を合わせた時、リィリィはまだ「21号」と呼ばれていた。


 ある日突然、命令で、「21号」と呼ばれている女の子の世話をする様にと押し付けられた。その間後方で仕事、ということなので了承。まぁ、組織の下っ端に拒否権は無いわなぁ。


「21号」。「実験体21号」と云う意味だと後で知った。

 その施設で21番目。あと、どれ位の子供が居るのか、俺は知らない。


 実験の一環だと云う。

 事情通に聞けば、どうも、研究の成果が上がらず、手詰まり状態でどうにもならなかったらしい。なら、ここで方法を転換してみようということらしかった。

 いきなり未婚の男に、10も離れた女の子を育てろ、なんて。何考えてるんだか、無茶もいいところだ。研究をやっていた連中は、余程追い詰められて錯乱していたに違いない。

 しかも、方法は俺に一任。丸投げだと来た。担当からの説明を聞いた時は呆れたね。普通なら考えられんだろうが。本当、当時の連中はどうかしてたと想う。


 こうして、押し付けられた「21号」と俺、ダン=シェシャリングは一緒に生活することになった。


「21号」と呼ばれている女の子。

「10歳下」、「女の子」それだけでも困ったところに、

 感情を何処かに置き忘れたと言っても過分じゃない、人形だってもう少し表情が有るだろう。

 それくらい「無表情」だった。

 加えて、

 目は虚ろ。瞳は映している様で、見てい無い。こっちの言葉は解っているようだが、何も喋らない。


 どうすればいいんだ?どう扱って良いのかサッパリ解らん。と、言うのが正直なところだった。


 それでも、一緒に過ごす内に解ってきた事もあった。

「21号」に感情と言葉が無いのは、研究者達がそれを必要としなかったからだ。

「21号」は実験体。

 命令を聞き分けられれば、それだけで充分だったのだろう。何しろ子供だしな。命令以外の事をされたりするとか、変に知恵をつけられると何かと不都合なんだろう。


 そして悪戦苦闘とも言うべき生活は続く。


 そんな中でも「21号」に話しかけたり、構ったりを続けていると、少しずつ、少しずつ、反応を示す様になってきた。

 そんな風に反応が増えてくることが、俺は愉しく為ってきていた。


 あれは初めて菓子を食べさせた時だったっけ、口にしてからちょっとして、「21号」は目を見開き、固まった。

 初めて口にした甘味に余程、衝撃を受けたのだろう、それから夢中になって食べ出したので、俺は思わず笑ってしまった。甘味は偉大だ。


 こうして、僅かながら感情を発信するようになってきた「21号」という少女と、それを何とか読み取れるようになってきた俺との生活。

 俺は決心した。


「リィリィ」で、どうだろうか?


 ある日、「21号」と呼ばれている女の子に提案する。俺はこの子を家族にすると決めたのだ。なので、まっ先にしなければならないのは、名前だ。

 今まで「21号」、今から「リィリィ」は何のことだか解らなかった様だ、頭の中で練習したのだが。伝わら無かった様だ。

 なので、自分を指差し「ダン」、次いでリィリィを指差し「リィリィ」、未だ。

 もう一度、自分を指差し「ダン」、次いでリィリィを指差し「リィリィ」、未だ。

 更にもう一度、自分を指差し「ダン」、次いでリィリィを指差し「リィリィ」、

 3回目でリィリィは目を見開く。菓子を食べた時とパンケーキを焼いた時以来だな。

 そして、

 表情の動きはまだ少なくてぎこちないが、俺にはそれが笑っている様に見えた。


「21号」は「リィリィ」になった。


 それからというもの、リィリィは俺の後を付いて廻るようになった。

「リィリィ」と名前で呼ぶと嬉しそうにする。名前を呼んで貰いたいのか?


 リィリィは自発的行動が増え、求められていた能力を徐々に開花させる。俺は誉めたり偶に叱ったり、一緒に家事をしたり、それが日常になって、

 暫く経ってから、研究機関からお呼びが掛かった。

 リィリィの事を調べたいのだと云う。

 調べる間の数日間、研究機関が預かる事となった。のだが、直ぐに音を上げたのは研究機関だった。リィリィが全く命令を聞かないので上層部に泣き付き、俺が呼び出されたのだ。

 リィリィに聴くと

「アレ、嫌い。名前、『リィリィ』と呼ば無い。呼ぶの『21号』だけ。リィリィ、嫌。喋ら無い。そしたら、アレ、ダン悪い言う。だから怒った。」

 のだそうだ。

 それを聞いた俺は、思わずリィリィの頭を撫でていた。リィリィは眉を寄せ、不思議そうな顔をしていた。聴いたら、

「変な顔をして、撫でて来たから」だそうだ。

 あれれ....悪かったね。


 結局、研究機関は早々に匙を投げ、直接関与を諦めた。上層部も手に余ると判断したのか、このまま丸投げを継続。

 で以て、俺とリィリィは変わらず生活を共にしつつ、一通りの軍事教練やリィリィの能力向上の訓練なんかを続け、

 上層部の英断?も有って、目出度く?

 二人だけの、「第一特殊遊撃戦隊」発足となった。

「連合最高指揮署」直轄なのは、連合内部でどの国の所属にするか、揉めるのを避ける為、なんだそうだ。が、

 事情通に依ると、水面下で相当酷い暗闘があったそうだ。此方に関わんなよ。

 更に、帝国の侵攻で危機的状況な為、問題の全てを棚に上げ、大急ぎの編成となったと云うことだ。


 第一特殊遊撃戦隊の初陣は帝国本土への逆侵攻だった。

 この作戦、図に当たり、帝国の侵攻はコストワルの首都目前で停止。帝国軍は失地回復を狙って「転進」だってさ。

 で、これに味を占めたのが、連合と帝国の作戦を立案する連中。

 取られたら、別のを取る。別のを取られたら、また別の所。

 こんな事ばっかり続いて居て、現在に至る。


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[一言] 面白かったです!
2023/01/17 12:18 退会済み
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