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決戦

 連合の軍をして、恐怖と憎悪の代名詞、『銀鬼』と呼ばれる由来となった長い銀髪。『透き通る様な白』と言う言葉が、どう云った物かを如実に現す肌の色。

 そして、月並みの言葉、『冷たい美貌』、『人離れしている』、『生きている美術品』。定型句が羅列する。

 とにかく、所謂『美人』と云う奴だ。

 そして髪の色、肌の色がひと際その色を目立たせている真っ赤な瞳。


 戦場では初めて目にする帝国の人間兵器。

 連合が『銀鬼』とも『鬼』とも忌み嫌う存在。

 帝国での正式の呼び名は『戦神姫』。


 そう云やリィリィも書類の上では『戦神姫』だったな。


「ダぁン」

 リィリィが俺の鼻先を指先でぐにぐにと弄る。現実逃避でもしていたか、いつの間にかリィリィが傍に来ていた。

「鼻の下、伸ばしてたでしょ」まだぐにぐにしてくる。そう見えたのか?

 そんなことより、リィリィにこの先の行動を指示する。想定より早まったが、することは変わらない。

 悔しいが今、アレはリィリィに任せる他は無い。他の誰でも荷が勝ち過ぎる。況んや俺なんか瞬殺だ。


 頼む

 それしか伝えられない。リィリィは小さく頷く。

 リィリィは俺に背囊を預けると、銀鬼に対峙するべくすっ飛んで行った。ここからは別行動だ。急げ急げ、時間はかけられないんだ。俺がやらなきゃならないんだ。


 帝国の戦神姫、「銀鬼」がココに居るってことは、アレも近くに居るってことだ。さぁ何処に居る....ドコだァ?


 少し前から森の中は金属音しかしない。偶に思い出したかの様に、何処か離れた所で発砲音がする位だ。

 今、森は銀鬼とリィリィが剣を撃ち合わせている音だけが響いている。敵も味方も、意識が2人に釘付けになっているのか、誰も攻撃しようとしない。手を出せば反って邪魔になるからか、見ていることしか出来ていない。


 ああっ!くそう、今度は本当に掠ったんじゃないか?

 もう少し距離が取れるだろうがあっ!

 もうっ、顔に傷着いて無いだろうなぁ

 リィリィが幾ら常人離れしていると云っても、傷も着けば怪我も負う

 年頃の娘だってのに....

 ああっ、くそう、本当に何処に居やがる


 リィリィの剣を躱した銀鬼はバックステップで距離を取ると、構えを取り直した。リィリィも構えを改めている。

 銀鬼は腰を少し落とした姿勢で、剣先は背後ろに、間を溜めた後、そのまま橫薙ぎに振り抜いた。返す形でまた振り抜く,そして更に返して振り抜いた。なんだ,アレ!?

 リィリィもその場で縦に,返して,そしてまた縦に、三度剣を振る。


 するとどうしたことか、周囲の木々やその枝、低木なんかが千切れ、吹っ飛び、抱えきれない太さの木が2、3本倒れて行く。

 ついでに敵味方の兵士も巻き添えを喰らったのか酷いことになっている。

 ナンだ?ナニが起きた!?何をしたんだよ!!

 今度はリィリィがお返しとばかりに、掬い揚げる形で剣を振り抜く。

 銀鬼は剣を振り下ろし、下手から切り返す。また同じ様な惨状が繰り返される。現出する。


 何が起きたか解らんがいつの間に広場が拡張された。そのお蔭と云ったら良いのか、皮肉なことに漸く目的のモノを見つけることが出来た。

 リィリィと銀鬼は、今では再び剣を撃ち合わせている。剣戟音が凄いことになっている。


 小型携帯用探照灯を取り出し銀鬼に向ける。

 この小型携帯用探照灯は『技研』の試作品で、強い光が分散せずに直進すると云うモノだ。

 狙うのは銀鬼の目だ。


 銀鬼は一瞬顔を顰め、光から逃れようと顔を背ける。その隙に灯りの向きを直し、ある一点を照射する。

 これで良い。リィリィには解ったハズだ。

 

 二人の戦神姫が撃ち合いを続ける。

 俺は場所を変え何度も銀鬼の目を狙う。


 時に顔を背け、掌で光を隔て、鬱陶しそうにしながらも、リィリィと剣を交えている銀鬼。


 銀鬼が顔を顰めながらも剣を橫薙ぎに振る。

 

 それまで撃ち合いを剣で受けていたリィリィは地を蹴り、飛び上がった。それも、高く、避ける必要以上の高さ。

 銀鬼の剣筋は空を切る。


 リィリィは銀鬼を飛び越える距離を跳躍した。そして、着地した場所で目当てを抱え、再度跳躍。

 森の奥へ姿を消した。


 俺はそれを見届けてから、次に取り掛かる為、さっさとその場を後にする。


 残されたのは静止画の様な、切り取られた様な風景。

 何が起きたか解らず、銀鬼も含め敵味方の兵士は茫然としている。


 間の抜けているこの間に、俺は隠していた背囊を回収し、そっと、目立たない様に移動する。


 我に返ったのだろう、森に絶叫と、怒号と、銃声と、爆発音に金属がぶつかり合う音が甦る。

 俺はそれらを背中で聞き流し、戦場を離脱したのだった。

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