これは私の母親の話【不問2】
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アーカイブも残っていたら、送ってくだされば聴きます!
Twitter:manaosoda_
A:
B:
15分目安
−0−
A:これは私の母親の話。
B:私の母親の話。
A:私の母親。
B:私の母親。
A:あなたの?
B:私の。
A:私の。
B:あなたの?
A:私の。
B:私?
A:あなた。
B:「あなた」は誰?
A:私。「わたし」は誰?
B:あなた。
A:あなたは私で、
B:私はあなた。
A:母親は?
B:母親は母親。
A:母親は誰?
B:誰は母親。
A:これは私の、
B:母親の話。
−1−
A:僕には母親がいない。
B:僕は孤児だから。
A:とある冬の寒い日。雪が降ってた日。僕は教会の入り口に、段ボールに入れられて捨てられた。
B:とある夏の暑い日。空が青く晴れてた日。僕は教会の出口に、段ボールに入れられて捨てられた。
−2−
A:お前は母親が欲しいと思ったことはある?
B:僕?ないかな。母親がいなくても僕はここまで育った。それで十分さ。
A:母親がいたらもっと育ったかもしれない。
B:今よりも大きくなったって仕方がないよ。
A:体の大きさじゃないよ。
B:じゃあなんの?
A:なんのだろう。
B:お前にわからないんじゃ僕にはわからないや。お前は?母親が欲しいと思ったことはある?
A:僕もないかな。母親がいなくてもここまで育ったし。それで十分だよ。
B:同じことを言っている。
A:同じことを言ってしまった。
B:著作権問題で50円払ってもらおう。
A:なんか微妙な金額。もっと、1億円とか言い出すかと思った。
B:1億なんて持ってないじゃん。
A:そういう無理な金額を出すと思ったんだよ。
B:バカなの?現実味がない話は好きじゃない。それに1億あったって困っちゃうよ。
A:1億もあったらなにに使う?
B:ためとくかな。お前は?
A:貯金も悪くないけど、僕は世界中の孤児のために寄付するかな。
B:善人だ。
A:そんなんじゃないよ。
B:自分のために使わないんだろ?じゃあ善人だ。
A:そうかな?
B:そうだよ。それに対して僕は悪人だ。
A:貯金ってことはまだ使ってないんだから、お前も善人じゃないの?
B:でもいずれは自分のために使うんだ。
A:使わなければいいじゃないか。貯めるだけで使わない。私欲のために使わなければ悪人にはならないよ。
B:じゃあ一般人だ。善人にはなれっこないよ。
A:なんでさ。
B:善人は他の人の幸せのために働くんだ。僕は自分に働いてなくても、他人にも働いてないから、間をとって一般人なのさ。
A:一般人か。
B:一般人だよ。
A:普通ってこと?
B:普通が一番。
A:普通はつまんないよ。
B:そういうやつもいるよね。「普通はつまんない」。でも僕はそう思わない。
A:それはなんで?
B:「普通」として生まれてくる人なんていないから。誰も「普通」じゃないから、みんな「普通」になりたがる。みんな「普通」になろうとして「普通」を演じてる。でも生まれ持った「普通」じゃないなら、誰も「普通」じゃないんじゃないか。
A:つまり?
B:まだ誰も「普通」になれていない。ということは「普通」は特別なんだよ。
A:じゃあ「特別」は?
B:「特別」が普通なのかもしれない。
A:でも今の世の中「普通」を良くないとして、「特別」になろうとしてる。
B:そう。その「特別」が増えることによって、「普通」が減っていく。
A:減っちゃうと、「普通」の方が特別になっていくのか。
B:そういうこと。
A:なんか奥が深いね。
B:深いかな?
A:深いよ。お母さんはどっちだったのかな?
B:どっちって?
A:普通になってきてる「特別」か、特別になってきてる「普通」か。
B:前者かな。
A:前者ってどっち?
B:普通になってきてる「特別」
A:特別なの?
B:いいや、普通だね。
A:普通か。
B:お母さんは普通の母親だったんだ。
A:普通の「特別」か。
B:子供を捨てるんだ。それは「普通」じゃないだろ。
A:「普通」じゃないね。とても「特別」だ。
B:そう、きっと「特別」な理由があったんだ。
A:でもきっと「特別」な人の「特別」な理由は普通なんだろうね。
B:普通なんだと思う。
−3−
B:アイス何味がいい?
A:バニラ。
B:ない。
A:チョコ。
B:ない。
A:いちご。
B:ない。
A:じゃあなにがあるの?
B:メロンとピーチとグレープ。
A:それアイスクリームじゃないし。シャーベットだし。
B:アイスだよ。クリームじゃなくてキャンディだけど。
A:じゃあアイスキャンディって言えよ。
B:それってちょっと不公平だと思うんだよね。
A:は?
B:なんでアイスクリームは「アイス」だけでいいのに、アイスキャンディは「キャンディ」もつけないと認識されないの?ずるいくない?同じアイスなのに。
A:アイスクリームの方が有名だから「アイス」だけで通るんだよ。キャンディの方は、息子的な存在なの。ジュニアなの。
B:マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、みたいな?
A:そう。だからクリームは「アイス」だけでいいけど、キャンディは「アイスキャンディ」じゃなきゃいけないわけ。
B:そうなんだ、アイスクリーム・キャンディ・ジュニア。
A:お前、バカなのか?
B:私の名前は「バカ」じゃない。
A:知ってる。
B:私の国籍も「バカ」じゃない。
A:知ってる。
B:だから私は「バカ」じゃない。
A:うん、バカだ。
B:ああ、そう。お前にアイスあげないから。
A:アイスクリーム・キャンディ・ジュニアくれないのか?
B:いや、アイス。
A:一世のアイス?
B:そう、ジュニアじゃなく、シニアのアイス。
A:あるの?
B:バニラとチョコといちご。
A:お前、騙したのか?
B:いいや、別に聞かれなかったし。
A:は?
B:アイスクリーム・キャンディ・ジュニアのことを聞いたんだよ、さっきは。今言ったのはクリームの方。
A:ふざけんな。
B:ふざけてないけど。
A:(ため息)わかった自分でとってくる。アイス。
B:ないよ?
A:ん?
B:え?
A:え?
B:だってないもん。
A:いや、あるでしょ、アイス。さっきから言ってるじゃん。
B:ないよ。
A:どういうこと?
B:氷はもうないよ?
A:アイス、、か。
B:そう。アイス。
A:じゃあ、クリームとってくる。
B:それもないかな。
A:さっきあるって言ってたじゃん!
B:カスタードクリームはもうないよ。
A:アイスクリームをとってくる!
B:ああ、バニラとチョコとイチゴがあるやつか。
A:そう。
B:どれにするの?
A:バニラ。
B:いい判断だ。アイスクリームのバニラはとても美味しいからね。
A:めんどくさいやつ。
B:お母さんは何味が好きだったんだろう。
A:どれのなに?
B:アイスクリーム・キャンディ・ジュニア。
A:キャンディの方ね。何味があったんだっけ?
B:メロンとピーチとグレープ。
A:じゃあ、ピーチって感じがする。きっと優しい人だっただろうから。
B:え〜、僕はグレープって感じがするな。ミステリアスで掴みどころがない。
A:じゃあメロンの印象はどんな?
B:無難でつまらなくてあまり好きじゃないやつ。
A:ひどい言われようだ。じゃあアイスの方だとどれが好きだったんだろう。
B:アイスクリーム?
A:そう。アイスクリーム。バニラかチョコかイチゴ。
B:チョコだと思う。
A:その心は?
B:グレープと似てミステリアス。
A:チョコはミステリアスなのかな?
B:ミステリアスだよ。色も濃いし。
A:色だけじゃん。
B:じゃあお前はどう思う?
A:僕は、お母さんはバニラ好きだったと思う。
B:なんで?
A:僕のバニラ好きは遺伝だと思いたいから。
B:なるほどね。
A:そう。
B:まとめるとアイスはグレープで、アイスはチョコってことだよね。
A:僕のお母さんは、アイスはピーチで、アイスはバニラだ。
B:なんか対照的な母親だね。
A:だね。
間
B:名前って大事だよな。
A:名前?
B:さっきのこと。アイスだけじゃ伝わらなかったじゃないか。だからちゃんと名前を言わないといけないんだ。
A:それはお前だけだと思う。
B:「お前」っていうのも名前じゃない。
A:それはそうだ。
B:今は二人だけだから許してあげるけど、もっとたくさんの人と話してたら「お前」だけじゃわからないよ。名前がなきゃ。
A:そうだな。名前って大事なのかもしれない。
B:アイデンティティなのさ。
A:「お前」って呼ばれるのがアイデンティティじゃないのか?
B:じゃあ私の名前は「お前」なのか?
A:そういうこと。
B:じゃあお前は?お前も「お前」だったら僕になってしまう。
A:僕は「僕」だよ。あ、でもさっきお前も自分のことを「僕」と言ったからお前も「僕」になってしまうのか。いいや、でもお前は「お前」で通そう。
B:そっか。じゃあお前は「お前」だ。
A:そして僕は「僕」だ。
B:じゃあお母さんは?
A:「お母さん」だ。
B:なるほど。
A:名前成立か?
B:名前成立だ。
−4−
A:昔々、あるところに「僕」と「お前」と「お母さん」がいました。「お母さん」は「特別」な人でした。「特別」な人で「特別」な理由があって「僕」と「お前」を教会の入り口と出口の前に置いた段ボールの中にいれて、さようならをしました。そして「お母さん」はもう二度と「僕」と「お前」の前に姿を表すことがありませんでした。
B:悲しいお話だね。特別なお母さんの特別な理由ってどんな理由だったんだろう。
A:普通に「特別」な理由でした。特別な人の間ではとても普通な理由でした。
B:お話の続きはあるの?
A:さようならをした後のお話はわからないよ。
B:なんで?
A:これは私の母親の話なのに、もう母親はあらわれることないのだから。
B:じゃあ「僕」と「お前」のお話をすればいいじゃないか。
A:いいや、「僕」も「お前」も「お母さん」もみんな私の母親だから、話せない。
B:それは私の母親のお話なの?
A:私の母親のお話さ。
B:あなたの?
A:私の。
B:私の?
A:あなたの。
B:そっか。
A:そう。これは私の
B:私の母親の
A:母親の話。