6・超いやなやつが俺のなかにいる
ハッと目を覚ますと俺は歩道に倒れていた。
両手足を屈強な警官たちが取り押さえのしかかかっている。
「い、痛いんすけど」
「みんな、気が付いたわ。どいて!」
明美姉さんの言葉に、警官たちは本当に大丈夫かと伺うような顔をして俺の体から離れてゆく。
「どうだ!?何が見えた!?」
「やめろ、このバカ!!」
俺の襟を掴むようにして詰め寄る刑事を明美姉さんは本気で蹴飛ばして離れさせる。
「彼のなかにはまだ犯人が入ってるんだ!!刺激するんじゃない!!」
大きな声で怒鳴りつけ、不満そうな刑事を遠ざけると明美姉さんは俺に心配そうな顔を向けた。
「どう?大丈夫?」
「え、ええ。今は」
「それで、何が見えた?」
懲りずに聞いてくる刑事に明美姉さんは非難の目を向けるが、それでも俺に目を向け答えるように促す。
俺は見た状況を教えた。
「そうか、くそ犯人のやつ残酷なことを。それで、場所はどこなんだ?」
「いえ。それが見えるのが断片的で、周りのようすまでは」
「きっと犯人の意識がそうさせてるんだわ。女の子を閉じ込めた自慢は君にしたいけど、自分に都合の悪いものは見せたくないのね。扉を見せたのはきっと自信の現れよ。見つけても助けられないっていう」
「おい、お前。まだ中にいるんだろ!答えろ!彼女はどこだ!!」
「やめっ」
明美姉さんが止める前に、俺の口が自然に動いていた。それに表情も自分の意図とは関係なく、相手を嘲笑うかのように動く。
「へえええ、警察ってほんとーーに諦めがわるいんだねええーーーー。おもしろいや、おかげで生き返れた。くくくく」
「この」
刑事が俺の顔を思わず殴った、その瞬間に自分の感覚が戻って来た。
「いでえ」
俺は顔を押さえてうずくまる。
「何バカやってんのほんとに!」
「あ、いや、すまん。あいつの顔に見えて、思わず」
刑事がそういうのも仕方ない。この犯人は本当にいやなやつだ。
警官の一人が刑事に命令されて買って来てくれたアイスノンを顔に当てる俺を見て、刑事は悔しそうにいう。
「くそ。それだけじゃほんとにどうしようもないじゃないか。せっかく犯人の魂がいるってのに」
「すみません、どうも自分じゃ表にだせなくて」
俺は思わずあやまる。
「君が謝ることないの。どうする?もうあいつを出したほうがいい?あまり長く取り付かせるのは危ないかもしれない」
真剣な顔で明美姉さんがいう。
「いえ、これじゃ助けられない。もう少しこのままでもいいですか?さっきみたいに出てくることがあるかも」
「無理しないでね」
「もう時間がないってのに、さっきの話じゃ全然手掛かりにもならねえじゃねえか」
「いいえ、そうでもないわ」
明美姉さんが悔しがる刑事にいう。
「え?ほんとですか」
映像を見た俺自体が、その言葉に驚いた。